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『オークに転生した三つ星料理人、異世界で究極の美食を極める〜過労死シェフは料理の知識で魔物の森から成り上がる〜』  作者: 烏丸ぽっぽ


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第11話「悪辣なる支配者と泥濘の独演会」


 ガギィィィィィッ!!!!


 オークの分厚い皮膚と筋肉を、エルフの放つ神速の双刃が容赦なく切り裂いた。


「ぐおぁっ……!」


 俺は奥歯を噛み砕かんばかりに食いしばり、丸太のような両腕をクロスさせて、セレスの剣撃を正面から受け止めようとした。


 だが、まるで次元が違った。

ルッカとリルの二人がかりでようやく拮抗していた重さと速度だ。俺一人の膂力で、エルフ最強の戦士の神速の連撃を凌ぎ切れるはずがない。


 首輪の魔力によって肉体のリミッターを強制解除されている彼女の刃は、俺の防壁を容易くすり抜け、オークの頑強な肉を容赦なく削いでいく。


「がはっ……!」


 左の太腿を深く斬り裂かれ、俺はたまらず片膝を地面に突いた。ボタボタと赤黒い血が地面に水溜まりを作る。


 すかさずセレスの双刃が俺の首めがけて交差する。だが、ピタリと刃先が喉仏のわずか数ミリ手前で止まった。


「……いやはや、素晴らしい。先ほどは私の命令に抗って剣を止めたため、思わず『不良品』などと呼んでしまいましたが……訂正しましょう。やはりあなたのその姿は、何度見ても芸術的だ。『最高傑作』ですよ、セレス」


 俺の頭上から、陶酔しきった、酷くねっとりとした声が降ってきた。


 顔を上げると、いつの間にか安全圏から歩み出てきたマルコが、俺に刃を突きつけたまま硬直しているセレスの背後に立ち、その細い腰に腕を回していた。


「なっ……てめぇ、マルコ……ッ!」


「動かない方がいいですよ、オーク。私が指先一つでこの魔石に命令を下せば、その首は瞬く間に胴体とお別れすることになりますからね。……ああ、愛しのセレス。今日も君は最高に美しい」


 マルコは俺を見下ろしたまま、セレスの浅黒く染まった首筋に、自分の顔を擦り寄せるように埋めた。


 スウゥゥッ、と深く、おぞましい音を立てて彼女の匂いを嗅ぐ。


 セレスは嫌悪と絶望に瞳孔を開き、全身を小刻みに震わせていたが、首輪の呪縛のせいで逃げることも、彼を振り払うこともできない。


 マルコはさらに、彼女の長く尖った耳の輪郭を指先でねっとりと撫で回し、ボロボロと涙をこぼす彼女の頬に、自らの舌を這わせてその涙を舐め取った。


「やめろ……お姉ちゃんから、離れろォォッ!!」


 地面に倒れ伏していたフィエルが、血を吐くような悲鳴を上げた。


 だが、マルコはその悲鳴すら極上の音楽であるかのように目を細め、恍惚とした吐息を漏らした。


「美しい……ああ、本当に美しい。この尖った耳の曲線、しなやかな筋肉、今は私の好みの極上の闇色に染まっていますがね、この透き通るような肌の質感……。ああ、君たちには到底理解できないでしょうね。幼い頃から、私がどれほど、どれほど深く、あなたたちエルフという存在に魅入られていたことか!

 あなたたちは森の奥で気高く生き、我々人間を下等な生き物として冷たく見下す。その傲慢で、汚れを知らない視線を向けられるたび、私の胸の奥底でドロドロとした欲望が煮え滾るのを感じていたのですよ。どうにかして、あの高慢な顔を絶望の泥水に沈め、私の足の甲に涙ながらにキスをさせてやりたいと。その美しい自尊心を完膚なきまでに叩き割り、私の愛玩動物として、這いつくばらせたいと! ええ、ずっと、ずっと夢見ていたのです!!」


 マルコの瞳孔は完全に開き、口角は耳まで裂けんばかりに吊り上がっていた。


 善人の仮面の下に隠されていたのは、純度百パーセントの歪みきった狂気だった。


「ですが、エルフという生き物は本当に厄介極まりない。ひっそりと隠れ住むあなたたちを力で制圧し、ただ鎖で繋ごうとすれば、そのくだらない誇りを守るために、ためらいなく自らの胸に刃を突き立てて死んでしまう。それでは意味がない! 心が折れる前に死なれては、私のこの湧き上がる欲望が満たされないではありませんか!

 だからこそ、私は時間をかけた。極度に警戒心の強いあなたたちの懐に潜り込むために、人間界の古文書を漁り、失われた『森の秘術』や魔法薬の知識を餌にして、何年もかけて信用を勝ち取ったのです。そうして完全に警戒を解かせた上で……あの『幻影ニラ』を教えたのですよ!」


 マルコは早口で捲し立てながら、セレスの髪を愛おしそうに梳いている。

セレスの目からは、絶望の涙がとめどなく溢れ落ちていた。


「あの草は、食べた者を多幸感で満たし、強烈な依存性を植え付け、そして数ヶ月という長い時間をかけて、じわじわと、誰にも気づかれずに運動神経だけを麻痺させていく究極の毒草だ!

 あなたたちは疑うことも知らず、私がもたらした毒草を『森の恵み』だと信じ込んで、毎日毎日、喜んで貪り食った! 誇り高きエルフたちが、自ら毒を飲み込み、次第に手足が動かなくなり、絶望に顔を歪ませていく様……ああ、あれは本当に傑作でした!

 そして私が『街の治癒院へ連れて行く』と手を差し伸べれば、あなたたちは涙を流して私を恩人だと崇めた! 自分たちの手で毒の畑を広げ、同胞を病気に追いやりながら、私に感謝の言葉を述べるのですよ! そうして私は、あの気高いエルフたちを、合法的に、感謝されながら、私の地下室へと連れ込み、好きなように慰み者にできる権利を手に入れたのです!」


「きさま……っ、マルコォォォッ!!」


 長老が唇を噛み破り、握りしめた杖から血が滲むほどの力で怒りを爆発させる。だが、マルコの狂った演説は誰にも止められない。


「そうして街の地下へと連れ帰った同胞たちに、私が何をしたのか教えてあげましょう。……ええ、もちろん『治療』はしましたよ。麻痺を解き、再び立ち上がれるようにね。ただし、二度と私に逆らえないように、たっぷりと精神を破壊する薬物を投与し、幻覚と恐怖で心をズタズタに切り裂いた後で、ですがね。

 ……おや? なぜそんなに恐ろしいものを見る目をするのですか? その精神破壊薬の原料は、あなたたちが『高価な薬の恩返し』だと言って、せっせと育てて私に納品してくれた、あの広大な畑の『幻影ニラ』ですよ? はははっ! 自分たちで大事に育てた毒草で、自分たちの心を永遠に壊される……これほど美しく、悲劇的な喜劇が他にあるでしょうか!!」


 マルコは腹を抱えて笑い、そしてセレスの首元に食い込んでいる鉄の首輪を、指でカチンと弾いた。


 ビクンッ!とセレスの体が跳ね、彼女は苦痛に顔を歪める。


「仕上げが、この首輪です。この『隷属の首輪』……ただ嵌めるだけではありません。魔法回路の楔を、皮膚を裂き、肉を抉り、頸椎の神経に直接打ち込んで定着させる、最高に痛みを伴う手術です! ああ、あの時の悲鳴……肉体が私の魔力に完全に屈服していく過程の、あの美しい絶叫を、ぜひ皆さんにも聞かせてあげたかった!

 完全に精神を壊して、意思のない操り人形にするのは簡単です。ですが、それではつまらない。自我は残す。愛も、悲しみも、誇りもすべて残したまま、肉体の主導権だけを完全に奪い取るのです!

 大切な者を傷つけたくないのに、私の命令一つで自らの腕が愛する者を切り刻む。その矛盾と絶望に涙を流しながら、抗うこともできずに血まみれになって服従する……それこそが、エルフという至高の存在を最も美しく味わうための、究極の遊戯なのですよ!!」


 狂気の熱に浮かされたマルコの視線が、セレスの横顔にねっとりと絡みつく。


「特にこのセレス……君だけは特別だった。他の愚かなエルフたちが私を『恩人様』と崇める中、君だけは本能で私の奥底にある汚泥を察知し、いつも私をゴミのように冷たく見下していた。君のその氷のような視線を浴びるたび、私は歓喜に身を震わせていたのですよ!

 だからこそ、君を最初のターゲットに選んだ。病に伏せらせ、地下に引きずり込み、その最強の戦士としての誇りを完膚なきまでに叩き割り、闇に染め上げた!

 かつて私をゴミのように見下した女が、今や私の指先の魔石一つで、愛する妹の首を刎ねまいと涙を流して懇願している。ははははっ! 最高だ! これ以上のエンターテインメントが、これ以上の極上の芸術が、この世のどこに存在するというのですか!!」


 息継ぎすら忘れたかのような、狂気に満ちた長広舌。


 森は静まり返り、エルフたちはあまりのおぞましさに言葉を失い、ただただ絶望の涙を流すことしかできなかった。


 地面に膝をつき、血を流す俺の眼前で。


 マルコは恍惚とした表情で天を仰ぎ、まるで世界中のすべてを支配したかのような、最悪の笑みを浮かべていた。


(つづく)


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