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第2話 沙也加ちゃん

ビール祭りから一週間が経った。

今日はついに、合コン当日だ。

別に期待をしているわけじゃないが、相手に失礼がないように慎重に服を選ぶ。

大切なことなのでもう一度言うが、決して今回の合コンに出会いを期待しているわけではない。決して。

ベッドに並べられた服は、リア充だった頃の一軍ばかりだ。


ーーよし、決めた。

散々に悩んだ末、結局一番無難なデザインの服を見に纏う。

こういうとき、優柔不断なのに最後は無難なものを選んでしまう自分が憎い。

が、そんな憂鬱な気持ちを吹き飛ばすくらい、僕はこの合コンが楽しみだった。

もちろん出会に期待しているのではなく、テレビに取材された海鮮料理とやらに興味があるだけだ。

と、僕はそんな誰に対してなのか分からない言い訳にため息をつきつつ、自宅マンションを後にした。


「よっ」

「おぉ!来たかー!集合までもうちょっとあるのに、相当楽しみだったんだな?」

ニヤニヤと笑みを浮かべてそんなことを言う茶武郎に、僕は言葉を返す。

「料理に興味があるだけだって」

「相変わらずだなー。いや、ちっとは変わったのか…」

しみじみとした表情で茶武郎が独りごちる。

「なんだよ、そんな意味深なこと言って…」

「いや、な… 人間関係のいざこざに振り回されてた充が、こんなに料理に食らいつく食いしん坊になったのが感慨深くてな。」

え、今のっていい話っぽい?

食いしん坊とかディスられたけど、そこにツッコミを入れるような雰囲気じゃないよな…

急変した雰囲気に流されて、僕も慌てて用意したセリフを口にする。

「お前のおかげだよ、ありがとな」

「え?」

茶武郎が不意をつかれたような声を漏らす。あれ、僕何か間違ったか?

「ディスったつもりなのに、やっぱ変わったなぁ…お前。」

やっぱディスってやがったか。


それから数分後、知らない声がこちらに向かって聞こえてきた。

「おーい、お待たせ〜」

「あぁ三人とも、こんちわ」

茶武郎が軽く挨拶を交わしたところで、僕も顔を上げて声の主を確認するとーー

そこには、えらく顔が整った美女が三人立っていた。

もう一度言うがすごく美人だ。こんな可愛い子たちとどうやって知り合ったのかと、茶武郎に問いたい。

「こいつが俺の友達の充ね」

女性陣の美貌に圧倒されていると、佐武郎から自己紹介を回された。なんて言おう…

「え、えと…飯田充です。よろしく」

「「「よろしくー」」」

軽く挨拶を交わしただけでちょっと緊張してきた自分が情けない。

てかなんで茶武郎は平気なんだ?こっち側の人間じゃねえのかお前…

「遅いなぁ。高梨(たかなし)くん、何かあったのかな…」

と、あっち側の茶武郎くんが呆れた顔で気になることを言う。

「高梨って、高梨タケル?」

高梨タケル。僕から茉子ちゃんを寝取った張本人であり、茉子ちゃんの今彼のはずだ。

そんなやつと食事の席なんてもってのほかだ。

半年前、茉子ちゃんと一緒に僕に向かって『二人で一緒に居させてください』と言いながら土下座をされたときに、もうコイツらとは会わないと誓ったのだ。

が、そんな心配は不要であった。

なぜなら、茶武郎の言う高梨は、タケルの方ではなく――

「な訳ないだろ?その弟の、カケルくんだよ」

まさかの弟だったからだ!


「「「「「かんぱーい!」」」」」

僕以外の全員がノリノリで乾杯する中、僕はただ一人で気まずさと格闘していた。

ちなみに、開催ギリギリにやって来たカケルくんは、十九歳なので烏龍茶を飲んでいる。


高梨カケル。僕の元カノの今カレの弟…

容姿は兄に似たのか整った顔立ちだが、兄とは対照的な短くパキッとした黒髪が印象的だ。

「じゃあまずは自己紹介から!時計回りで」

今日は意外にもあちら側だった茶武郎が会を仕切っていくようだ。

あいつ、あんなにイケメンだったっけ。


と言うわけで、最初の難関である自己紹介が始まった。

順番は時計回りで、茶武郎、僕、カケルくん、女性陣だ。


「じゃあ…改めまして、麦田茶武郎です!

好きな食べ物はカレーだったけど、先週ハンバーガーに上書きしました。今日集まってくれてありがとう。楽しみましょう!」

先週のハンバーグ、そんなに気に入ってたのか……七個目で止めずに食べさせてやればよかったな。

っと、次は僕の番だ。

心の中で茶武郎に軽く謝罪を済ませて、立ち上がる。

ここでの印象は気にしない。名前だけ言って座ってあとは料理を食べるのみ!

「い、飯田充です。よろしく…」

「っておい!名前だけの挨拶なら会ったときにしたんだから、もうちょいなんか言えよー」

茶武郎が茶々を入れてくる。

『茶武郎だけに』なんてつまらないことを考えた同士は正直に手をあげなさい。

…わかるぞ、その気持ち。

「じ、じゃあ…」

好きな食べ物でも言おうかと思ったそのとき――

「あ、好きな食べ物は俺が言っちゃったから別のやつね〜」

わけわかんねえルール付け足すんじゃねえ!こいつ、今日はやたらと堂々としてやがるな…慣れてんのか?合コンに。

「えっと、じゃあ…趣味は一応料理です」

ベターな趣味の話でいく。

夜食が主だが嘘は言っていない。

「えー!充くん料理できるんだ!普段何作ってるの?」

咄嗟に絞り出した答えに想像以上に食いつく向かいの女性。

金髪だし怖い人かなって思ったけど、近くで見ると無邪気な笑顔がよく似合う、いわゆる可愛い系だ。

会話は控えるつもりでいたが、雰囲気を維持しないことには食事も楽しめない。ここはしっかり質問に答えよう。

しかし、目を合わせられずうつむいてしまうのは元カノとのトラウマで女性がちょっと怖いからなので許してほしい。

「日によって違うけど、最後に作ったのはピザ…とか?」

「おぉ!!」

言って、恐る恐る視線を正面に向けると、向かいの女性の目の輝きが増してさらに表情が明るくなった。

どうやら興味を持ってくれたみたいだ。

が、それは決して嬉しいことではない。

相手が美人な上に、彼女を寝取られたトラウマで、話し続けたらいつかフリーズしてしまう自信がある。

茶武郎に向かって、視線で進行を促すよう合図を送る。違う、グーじゃない。どこもかしこもグーじゃない。

「食べてみたーい!」

目の前の金髪さん、やけに食いついてくるな。

嬉しいのだけれども……

「人に振る舞うようなものじゃないよ」

僕の自己紹介で進行を止めるわけにはいかないので、自嘲気味にそう答えてみる。

実際、僕の料理は人前に出すには少し拙い。

が、金髪さんの反応は一向に変わらず…

「食べてみないとわかんないって!来週、空いてる?」

「え?」

あまりの勢いについ困惑の声が漏れる。

流石に周りのメンツも若干困惑気味だ。

「待って待って!ツッキー?ちょっと早くない…?」

金髪さんの隣に座る友人さんもめっちゃ慌てている。

若月(わかつき)さん、まだ自己紹介なんだし、もう少し待とう?」

茶武郎もようやく余裕をなくした声になってそう言う。

…というか待てよ?これ、金髪さんが僕を露骨に狙ってないか?

いやいや、勘違いほど悲しいものはない。この前観たラブコメでもそう言ってた。

僕は正常を取り繕って、目の前の若月さん(?)の説得を試みる。


しかし…

「だってぇ!顔に()()()()()()()と思ったら料理もできちゃうんでしょ!?もう私、充くんと帰りたーい!」

この人、数十分ずっとこんな調子だ……

いきなり『狙ってます、持ち帰りたいです』なんて言われても、元カノとの件で疑心暗鬼になっている僕は実感が湧かない。

それに、顔と料理だけって…基準緩くない?

僕じゃなくていいよな、絶対。

「それって僕以外に適任いますよね!?」

思ったので口に出してみる。

すると、若月さんは唐突に黙り込んでしまう…

地雷でも踏んだか?

目の前の若月さんの情緒にソワソワしていると、突然向かいから啜り泣く声が聞こえてくる。

「グスン…ほんとに覚えてないんだぁぁぁ!」

ついに泣かせてしまった…もうこうなっては料理どころではない。

そして、覚えてないとはどういうことだろうか。会ったことがある人なのか…?

「えーっと…どこかでお会いしましたか?」

「やっぱり忘れてたんだ…私だよ!!幼稚園の頃の!」

幼稚園…?小学校ですら危ういぞ。

「充くん、私とずっと一緒に暮らすんだって、大人になったら結婚するって言ったじゃん!」

「充!?おま、それは忘れちゃいけないだろ!」

幼稚園だぞ、無理ゲーだろ。

心の中でツッコミつつも、脳内で一致する顔面を探す。

結婚の約束……っあ!――

「若月って……まさか沙也加(さやか)ちゃん!?」

したわ、プロポーズ。

「思い出してくれた!?」

「え!?ツッキー、あれマジだったの!?プロポーズしてきた子が合コンにいるって!」

隣の友人さんが慌ている。

「写真を茶武郎くんから見せられた時に、見たことある!ってなって思い出したの。それじゃ充くん、私のこと思い出したんだから、一緒に帰ってくれるよね?」

おっと、また唐突にものすごいことを言い出したぞ。

思わず片手で顔を抑えて俯く。思い出さない方が良かったか…

というか、そっちも写真見るまで忘れてたんかい。


僕は目の前の残ったビールを勢いよく飲み干すと、目の前の婚約者に向き直り、説得を続けた。



こんにちは、夜風なぎです。

次回こそ料理します!お楽しみに!

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