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番外編① 家系ラーメン

充と茉子の修羅場を書きました。

軽めの番外編のつもりで書いたら、三千字を超えてしまいました。


内容も少々刺激の強い仕上がりになっているので、覚悟して読んでください。


刺激的描写が苦手な方は、飛ばして読んでも問題ないので次回をお読みいただければ幸いです。


料理も出てくるのでぜひお楽しみください!

もうすぐで春が終わりそうというころ、小学生のころからの大親友である飯田充と麦田茶武郎は宅飲みをしていた。

宅飲みといいつつも、二人は十九歳なので、コップの中身はコーラである。

会場は、都合よく家族全員が外泊中の飯田家の一室。

さらに不自然なことに、二人が宅飲みをしているテーブルには四つのコップが置いてある。

うち一つには、飲みかけの酒が入っていた…

わけは、二時間前にさかのぼる。


「で…充くん、話って何? 急にタケルくんを連れて家に来いだなんて。」

高校一三生の時から飯田充の恋人である小林茉子は充にそう問いかけた

「単刀直入に言うけど……二人、浮気しているよね」

そう告げる充の手は震えている。失望か、哀しみか、はたまた恐怖か……ここにいる誰もが、そして、充さえもその答えはわからなかった。

「何を証拠に!」

充に対して声を上げたのは、茉子の大学の先輩である高梨タケルだ。

ちなみに、ここにいる四人は全員同じ大学に通う大学生であり、タケルを除いた三人は先月入学したばかりの新入生である。

「証拠ならこれが」

充は、明らかにチャラそうな金髪の先輩に向かって堂々とその証拠を突き出した。

そこには、プリントアウトされた二枚の写真。

一枚目は、茉子とタケルが手をつないで歩く写真。

写真にははっきりと二人の顔が映り、二人が向かおうとする先にはホテルの看板がでかでかと掲げてある。

二枚目は、ホテルの非常階段の踊り場で撮られた一枚だった。

うっすら曇った小窓越しに、タケルが茉子の頬を両手で包み込み、両者の唇が触れる距離まで迫っている瞬間が写っている。

茉子は、驚くほど無防備な表情で、まるで充のことなど初めから存在しなかったかのようだった。

二人の影が重なり合い、そのすぐ横の壁には乱れた茉子の髪が擦れたらしい跡まで残っている。

どこからどう見ても、言い訳の余地はない。

充が二枚目の写真をテーブルに置いた瞬間、その場の雰囲気は一気に凍り付いた。

「これ……どう説明するの?」

震えた声で充が問いかける。

「ま…まぁまぁ充くん、こういうのって、角度とか目の錯覚で見方変わるしさ?ちょっと落ち着こうよ」

「……んだよ…」

「あ?」

タケルの軽い返しに対して充が小さくつぶやく。

しかし怒りが抑え込めなかったのか、その言葉はさらに大きな声でもう一度繰り返された。

「唇が触れているように見える角度ってなんだよ!!だいたい、こんな場所に入ってる時点で言い逃れできないんだよっ!」

言いながら立ち上がる充はタケルの胸ぐらをつかんで襲い掛かる。

「落ち着け、充!」

今まで事の成り行きを黙って見ていた茶武郎が慌ててそれを止める。

親友に押さえつけられた充は冷静さを取り戻したのか、小さくつぶやく。

「すみません…取り乱しました。だけど、あなたと茉子ちゃんが浮気したことは否定しようのない事実です。認めても認めなくても僕は茉子ちゃんと別れます…これ以上隠しても、良いことはないはずです。」

充がそこまで言うと、観念したような口調で…

「わかった…認める。」

と、タケルがそれを認めた。

「ちょっと!?」

「いい加減、浮気じゃなくて、ちゃんと恋したいし。もう隠せなそうだしな。」

取り乱す茉子の目を見つめて、真剣な口調でタケルは言葉を続けた。

「タケルくん…」

茉子は、そんなタケルの言葉を聞いて胸の辺りを手で押さえてゆっくりと目を瞑る。

そして、タケルは充に体を向け直すと、深々と床にでこを付けて土下座をした。

「俺と茉子さんを一緒にいさせてくれ。」

「私も、タケルさんと一緒にいたい!お願いします」

そう言って、茉子までもが土下座を始めた――


そして、今。

「別れるって言ってんじゃねえか!!!なんで土下座なんだよクソがっ!!いわれなくても別れてやるってんだっ!」

不自然にコップが三つ並んだローテーブルに、充によって中身のコーラを高速で空っぽにされたコップが、『ゴンッ』と鈍い音を立てて置かれる。

「大体、なんで寝取られで始まったカップルにあんな愛情が芽生えてんだよ!!」

充は怒りを露わにして叫んだ…

と思ったら、今度はテーブルに突っ伏して悲しそうにぶつくさと何かをつぶやき始める。

やがて充は、一言も言葉を発さなくなってしまった。


―茶武郎視点―

充が壊れた

コイツがテーブルに突っ伏して一時間半が経過。

一向に動く気配がない。

これが抜け殻ってやつか、なんて呑気なことを考えている場合ではない。

一刻も早く抜け殻状態をやめさせなければ…

しかしどうしたものか。

俺がいつも落ち込んだ時、充はどうしてくれているだろうか。

いや、今までそんなことなかったなと思う。

俺はそもそも人間関係に悩みはないし、落ち込んでも充に打ち明けることはなかった。

とりあえず、しんと静まり返った空間は居心地が悪くて気まずいのでテレビでもつけよう。

そう思ってリモコンのスイッチを押すと、画面には芸能人がラーメンを啜っている映像が流れる。

ラーメン食いてえな……

励ますためとかじゃなく、普通にラーメン食いたくなってきた。

美味いものを食べれば元気出るっていうし…

よし!

俺はすぐさま充に声をかける。

「おい起きろ!ラーメン行くぞ!」

「今はそういう気分じゃ……いいい痛い!わかった!行くから!」


充を外に連れ出すことに成功した俺は、近所の夜遅くまでやっているラーメン屋に直行。

そこはいわゆる“家系ラーメン”を専門に扱っている店で、店に入るなり店主に注文を聞かれる。

俺は充の分まで注文を済ませると、充と一緒に角の席に陣取った。


ー充視点ー

不思議な事態だ。

なんで僕は彼女と別れた直後にラーメン食いに来てるんだろう。

純愛だったならまだいいがNTRだぞ。

状況が状況なので、ドラマやアニメのような感動的な雰囲気が全くない…

だが、確かにお腹は空いている。

今日は家族が外出中なのと夕飯の時間には元カノ達と修羅場っていたため、まともな食事をとっていない。

なんなら昨夜からずっと何も食べられなかった。

今でも、窓越しに見た二人のキスシーンがフラッシュバックして辛い。

が、今は別れられたので胃が正常な働きを示し始めたようだ。

さっきから僕のお腹が鳴っているのを茶武郎がニヤニヤしながら見つめている。

こいつ、ほんとに慰めるつもりあるのか…

いや、ないのかもしれない。

それでも、一緒にいる人まで笑顔にできてしまうのがコイツの良いところだ。


と、そんな柄にもないことを考えていた僕の目の前にラーメンが置かれた。

まもなくして、茶武郎の前にも同じものが置かれる。

中央にほうれん草、それを囲むように焼豚(チャーシュー)、海苔。

そして、端っこから輝きを放つうずらの卵が食欲をそそる…

時刻は夜の十一時。

こんな時間にこんなものを食っていいのだろうか…

「たまには、な?」

そんな僕の心配を感じ取ったのか、茶武郎が微笑みながらそんなことを言ってくる。

確かに…

さっきも言ったが、ずっとまともな食事が取れていないのだ。

たまには良いだろう。

とう言うか、早く食べたい。


「「いただきます!」」


二人で仲良く合掌をし、茶武郎は目の前のラーメンに一心不乱に食らいつく。

僕はまずスープから…

レンゲ半分くらいにスープを掬ってゴクリ。

「ん!」

これは…豚骨と鶏油か!

家系、初めて食べたけどなかなか好きな味だ。

次は中央に盛り付けられたほうれん草を崩してスープに浸し、ラーメンと一緒に口へ運んでみる。

「合うんだなぁ…」

思わず感想が漏れてしまう。

うずらの卵も試してみよう。

落ちないようにレンゲで掬って、スープごとパクリ…

はい美味い。

噛むと黄味がプチッと弾けて楽しい。

小学校の頃の学校給食で、うずらの卵が出た時のワクワク感が蘇る。

ラーメンには鶏の煮卵一択だと思っていたが、うずらもなかなかやるではないか。

焼豚も味が染みていて美味い!


そして、麺が器の三分の一くらいになったら…

ニンニク投入!!

なぜ三分の一かは、なんとなくそうしただけなので聞かないでほしい。

でもなんとなく、このくらいが美味いと思った。

そして予想通りうまい…

口の中が幸せだ。

あ、明日大学だっけ…まあ良いや。

明日口臭に悩まされるとわかっていても、この誘惑には勝てない。


「「ご馳走様でした!」」


スープまで全部飲んでしまった。

器から顔を上げると、どうやら茶武郎も全部飲んでしまったらしく、器の中は空っぽだ。

「美味かったな!」

茶武郎が屈託のない笑顔を向けてそう言う。


料理は人を笑顔にする。

当たり前な気もするけど、それを身に染みて感じた。

そして、その翌日から幕を開けた僕の料理中心の生活はこれまでの人生の何倍も楽しくて。

茉子ちゃんとの件で失ったものより、新たに得られたものの方が多いと思うのは気のせいじゃないのだろう。


僕は先日彼女を寝取られ、先ほどそいつと別れてきたが…

そんなことより飯を食おう。




この作品にしてはちょいと重めになってしまいましたが、お楽しみいただけていれば幸いです!

第5話は今日から3日以内に投稿予定です。

お楽しみに!

以上、夜風なぎでした!


追記:次回からは、きちんと吹っ切れた充くんが奮闘する日常コメディが続きます。もちろん飯も登場しますので、軽く緩くお楽しみいただければ幸いです。

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