第3話 やみつき鯖キャベツ
秋とはいえども、日没は早い。僕の自己紹介が始まるころ、外は夕焼けに包まれていたのだが…
二十時半、僕は向かいに座る金髪美女の説得を続けていた。
カケルくんは予定があるからと一時間前に退出。なんと、自己紹介の順番が回ってくる前に帰ってしまった。
いや、カケルくんは悪くないのだ。悪いのは目の前に座って駄々をこねる若月沙也加である。
「私はぁ!ただ充くんをお持ち帰りできればそれでいいのよぉ!」
夕方ごろから説得を始めたものの、いまだにこの一言の一点張り…
自己紹介は僕で止まったまま進んでいない。
料理も一通り食べたのだが、状況が状況なのでちゃんと味わえなかった。
「なぁ、もういい時間だし、お前が一緒に帰ってあげたらどうだよ?若月さん、すごい酔ってるし…」
茶武郎がしびれを切らしたように言う。
それもそうだ。昼から同じ店で過ごすとなると注文は必須なわけで、すでに沙也加さんはふらっふら。
このまま解散して一人で返すわけにもいかない。いかないのだが…
「隣のご友人さん…?に、運んでもらうことはできないんですか?」
そもそも、隣に座ってやけに仲良さそうに話している彼女が、沙也加さんを介抱してやれば、もっと早くこの会をお開きにできたのではないだろうか。
そう思っていると、沙也加さんの隣から返答が聞こえてくる。
「ああ…それができたらよかったんだけど、私この後用事あって…」
言って、沙也加さんにウィンク。
グルだな。
そう思って、右端で俺と向かい合っている沙也加さんの左隣のさらにその隣…存在を忘れかけていたもう一人の女性に目を向ける。
「あ、私も無理です~。そもそも、私は茶武郎さんとしか知り合いじゃないので…」
そうか、僕も茶武郎しか知り合いはいなかったんだけどな…
沙也加さんがいるじゃんとか思ったやつには、幼稚園はノーカンだろと言いたい。
しかし、今この状況で沙也加さんを僕が送ることに異論があるのは僕だけのようだし…
仕方ない。
「僕の家で介抱します…」
諦めて、今夜は僕の家に泊めることに決定した。
帰りのタクシーの中、僕は窓の外で淡く輝く色とりどりの光を眺めながら、物思いにふけていた。
合コンでお持ち帰りなんて、僕の人生とは無縁のイベントだと思っていた…
僕と帰宅することが決まってはしゃいでいた沙也加さんは、もうすでに隣で寝息を立てて寝ている。
しかし…改めて顔をよく見てみると、やっぱかわいいな。
と、沙也加さんの目がピクリと動いた。やましいことをしているわけでもないのにドギマギしてしまう。
だけど僕はこの雰囲気が、なぜだか嫌いではなかった。
自宅リビングの中央に置かれたソファに腰かけ、引き続き寝息を立てる沙也加さん。
彼女をマンションの十階まで運ぶのはなかなかにきつかった…
ここは実家なのだが、家族が今日から旅行に出かけているのが不幸中の幸いでる。
時刻は二十二時半。タクシーで家まで行くのは高いので、大学に通うために買った定期券が使える範囲内の駅までタクシー移動をして、残りは電車と徒歩で帰宅したために帰りが遅くなってしまった。
沙也加さんの移動費は、切符を購入したので安心してほしい。タクシーより安いし。
相手が寝ているとはいえ、この空間に何もせずただずっと近くに居るというのはなかなかに気まずい。
何をしようかと悩んだ末、僕はキッチンに立っていた。
「さて、始めますか」
今日のメニューは鯖缶を使った簡単レシピにしよう。
まず、キャベツを一口大に切って耐熱ボウルに入れ、ラップをかけたら600Wで2分レンチン。
次に、水気をよくきった鯖缶と、醤油、酢、ごま油、いりごま(白)、おろしにんにく、おろししょうが、砂糖をキャベツの入ったボウルに入れる。
鯖をほぐしながら混ぜ合わせて盛り付けたら…
やみつき鯖キャベツの完成だ!
お好みでラー油をかけてもおいしい。僕は食べ応え重視で食べるラー油を入れる。
僕は出来上がった料理を沙也加さんが寝ているソファの後ろにあるテーブルに置くと、缶ビールをプシュ。今日は合コンだったのにあまり飲めなかったのでアルコールが入ってるやつだ。
ビールをグラスに注いでいると、沙也加さんが,むくりと起き上がる。
目をこするなりこちらを見ると、とたんにその目を輝かせて駆け寄ってきた。
「ねえそれ!充くんが作ったの!?」
「え、まぁ…いちおう。」
簡単にできるやつなので、こんなに感激されると喜びより羞恥心が勝つ。
「沙也加さんも、食べる…?」
一応彼女の分も作っておいたので差し出してみる。
「いいの!?食べたあい!」
起きたばかりなのに元気な人だ。
沙也加さんは、ダイニングテーブルの僕の向かいの席に腰かけ、手を合わせた。
「いただきます!」
自分の作った料理が別の人の口に運ばれるところを見るのは初めてで、妙な緊張感を抱く。
僕は沙也加さんの反応が気になってそれをじっと見つめる。
沙也加さんは僕の料理をパクリと一口食べてゆっくりと咀嚼する。
やがて、それを飲み込んでから沙也加さんの瞳にさらに輝きが増していく。
そして、一言。
「うっまぁ!」
そのあとの沙也加さんの箸は止まることを忘れたように僕の料理をつまんでは口に運ぶを繰り返す。
その姿に素直にうれしくなった僕は、それを眺め続ける。
と、沙也加さんが一度食べるのをやめてこちらに向き直る。
「これ、すごくおいしいよ!充くんも、ほら!」
言って、沙也加さんが僕の皿から料理をつまんで僕に差し出す。僕は反射的にそれを食べる。
お、確かにおいしい。初めてやってみたけどこれいいな…
というか――
「なんか、いつもの一人で作って一人で食べる料理よりも楽しい、かも…」
思わず漏れた自分の言葉に気づかされた。
僕は、深夜にご飯を作って研究して、寂しさが紛れたと思っていた。
でも違った。僕はそう思い込んでいただけだ。
いつも、心どこかに寂しさのようなものを感じていた。
どんなにおいしいものを作れても、なぜか埋まらない心の穴……
その正体が、ようやくわかった。
だから僕は、瞳から思わず涙がこぼれそうになるのをぐっとこらえてこう言った。
「ねえ…また、ご飯食べに来てくれない?」
「へ?」
「今日のは簡単なものだけど、次は腕によりをかけて作るからさ!」
先ほどまで女性と話す気まずさと格闘していたとは思えないくらい自信に満ちた声で、一息に。
それを聞いて、一瞬だけ困惑気味の声を上げていた沙也加さんがパッと華やかな笑顔を浮かべ、
「うん!楽しみにしてる!!」
と言い、再び目の前の食事を丁寧に食べ始める。
次は、何を作ろうか。
こんにちは、夜風なぎです。
この度、本作がブックマーク2件&日間ランキング19位、週間ランキング67位を獲得しました!!
という報告をしたかったのですが、確認のためにもう一度ランキングランを確認したら…
まさかのさらに更新が加わり…上がっている!?
初心者なもので見方がようわからんのですが、日間ランキングで連載中の範疇では14位、全て含んだランキングでは98位になっているようです。
え、すごくね?
初のランキング入りだったので心が躍っております。
本作のプロローグか1話を投稿した時点で、「本作が、代表作であるローファンタジーを上回る評価を頂いたらどうしよう」なんて書いていましたが、本当にその通りになりました。
皆様、ご愛読ありがとうございます!!
つきましては、本作を本日より代表作として、ローファンタジーはちょっとずつ書いていきます。
そっちも気になる人は是非とも併せてご確認ください。
さてさて、今回登場する料理はホームクッキングというサイトからひっぱりだしたもので、ほんとにすぐできるので皆さんもぜひやってみてください。
そして、本作を少しでも気に入ってくれたら、是非ともブックマーク、感想、評価のほどを宜しくお願いいたします!
次回作は四日以内に投稿させていただきます。お楽しみに!




