『人類を家畜にする!』と首脳陣が皮を剥いでレプティリアンの正体を現した件〜夜間シフトの底辺作業員3人が氷点下20度で秒殺した理由?地球の極上ラーメンとナポリピッツァを絶対に守るためだよ!〜
お読みいただきありがとうございます!
15分ほどでサクッと読める、「レプティリアン(爬虫類人)の地球征服計画」×「夜間シフトのおっさん作業員3人による物理無双&極上深夜メシ」の痛快SFコメディー完結短編です。
ぜひお腹を空かせながら、最後のどんでん返しまでお楽しみください!
【午後11時40分 ―― 東京・永田町 政府極秘地下バンカー】
東京の中心部、永田町の地下五十メートルには、世界の支配者たちが密談を行う『戦略首脳会議室』――チタン合金と大理石で覆われた巨大な地下バンカーが存在する。
十一月のその夜、密閉された大広間には四十人のVIPが集まっていた。
日本の古賀内閣総理大臣をはじめ、主要閣僚、世界の中央銀行総裁、そして巨大多国籍企業のオーナーたちだ。
そして広間の隅、ステンレス製の配膳カートの横には、夜間シフトの底辺作業員である俺たち三人が控えていた。
青い作業着の胸ポケットにドライバーを差した空調設備技師の俺・シン(四十二歳)。
白いコック帽を被った小太りの地下食堂料理人・テツ(四十五歳)。
そして、愛用のモップとバケツを手にした白髪混じりの清掃員・ゴローさん(五十歳)である。
「あと十分で交代時間だぞ」
料理人のテツが、コック帽の位置を直しながら壁の時計を睨んで小声でぼやいた。
「あのお偉いさん方がさっさと会議を終わらせてくれねえと、俺たちの晩飯が遅くなっちまう。俺は腹が減ると機嫌が悪くなるんだ」
「声を落とせよ、テツ」
俺は空調パネルに背中を預けながら苦笑いした。
「それより、この四十人のVIPども、また部屋の暖房を『三十二度』に上げさせやがったぞ。十一月なのに三十二度だぜ? 扉の前に立ってる黒服のSP(警護官)なんか滝みたいに汗を流してるのに、古賀総理たちは額に汗ひとつかいてやしねえ」
「金持ち連中は血が腐ってるから汗も出ねえんだろ」
清掃員のゴローさんが、モップの柄に顎を乗せて欠伸を噛み殺した。
――まさに、その時だった。
大広間の中央演壇に立った古賀総理が、不気味な笑みを浮かべて机の下の赤いスイッチを押し込んだ。
――ガシャン! ズドォォォォンッ!!
重さ五トンを超える分厚い鋼鉄の隔壁が轟音とともに落下し、地下バンカーの出入り口を内側から完全封鎖した。
同時に、壁面の巨大モニターが一斉に点灯し、世界中のテレビ局とスマートフォンを強制ジャックする衛星生中継のカウントダウンが表示された。
【全世界同時放送まで ―― 残り15分00秒】
「総理!? なぜバンカーの完全封鎖ロックを起動されたのですか!? この緊急放送は一体……!」
人間側の警備隊長であるSPの男が、顔色を変えて一歩前に進み出た。
すると古賀総理は、喉の奥から笑いを漏らした。
だが、それはテレビで聞く老政治家のしわがれた笑い声ではなかった。鉄の箱に閉じ込めた千匹のガラガラヘビが一斉に鳴いているような、耳障りで金属的な『シューッ、シューッ』という不気味な音だった。
「もう猿芝居は終わりだ、哀れな毛無し猿どもよ」
八人のSPたちが息を呑む目の前で、古賀総理は自分のワイシャツの襟元に指を突っ込み、たるんだ首の皮膚を掴むと――上へ向かって力任せに引き剥がした。
――ベリベリベリィッ!!
生々しく湿った音を立てて、古賀総理の人間の顔がシリコンゴムの仮面のように脱ぎ捨てられた。
それだけではない。円卓を囲んでいた残り三十九人の各国首脳、銀行家、大臣たちも一斉に立ち上がり、高級スーツと自分の顔の皮膚をバリバリと引き裂いたのだ!
引き裂かれたスーツの下から現れたのは、身長二メートル五十センチを超える異形の怪物たちだった。
全身は戦車の装甲のように分厚く黒光りする緑色の鱗に覆われ、前に突き出た顎には鋭い牙が並び、太い尻尾が大理石の床を鞭のように叩いている。そして黄色く濁った巨大な目玉には、縦に裂けた爬虫類の瞳孔がギラついていた。
「ば、化け物だァッ!!」
SPの隊長が悲鳴を上げ、部下七人と同時に腰の9ミリ自動拳銃を引き抜いた。
「貴様ら何者だ! 古賀総理たちをどこへやった!?」
「我々こそが貴様らの政府そのものだ、愚かな哺乳類どもめ!」
今まで古賀総理だった巨大なトカゲの怪物が、鉤爪の両腕を広げて咆哮した。
「我々は偉大なる『レプティリアン帝国』の先遣部隊である! 五十年前からこの地球のあらゆる国家の中枢に入り込み、貴様らの経済と戦争を裏から操ってきたのだ! そして今夜、あのカウントダウンがゼロになった瞬間、地球上の七十億の人類は正式に我々レプティリアンの『所有物(家畜)』となる!!」
「う、撃て! 撃ち殺せーっ!!」
――パン! パン! パパパンッ!!
八人のSPたちが、四十体の鱗の怪物へ向かって9ミリ拳銃の弾倉を空になるまで連射した。
しかし。
――キンッ! カンッ! チャリンッ!
鉛の銃弾はレプティリアンたちの硬質な鱗に弾き返され、傷ひとつ付けることなく絨毯の上にペシャンコになって転がり落ちた。
「遅いぞ、猿ども!」
時速四十キロの猛烈な初速で床を蹴った八体のレプティリアンが、弾倉を交換しようとしたSPたちの懐へ一瞬で飛び込んだ。
鉤爪の裏拳が閃き、銃を弾き飛ばされた八人のSPたちは首筋に手刀を食らって、声すら上げられずにその場で全員気絶した。
「殺すなよ、そこの断熱構造の備品倉庫に放り込んで鍵をかけておけ!」
リーダーの古賀レプティリアンが、二股に割れた長い舌で牙を舐めながら命じた。
「若い警備兵は筋肉が硬くて不味い。そいつらは生かしたまま貨物船へ積み込み、鉱山労働用の家畜として使う!」
二体の大臣レプティリアンが、気絶した八人のSPの足首を掴んで引きずり、奥の頑丈な備品倉庫へ押し込んで外から分厚い鉄の鍵を閉めた。
そして――大広間に残った四十体のレプティリアンの計八十個の黄色い縦目の瞳孔が、ゆっくりと部屋の隅へと向けられた。
配膳カートの横に立つ、俺たち作業員三人の方へ。
【放送まで残り11分 ―― 夜間作業員の物理法則】
身長二メートル半の怪物四十体が、爪音を高らかに響かせながら半円状にじりじりと迫ってきた。
「おいおい、まだ三匹ほど餌が残っていたぞ」
古賀レプティリアンが俺たちの二メートル前で立ち止まり、二股の舌をチロチロと出し入れしながら下卑た笑いを浮かべた。
「空調屋のおっさんに、小太りのコック、それにヨボヨボの掃除夫か。全世界への中継が始まるまであと十一分あるし、脱皮したせいで腹が減って仕方がない。そこの中年コックの脂が乗った肉は、地球征服を祝う最高の前菜になりそうだなァ! ほら、どうして悲鳴を上げて命乞いをしない、虫けらども?」
俺とテツとゴローさんは、配膳カートの横で微動だにしなかった。
誰一人として悲鳴を上げなければ、半歩たりとも後ろへ下がりもしない。
それどころか、料理人のテツは白いエプロンの前で太い腕を組み、厨房にゴキブリが出た時のような心底うんざりした顔で鼻を鳴らした。
「おいシン、聞いたか今の?」
テツが俺の方を向いて、本気でムッとした声で言った。
「このデカいトカゲ野郎、俺のことを『小太り』って呼びやがったぞ。しかも俺たちの定時退勤を邪魔する気だ」
「まあ落ち着けって、テツ」
俺は胸ポケットからプラスドライバーを取り出し、頭の後ろをポリポリと掻きながらため息をついた。
「それより、やっと長年の謎が解けたぜ。なんでこの四十人のクソ政治家どもが、真夏の八月だろうが十一月だろうが毎日『室温を三十二度にしろ』ってうるさかったのか、そしてなんで常に天井のハロゲンヒーターを点けさせてたのかがな」
俺は手にしたドライバーの先端を、古賀レプティリアンの鱗だらけの鼻先へビシッと突きつけた。
「お前ら、世界の支配者だか何だか知らねえが、生物学的に見ればただの『変温動物(冷血動物)のトカゲ』だろ?」
古賀レプティリアンの二股の舌が、ピタリと止まった。
「な……何を言っている、下等生物め!?」
「中学校の理科の話だよ」
俺は作業着のポケットに片手を突っ込んだまま、淡々と言ってやった。
「恒温動物ってのはな、外が雪だろうが氷点下だろうが、飯を食って燃やした熱で自分の体温を三十六度以上に保てるんだ。だがお前ら爬虫類は、自分の体の中で熱を作ることができねえ。部屋の温度が三十度近くないと消化もできなきゃ、筋肉を動かすことすらできない欠陥ボディだ。しかも爬虫類の肺と無酸素運動の筋肉じゃ、最初の十秒間だけしか全力疾走できねえだろ? 一分も暴れれば全身が乳酸まみれになって足が攣るはずだ」
「黙れえええっ!! 生意気な口を利くんじゃねえ、頭から食い千切ってやる!!」
図星を突かれて激昂した古賀レプティリアンが、鉤爪の両腕を大きく広げて俺の頭蓋骨を砕こうと跳びかかってきた。
「ゴローさん、床掃除お願い!」
俺は一歩も動かずに言った。
「あいよ、毎度あり!」
清掃歴三十年の熟練の足さばきで、ゴローさんが清掃カートに乗せていた二つの青い五十リットルポリタンクを蹴り倒した。
次の瞬間、磨かれた大理石の床一面へ、厨房の油汚れを落とすための『業務用・超高濃度アルカリ性濃縮洗剤』のドロドロの原液百リットルが、巨大な波となってぶちまけられた!
――ザバアアアアアッ……ツルッ、ドガアアアアアンッ!!
体重二百キロを超え、足の裏に肉球ではなく硬い鱗しかない古賀レプティリアンと先頭の十体は、時速四十キロの勢いのまま濃縮洗剤の海へ足を踏み入れた瞬間、氷の上のボーリングのピンのように両足が天井へ向かって跳ね上がった。
そのまま十体まとめて後頭部と背中から大理石の床へ激突し、尻尾と手足が絡まり合って無様に転倒する。
「ぎゃあああっ!? ゆ、床が滑って立てねえぞ! こいつらを八つ裂きにしろ!!」
四十体の巨大なトカゲたちが泡まみれの床の上で四つん這いになってもがく中、俺は背後の壁に埋め込まれた空調管理パネルの鋼鉄扉をガチャリと開けた。
「なあ、政府の極秘バンカーで設備技師をやってて一番楽しい瞬間がいつだか知ってるか?」
俺はパネルの奥にある三本の赤い緊急バルブに手をかけた。
「お前らの頭上にある空調ダクトはな、緊急時にはスーパーコンピューター冷却用の『液体窒素タンク』と、地下食堂の巨大冷凍庫用の『高圧二酸化炭素冷媒』に直結できるようになってんだよ。――おやすみ、トカゲちゃんたち」
俺はメインレバーを一番下まで一気に引き下ろした。
――プシュウウウウウウウウウウウウッ!!
天井に並んだ二十箇所の大型換気口から、マイナス四十度を超える純白の猛吹雪が滝のように噴き出した。
わずか九十秒足らずで、密閉された大広間の室温はプラス三十二度から『氷点下二十二度』へと急降下した。
自力で体温を作れない四十体の「地球征服者」たちに起きた生物学的反応は、あまりにも無慈悲で、あまりにも一瞬だった。
まず、床一面に広がっていた洗剤の泡がカチカチの鏡のような氷のリンクへと変わり、転倒していたレプティリアンたちの尻尾と手足を床へ完全に凍結させた。
そして体温が五度を下回った瞬間、変温動物である彼らの神経系と筋肉の酵素が完全に停止した。
「ぐ、ぐぎぎ……さ、寒……から、だ、が……動かな……」
猛々しかった咆哮は弱々しい歯の根の鳴る音へと変わり、黄色い目玉が白く曇っていく。
二分後には、四十体の誇り高きレプティリアン帝国の精鋭戦士たちは、誰一人として指一本動かすことすらできず、おかしなポーズで四つん這いにひっくり返ったまま、完全に『冬眠硬直』に陥って冷凍庫の干し魚のようにカチカチに固まってしまったのだ。
【放送まで残り4分 ―― 仮面の解除】
氷点下二十二度の静寂に包まれた大広間に、モニターのカウントダウン音だけがピッ、ピッ、と虚しく響いていた。
【全世界同時放送まで ―― 残り04分12秒】
俺は演壇のパネルのキャンセルボタンを押して衛星中継を強制終了させ、ついでにバンカー内部の監視カメラとマイクの電源をすべて落とした。
「ふぅ、危ねえ危ねえ」
料理人のテツが、コック帽を脱いで額を拭った。
「もうちょっとで残業になるところだったぜ。このトカゲども、本気で地球をめちゃくちゃにする気だったからな」
俺たちの安全靴のすぐ前、氷の床に顎を貼り付けたままピクリとも動けない古賀レプティリアンが、霜のついた縦長の瞳孔を限界まで見開いて、信じられないものを見る目で俺たち三人を見上げていた。
「ば……馬鹿な……」
古賀レプティリアンが、凍りついた牙の隙間からかすれた声を絞り出した。
「わ、我々は……『第4文明階梯』に属する偉大なるレプティリアン帝国だぞ……。な、なぜ『第0文明階梯』の原始的な地球人の底辺作業員三人に、たった三分で全滅させられているのだ……!? しかも貴様ら三人……なぜ氷点下二十二度の極寒の中で、半袖の作業着のまま肌ひとつ震わせずに平然と立っていられるのだ……!?」
俺とテツとゴローさんは足を止め、互いに顔を見合わせた。
「おいシン」
ゴローさんが、モップの先端で古賀レプティリアンの凍った鼻先をツンツンと突きながら言った。
「バンカーの監視カメラは全部切ったし、人間のSPの兄ちゃんたち八人は断熱倉庫の中でぐっすり眠ってるんだよな?」
「ああ、半径二キロ以内に生きているカメラもマイクも一つもないぜ」
俺は端末を確認して頷いた。
「どうする? こいつらをゴミ箱へ転送する前に、ちょっとだけ冥土の土産に俺たちの『本当の姿』を見せてやるか? 辺境のトカゲごときに『第0文明の地球人』呼ばわりされたままなのは、俺も少しばかり癪に障るしな」
「賛成だ」とテツがニヤリと笑った。「十秒だけ擬態を解こうぜ。この地球人スーツ、首回りが蒸れて肩が凝るんだよ」
俺たち三人は同時に右手を上げ、それぞれの作業着の襟元に留めてあった小さな金属製のピンバッジを軽く押し込んだ。
――ブゥン……ゴオオオオオオオオオオッ!!
その瞬間、大広間の空間そのものが超高密度の重力波で歪み、大理石の太い柱がミシミシと音を立ててひび割れた。
俺たちの体を覆っていた「くたびれた四十代の日本人作業員」という生体ホログラム擬態が、黄金の光の粒子となって霧散する。
氷の上に転がる四十体のレプティリアンの目の前に立っていたのは、もはや人間の作業員ではなかった。
床から五センチ宙に浮く黒と黄金の生体光子装甲に身を包んだ、身長二メートルの三柱の『高次元宇宙生命体(本物の高次宇宙人)』だった。
俺たちの肌は白色矮星のような神々しい光を放ち、額に並んだ『四つの瞳』は黒い白目の中で銀河の渦のように黄金色に輝いている。そして俺たちの基礎体温である摂氏八十度の生体エネルギーが、俺たちの足元から半径三メートルの氷を一瞬にして蒸発させた。
古賀レプティリアンをはじめとする四十体のレプティリアンたちは、俺たちの肩に刻まれた紋章――銀河最高評議会の『恒星喰らいの龍紋』を見た瞬間、黄色い目玉が眼窩から飛び出さんばかりに見開かれた。
もし連中が冬眠硬直で麻痺していなければ、あまりの宇宙的恐怖に心臓が破裂して即死していたに違いない。
「あ、ア、アルデバラン帝国艦隊の……『第9文明階梯・最高位守護神族』様だあああああっ!?!?」
古賀レプティリアンは氷の床の上で文字通り失禁しながら、ガタガタと魂を震わせて絶叫した。
「な、なぜですか!? 一万の銀河を統べる神にも等しい第9文明の異星人様が、なぜこんな原始惑星の地下でボロい作業着を着てトイレ掃除や飯作りをしているのですか!? なぜ貴方方がこの下等な地球人を守っているのですかあああっ!?」
俺は古賀レプティリアンの凍りついた顔の前にしゃがみ込み、膝に肘を乗せて、四つの黄金の目でじっくりと覗き込んでやった。
「なんで俺たちが地球人を守っているか、だと?」
俺が鼻で笑うと、その声の振動だけでバンカーの照明がビリビリと揺れた。
「おい田舎トカゲ、お前は銀河連邦の『標準宇宙食』を食ったことがあるか?」
「は……はぁっ!?」
「この広大な宇宙を見渡してみろ!」
料理人のテツが、黄金のプラズマを纏った拳を握りしめて雷のような声で吠えた。
「何千という高度な宇宙文明が、光速航行やテレポーテーションや不老不死を手に入れたくせに……どいつもこいつも、食事といえば『灰色の合成タンパク質ペースト』か『無味無臭の栄養カプセル』しか作ってこなかった! 五百万年の間、この宇宙には『旨い飯』という概念が存在しなかったんだよ!!」
「そうだ」
ゴローさんが、モップの柄を古賀レプティリアンの顎の下に突きつけて凄んだ。
「だが今から五千年前、俺たちの哨戒艦隊がこのちっぽけな青い惑星『地球』を見つけた。地球人どもは恒星間エンジンひとつ作れないし、寿命もたった百年しかない脆い生き物だったが……『料理』に関しては、全宇宙の神々すら裸足で逃げ出すほどの恐るべき天才種族だったんだ! 麦や大豆やブドウを発酵させ、肉を火で炙ってメイラード反応を起こし、熱い油で揚げ、骨から極上のスープをとり、チーズを溶かし、カカオからチョコレートを生み出しやがった!」
俺は立ち上がり、古賀レプティリアンの凍った頭の上に安全靴の片足を乗せた。
「俺たちは銀河最高評議会直属の『地球食文化・極秘防衛駐留軍』だ。何百年もの間、こうやって地球人のフリをして下働きをしながら、地球人が毎日平和に美味しい料理を作り続けられるよう、裏からこっそり守ってるんだよ! 小惑星の衝突だろうが、致死性ウイルスだろうが、お前らみたいな間抜けなトカゲどもだろうが、地球の料理人の邪魔をする奴は俺たちが全員掃除する! もしお前らが地球人を家畜にしたら、明日の俺たちのランチは誰が作るんだボケェ!!」
「め……メシのためだけ、ですか……!?」
古賀レプティリアンが絶望のあまり血の涙を流した。
「わ、我々の五十年に及ぶ地球侵略計画が……ただ『お気に入りの飲食店を潰されたくないから』という理由だけで滅ぼされたというのですか……!?」
「そういうことだ。じゃあな、お前らのせいで俺たちの晩飯が十五分も遅れちまったよ」
俺はポケットから取り出した『亜空間圧縮キューブ』を床の上に放り投げた。
――バチバチッ……シュポンッ!
青い光の網が凍りついた四十体のレプティリアンを一瞬で包み込み、地球から六十億キロ離れた『カイパーベルト氷結監獄鉱山』へと強制転送した。
同時に俺の端末が自動プログラムを作動させ、古賀総理たち四十人の政治家が裏金を持って海外の無人島へ逃亡したという「完璧な証拠データと自白メール」を東京地検と世界中のマスコミのサーバーへ送信した。
明日の朝、日本はレプティリアンの侵略から救われただけでなく、四十人の腐敗した政治家が一掃された清々しい朝を迎えることになる。備品倉庫で寝ている八人のSPたちも、ガス漏れで気絶していたと思うだけだろう。
俺たち三人は襟元のバッジを押し、再び「人の良さそうな四十代の作業員のおっさん」の姿へと戻った。
【午前0時05分 ―― 宇宙最大の危機『今夜の晩飯、何にする?』】
「よし、トカゲの回収完了! 暖房も二十度に戻したぞ」
俺は大きく伸びをして、二人に振り返った。
「さて、ここからが今夜一番重要な会議だ。――今日の晩飯、何食いに行く?」
その瞬間、テツの目が爛々と輝いた。
「氷点下二十度でトカゲを四十匹凍らせた後だぞ、答えは一つしかねえだろうが!」
テツは拳を握りしめ、宗教的なまでの情熱を込めて叫んだ。
「日本の至宝、『博多の豚骨ラーメン』だ!! 十八時間炊き上げた濃厚でクリーミーな豚骨スープに、バリカタの極細ストレート麺! 口の中でトロリと溶ける厚切りチャーシューと半熟味玉に、おろしニンニクと紅生姜を山盛りにして一気にすすり込む! この時間、福岡の屋台街は一番いい出汁が出てる時間だぜ!」
「何を言ってやがる、テツ!」
俺は腰に両手を当てて真っ向から反論した。
「今週はずっと東京の現場だったから和食続きだったじゃねえか! 今夜の俺の胃袋は、完全に『本場ナポリの薪窯ピッツァ』を求めてるんだよ! 日本の気取ったレストランのやつじゃねえぞ、今ちょうど夕方四時を迎えているイタリア・ナポリの路地裏で、四百八十度の薪窯で六十秒で焼き上げた熱々の『マルゲリータ』と『ディアボラ』だ! 香ばしく焦げたモチモチのコルニチョーネ(耳)に、サンマルツァーノ種のトマトの酸味と、とろける水牛モッツァレラチーズとバジル! 地球の炭水化物の王様はナポリピッツァだ!!」
「なんだとコラァ! 深夜零時は豚骨の脂って相場が決まってんだ、このアルデバランの田舎者が!」
「トマトと水牛モッツァレラの黄金比が分からねえ野蛮人は黙ってろ!」
俺とテツが額を突き合わせて睨み合った瞬間、二人の間からバチバチと第9文明階梯の重力プラズマが迸り、配膳カートが宙に浮いてバンカーの床が再び激しく揺れ始めた。
――ガツンッ! ガツンッ!!
ゴローさんが手にしたアルミのモップの柄で、俺とテツの脳天に容赦ない鉄槌を下した。
「いい加減にしろ、この大馬鹿野郎どもが!!」
ゴローさんが目を光らせると、俺とテツのオーラが一瞬でしぼんだ。
「せっかくタイル一枚割らずに地球を救ったってのに、ラーメンとピッツァの喧嘩で東京のプレートを割る気か!? お前ら、文明レベルは『9』のくせに、脳みそのレベルは『0』以下だな!」
「「うぅ……だってこいつが……」」
頭を押さえてしゃがみ込む俺とテツを見て、ゴローさんはやれやれとため息をつくと、エプロンのポケットから『短距離・次元跳躍機』と、世界十カ国の紙幣が詰まった分厚い財布を取り出した。
「そこへ折りたたみテーブルを広げて、冷蔵庫から生ビールを出しとけ」
ゴローさんは転送座標を入力しながら言った。
「一歩も動くんじゃねえぞ。四十秒で両方買ってきてやる」
――パシュンッ!
ゴローさんの姿が、青い光の粒となってその場から消えた。
俺とテツが慌てて会議室の真ん中に作業用の折りたたみテーブルを広げ、パイプ椅子を三つ並べて、キンキンに冷えた地球の生ビールをジョッキに注いだ――ちょうど四十二秒後だった。
――パシュンッ!
テーブルのすぐ横に、両手いっぱいに熱々の袋と箱を抱えたゴローさんが戻ってきた。
そこから立ち昇る、全銀河の皇帝すら泣いてひれ伏すような極上の香りのハーモニーに、俺とテツは息を呑んだ。
「ほらよ、これで文句はねえだろ」
ゴローさんがニヤリと笑って、戦利品をテーブルの上に並べた。
まず中央に置かれたのは、今しがたイタリア・ナポリの老舗の薪窯から出てきたばかりの『四枚の巨大なピッツァの箱』。蓋を開けた瞬間、小麦の香ばしい匂いとともに、真っ赤なトマトソースと緑のバジル、そしてまだグツグツと泡立っている純白の水牛モッツァレラチーズが湯気を上げた。
その横に並べられたのは、福岡・博多の屋台の大将から直接受け取ってきた特殊保温容器入りの『濃厚豚骨ラーメン』。白濁したスープの表面には極上の脂の膜が張り、炙りチャーシューとニンニクの香りが鼻腔を直撃する。
「それと、亜空間を飛ぶついでにちょいと寄り道してな」
ゴローさんは得意げな顔で、さらに三つの温かい包みを開いた。
「メキシコシティの屋台で回転肉塊から削ぎ落としたばかりの『タコス・アル・パストール』を十二個と、ドイツ・ミュンヘンのビアホールから皮がパリパリの『豚すね肉のロースト(シュヴァインスハクセ)』を三本、あと食後のデザートにパリの老舗パティスリーで焼きたての『チョコレート・エクレアとミルフィーユ』を一箱買ってきたぞ!」
地球の五大グルメが一堂に会した奇跡のテーブルを前に、俺とテツの口から滝のようにヨダレが溢れ出した。
「ゴローさん……」
テツが感動で目を潤ませながら、右手に割り箸、左手にナポリピッツァの熱い一切れを掴んだ。
「あんたこそ、我が銀河艦隊で一番偉大なベテラン兵だよ……!」
「いいから冷めないうちに食え、野郎ども!」
そこからの十分間、日本政府の最高機密バンカーには、ナポリピッツァの香ばしい耳を噛み砕く音と、博多の細麺を豪快にすすり上げる音、そしてメキシコのタコスとドイツの豚肉を頬張りながら冷たいビールを流し込む至福の音だけが響き渡った。
一口ごとに口の中で爆発する旨味、塩気、脂の甘み、そして熱気――それは一万光年離れたどんな超科学文明の実験室でも絶対に再現できない、地球人だけの魔法だった。
最後のパリサクのミルフィーユまで綺麗に平らげた俺は、パンパンに膨らんだ腹をさすりながらパイプ椅子の背もたれに深くもたれかかり、隣で満足そうに楊枝を咥えている二人の相棒を見た。
「なあ、二人とも」
俺は最後のビールが入ったジョッキを、バンカーの天井へ向かって掲げた。
「アルデバランの本国司令部からさ、毎年『そろそろ星系総督に昇進して本星へ帰還しないか?』って異動願いの書類が届くけどよ……。俺は正直、死ぬまでずっとこの『地球防衛シフト』のままでいいと思ってるぜ」
テツとゴローさんは顔を見合わせ、最高の笑顔でそれぞれのジョッキを俺のジョッキにガチン!とぶつけた。
「当たり前だ、宇宙が終わるまでずっと地球勤務で決まりだよ!」
テツが豪快に笑いながら言った。
「偉大なる地球の料理人たちに乾杯――そして、俺たちのメシの邪魔をする奴には、神だろうがレプティリアンだろうが容赦しねえぜ!」
【完】
最後までお読みいただき、本当にありがとうございました!
「世界の指導者たちがレプティリアン(爬虫類人)だったら?」という都市伝説に、「でも地球のラーメンとナポリピッツァが宇宙一美味いから、本物の高次宇宙人がこっそり地球を守っているはず!」というアイデアを掛け合わせたSFコメディー短編、いかがでしたでしょうか?
もし少しでも「スカッとした!」「面白かった!」「ラーメンとナポリピッツァが食べたくなった!」と感じていただけましたら、ブックマークやご感想、温かい応援をいただけますと執筆の大きな励みになります!
―――――――――――――――
【あわせて読みたい!作者プロフィール内の他作品のご案内】
私のプロフィール(マイページ)では、他にも「知識と現場技術で生き抜くリアル・サバイバル」や「上級国民への痛快な逆転劇」のSF・パニック〔SF〕作品を複数公開しております!ページ上部・下部の【作者名】、または以下のURLからぜひ覗いてみてください!
・(1)【公開中の新作SF短編!】映画のバカ科学者じゃない『免疫済み』所員たちの逆転サバイバル劇!
『『研究員ごと封鎖しろ!』と地下研究所に生き埋めにされた俺たち、映画のバカ科学者じゃないのでとっくに全員『免疫済み』だった件〜無害な感染者と極上ステーキを食っていたら、上級国民が扉を開けた〜』
https://ncode.syosetu.com/n9276my/
・(2)【パニック〔SF〕短編ランキング上位入賞!】極寒タワマン地下サバイバル!
『『ボルトでも食ってろ』と氷点下50度のタワマン地下に監禁された底辺作業員3人のリアル・大寒波サバイバル〜最上階の上級国民が飢えと凍死で崩壊する中、俺たちは地下農園と発酵熱でぬくぬく生き延びる〜』
https://ncode.syosetu.com/n4897mx/
・(3)パニック〔SF〕三冠達成・代表作!『カテゴリーD(廃棄物)』シリーズ
始まりの短編版(サクッと読める第1部):
https://ncode.syosetu.com/n8187mw/
長編連載版(毎日18時更新中!現在パニック〔SF〕連載中ランキング上位!):
https://ncode.syosetu.com/n5272mx/
・(4)ゾンビ世界×チョコ中毒ゴブリンのすれ違いバール無双コメディー!(全33話・完全版)
『俺の『鞄持ち』が勝手に世界を救おうとする件〜ゾンビ世界でチョコ中毒になった最弱ゴブリンと、彼を聖なる精霊と信じる少年のすれ違いバール無双〜』
最後までお付き合いいただき、本当にありがとうございました!グラッツェ!!




