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第12話 続け。

時刻は大体二十一時くらい。


ダイニングに設置されたテレビは、バラエティの放送が終わってドラマが始まる所だ。


「そろそろお暇しようかな」


言って、沙也加さんが席から立ち上がる。


「じゃあ送るよ。」


言って、僕も椅子から立ち上がる。


「ありがと。美月ちゃん、急にお邪魔しちゃってごめんね。」


「いえいえ、とっても楽しかったです!」


二人とも、出会いは最悪でも仲良くなってくれたみたいで本当に良かった。



玄関を発った僕たちの間には、しばらく沈黙が続いていた。


しかし、ちょうどマンションから出たところで、その沈黙は沙也加さんの方から破られた。


「ねえ、充くん……」


「どうしたの?」


一度立ち止まって、沙也加さんの方に向き直る。


「ぅな!?」


振り向いた先には、顔がぶつかりそうなほどに接近していた沙也加さん。


「びっくりした……」


「あ、ごめん!」


相手の方も予想外な状況だったようで、少し慌てていらっしゃる。


「それで、どうしたの?」


「へ?」


「いや、話したいことがあるんじゃないの?」


「……あ、そうです!そうなの!」


なんでため口に言い直したんだ。


と、相手は改まったようにこちらに向き直り……


「呼び方、変えない?」


「……え?」


「え?じゃないよ!名前の呼び方だよ!」


なるほど。言っている意味は分かった。


しかし、その意図は測りかねる。


「今のままじゃダメなの?」


「ダメ!」


えぇ……


もしかして、下の名前は気持ち悪いからやめてくださいとか、そういう話か…?


「わかった。今度からは若月さんと呼ぶね」


「ふざけてるの!?」


どうやら違ったみたいだ。


乙女の考えることは本当によくわからない……


「じゃあ、何て呼べばいいの?」


「そうだなー、下の名前を呼び捨ててほしいかなぁ」


それはハードルか高くないか!?


そもそも、妹以外の異性を呼び捨てで呼んだ経験などない僕。


元カノだってちゃん付けをしていたというのに……


いや待てよ?


ちゃん付けもかなりハードルが高い…

というか、こちらの方が圧倒的にハードルは上だし、なんだか響きもよろしくない気がしてきた……


どうしようかと迷っていると、唐突に耳に温かい空気が触れた。


かと思えば、聞きなれた声が耳元でこう囁いた。


「そんなに難しい?私はできるよ、充。」


あまりにも突然だったので、思わず体がビクッとはねる。


「あははー」


耳を抑えていると、隣から愉快な笑い声が聞こえてきた。


今日はやけに心臓に悪いことばかり起こるな……


僕を驚かせた張本人は、上目遣いでこちらを除いてくる。


羞恥で顔が熱くなっているので、きっと今頃僕の顔はひどく赤面していることだろう。


正直あまり見ないでほしい……


「まぁいいや、充は慣れたらでいいよ。私は今日から呼んじゃうけどねー」


有無を言わさず呼び捨てを決定してくる沙也加…さんに、僕は返事をするほかなかった。


「はい……」


今日は妹の存在のおかげで、いつもよりおしとやかな雰囲気をまとっていたから忘れていた。


――本来は、沙也加さんはこういう人だ。


でも、一緒にいるとなぜだか胸の奥が温まるような感覚になる。


こういう時間が、いつまでも続いてほしいと思うほどには。


「早く呼べるようになってね。待ってるから。」


「……努力します」


「美月ちゃんだけ呼び捨てなんて嫌だもんね…」


沙也加さんが小声で何かをつぶやく声が聞こえた。


「今何か言った?」


「ううん、何でもない!」


しかし、どうやらそれは聞き間違いだったらしい。


そのあとはあっという間で、気づけば駅前で人混みに消えゆく沙也加さんの後姿を眺めていた。




沙也加さんを駅まで送った後の帰り道。


頬の熱を冷ますように、乾いた風がそっと吹き抜けた。


先ほどまでの体温とは打って変わって、つま先から耳まで完全に冷え切っている。


口から放たれた息が、心なしか白く色づいても見えた。


もうすぐ、冬が来る。



お読みいただきありがとうございました。


良かったら、ブクマ、評価などよろしくお願いします。

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