第11話 庭で家庭菜園を作ろうとしたら、うっかり「ダンジョン」を掘り当ててしまいました
本日4話更新の3話目です。(07時・12時・17時・21時)
平和な午後。俺は庭で鍬を振るっていた。
広い庭があるなら、家庭菜園でもやろうと思ったのだ。
スズは縁側で麦茶を用意して応援してくれている。
「よいしょっと。……ん?」
トマトの苗を植えようと穴を掘っていると、カキンッ、と硬い音がした。
石か?
さらに掘り進めると、土の下から奇妙な「空洞」が現れた。
直径一メートルほどの、真っ暗な穴だ。そこから、ひんやりとした冷気と、異様な気配が漂ってくる。
「なんだこれ。井戸の跡か?」
俺が穴を覗き込んだ、その瞬間だった。
ビチャッ!
穴の奥から、青色のゼリー状の物体が飛び出してきた。
バスケットボールくらいの大きさだ。それがプルプルと震えながら、俺の足元にまとわりついてくる。
「うわっ、なんだこれ! スライム!?」
ファンタジー映画で見たことがある。間違いなくスライムだ。
スズが血相を変えて飛び出してきた。
「主様、下がってください! それは魔物です! この家の地下に『魔力だまり』があって、そこからダンジョンが発生してしまったようです!」
「ダ、ダンジョン!?」
まさかの自宅ダンジョン化。
スライムは俺の長靴を溶かそうとしているのか、ジュウジュウと音を立てている。
ヤバい。服が汚れる。
「ええい、離れろ! ……【クリーン】!」
俺は咄嗟に、いつもの魔法を放った。
対象は「俺の足元の異物」。
シュウウッ……。
スライムは光に包まれると、悲鳴をあげる間もなく蒸発した。
あれ? 一瞬だ。
「……よ、汚れとして認識されたのか?」
スライムがいた場所には、キラキラと輝く「青い宝石」と、プルプルした「透明なゼリー」だけが残されていた。
「ああっ! 主様、それは『魔石』と『高級スライムゼリー』です!」
「ゼリー?」
「はい! そのゼリーは、市場に出せば『最高級の美容液』の原料になる貴重な素材です! 魔石はエネルギー源になります!」
美容液。
俺はピンときた。これ、アイリさんが喉から手が出るほど欲しがるやつじゃないか?
俺は穴の奥を覗き込んだ。
奥からは、さらにウジャウジャとスライムや、薄汚れた小鬼のような気配がする。
普通なら恐怖する場面だ。
自衛隊を呼ぶべきかもしれない。
でも、今の俺にはこれが「宝の山」に見えた。
「……スズ。この穴、塞がずに置いておこう」
「えっ? でも危ないですよ?」
「大丈夫。ここから出てくる『汚れ(魔物)』を定期的に【クリーン】すれば、無限に素材が手に入るってことだろ?」
俺はニヤリと笑った。
家庭菜園どころじゃない。
自宅の庭に、勝手に金銀財宝(素材)が湧き出る「養殖場」ができてしまったのだ。
「よし、ついでに中も掃除してくるか。――【クリーン】、ワイドレンジ!」
俺は穴に向かって、広範囲の洗浄魔法を放った。
穴の奥から、魔物たちの断末魔……ではなく、シュワシュワという浄化音が響いてくる。
数分後。
俺の目の前には、山のような魔石と、大量のドロップアイテムが積み上がっていた。
「……これ、また資産が増えちゃうな」
俺は額の汗を拭った。
とりあえず、今夜のおかずはこのダンジョンで採れた「キノコ(食用)」で鍋にしよう。
(続く)
庭からダンジョンが出ました。
普通なら大ピンチですが、主人公にかかれば「素材の養殖場」です。
スライム=汚れ。この理論で無双します!
次回、ダンジョン食材で絶品料理を作ります!




