表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
琉球リバース/Ryukyu Rebirth   “声は消えない”  作者: 南蛇井


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

9/27

秘密の会話 ― 「裏の資金」

深夜一時を回った黎明拠点の通信室。

廃倉庫の奥にある小さな部屋は、蛍光灯の断続的な点滅に包まれていた。

白く青ざめた光が天井をかすめ、壁に貼られた古びた地図とコード表を不規則に照らす。


玲奈は机に向かい、ノートパソコンの画面を見つめていた。

その顔には疲労の色が差し、

けれど瞳の奥は、張り詰めた糸のように冴えている。


キーを叩く音だけが、静まり返った空間に乾いたリズムで響いていた。

倉庫の外では、潮風が鉄板を鳴らし、時折、遠くの警笛が短く響く。


彼女の指先がスクロールを止めた。

画面には、整然と並ぶ数字の列。

資金提供元――「琉球地域支援連合」。


玲奈は小さく息を吐き、肩をほぐす。

だが、次の瞬間。

画面の隅に現れた、ひとつの異質なラベルが彼女の目を止めた。


入金経路:黒潮会(Kuroshio-kai)


その単語を見た瞬間、

空気がひとつ冷たくなったように感じた。


玲奈は無意識に唇を噛み、画面を拡大する。

数字の羅列。口座ID。送金履歴。

表向きの「地域支援連合」を経由しながら、

裏で別の口座――黒潮会の名義を経て、黎明の資金口座へ流れ込んでいる。


玲奈(心の声)

「黒潮会……? どうして、民間の反社ルートがここに?」


彼女の指先がわずかに震えた。

画面に映る数字が、波のように流れ、また止まる。

その光が玲奈の頬を淡く照らし、

まるで水面に反射する炎のように揺れていた。


玲奈は、眉間に皺を寄せ、さらにデータの奥へと潜っていく。

スクロールバーがゆっくりと降りていくたび、

心臓の鼓動が重く響く。


彼女の中で、

“何かがずれている”という予感が形を持ちはじめていた。


外の風がひときわ強く吹き抜け、

壁の薄い鉄板が軋む。

蛍光灯がまた一度、ちらついた。


玲奈は手を止めた。

胸の奥に、じわりと冷たいものが広がっていく。


(心の声)

「この金、どこから来てるの……?」


モニターの明滅が、

彼女の瞳の奥に、まるで“燃え残る理想”のような光を宿した。


だが――

その光は次第に、疑念の色に染まり始めていた。


蛍光灯がまた一度、かすかに点滅した。

玲奈の指が、マウスの上で止まる。


その瞬間――

外から、金属を踏むような低い音が響いた。


コツ、コツ……。

足音。


玲奈は咄嗟にノートパソコンの画面を閉じた。

暗転したモニターに、彼女自身の瞳が一瞬だけ映る。

その表情は、光を失ったように硬い。


息を殺し、耳を澄ます。

外廊下を靴音がゆっくりと通り過ぎていく。

扉一枚を隔てた向こう側――

低い男の声が混じった。


伊波(小声)

「……遅かったな。」


玲奈は背筋を硬直させた。

喉の奥で鼓動が鳴る。


静かに立ち上がり、ドアの隙間へと近づく。

わずかな開口部から、外の暗闇を覗く。


倉庫の裏手、港灯の赤い光が濡れた鉄骨に反射している。

その光の中に、伊波の姿――

腕を組み、無表情で誰かと向き合っている。


その前に立つのは、黒いスーツの男たち。

影のように動かず、ただ冷たい笑みを浮かべていた。

靴の先が潮風に光る。


アタッシュケースが差し出される。

金属の留め具が、カチリと鳴った。

その音が、夜気の中で異様に鋭く響く。


黒服の男

「議長も期待している。――“黎明”には、予定どおり動いてもらわないと。」


伊波

「……東恩納の野郎が、まだ“独立”なんて言葉を信じてるとはな。」


その名が聞こえた瞬間、

玲奈の視界がわずかに歪んだ。


――東恩納。

琉球評議会の議長。

この島の「国家」を象徴する男。

黎明が最も敵視してきた、支配の象徴。


どうして、その名が伊波の口から出る?

なぜ、その“敵”から金が流れてくる?


玲奈の呼吸が浅くなる。

心臓が、胸の奥で冷たく鳴る。


(心の声)

「……私たちは、誰のために戦ってるの?」


風が倉庫の隙間を抜け、薄い鉄板を鳴らす。

港灯の赤が波打つたびに、

黒服の男たちの影が、海の底のように揺れた。


玲奈はドアからそっと離れ、背中を壁につける。

足が震えている。

信じてきた“理想”の形が、

今まさに音を立てて崩れていくのを感じた。


モニターの反射光が、閉じられたノートパソコンの隙間から漏れ、

彼女の頬を淡く照らす。


その光は――

まるで、燃え尽きる直前の理想の残り火のようだった。

玲奈は背中を壁に預けた。

冷えた鉄板が背骨に触れ、震えが全身に広がる。

息が浅い。

吸っても、吐いても、空気が喉の奥で止まるようだった。


耳の奥で、自分の鼓動が波のように鳴っている。

ドクン、ドクン――

まるで、心臓が「逃げろ」と訴えているようだった。


目を閉じても、さっきの声が離れない。

伊波の低い声。

黒服の男の冷たい笑み。

「議長も期待している」という言葉。


そのひとつひとつが、頭の奥で反響し、

思考を鋭い針のように突き刺してくる。


玲奈(独白)

「……私たちは、国家に利用されてる?」


口の中が乾く。

舌が重く、言葉が喉の奥で沈んでいく。


壁際に膝をつき、ノートパソコンを見つめた。

再び立ち上がった画面には、

“黒潮会”という文字列が、青白い光の中で点滅している。


その文字が――赤く見えた。

錯覚か、それとも警告灯の反射か。

玲奈の瞳に、その赤がゆらりと滲む。


そして気づく。

それは、かつて自分が信じた“理想”の炎に似ていた。


あの夜、初めて黎明に加わったときの情熱。

「島を変える」という純粋な光。

それが今、ゆっくりと――

彼女自身を焼いている。


玲奈(心の声)

「もしこの炎が、嘘を照らすためのものだったら……

どうして私は、まだ消せないんだろう。」


指先が震える。

画面を閉じることも、逃げることもできない。


蛍光灯が一度、バチッと音を立てて弾けた。

光が一瞬、部屋を白く染める。


その中で、玲奈の顔だけが――

まるで何かを悟ったように、静かに固まっていた。


遠く、港の警笛が鳴る。

その音が、理想の終焉を告げる合図のように響いた。

玲奈の指先が、机の角をぎゅっと掴んだ。

爪の先が白くなるほど力を込めているのに、

その震えは止まらない。


蛍光灯がまた一度、音を立てて明滅した。

青白い光が点滅するたび、

画面に映る数値の列が鼓動のように脈を打つ。


――ドクン、ドクン。

光が速くなる。呼吸も、それに合わせて浅くなる。


玲奈は唇を噛んだ。

血の味がした。

その痛みだけが、今の自分を現実に繋ぎ止めている。


玲奈モノローグ

「この島の未来を変えるために信じてきたもの。

それが――最初から、誰かの道具だったとしたら……?」


胸の奥で、何かが軋んだ。

それは音にもならない、魂の悲鳴。


信じてきたものが、崩れていく。

けれど、その瓦礫の中で、まだ光を探している自分がいる。

そのことが――何より苦しかった。


玲奈は静かに息を吸い、

目を閉じて、モニターの電源を落とす。


パチン。

音がして、部屋が闇に沈んだ。


青白い光が消え、残ったのは、

窓の外からかすかに届く波の音だけ。


寄せては返す、静かな潮騒。

まるで玲奈の胸の奥で、まだ燃え残る理想の“残響”が

息をしているかのようだった。


彼女は暗闇の中で、

その音をただ、聞いていた。


闇が、優しく、そして残酷に彼女を包み込む。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ