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第22話 どう思っているんだ

時刻は午前二時を過ぎたころだ。


三十分ほど前に寝袋に入った僕は、なかなか寝付けずにいた。


耳に届くのは、冬の乾いた風が木々を揺らす音のみ。


虫のさえずりも、動物の足音も皆無である。


この静けさが、シーズンオフキャンプの良いところなんだよなぁ。などと考えたところで、茶武郎に誘われてキャンプを始めた初心者が何を浸っているのかと内心でツッコミを入れた。


やはり気分が落ち着かなく、寝る前までの会話を思い出して独り言ちる。


「どう思っているか……ねぇ。」


僕がセンチな気分になっていると、冷気をこれでもかと含んだ夜風が、テントをそっとを撫でた。



遡ること数時間前――


「さぁ、俺の馴れ初めはすべて吐いたぞ!今度はお前の番だな」


「いや、別に何もないって……」


そう言いつつ、脳裏に浮かぶ食いしん坊ギャルの顔。


この場で受け流すのはシラケるし、むしろ悩みを聞いてもらった方がいいかもしれない。


そう思い、口を開く。


「……正直」


しんみりとした沈黙を破った僕に、茶武郎が顔を向けてくる。


僕は息を吸い、言いかけた言葉を繋ぐ。


「正直さ、沙也加さん自体が僕のことをどう思っているのかすらわからないし。」


「まあな……合コンの時はびっくりしたけど、それ以降は割とフランクに接してるもんな」


そう、まさにそうなのだ。


「そうなんだよ。別に、好きだと明言されたわけじゃないし……単に料理目当ての可能性の方が高いっていうかさ」


「でも、お前が持って帰ってくる若月エピソードを聞く限り……脈アリな気もしなくもないんだよなぁ」


「うーん……仮にそうだとしても、なんかずっと気がかりなことがあってさ」


ふと思い浮かぶのは、しゃぶしゃぶ屋で一瞬だけ見せた、寂しげな沙也加さんの横顔。


そして、誰かと一緒にご飯を食べるときの、はにかむような笑顔。


「気がかりなこと?」


不思議そうに僕の顔をのぞき込む茶武郎の革ジャンに、ランタンの光がてらてらと反射して輝いている。


それを見つめながら、僕は口を開く。


「沙也加さんって、やたらと僕とご飯を食べたがるんだよ」


「だから、脈アリなんじゃないのか?」


「いや、そうだとしても、それだけじゃないっていうか……」


「……?」


心底わからないという顔をする茶武郎。


茶武郎の頭に浮かんでいるクエスチョンを解くように、僕は適切な言葉を探しながら続ける。


「その……」


が、やはり単刀直入な物言いしか思いつかない。


僕は言葉を飾ることをやめると決め、大きく息を吸う。


「沙也加さんも、僕と同じようにつらい過去とか、そういうのがあったんじゃないかって。だから、誰かと食卓を囲みたがってるのかなって。僕は、沙也加さんがそんな風に見えた」


「……男がらみってことか?」


「かもしれないし、別の問題かもしれない。」


「そうか。確かに、若月さんが何か抱えているかもしれないってのは一理あるかもな……」


腕を組み、顔をしかめて茶武郎が続ける。


「だけどさ、いったん若月さんがどう思っているかは別として、お前はどうなんだよ。」


「……え?」


僕は、突然の質問に思わず声を上げ固まった。


だって、そんなこと考えたこともなかった。


……いや、正確に言えば、考えないようにしていた。


確かに、沙也加さんと一緒にいるときは楽しいし、ほかの誰とも違う特別な人という印象はある。


……あるけど、それを恋と呼べるのかどうか。


彼女を寝取られて以来、深夜飯に没頭して背を向けていた恋愛という二文字。


僕は今、その感覚を忘れていた。


沙也加さんとどうなりたいのか、どう思っているのか――


その疑問がまとまることはなく、その場に長い沈黙が続いた。


「悪い、今訊くことじゃなかったな……」


申し訳なさそうに、茶武郎が切り出した。


「大丈夫だよ。そろそろ、寝ようか……」


「……そうだな」



結局、その後は茶武郎から投げかけられた問いが頭をめぐり、気づいたら夜は更けていた。

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