第12話 ダンジョンの魔物肉を【クリーン】したら、最高級フレンチの味になりました
本日4話更新の4話目です。(07時・12時・17時・21時)
夕食の時間。
リビングのテーブルには、見たことのない巨大な肉塊が鎮座していた。
昼間に庭のダンジョンから出てきた『ビッグボア(巨大イノシシ)』のロース肉だ。
「……ねえ佐藤さん。本当にこれ食べるの? 魔物のお肉よ?」
遊びに来ていたアイリさんが、不安そうに肉をつついた。
確かに、普通のジビエ(野生肉)なら、血抜きや臭み取りに何日もかかる。魔物の肉なら尚更、独特の獣臭さがあるはずだ。
だが、俺には【クリーン】がある。
「大丈夫です。見ててください。――【クリーン】!」
俺が指先をかざすと、肉塊からドス黒い血や、余分な脂、筋、そして獣臭さの原因となる成分が、光の粒子となって分離・消滅した。
後に残ったのは、美しいサシが入った、ルビーのように輝く赤身肉。
「うわぁっ! お肉が輝いてる!?」
「悪い成分だけを『汚れ』として除去しました。これなら生でもいけるレベルですよ」
俺はそれを厚切りにし、スズに渡した。
今日のエプロン姿のスズは気合が入っている。
「お任せください主様。ダンジョンで採れた『マタタビダケ』のソースを添えて、ステーキにします」
「毒キノコじゃないのそれ!?」
「毒素は主様が【クリーン】で抜いてくれたので、ただの旨味の塊です」
ジュウウウゥゥッ!!
熱したフライパンに肉を乗せた瞬間、食欲を刺激する香ばしい匂いが部屋中に爆発した。
脂の焼ける甘い香り。キノコソースの芳醇な香り。
アイリさんがゴクリと喉を鳴らした。
「はい、どうぞ」
目の前に置かれたのは、ミディアムレアに焼かれた極上のステーキ。
俺たちはナイフを入れた。
抵抗がない。豆腐のようにスッと切れる。
一口食べる。
「――――ッ!!」
言葉が出なかった。
噛んだ瞬間、肉汁がジュワッと溢れ出し、濃厚な旨味が舌の上で踊り出す。
臭みはゼロ。脂っこさもない。ただただ、純粋な「肉の暴力」だ。
「ん〜〜〜っ!! おいし〜〜〜いっ!!」
アイリさんが頬を押さえて悶絶している。
「なにこれ!? A5ランクの和牛より柔らかい! それにこのソース、トリュフより香りがいいじゃない!」
「ビッグボアの肉は、魔力を多く含んでいるので美容にも良いそうです」
「えっ、最高じゃない! おかわり!」
トップアイドルが、なりふり構わず肉にかぶりついている。
スズも、小さなお口でモグモグと幸せそうだ。
「主様、このダンジョンは素晴らしい『冷蔵庫』ですね」
「ああ、全くだ」
野菜(家庭菜園)は魔法ですぐ育つ。
肉とキノコはダンジョンから湧いてくる。
しかも【クリーン】で最高級食材に早変わり。
俺たちの食卓は、いつの間にか王族よりも豪華になっていた。
「……あ、でも食べすぎちゃった。明日撮影なのに、太っちゃうかも」
食後、アイリさんがぽっこりしたお腹をさすって青ざめている。
俺は苦笑しながら言った。
「大丈夫ですよ。脂肪も『汚れ』と見なせば……」
「えっ? まさか」
「――【クリーン】」
シュワッ。
俺が魔法をかけると、アイリさんの腹部から過剰なカロリーが消滅し、一瞬で元のスリムなウエストに戻った。
「……一生ついていきます、佐藤様!!」
アイリさんの目が、信仰に近い輝きを帯び始めた。
どうやら俺は、全女性の夢(いくら食べても太らない体)さえも叶えてしまったらしい。
(続く)
ダンジョン飯、堪能しました。
「カロリー=汚れ」と見なす主人公の暴論(笑)ですが、女性陣には大好評のようです。
次回、このダンジョン素材を使って、ついに「商品開発」を始めます!




