第9話 庭にヘリが降りてきて、国から「日本を救ってくれ」と頼まれました
本日4話更新の1話目です。(07時・12時・17時・21時)
ババババババッ!!
爆音と共に、俺の城の広い庭に、一機のヘリコプターが着陸した。
強烈なダウンバーストで植木が揺れる。
「きゃあっ! 主様、怖いですぅ……」
「大丈夫だ、スズ。俺の後ろにいろ」
怯えるスズを背に庇いながら睨みつけると、ヘリから数人のスーツ姿の男たちが降りてきた。
最後に降りてきたのは、キリッとした眼鏡の美女。
ドラマで見るような「キャリアウーマン」という言葉が服を着て歩いているような女性だ。
彼女は俺の前に立つと、警察手帳のような身分証を提示した。
「突然失礼いたします。内閣府・特務災害対策室の西園寺と申します」
「……内閣府? 国の人間が何の用ですか」
「佐藤健太様ですね。単刀直入に申し上げます。――あなたの『力』を、国にお貸しいただきたいのです」
西園寺さんは、深く頭を下げた。
周囲のSPらしき男たちも一斉に頭を下げる。
「国を……貸す?」
「はい。現在、ある場所で大規模な『化学汚染事故』が発生しています。既存の科学技術では除去に数十年かかり、周辺都市への被害は甚大です」
彼女はタブレット端末を取り出し、真っ黒に汚染された海と、枯れ果てた森林の映像を見せた。
タンカー事故による重油流出と、劇薬の混合……らしい。
「ですが、あなたの『一瞬で物質を消滅させる動画』を拝見しました。あれがトリックでないなら……日本を救えるのは貴方しかいません」
彼女の目は真剣だった。
国が動くほどの災害。それを俺なら一瞬で消せる。
「……分かりました。協力します」
「本当ですか!?」
「ただし、条件があります」
俺は指を三本立てた。
「一つ。俺の正体や能力は、世間には『最新科学技術』として公表し、個人情報は隠すこと」
「承知しました。国家機密として最高レベルで保護します」
「二つ。この件が終わったら、今後俺の生活には一切干渉しないこと。税務調査とかもナシで」
「……超法規的措置として、総理の決裁を取り付けます。生涯の『免税特権』をお約束しましょう」
「三つ。報酬は、その災害対策予算の全額をください」
西園寺さんがゴクリと喉を鳴らした。
だが、彼女はすぐに決断した。
「……いいでしょう。予算規模は二十億円です。成功報酬としてお支払いします」
二十億。
サラリーマン時代の生涯年数の、何回分だ?
もはや計算もできない。
「商談成立ですね。じゃあ、行きましょうか」
俺はヘリに乗り込んだ。
スズは「お留守番してます!」と手を振ってくれた。
◆
現場は地獄絵図だった。
真っ黒なヘドロが海岸を埋め尽くし、異臭で防護服なしでは息もできない。
自衛隊員たちが必死に作業しているが、全く追いついていない。
「……酷いな」
「佐藤様、お願いします。ここからなら全体が見渡せます」
上空のヘリから、俺は汚染エリア全体を見下ろした。
範囲は広い。だが、今の俺のレベルなら届く。
俺は右手を眼下の海に向けた。
イメージするのは、汚染物質だけの完全消去。美しい海の再生。
「――【クリーン】、マキシマム!」
カッ!!!!
それは、太陽が地上に降りたかのような閃光だった。
光が海を、森を、空気を撫でていく。
一瞬の静寂の後。
そこには、南国のリゾート地のように透き通ったエメラルドグリーンの海が広がっていた。
「な……っ!?」
ヘリの中が凍りついた。
西園寺さんは、口を開けたまま眼下の光景を凝視している。
計器を確認していたパイロットが叫んだ。
「汚染数値、ゼロです! 有害物質、完全に消滅しました!」
「ありえない……本当に、魔法……」
西園寺さんが、震える目で見つめてくる。
俺は肩をすくめて見せた。
「言ったでしょう? 掃除だって」
こうして俺は、たった五分で二十億円を稼ぎ出し、ついでに日本政府という最強のバック盾を手に入れたのだった。
(続く)
ついに国家公認へ!
報酬20億円&免税特権ゲットです。
これでもう、怖いものは何もありません。
次回、久しぶりに「あのアイドル」から連絡が……?




