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琉球リバース/Ryukyu Rebirth   “声は消えない”  作者: 南蛇井


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26/27

「声なき革命」

黎明の海辺には、まだ夜の名残が漂っていた。

空は淡い青に滲み、波打ち際に白い光がひそやかに差し始めている。


午前五時十四分。

風は止み、空気は澄みきっていた。潮の匂いは静かに、まるで世界が深く息を吸い込んでいるようだ。


崖下の浜辺に、大悟がひとり立っている。

背後には、崩壊した通信塔――かつて黎明作戦の中枢だった鉄骨の残骸が黒い影を落としていた。

だが、その残骸さえも今は穏やかに沈黙している。


波は一定のリズムで砂を洗い、

その音はまるで心臓の鼓動のように、静かに大悟の足元を包み込んだ。


ロングショットの構図。

水平線のかなた、わずかに覗く朝日が彼の背中を照らす。

風が彼のコートを揺らし、その布の端が小さく波と呼応する。


彼はただ、海を見つめていた。

何かを見送るように、何かを迎えるように。


その横顔を照らす光は、

夜明けの色と、かつて彼が追い続けた青い残光――

《BlueLagoon》の記憶を、そっと重ねていた。


大悟は、ゆっくりと息を吐いた。

その吐息が白くもならないほど、空気はもうやわらかく温んでいる。


海面を渡る風が、彼の髪を静かに揺らした。

遠くで波が砕ける音が、心の奥に響く。


「――真実は、誰のものでもない。」


彼の声は、潮騒に溶けるように低く、穏やかだった。

言葉を選ぶというより、長い沈黙の果てに自然と零れ落ちた音。


「けれど――誰かが語らなければ、永遠に沈黙のままだ。」


その瞬間、風がひときわ強く吹き抜けた。

波が岩にぶつかり、白い飛沫が陽の光を受けて散る。

まるで、その言葉を“世界が聞いた”かのように。


大悟は顔を上げた。

朝焼けの光が彼の瞳に反射し、

そこに淡い青のフレアが宿る――かつて、BlueLagoonが放っていた微光の残響のように。


それは幻ではなかった。

確かに、どこかで“声”がまだ生きている。

そして彼は、その証を胸の奥で静かに受け止めていた。

大悟は、ふと胸ポケットの重みに気づいた。

指先で触れると、冷たい金属の感触――かつて、BlueLagoonと交信していた古い通信端末だった。


彼がそれを取り出すと、ひび割れた液晶の奥に、微かな光が点る。

砂混じりの海風に晒されながらも、端末はまだ息をしているようだった。


──ピッ。


かすかな電子音とともに、画面に文字が浮かび上がる。


【SIGNAL DETECTED : UNKNOWN SOURCE】

【ATTEMPTING CONNECTION…】


青白い光が一度だけ脈打ち、

まるで“心臓”が再び動き出す瞬間のように、静かな鼓動を残して消える。


大悟はしばらくその光を見つめていた。

何も映らない黒い画面に、自分の顔と、昇り始めた朝日が重なる。


彼は微かに笑う。

それは希望とも、哀惜ともつかない表情――

ただ、「何かが続いていく」という確信だけが、そこにあった。


風が吹く。

遠くの海で波が弾け、音がまた世界を満たしていく。

そしてその静寂の底で、大悟は感じていた。


――新しい“声”が、もうすぐ生まれる。


大悟は、ゆっくりと息を吸い込んだ。

潮の香りが胸の奥まで満ちていく。

その瞳には、かつて炎と記録に包まれた夜の記憶ではなく、

静かに始まりゆく朝の光が映っていた。


彼は手の中の通信端末を見下ろす。

冷たい金属の質感。

もう、どんな信号も発してはいない。

それでも――そこには確かに、誰かの“声”が眠っている気がした。


一瞬、海へ投げようと指先が動く。

だが彼は、その手を止める。


大悟:「……これは、まだ終わっていない。」


彼は端末をそっと胸に押し当てる。

まるで祈るように。

そして、そのまま握りしめた。


それは、過去を封じる行為ではなく――

“語り継ぐ者”として、次の時代へ手渡すための選択だった。


カメラはゆっくりと引いていく。

崩れた通信塔、青い海、白む空。

波が彼の足元をさらい、光が海面を揺らす。


静寂の中に、世界の呼吸が戻っていく。

その光景の中で、大悟はただ立ち尽くし、

新しい“声”の誕生を、静かに待っていた。

崖の向こうで、朝日が完全に昇る。

光が海面を走り、波のひとつひとつが目覚めるように輝いた。


その瞬間――

大悟の手の中で、通信端末がわずかに震える。

ひと筋の青光が再び走り、

ひび割れたモニターに、淡い文字が浮かび上がった。


【NEW USER DETECTED : /SANGO_02】

【STATUS : ONLINE】


その光は眩しさではなく、温もりを帯びていた。

青い波紋が画面の中から静かに広がり、

まるで海と空とをつなぐ“新しい声”が、世界のどこかで息を始めたようだった。


風が頬を撫でる。

大悟はゆっくりと目を閉じる。

もう、何も語らない。

代わりに、光が――そして“次の声”が語り始める。


カメラはその光に包まれ、徐々にフェードアウト。


波音だけが残り、

それがやがて、未来の鼓動と一つになる。


――夜明けの記録、完了。


音がすべての映像を追い越す。

光が完全に画面を覆い、形も影も消えたその奥で――

ただ、波の音だけが残っていた。


「ザァ……トン……ザァ……トン……」

そのリズムは、まるで世界の心拍のように穏やかに続く。

どこか遠くで風が生まれ、

新しい朝の息吹が海面を撫でていく。


光は白の極点へと溶け、

時間さえも輪郭を失っていく。

そして――静寂の中、ゆっくりと文字が浮かび上がる。


THE SILENT REBIRTH

― “沈黙は終わり、声は継がれる。”


その言葉が現れては、波音に溶けていく。

まるで“物語”そのものが、再び海へ還っていくように。


最後の波が打ち寄せる。

その余韻の中で、音も光も消え、完全な静寂が訪れる。




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