王子はいらんので、アラサー聖女の婚活に付き合ってもらおうか
[日間]異世界転移〔恋愛〕 短編3位
応援ありがとうございます!
今日も今日とてサービス残業。
『就業時間ギリギリに仕事増やすんじゃねぇ、あのクソハゲ!ハゲろ!あ、もうハゲてたわ…南無三』なんて呪怨を心の隅の方に追いやりながら、すっかり人通りも疎らになってしまった夜道を歩く私――石川美琴。年齢は三じゅ…言いたくない。アラサーだよ、アラサー!
長時間の労働により体に疲労を感じつつも、スマホに向けるその声はいつもよりも跳ねていた。ついでに足元も浮かれている。普段ならしんどそうな足音を響かせるパンプスからも、軽やかな音が出ていた。
「ねぇ、ほんと?ほんとに消防士?マッチョ??」
『だから何回もそう言ってるでしょー。やっとセッティング出来たんだから、明日遅れないでよ』
「うっわ嬉しい!十九時からだよね、一時間前から待機しとく。小春の彼に感謝!!」
明日の夜、友人の彼氏が紹介してくれた男性との飲みの約束!
頼れる友人の事前調査によると、年齢は私の一つ下、身長は百七十五、顔はまぁぼちぼち、性格は温厚で、二年前に彼女と別れて以来フリーのマッチョ消防士。
良いんじゃない?良いんじゃない??消防士は浮気する人が多いとか聞くけど、結局浮気する人はするし、しない人はしないからね。今度こそ結婚とか意識したお付き合いをしちゃったりして。
小春との通話を切り、目に飛び込んできたメッセージアプリの母のチャット、先日送られてきた『いい人いないの?』の文字に僅かに顔をしかめる。まだ三十代前半、焦るつもりはないけれど親からの圧は鬱陶しいお年頃だ。
「はあー、誠実な人であってほしい…。神様、頼むでほんまに!!」
そんな事を呟きながら、明日着て行く服を頭の中で組み合わせていると――
「ッ!??」
蓋の開いたマンホールでもあったのだろうか、踏み出した先にあるはずの地面が存在せず、強烈な浮遊感に襲われる。
悲鳴を上げる余裕もなく、私の体は暗闇に真っ逆さまに落ちていったのだった。
そして今――
「おお、聖女よ!遠くの地より遥々参られた!!」
昔絵本で見た『はだかの王様』のような小太りの王様らしき人物に熱烈歓迎されている。
あ、もちろん服は着てるよ。本当に王様が裸だったら、私のカバンに入ってる催涙スプレーが火を噴いてたわ。
なんかね、もうベタベタのテンプレなんだけど、魔王を倒す為にこの異世界に召喚されたらしいわ、私。
ほんとに私が聖女?アラサーにはキツくない??こういうのってプリティでキュアキュアな年頃の子がやるもんじゃない?
それに魔王を倒したとしても元の世界には戻れませんって、クソじゃん。誘拐じゃん。やっぱり催涙スプレー火ぃ噴いとく?
あー異世界に飛ばされるんなら、今日の残業とか頑張ったの無意味だったぁ。やらずにクソハゲのデスクに叩き返しとけば良かった…。
しかも未来の旦那様候補と会えるっていうこのタイミングぅ…?神様、頼んだじゃん…。
もう私の心はやさぐれて、冬場の踵くらいにガッサガサ。ストッキング突き破るぞ。
思わずチッと舌打ちすると、裸ではない王様の肩がビクッと震えた。
「も、もちろん生活の保障もしよう!魔王を滅した暁には我が息子、第一王子のラファエルと結婚を…」
「あー…待て待て待て。そのラファエル君とやらは、服着た王様の後ろにいるおかっぱ金髪のキラキラした子の事?とりあえず聞くけど、いくつよ??」
「ねぇ、わしの呼び方おかしくない?」
「はい、聖女様。僕が第一王子のラファエルです。今年十七歳になりまし…」
「十五も下!!未成年!高校生!ありがとうございます、犯罪ですッ!!!」
私は良識ある大人なので未成年はノーセンキューです。そんで、断られた事にちょっとホッとするんじゃねぇよ、ラファエル君。
対する王様は断られると思っていなかったのか、青い顔で「でも魔王を退治してもらわねば世界が滅びる」とか「ラファエルがダメなら別の者に…」「くっ…かくなる上は、わしの第二夫人に…!」とか言ってる。
おい、寝言は寝て言え。なんでお前が苦渋の決断する側なんだよ。
ともかく、召喚されて帰る手立てが無い以上、魔王を倒さなければ私もこの世界と一緒に滅びてしまいそうだ。
「…ねぇ、服着た王様」
「わし、服はいつも着とるよ???」
「聖女なら本当に魔王を倒せるの?危険とかない?」
「ひと月かけて魔王城の近くの神殿までは行ってもらう事にはなるが、そこからは聖女ビーム一撃で屠る事が出来ると文献には載っておる。
またその道中もこの国の騎士団に守らせる故、安全な旅路を約束しよう」
遠くから一撃で屠れる聖女ビームこわっ。遠隔から狙われる魔王が可哀想!って思ったけど、文献に載ってる魔王の姿絵見たら目玉がたくさんなヘドロだったので、これは滅ぼしても問題なかろう。
ロング黒髪のイケメン魔王とかじゃなくて良かった〜!
ならばさくっと倒して、未来の旦那様候補との飲み会をぶち壊された事の補填をしてもらおう。
「私が魔王を倒した暁には、最高の結婚相手を見繕ってもらうってのはどう?」
「くっ…致し方あるまい…。わしは王妃一途だが…」
「催涙スプレーが火ぃ噴くぞ」
こっちにも選ぶ権利がある。服を着た『はだかの王様』もノーサンキューだ。圧倒的に趣味じゃない。
催涙スプレーが何かは分からないだろうけど、ラファエル君の華奢な背中に隠れようとする王様にビシッと指を突きつける。
「もちろん独身、年は二十後半から四十前半、家族を養えるくらいの甲斐性があって、浮気もギャンブルもしなくて誠実、健康、清潔感、体が引き締まっていれば尚良し。貴族とか権力とか興味ないから、そこそこ裕福なら平民でも良いわ。それから、嫁姑問題がなさそうで、身長は…」
「待って!宰相、宰相、メモして!!」
「してます」
「――ってくらいで、もちろん国から強制しちゃダメ。恋人と無理やり引き裂かれて、『君を愛することはない』とか抜かす奴は論外。この私との結婚を望む男を集めといて!!」
息もつかずにまくし立てたものの、そんな男が存在するのか、自分で言っときながら疑問に思うが、国王主催の婚活だもの。そこらの婚活アプリより分母は大きいだろう。
それに異世界だし。大体の異世界特典でハイスペイケメンが付くってセオリーだよね。今度こそ頼むで、神様。
リストの上から下に目を通しながら王様と宰相が「巻物かよ…」みたいな困惑の表情をしてるけど、聖女ビームで一撃とはいえ、魔王討伐の旅に命をかけるのだ。これくらいの褒美を貰っても罰は当たらないだろう。
その他にも私の納得いく条件を飲み込ませ、召喚されて一週間後、私は青い顔の王様と、リストを抱えてバタバタ走る宰相たちに見送られながら、騎士団と共に旅立ったのだった。
「半年、いや、一年くらいゆっくり時間掛けて倒したら良いからなー!!!」
「未来の旦那様の為に、なる早でやっつけて来まーす。帰るまでに揃えといてねー」
「いやぁーー!宰相、独身男性のリストアップ急げぇぇ!!」
◇
四ヶ月ぶりに戻ってきた王城で、私は王様と、その後ろに控える五人の男性と対峙する。おお、あれが私の旦那様候補たち!?
ん?王様少し痩せた?せっかく魔王を倒してきたっていうのに、後片付けで忙しかったのかな?
――魔王討伐の旅は思っていたよりも快適だった。
件の神殿までノンストップ行脚かと思っていたが、私の体調を気遣ってか、休憩も頻繁に行われ、なんなら途中の街で観光やショッピングを楽しむ時間もあった。
そのせいで、ひと月で着くと聞いていた神殿にふた月も掛かってしまったのだけど…。
神殿に着いてからは、『聖女様の強い想いが聖女ビームになります』と聞いたので、私の煮えたぎる婚活パワーを糧に聖女ビームを放ち、到着一時間ほどで魔王を屠った。ある意味愛のパワーでしょ?
それから旦那様候補に会うべく早々に帰路につきたかったのだけど、何故か神殿で討伐パーティとやらで十日も足止めをくらい、やっぱり帰りも観光やショッピングを楽しみつつ、各街でお祝いされながらゆっくりと帰ってきたのだった。
「聖女よ、よくぞ無事に戻られた!」
私が今日到着すると連絡を受けていたのだろう、大ホールに王様や多分お偉いさん達がズラリと並んでいる。王様が魔王討伐に対して云々言ってるけど、そんな言葉より、私の旦那様候補たちの様子が気になって仕方ない。
いずれも緊張した面持ちだけど、王様、ちゃんと集めてくれたんだね!
一人でうんうんと頷いていると、私がまともに話を聞いていないと気づいたのだろう、王様が讃辞を止め、報酬についての話に切り替えてくれた。
宰相が前に出て、旦那様候補者を一人ずつ簡単に紹介してくれる。
五人の名前を一気に覚えられるような特殊能力は無いから、仮にA〜Eとしておこう。
後は人柄を知るために交友を深めていく事になるんだろうけど…――
「ねぇ、服着た王様」
「わしの名前を覚える気があるなら自己紹介もう一度しようか?」
そこに脳のスペックを割くつもりは無いので、王様の提案を無視して候補者の一人を手で示す。
「あの一番左端の候補Aは、なんで腕と片目に包帯巻いてるの?怪我でもしてるなら安静にした方が…」
「いや、怪我も病気も無く、健康は健康なんじゃが…」
「クックッ…私の右腕に封印されし漆黒の龍が、聖女殿の聖なる波動に共鳴しているようだ…。うっ、邪眼が疼く…っ!!」
「思いっきり患ってるじゃねぇか」
厨二病という病をな!!
「そんじゃ、候補Bの腕に巻き付くカワイコちゃんの正体は?浮気とか許せないんだけど」
「ご安心ください、聖女様。こちらは恋人ではありません。ただの私のスーパー可愛い妹でございます!」
「はいシスコン。お出口はあちらでーす」
ややこしい小姑もいらんのよ!
「候補Cはずっと何を書き綴ってるの?」
「聖女様のお言葉の全てでございます。可能であればその吐息まで自然界に還す事無く全て保管してしまいたいはぁはぁ」
「シンプルにキモい!!」
おまわりさーん!この人です!!
「候補Dは…落ち着いてて温厚そうだけど…」
「はい、聖女様。穏やかだけが取り柄の男でございます。それで歴代の妻たちからは飽きられ、五度の離婚経験がございます」
「離婚のプロフェッショナル!!」
「ふふふ、ご安心ください。全て相手有責での離婚となっております」
「逆に怖いわ!」
裏がありそうなバツ五は私には荷が重いっす。
「え〜…それじゃ最後の候補E…びっくりするくらいのイケメンだけど明らかに人間じゃないよね。なにその背中の羽」
『いかにも。我はこの国を守護する神の使いなり。魔を祓った娘よ。褒美としてその人生を我が見届けよう』
「いや私、普通の結婚がしたいんで、人外は引っ込んでいてください」
あと私ホコリアレルギーなんで、羽つきはちょっと見るだけで鼻がムズムズしそう…。
そんな訳で、私とはちょーーっと合わなさそうな候補者の五人には退場してもらった。
――何ということでしょう。一瞬にして候補者がゼロになりました。
候補者たちが去った場所を無の表情で見つめたあと、思わずその場にしゃがみ込んでしまう。視界の端で、王様と宰相がワタワタとしている様子が見えた。
あ、生贄のような顔して無理に候補者会場に入ろうとするなラファエル君!君には何も求めてない!!
「はぁ……。王様結婚相談所の力を持ってしても、私の未来の旦那様は見つからなかったってわけか…」
「いや、その、今回はちょっと時間が足りなくてだな……」
「…ちなみに一番難しかった条件は?」
「会ったこともない聖女との結婚を望む男」
「そりゃそうかぁ……」
私との結婚に前向きな好みの男なんて、ファンタジー世界でもファンタジーな存在だったかぁ。そもそもこの探し方だと聖女としての肩書のみで、私自身が求められてる感じでもない?う、ちょっと切ない。
王命を使えば一発解決とか言われたけど、それはなんか違うんだよなぁ。
やっぱり三十ゲフン歳でも、愛とか欲しいじゃん?誰しも心に乙女を飼ってるじゃん?溺愛して欲しいとまでは言わなくても、私自身を好ましく思って欲しいと考えるのは贅沢なのかなぁ。
魔王を屠った事で私の知名度も上がっただろうから、ここからもっと私がいろんな人と交流して、地道にいくしかないのかな…。
「…それじゃ、時間をかけても良いから、改めて探してもらって…」
「――僭越ながら」
私の力無い声に被せるように、これまで私の後ろに控えていた騎士の一人が声をあげた。魔王討伐の旅にもついてきてくれた、騎士団第三部隊隊長のロジャーだ。
「ロジャー?」
「聖女様…いえ、ミコト様。どうか私にもここに立つ権利をお与えください」
ここ、とは。先ほどまで旦那様候補者達が並んでいた場所だ。それはつまり私の旦那様候補になりたいという意思表示で――
「騎士団第三部隊隊長、ロジャーです。年は三十八。伯爵家次男ですが、自身も騎士爵を持っています。騎士としての収入があるので、生活に支障はないと思います。趣味は筋トレ、浮気もギャンブルもしません。実家は兄が継いでおり両親は田舎で過ごしているため、あまり関わる機会はないです。もちろん独身で…それから、身長は百八十二で…」
私を立ち上がらせた後、宰相から向けられる私の要望リストを見ながら、自己紹介をしてくれるロジャー。
四ヶ月間も側にいた人が、ここまで私の条件に当てはまっていたとは全く知らなかった。旅の途中に話す機会は何度もあり、気が利く人だなぁと思っていたのだが…。
ふむ、と顎に手を当てながらロジャーに質問をする。
「…邪眼とかどう思う?」
「若い頃には憧れましたが、騎士団に入った十四の時には卒業しました」
「仲良し過ぎる姉妹とか、女の幼馴染は?」
「姉妹も幼馴染もいません。正直、男臭い生活です」
「私、聖書に出てくるような清廉な人間じゃないけど」
「よく存じております」
「独身とか言いつつバツついてない?」
「結婚どころか、お付き合いをしたこともありません…」
「…羽とか生えた人外じゃない?」
「生まれた時からただの人間ですね」
悪くない。悪くないどころかすごく良いぞ。騎士らしく鍛えられた体にはところどころ古傷が残るけど、逆に良い…!顔に残る横一文字の傷が無骨に見えて、女子人気が無いと聞いたことがあるけど、むしろありがとう!!
私の中の乙女が即座に三つ指ついて「不束者ですが」とでも挨拶しそうだけど、私の口からは漏れ出るような小さな言葉が溢れた。
「私が…聖女、だから?」
――あ、我ながらちょっと面倒くさい聞き方だ。
聖女の肩書目当てでも別に良いじゃない。条件に当てはまって気心も知れた相手だよ。少々の事には目を瞑ったって、ロジャーならきっと大事にしてくれる。
そんな私の心を見透かしたかのように、ロジャーは目尻にシワを寄せてフッと笑った。
「――はい。
…崇められる立場でありながら騎士や召使いに混ざって酒場で盛り上がり、一人ひとりの体調を気遣い怪我人や病人の馬車への同乗も厭わず、騎士の危機に駆けつけ催涙スプレーで魔物に立ち向かおうとする――そんな聖女様だから、です」
「……うぐっ」
不意打ちの言葉と、向けられたまっすぐな眼差しに、じわじわと顔が熱くなっていくのが分かる。
「え、聖女。そんな事してたの?」なんていう王様のツッコミも聞こえないくらい、耳の奥で心音がバクバク暴走していた。
……なんだこれ、ずるい。ずるすぎる。四ヶ月も旅を一緒にしておいて、ここでそんな殺し文句ぶち込んでくるなんて聞いてない。
なんでこんな男が今までフリーだったんだ!横一文字のせいか!!ありがとうございます(二回目)
心の中に飼っている乙女が暴走しそうになるのを必死で耐え、ゴホンと小さく咳払いを一つ。一瞬だけ花畑に入りかけた脳内を、いつもの調子に切り替える。だって私は大人だもの。
見たこともないような優しい顔で笑うロジャーに、私はパンッと威勢よく両手を叩いて見せた。
「――よし、決めた!ロジャー第三部隊隊長!」
「はっ」
「とりあえず……の、飲み友達からスタートで!お願いします!」
条件が合うからって即結婚なんて出来ない。逃げ腰だ?これは戦略的撤退であり、相手の事をよく知るために引いただけだし!別にときめきにやられて逃げたわけじゃないし!!
おい、王様!『何言ってんだ、こいつにしとけよ』みたいな顔やめろ!えらいムカつく。
そんな私の様子を見て、ロジャーはふはっと吹き出して笑った。
「喜んで。最高の酒場をお供いたします、ミコト様」
「…よーし!!婚活の話はとりあえず置いといて、今夜は祝いの宴だー!酒持ってこーい!!」
「「「おおおおおっ!!!」」」
私の号令に、後ろに控えていた騎士たちが沸き、使用人達がバタバタと動き出した。
王様は少し呆れたように従者に指示を出し、宰相は肩の荷が下りた顔で私の条件が書かれた巻物を片付けている。
会場の隅っこでひどくホッとした表情で小さく拍手をするラファエル君は…、うん。歳の近い素敵な令嬢と幸せになるんだよ。
――異世界に突然召喚されて、せっかくの残業は台無し、マッチョ消防士との飲み会もすっぽかす羽目になったけど。今度こそ、素敵な未来の旦那様をゲットしてみせますか!
神様、今度はほんまに頼むで!!
◇おしまい◇
どなたか必要な人いれば、候補者ABCDE差し上げますね。
マッチョ消防士は作者が頂きます!
◇ミコト(32歳)口が悪い婚活女子。心には乙女を飼ってる
◇ロジャー(38歳)後輩から慕われるタイプ。たぶんDTゲフン
◇ラファエル君(17歳)良い子やでほんま
◇服着た王様(知らん)本名…?知らん。




