第7話 後編 愛もしゃぶしゃぶも紙一重
内容が予定していた構成から大幅にずれたので、タイトルを変更しました。
それに伴い、前回の「第7話 前編 デート一軒と半分目」というタイトルも、「第7話 前編 ここはどう?」に変更します。ご了承ください。
「お待たせしましたー!」
店員さんの生き生きとして声に、沙也加さんのバイト先の想像が打ち切られた。
店員さんは、コンロのつまみをひねって点火しし、二人分の小皿を卓上に設置した。
「この出汁が沸騰してから具材を入れてください!では、失礼します。」
言って、店員さんが厨房へ戻る。
そして、そこから大して時間もたたないうちに、同じ人が皿を手にやってきた。
店員さんが手にするは、魚介や野菜を中心にしたセット。
「ここにお願いします」
言って、僕は手を挙げる。
そう、このセットは僕専用として注文した、魚介と野菜の並盛セットである。
一軒目ですでに満腹になってしまった僕のために用意されたかのようなメニューだ。
届けられた皿の上には、数種類の魚の切り身。
そして、白菜や長ネギといった葉物野菜やキノコ類の姿も見られる。
なんというか、胃にやさしそうだ。
申し訳程度に豚肉が乗っているので、これは沙也加さんに献上するとしよう。
っと、もう出汁がぐつぐつしてきた。
まずは野菜を少し入れると、出汁にうまみが溶け込むらしい――。
「充くんてさ、」
早速実践しようとする僕に、沙也加さんがぽつりと言い放つ。
続きを待つ僕の目を見て、一度閉じた沙也加さんの口が再び開く。
「食べ物を前にすると、周りからの情報はシャットアウトされちゃうの?」
「え……」
唐突に放たれた言葉に、思わず困惑の声を漏らしてしまった。
その傍ら、さらに沙也加さんがボソッと付け加える。
「一軒目の定食屋さんでも、私が二回くらい話しかけてもスルーだったし……」
そうなのか……?
いや、確かに言われてみればそんな気もしなくもない…
「ごめん!そんなつもりはなかったんだけど!」
流石に居たたまれない気持ちになって謝る。
が、恐る恐る顔を上げた僕の視界に映ったのは、想像を裏切る光景だった。
「ぷっはは!」
めっちゃ笑ってる。
え、どの辺がツボったの…?
「あれ、もしかしてそんなに気にしてない?」
「そんなわけないじゃん!反省してください。」
「あ、はい。」
急に落ち着いた…と思ったらまたにこにこしている。
どっちなんだろう。
と、困惑が表情に出すぎたのか、急に沙也加さんが呆れた顔で見つめてくる。
「充くんがそんな人じゃないってわかってるから、大丈夫。」
「そんな人って?」
「私のことを、わざと無視するような人」
少し寂しそうに僕の問いかけにこたえる沙也加さんの視線は、斜め上を見ている。
その視線の先には、この店の天井。
しかし僕には、沙也加さんは天井なんかよりもずっと遠くを見ているような気がした。
そのわびしい横顔は、まだ知らない沙也加さんの内側を見ているようで、不思議な感覚だった。
「さ、お話はこのあたりにして…食べよっか」
いつもと違う沙也加さんが見られたのは、時間にして数秒ほど。
すぐに沙也加さんが、この場を仕切りなおした。
笑顔に戻った沙也加さんは、パンっと手を合わせると、僕の皿に乗った豚肉をかっさらっていく。
「あの、沙也加さん?それ、僕のなんだけど」
「え?私にくれる予定じゃなかったの?」
「もしかして、心の声出てた?」
「あれ、やっぱりくれる予定だったんだ」
「なんでわかったの?」
僕が問いかけると、沙也加さんは少し間を置き、いたずらに微笑み――
「愛の力かな」
幾度となく耳にしてきたありきたりなセリフ……
が、これが僕にとっては、妙に説得力のある言葉に感じた。
理由はまだわからない。
きっと、その答えを出すには、もう少しばかり時間が必要なのだと思った。
赤い肉が出汁と出会って美味しくなるように、僕らもまた、これからもっといい関係になっていくのかもしれない。
その関係性は、必ずしも恋人とも限らない。
けど、これが良い関係と呼べるものになったのなら、妙な説得力の意味も自然とわかる、そんな気がした。
…と、ここまでさんざん物思いに更けていたが、未来のことなんて想像のつかないものの連続だ。
だからあえて言わせていただこう――
確かに未来は気になるが、そんなことより飯を食おう。
こんにちは、夜風なぎです。
まずは、ここまで読んでいただき、誠にありがとうございます!
第7話も、私生活の用事が立て込んでいた影響で、二本立てでお送りさせていただきました。
第8話では、充がようやくしゃぶしゃぶを食べます!お楽しみに!
それと、一つ告知します。
この度、12月25日に、クリスマスを題材にした短編をアップします。
既存の二作とは異なった作品ですので、ぜひ読んでいただけると嬉しいです。
なぜそんなことをするのか……
答えは決まっています。24日が暇だからです。
というわけで、非リアなりに聖なる夜を存分に楽しめる作品を書きあげたいと思うので、同士は25日になろうに集合じゃ~!
また、それに伴って、本作の第8話の投稿は12月28日を予定していますのでご了承ください。
では、25日にまたお会いしましょう!さよなら!




