第11話 本格派唐揚げ
10話で完結させたかった内容ですが、書ききれずに11話を作りました。
お楽しみいただければ幸いです。
今日作る唐揚げは、下ごしらえが必須だ。
と言っても、昆布を水につけて二時間置くだけなんだけど……
地味だが、本格派を目指すにはこれくらいの手間は惜しめないのだ。
僕は昆布を水に浸し、キッチンを後にした。
その後、僕は読書に没頭していた。
「寒いな……」
ふと、そう思ったのは、本を読み始めて三十分くらい経った頃。
「まだ沸いていないけどいいか」
今夜は今年度で一番の冷え込みらしい。
暖房はまだ掃除していなく、つけることに抵抗を覚えたので、先にお風呂をいただくことにした。
風呂に行くために自室を出ると、スマホを見ている沙也加さんとテーブルに突っ伏している美月がいた。
……何やってんだこいつ。
「沙也加さん、僕ちょっとお風呂行ってくるね」
「いってらっしゃーい」
沙也加さんにそう告げて、僕はリビングダイニングを後にした。
お風呂から出ると、ダイニングに置き去りにしてしまった二人の話し声が聞こえてくる。
笑い声も聞こえてくるし、仲良くなっているようでお兄ちゃんは一安心です。
―美月視点―
どうしましょう。この人、欠点がないかもです。
ギャルっぽい見た目とは裏腹に、話し方も仕草も、正統派ヒロインって感じで困っています。
こんな人がお兄ちゃんの近くにいたら、あの人はチョロいので、すぐ恋に落ちちゃいます。
両想いになって交際なんて始められちゃったらもっと困ります。
だから、私はここで、この人の気持ちを確認しようと思いました。
「あ、あの…沙也加さんは、兄のことが好きなんですか?」
「え?」
「だって、そうじゃないと、わざわざおうちに来てご飯を食べたいなんて…普通だったら言わないかなって。」
「……そうだよね。”普通”だったら言わないかもね。」
私の言葉を肯定した沙也加さんの声は、なんだか寂しそうです。
そのあと、少しの間だけ空間が静かになりました。
その沈黙を破ったのは、沙也加さんでした。
「好きだよ。とっても。それに、充くんも多分なんとなく気づいてる。でもね、私が充くんとご飯が食べたいのは、それだけが理由じゃないの。」
「それってどういう…?」
「まだ充くんにも話していないんだけど……私の話、聞いてくれる?」
私は、その言葉に、声を出さずに頷きました。
お兄ちゃんがお風呂に行ってから三十分後、私たちは結構仲良くなりました。
主に、『お兄ちゃんの好きなところ』で話が盛り上がりました。
多分、この人だったらお兄ちゃんを任せても安全です。
というか、私は今日から沙也加さんを応援します。
二人はもっと、いちゃいちゃした方がいいです。
そして、この人は、ただの正統派ヒロインなんかじゃなかったみたいです。
―充視点―
風呂を出た僕は、リビングダイニングと、それに直結する廊下とを遮っているドアを開いた。
途端に笑い声はぴたりと止み、二人の視線が一気にこちらに集まる。
沙也加さんは耳がちょっと赤いけど大丈夫なのだろうか。
いかん。それはいったん置いておいて、飯の準備に取り掛かろう。
僕はキッチンに立ち、もろもろの食材を用意した。
さて、始めようか。
まず、昆布を付けておいた水をそのまま鍋に移して火にかけ、沸騰させる。
次に、鰹節を加えてさらに加熱して、適当な器にこす。
これが出汁になる。
出汁の準備が整ったら、肉の準備だ。
もも肉を一口大以上に切り分けてボールに入れ、おろししょうが、にんにく、酒、濃い口醤油、薄口醤油を加え、軽く揉んで五分おく。
一口大に切り分けるのは、揚げた際に縮まらないようにするためだ。
肉の下処理が終わったら、広めのバットに片栗粉を用意。
油を百七十度まで熱したら、出汁と肉を合わせて、また軽く揉む。
ここまで来たら、ようやく片栗粉を肉にまぶして油にダイブ!
二分経ったらいったん油から肉を取り出し、百八十度で再びダイブ!
お好きなタイミングで引き揚げてお皿に盛り付ければ……
飲食店レベルの本格派唐揚げの完成だ!!
唐揚げを載せた皿を三人で囲んでの夕食。
二人はなぜだか異常に仲良くなっていて、僕の居場所がすでにない……
とりあえず、今は食べることに集中しよう。
皿からご飯を持った茶碗に唐揚げを映し、一口かじる。
「っ!!」
カリッとした衣に閉じ込められた肉汁が一気に口に広がり、しっかり出汁で下味をつけたおかげでカツオの香りもふわりと広がって美味い!
そして…
しっかり味が付いた唐揚げを、甘みの強い品種のお米で包み込む。
あぁ、至福だ……
僕の箸はもう、止まることを知らな――
あれ。いま、狙っていた唐揚げが一瞬で視界から消えたな。
ふと横に目をやると、沙也加さんが唐揚げを一口で平らげるところだった。
大きめに作ったのにさすがだな…
もはや感心している僕の傍ら、妹は驚愕の目で沙也加さんを見ている。
わかるぞ、その気持ち。
「うっまぁ!!」
毎度の如く、沙也加さんの屈託のない食レポを頂戴したところで、温かい気持ちになった僕は唐揚げの続きを口に放り込む。
やはり、かなり美味しく出来上がっている。
「お兄ちゃん、こんなに料理上手だったっけ?」
「最近作るようになってさ。」
「深夜に、でしょ?」
「な!?」
「さっき沙也加さんに聞いたよ~」
そういうことかっ!
「ごめんね充くん、内緒なの知らなくて」
言ってほほ笑む沙也加さんは、いつもよりも満たされた顔をしている。
美月と仲良くなったことが関係しているのか…?
兎にも角にも、妹と仲良くなってくれて、お兄ちゃんはうれしいです。
「充くん……誰かと囲む食卓って、なんかいいね!」
「だね。」
沙也加さんの言う通り、二人以上での食事の和気あいあいとした雰囲気も僕は好きだ。
そして何より、自分の作った料理を人が食べて笑顔になるこの光景がクセになっていた。
次は、何を作ろうか。
読んでくれてありがとうございます!
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次回もお楽しみに!




