コラボ 深夜食堂しのぶ
この回は、おなじ小説家になろうユーザーである赤虎鉄馬さんとのコラボ作品です。
赤虎鉄馬さんのアカウントで絶賛連載中の代表作“孤独な深夜食堂『なんだかんだで、独り飯。』”の舞台となっている『深夜食堂しのぶ』に、本作の主人公である充がご飯を食べにくるお話になっています。
本作の読者様、赤虎さんの作品の読者様の両方に楽しんでいただける内容となっております。是非、ご覧になってみてください!
大学に入学してから、すでに三ヶ月が経過した。
どこからともなく吹き抜ける湿った夜風が少し温く、否応なしに夏を感じさせてくる。
周囲にはビルが立ち並び、昼間は妙な圧迫感に押しつぶされそうになっていたが、今の時刻はとっくに夜12時を回っていて、辺りはガヤガヤとにぎわっている。
街を行きかう人々の格好はスーツから奇抜なものまで多様であり、その光景は、水族館の大きな水槽を彷彿とさせる。
そしてにぎやかな街中を抜けると、それまでの賑わいが嘘だったかのように、静寂に包まれた空間が広がる。
僕はその一角にひっそりとたたずむ一軒の食堂を見つけた。
店の名前は『深夜食堂しのぶ』。
深夜のみの営業がウリらしく、店内からはまだ温かい光が溢れ出している。
入口にかけられたちょうちんも、いい味を出しているではないか……
よし、今日はここで遅めの晩飯にしよう。
そう決めて、僕は店の入り口をくぐった。
店に入ると、割烹着を着た綺麗な女性が一人立っていた。
女性は、高級料理店を思わせるような温かい語り口で、僕を席まで案内してくれた。
「暑くなってきたわね、どうぞこちらへ」
促されるままにカウンター席に座ると、厨房には堀の深い顔をしたイケオジが立っていた。
おそらくこの人が調理を担っているのだろう。
僕も将来、こんな歳の取り方をしたい……
そんなことを思っていると、女性の方から声をかけられた。
「うちは初めてよね?」
「あ、はい。」
素直に答えると、女性はゆっくりと頷いて言葉を続ける。
「うちはね、メニューにないものも出来るの。食べたいものがあれば言ってちょうだい」
なるほど……だったら!
「冷やし中華、いけますか?」
「マサさん?」
女性の呼びかけに対して、厨房の男性が初めて声を出す。
「あいよ」
あの人、マサさんっていうのか。
注文を終えて水を飲んでいると、カウンター越しにマサさんの手元が見える。
ちょうど、麺に具材を乗せるところだ。
そこから間もなくして、カウンターに冷やし中華が運ばれてきた。
艶やかな麺の上に並べられたカニカマ、せん切りしたきゅうりやハム、たまご焼きが映える。
麺つゆの波に店の電灯が反射して光る……
これぞ日本の夏の風物詩である。
その光景を前に、思わず僕は口を開く。
「実は……元恋人が、冷やし中華苦手で。付き合っている間、ずっと食べてなかったんです。気づいたら、存在すら忘れてて。」
マサさんはしきりに頷き、僕に話を黙って聞いてくれている。
割烹着の女性は、冷やし中華の側にそっと湯呑みを置き、優しい眼差しでこちらを見つめている。
確かに心が温まるのを感じながら、ほぐした麺とカニカマを一緒に口の中へ。
冷たいのに温かくて、どこか懐かしい味が口いっぱいに広がる……
幸せだ。
気づけば、視界がかすかに涙でにじんでいた。
「……旨い」
思わず溢れる感想。
「からし、効かせすぎたか?」
マサさんがぼそりとつぶやき、女性がやわらかく笑う。
「食事は笑顔の源よ。好きなものを好きな時に食べられなくなったら―― またここにおいで。」
と、女性は優しい笑顔を崩さずに言った。
「ご馳走様でした。」
冷やし中華を食べ終えた僕は、女性に伝票を出しながらそう告げた。
「また独りでご飯を食べたくなったら、いつでもおいで」
そうしてニコニコと話す女性の背後、柔らかい眼差しを向けるマサさん。
本当に、温かい店だ……
「ありがとうございます。ええと…」
お礼を言おうとして、女性の名前を知らないことに気づく。
言葉に詰まる僕を見て、女性は子供に語りかけるような口調でこう言った。
「忍よ。いつでも待っていますね。」
「ありがとうございます!忍さん!」
そう言い残して店を出た僕の気分は、店に入る前に比べて幾分か晴れたように思う。
心なしか、吹き付ける風も少しだけ涼しく感じられた。
夏の香りは含んでいるけど、夏らしくない夜風の向こうに、まだ知らない季節が待っている。
ふと、そんな予感がした――
今回のコラボ相手、赤虎鉄馬さんのアカウントにも、私とのコラボ回がアップロードされていますので、是非とも併せてご確認ください!
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