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琉球リバース/Ryukyu Rebirth   “声は消えない”  作者: 南蛇井


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16/27

デジタルの亡霊 ― @Sango

深夜二時四十三分。

アパートの一室は、光の存在を忘れたように沈んでいた。

唯一の明かりは、ノートPCのディスプレイ。

その白い光が、大悟の頬の輪郭を断続的に浮かび上がらせている。


 


外からは、那覇湾の波音がかすかに聞こえた。

潮の匂いと、焦げた埃の匂いが混じる。

エアコンの低い駆動音が、静寂の底を震わせるように響く。

PCの冷却ファンが回転を上げ、そのリズムが大悟の鼓動に重なっていった。


 


机の上には、開けかけのコーヒー缶。

中の液体は冷え切り、まるで時間が止まってしまったようだった。

その隣には、割れた公安の身分証と黒いUSBメモリ。

どれも現実を示す“証拠”でありながら、今の彼にとっては亡霊の遺品のように見えた。


 


ときおり、「ポッ」と通知音が鳴る。

短い電子の呼吸。

それがまるで、誰かがこの部屋の中で息をしているように感じられる。


 


大悟は無言のまま、トラックパッドに指を滑らせる。

画面に、ブックマークされた《Ryu-Talk》が現れる。

匿名掲示板――かつて比嘉海斗が使っていたものだ。


 


一瞬、マウスカーソルが宙を泳ぐ。

それはためらいというより、“誰かの目を確かめる”ような動きだった。

やがて彼はクリックする。


 


液晶の光がわずかに強まる。

投稿リストの中で、ひとつのタイトルが目を引く。


【Thread: 00172 “黎明と国家の取引”】


 


指先が止まった。

その瞬間、エアコンの音が遠ざかり、世界が呼吸を止めたように感じる。

スクロール。

投稿の本文が浮かび上がる。


 


投稿者:@Sango

「黎明の崩壊は、“内部からの合意”によるものだ。

国家と黎明、両者は“恐怖”の分配で均衡を保っていた。」


 


目の奥が乾いていく。

心の奥で、何かが“警鐘”を鳴らす。


画面下には三つの添付ファイル。


公安那覇支局 内部文書(.pdf)


東恩納議長 資金フロー(.png)


【機密】捜査官行動記録(Daigo_0037.log)


 


最後のファイル名に視線が釘づけになる。

息を呑む。

「Daigo」――それは彼自身のコードネーム。


 


「……俺の、記録……?」


 


モニターの光が一瞬、明滅する。

ファイルが開かれる。

白いノイズが走り、画面の中で文字列が崩れていく。

そのノイズが、まるで遠くから誰かの声が混じるような“歪んだ息遣い”に聞こえた。


 


投稿者情報欄がちらつく。


【投稿者:@Sango】

【最終ログイン:2時間前】


 


呼吸が止まる。

比嘉海斗――死んだはずの男の名。

まるで墓の下から指先が伸び、データを叩いているかのようだ。


 


(モノローグ)

「死んだはずの亡霊が、秩序を暴いている。」


 


スクロールするたびに、ディスプレイの光が彼の顔に波打つ。

瞳の中で、文字の列が脈動する。

まるで心拍そのものが、画面に同調しているように。


 


そして、ふと。

画面の右下に赤い点が灯った。

マイクのアイコンが、ゆっくりと点滅を始める。


 


(……誰かが、見ている。)


 


彼は息を呑み、PCをそっと閉じる。

だが閉じる直前――

黒い画面に映った自分の顔の隣に、一瞬だけ“もう一つの瞳”が浮かんだ。


青白く、無感情な光。

人間ではない何かの、観察する瞳。


 


静寂。

「ピッ——」という短い音が残る。


 


大悟は動かない。

そのまま、暗闇の中でゆっくりと息を吐いた。


(モノローグ)

「監視の亡霊は、もうネットの中じゃない。

 俺の呼吸の中に、棲みついている。」


 


カーテンがかすかに揺れる。

外の風が、死者の声を運んでくるように。


画面の奥では、まだ《Ryu-Talk》の通知音が鳴っている。


「ピッ……ピッ……ピッ……」


そして闇が、すべてを飲み込んだ。



部屋の明かりはついていなかった。

夜の那覇湾から吹き込む湿った風が、カーテンをわずかに揺らす。

薄闇の中で、大悟はゆっくりとノートPCの蓋を開けた。


 


ディスプレイが点き、青白い光が彼の頬を切り取る。

その光だけが、世界のすべてを照らしていた。

光に照らされた顔には、疲労と焦燥と、何かを諦めたような無表情が混じっている。


 


PCの冷却ファンが、低い呼吸のような音を立てて回り始める。

マウスを動かすたび、指先に光が反射して微かに震えた。

その小さな震えは、緊張というより“生存の証”のようにも見える。


 


彼は意識していないような動作で、

ブックマークバーに並ぶアイコンのひとつをクリックする。


《Ryu-Talk》――匿名掲示板。

かつて、比嘉海斗がよく潜っていた場所。

今では、国家の裏と裏がぶつかり合う“闇のアーカイブ”となっていた。


 


ページが開く。

黒い背景に、灰色の文字が静かに並ぶ。

無数のスレッドタイトルが、まるで墓標のように整列している。


 


【Thread: 00170 “公安那覇支局の沈黙”】

【Thread: 00171 “黎明、内部協力者について”】

【Thread: 00172 “黎明と国家の取引”】

【Thread: 00173 “情報漏洩の真相(※消去予定)”】


 


カーソルが動き、00172の行で止まる。

その一瞬、PCのファンが静まり返る。

部屋の空気が変わる――まるで誰かが背後に立ったかのような、密度の変化。


 


(モノローグ・大悟)

「……黎明と、国家……?」


 


BGMがわずかに低く沈む。

波音が遠ざかり、代わりに電子のノイズが小さく混じり始める。

画面の光だけが、呼吸をしているように瞬く。


 


指先がクリックをする。

小さな“カチッ”という音が、

この夜で唯一の現実的な音だった。


 


そして――スレッドが開かれる。



スレッドが開かれる。

黒い背景に白い文字が、淡く滲むように浮かび上がる。

まるで夜の闇の中から、声そのものが直接立ち上がってくるようだった。


 


【Thread: 00172 “黎明と国家の取引”】

投稿者:@Sango

投稿日時:02:41:08


「黎明の崩壊は“内部からの合意”によるものだ。

 国家と黎明、両者は“恐怖”の分配で均衡を保っていた。

 片方が沈めば、もう片方もまた沈む。

 だから、爆破は“交渉”だった。」


 


淡々とした文体。

だがその静けさが、何よりも不気味だった。


 


大悟の指先が止まる。

目が、投稿者の名前に吸い寄せられる。


投稿者:@Sango


 


息が詰まる。

心臓の音が、画面のスクロール音と重なる。

静かな、しかし確かな拍動。


 


机の上の缶コーヒーが、わずかに揺れた。

大悟の喉がひくりと動き、何かを飲み込むような音だけが響く。


(モノローグ・大悟)

「……比嘉、海斗……?」


 


画面を見つめる。

その下には、三つの添付ファイルが並んでいた。


▷ 公安那覇支局 内部文書(.pdf)

▷ 東恩納議長 資金フロー画像(.png)

▷ 【機密】捜査官行動記録(Daigo_0037.log)


 


最後のファイル名で、彼の手が止まった。

視線が一点に吸い込まれ、光が瞳に映り込む。


(モノローグ・大悟)

「……俺の、行動記録……?」


 


指がゆっくりとリンクに触れる。

クリックの瞬間、画面が暗転し、

ローディングの輪が静かに回り始めた。


 


ディスプレイの光が明滅し、

それが大悟の瞳に脈動のように映る。

呼吸が、音もなく乱れる。


 


そして――画面に浮かび上がるファイル名の下、

一行のシステムメッセージ。


【警告:機密データの閲覧は追跡されます】


 


大悟は動かない。

だが、その瞳の奥には確かなものが宿っていた。


恐怖でも、驚愕でもない。

それは、“覚悟”という名の、静かな火だった。



画面の読み込みバーが、じわじわと満ちていく。

白い円が閉じきる瞬間、静かに文字が浮かび上がった。


 


【投稿者:@Sango】

【最終ログイン:2時間前】


 


――時が止まった。


 


大悟の呼吸が、一瞬だけ抜け落ちる。

世界から音が消える。

雨の滴る音も、PCのファンの低音も、

ただ遠くの海鳴りだけが、彼の内側で反響していた。


 


(モノローグ・大悟)

「……サンゴ。

 比嘉、海斗――。」


 


その名が唇から漏れると、空気がわずかに震えた。

まるでその声に呼応するように、

スクリーンが微かにノイズを走らせる。


 


(SFX)

スクロール音:「コロコロ……コロ……」


 


指がトラックパッドを撫でるたび、

スクロール音が部屋の沈黙に溶けていく。

まるで心臓の鼓動が、

画面の中で機械音へと姿を変えたかのようだった。


 


大悟の瞳は、完全に画面に縫い付けられている。

光が頬に断片的に反射し、

その照り返しが彼の表情を幽霊のように浮かび上がらせた。


モニターの明滅――呼吸――静寂――また明滅。


 


彼は見られている。

いや、彼を見ている何かが、この部屋にいる。


 


(モノローグ・大悟)

「死んだはずの亡霊が、秩序を暴いている。」


 


その言葉とともに、

PCの冷却ファンが一段高く唸りを上げた。

まるで誰かが、その中で息を吹き返したかのように。



部屋の空気が、わずかに震えている。

深夜二時台の静寂に、電子の低い唸りがじわりと染み込んでいく。

ノートPCの冷却ファンが回転数を上げ、

まるでこの小さな空間全体が、機械の肺として呼吸を始めたかのようだった。


 


カメラがゆっくりと引いていく。

大悟の背中が画面の中心に残され、

ディスプレイに映る彼の顔が、反射で“二重”に浮かぶ。


ひとつは生身の顔――汗と疲労が刻まれた現実の表情。

もうひとつは、ノイズと圧縮の歪みで形を崩した影。


その二つの像が、

ピクリとも動かず互いを見つめ合う。


 


(SFX)

ファンの高鳴り。

電子ノイズが耳の奥でざらつく。


 


画面の下、タスクバーの通知が点滅する。

無機質な青い光が、心臓の拍動のようなリズムで明滅する。


【Ryu-Talk:新着スレッド 00173 “神谷公安内部リーク”】


 


大悟の瞳孔が、わずかに開く。

その視線の奥に、“恐怖”ではなく“確信”が生まれていく。


――彼は監視されている。

そして、同時に誰かを監視している。


 


画面右下、マイクアイコンが赤く点灯する。

音を拾っている。

この部屋の息遣い、この沈黙の震えまでも。


 


(モノローグ・大悟)

「……俺は、誰に見られている?」


 


一拍の間。

ノイズの向こうから、

ほんの微かな声が、再生されたかのように混じる。


「……まだ、終わっていない。」


 


ディスプレイの光が一瞬だけ強く閃き、

影の中の“大悟”が、現実の彼よりも先に口を開く。


その口元は、

まるで笑っているように見えた。

ノートPCのディスプレイが、わずかに瞬いた。

大悟は呼吸を整えながら、

その光の中に沈んでいく自分の輪郭を見つめていた。


画面にはまだ、《Ryu-Talk》のスレッドリストが残っている。

しかし、彼の指はもうマウスに触れなかった。


代わりに――ゆっくりと、蓋に手をかける。


 


ヒンジが軋む音が、

まるで誰かの喉が鳴るような不気味な響きを放つ。


ディスプレイが閉じられていくその瞬間――

黒い液晶の中、彼の顔の隣に“何か”が映った。


もう一つの瞳。

青白く滲む輪郭。

ノイズのようにゆらめきながら、確かにこちらを見ていた。


 


(SFX)

「ピッ——……」


 


闇。

部屋全体が、電源を落としたかのように沈黙する。


波音も、ファンの回転音も消えた。

ただ、夜風が一度だけカーテンを揺らし、

そこに残る“視線”の名残を、静かに撫でていった。


 


大悟は目を閉じ、ゆっくりと息を吸う。

その呼吸の奥で、かすかに電子のざらつきが混じる。


大悟モノローグ

「監視の亡霊は、もうネットの中じゃない。

  俺の呼吸の中に、棲みついている。」



閉じられたノートPCの表面に、

一瞬だけ、青い点が“呼吸”のように点滅する。



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