第6話 デート一軒目
遅くなってすみません!
デート辺第一弾です。
「とうちゃーく!」
沙也加さんの元気な掛け声と同時に、目的の店の駐車場に車を止める。
それなりに距離があったのでかなり疲れたな…
「じゃ、行こうか」
「はーい」
僕がそう呼びかけると、沙也加さんは行きで買ったコンビニの肉まんを平らげて元気よく返事をした。
底知れない食欲といい、活気に満ちた声といい、男子小学生を連れているかのような感覚だ。
店に入ると、様々な調味料、香辛料の香りが鼻をくすぐる。
席はほとんど埋まっており、各々が好きなものを好きなように食べている。いい雰囲気だ。
入口のそばに立っていると、それに気づいた店員さんが店の片隅の二人席に案内してくれた。
僕が内装をきょろきょろと見渡している傍らで、沙也加さんはメニュー表とにらめっこしている。
ちなみに、店の前に出た唐揚げ推しの看板を見た時から、僕は唐揚げ定食と決めている。
しばらくすると、沙也加さんもメニューから顔をあげ、早々に注文を済ませる準備が整った。
「私は、唐揚げ定食と半ラーメンと半チャーハンで」
まじかコイツ。さっき肉まんも食べていたよな…?
「お客様、唐揚げ定食のライスをチャーハンにすることもできますが、いかがですか?」
店員さんが気を利かせて、両方頼まなくてもチャーハンを食べる方法を教えてくれた。
がーー
「あ、ライスはそのままで、単品で半チャーハンお願いします!」
「沙也加さん、今日食べ歩きだよね?一軒目でこんなに食べて大丈夫…?」
「よゆーだって!」
言いながら歯を見せて笑って見せる。
なんか、こういうキャラを最近小説で見た気がするな……
おっと、僕も早く注文をしなければ。
「えっと、僕はーー」
「以上でよろしーー」
しまった。
沙也加さんが頼みすぎて、僕と沙也加さんの二人で定食とラーメンとチャーハンを食べるものと勘違いされたか…
なんというか、ごめん沙也加さん。
「ぼ、僕は唐揚げ定食で…」
罪悪感を覚えながら注文を済ませてから15分後。
沙也加さんの注文した半チャーハンがテーブルに置かれた。
沙也加さんは素早く料理を撮影し、
「じゃ、お先いただきまーす!」
と、ウキウキで合掌を済ませると、目の前のチャーハンにがっつき始めた。
相変わらずいい食べっぷりだが、やっぱり多いのではなかろうか。
そんなことを思いながら、コップの水をおもむろに口に含む。
そして、コップから顔を上げたその瞬間――
「はー、美味しかったぁ」
目の前には、空っぽのお皿と、口の周りに米を付けた沙也加さんの姿があった。
おい、まじか。
「もう食べ終わったの!?」
「へ?何言ってるの。まだ料理は全部来てないじゃん」
「じゃなくて、その…」
僕が水を飲み切る前に半炒飯を間食した沙也加さんが、首をかしげながらこちらを見る。
どうやらこの人、食いしん坊キャラだ。
僕が言葉に詰まって唖然としていると、店員さんが唐揚げ定食を運んでくる。
「デカい。」
目の前に定食が置かれるなり、思わず一言こぼしてしまった。
げんこつサイズの唐揚げが、お皿の上にこれでもかと積まれている。
一つひとつが油で光り輝いていて、その光景は宝石を彷彿とさせるほどだ。
さすが名物といわんばかりのインパクト…
まもなくして、沙也加さんの前にも同じ定食が置かれる。
半ラーメンの到着が遅いので確認を取ったところ、ミスで調理が遅れているとのこと。
沙也加さんは、〆にちょうどいいとか言って喜んでいた。
顔はかわいいのに、おじさんみたいなこと言うなと思う。口には出さないけど。
二人のメインディッシュがそろったところで、仲良く合掌。
ところで沙也加さん、各料理ごとに手を合わせるタイプなのか。
僕も昔はそうだったことを思い出す。
茉子ちゃんに変だって言われてから直したんだっけな。
……まずい、あの日のことを思い出してしまった。
今は料理に集中、だ!
まずは味噌汁で気持ちを落ち着かせよう。
出汁が効いていてすごく深みのある味わいだ。
唐揚げなど、こってり系のおかずによく合いそうだ。
計算しつくされているぞ、これ……
向かいのお茶目な金髪さんは唐揚げからかぶりついている。
うわぁ、肉汁があふれてめっちゃうまそうだ…
待ちきれないので僕もいただくとしよう。
唐揚げを箸で持ち上げてみると、ずっしりとした重みが右手に加わる。
いざ。
一口かじると、『ザクッ』という軽快な音とともに、詰まっていた肉汁や油が口の中にあふれ出していく。
さらに、この重み、ボリュームなのにめちゃくちゃ柔らかい。
そして、ジューシーだけど全くくどくない。
食べ応えは残しつつ、何個でも食べられてしまうくらい食べやすい……
これ、めちゃくちゃうまいぞ。
「これ、いくらでも食べれそう!」
僕の心の声とリンクした発言をする沙也加さん。
僕にとっては比喩のつもりの一言だが、この人は本当に食べちゃうんだろうなぁ。
そんなことを考えていると、自然と笑みがこぼれてしまう。
やはり、誰かと一緒に食べるご飯は暖かくて楽しくておいしい…
沙也加さんは、唐揚げがよっぽど気に入ったのか、もう半分以上を平らげている。
ところでこの唐揚げは、ご飯との相性も抜群だ。
あふれんばかりの肉汁をご飯のクッションが優しく受け止めている…
はい、幸せの永久機関完成。
「お待たせしました、半ラーメンです。」
僕の定食が残り後半分程度といったところで半ラーメンが到着。
もちろん沙也加さんはもう食べ終わっている。
沙也加さんにとっては、付け合わせのスープが増えたみたいな感覚なのだろうか…
とにかくすごい食欲だ。
結局、僕が間食する前に沙也加さんが丁寧にスープまで平らげてしまった。
店員さんの視線がやたらとこのテーブルに集中しているのは、きっと気のせいではないだろう。
が、そんな視線は気にせずに続きを楽しもう。
唐揚げ一色に染まっていた口を、キャベツで一度リセットする。
そして、唐揚げ、ご飯、味噌汁の順番で再び食べ進め、しばらくしたら、またいったんキャベツで休憩。
このサイクルを、僕は密かに「鶏ニティサイクル」と呼んでいる。
トリニティといいつつ、キャベツを入れると要素が四つになっているのはあまり突っ込まないでほしい。
鶏ニティサイクルで食べ進めること十数分。
ようやく僕も定食を完食した。
ちなみに、沙也加さんは唐揚げがそうとう気にいたようで、追加で単品を注文し、僕が定食を食べきる間にそれを平らげていた。
当初は沙也加さんの食べっぷりに心配するばかりだったが、僕の方が早く限界を迎えてしまいそうである…
支払いは、こんないいお店を教えてくれた分のお礼として、こちらが払わさせていただいた。
支払いを済ませて外に出ると、日に日に乾燥していく冬の風が吹きつける。
暖かい店内にいたので、少々心地がいい。
思わず、僕は物思いに浸る…
さっきも思ったが、やはり誰かととる食事は、美味しい以前にとても楽しい。
味とか匂いとか、共有できる人が近くにいるのって、なんだかすごくうれしいことだと思った。
もうしばらく恋愛はしないと思っていたが、こんなに楽しくご飯を食べる沙也加さんならあるいは……
そんなことを考え始めた僕は、早々に思考するのをやめた。
「もう少し、このままを楽しんでもいいよな。」
誰にも聞こえないくらいの声でつぶやいた僕は、沙也加さんと愛車に乗り込んだ――
こんにちは、エゴサをしたら検索欄の一番上に出てくるようになっていた夜風なぎです。
この頃の日課は、朝昼晩の食事のひとときにこの小説のランクイン情報を見ることです。
先日獲得した三位は、スクショをとって、たまに見返しながら一人でニヤニヤしています。
さてさて。今回は食べ物こそ出てきましたが、深夜の台所は登場しませんでしたね…
これからはこういう話が続くかなと思います。
が、きっと面白くなるので引き続き本作をご愛読くださればなと思います。
次回は、十二月十九日までに投稿予定ですのでお楽しみに!
寒い日が続くようになりましたが、ぜひ暖かくしてお過ごしください。




