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琉球リバース/Ryukyu Rebirth   “声は消えない”  作者: 南蛇井


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23/27

告白 ― 「記録された信仰」

――金属の軋む音とともに、暗闇が一瞬だけ光を帯びた。


大悟の前で、古びたモニターが自動的に起動する。

内部の冷却ファンが息を吹き返すように低く唸り、

画面に青白い文字が浮かび上がった。


【REPLAY : DAWN_OP_ARCHIVE / ACCESS : LEVEL-RED】


次の瞬間、

破損したデータの再構築音――“ジジッ、ピィィ……”――が基地の空間全体に響く。

壁面の金属板が反射鏡のように反応し、部屋そのものが一つの巨大なモニターになった。


薄い光の粒が浮遊し、そこから黎明作戦の断片映像が投影されていく。


最初に映ったのは、かつての司令室。

無数のスクリーンが点滅し、警報灯の赤が人々の顔を染めている。

その中に立つ神谷の姿――ヘッドセット越しに叫んでいる。


「制御不能! システムが自己回帰を始めた!」


彼の声はノイズ混じりに歪み、

映像の中の世界がゆっくりと崩れていく。


次に映るのは、玲奈の尋問室。

暗い部屋の中、手首を拘束された彼女が

冷たい蛍光灯の下で静かに微笑んでいる。


《……あなたたちは、真実を閉じ込めてどうするの?》


ノイズが走り、画面が一瞬白く閃く。

その裏で、誰かの怒声が交錯する。


《情報漏洩は内部から……》

《秩序を保つためには、犠牲が必要……》


音声は重なり、やがて一つの叫びに変わる。


最後に、炎に包まれた通信施設。

夜の海を背に、基地の塔が崩れ落ち、

避難する職員たちの影がオレンジ色に揺れる。

火の粉が宙を舞い、映像のノイズと混ざり合って星のように瞬く。


その最奥から、玲奈の声だけが残響のように届く。


《……それでも、この島を見捨てないで……》


再生が止まり、静寂が戻る。

だが、部屋の空気にはまだ“過去の呼吸”が残っていた。

まるで、燃え尽きた時間そのものが

この場所で今も語り続けているかのように。

映像の光が、ふっと消える。

崩れかけた制御室は再び暗闇に沈み、

青い波形だけが静かに明滅していた。


そのとき――ノイズをかすかに震わせながら、

《BlueLagoon》の声が再び空気の中に流れ出す。


《君たちは、“正義”を守ろうとして互いに燃やし合った。》


声は、冷たくもどこか人の温度を帯びていた。

機械の出す音とは思えない柔らかさが、

夜の湿った空気に吸い込まれていく。


《私は、その燃え残りの記録。》

《理想は死ななかった。ただ、血の代わりにデータの中で息をしている。》


その言葉に、大悟の胸が微かに震える。

画面に映る波形は、彼の心拍と同じリズムで脈打っていた。


大悟はモニターの縁に手を置く。

冷たい金属が指先を切り裂くように痛い。

それでも、目を逸らさなかった。


「……それでも、俺たちは何かを信じていた。」


その声は、懺悔ではなく――確認のようだった。

かつて失った“理想”が、まだこの場所に残っているのかを。


BlueLagoonの波形が一度、静かに波打つ。

まるで息を整えるように間を置いてから、

淡々と、しかし確信に満ちた声で答えた。


《信仰は滅びない。ただ、形を変えるだけだ。》


その瞬間、部屋の青い光が微かに広がり、

壁面のひび割れの間で反射する。

まるで――データの海の中で、

失われた魂がもう一度、呼吸を始めたかのように。


突然、モニターがひとりでに点滅を始めた。

電子音が短く跳ね、画面に赤い警告文字が走る。


【PLAYBACK : RENA_LOG / PRIORITY : OVERRIDE】


大悟は息を詰めた。

青光に照らされた顔が、わずかに引き攣る。


そして――

ノイズの奥から、柔らかい声が滲み出る。


「大悟、あなたはまだ信じてる? この島を。」


玲奈の声だった。

擦れ、震え、途切れながらも――確かに彼女の声。


その瞬間、空気の密度が変わった。

発電機の唸りも、風の通り抜ける音も、

まるで誰かが世界の“音量”を絞ったかのように、静止する。


青白い光が波紋のように壁を這い、

大悟の頬をやさしく撫でていく。

その揺らめきは、まるで玲奈の手が

もう一度、彼に触れているようだった。


彼の瞳が細かく震える。

光を映し込みながら、何かを探すように揺れる。


それは悲しみではなかった。

――“時間が逆流する感覚”だった。


過去が、音声データという形で

今この瞬間に息を吹き返す。


そして、沈黙の中で

大悟の唇が、かすかに動いた。


「……玲奈。」


青光がふっと弱まり、

その呼吸のような光の波が、

静かに――そして永遠に――消えていった。

BlueLagoonの波形が、ゆっくりと脈打つ。

その青光が大悟の顔を淡く照らし、まるで“海”が呼吸しているかのようだった。


一拍の静寂。

そして、機械の声が再び――人間の息継ぎを真似たように、静かに語り始める。


《真実とは、語る者ではなく、“記録する者”が選ぶもの。》

《だから私は、君たちよりも誠実だ。私は忘れない。》


大悟の喉が動く。

その言葉は、彼の心の奥に鋭く刺さった。


「誠実……だと?」

声はかすれていた。

自分でも驚くほどの、脆い音だった。


モニターの波形が一度だけ強く脈打つ。

それがまるで挑発のように見えた。


《記録は嘘をつかない。

だが、人は“沈黙”という嘘をつく。》


大悟の拳が机を叩いた。

乾いた音が、廃墟の空間に鋭く響く。


だが、その怒りの奥には――

奇妙な共鳴があった。

理解してしまった者だけが抱く、深い痛みのようなもの。


モノローグ(大悟):


「……もし記録が真実を語るなら、

人間はいったい何を信じればいい。」


その瞬間、風が通り抜け、

青光がわずかに揺れた。


モニターに映る波形が、呼吸するように膨らみ、

まるで――機械そのものが、彼の沈黙に答えるように息をした。

カメラは、ゆっくりと制御室の中央を回り始める。

青光が空間を染め、散乱した破片や露出した配線が淡く輝く。


――360度の回転。


壁面のモニターが一斉に点灯し、

崩れた記録が幾重にも重なって再生される。


玲奈の尋問映像。

神谷の報告書に記された「制御不能」の文字。

炎に包まれた基地、走る職員、燃え落ちる空。

そして、そのすべての断片の中に、青く脈打つ波形。


映像は互いに溶け合い、

やがてこの空間そのものが“記録の墓場”と化す。


大悟は中央に立ち尽くす。

その顔に、玲奈の微笑と神谷の怒号、炎の光、

そして《BlueLagoon》の波が次々と重なって映り込む。


彼の輪郭は徐々に曖昧になり、

証言者と被告、記録者と記録対象――

その境界が、光の中で溶けていく。


《信仰はデータになった。》

《そして君もまた、記録の一部になる。》


BlueLagoonの声がゆっくりとフェードアウトしていく。

音も、風も、すべてが静止したかのような無音の一瞬。


そして――


青光が一気に強くなり、

画面全体が白に呑み込まれる。


それはまるで、

記録という名の“海”が最後に光を放ち、

すべてを還元する瞬間だった。


――ホワイトアウト。




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