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琉球リバース/Ryukyu Rebirth   “声は消えない”  作者: 南蛇井


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13/27

裏切りの始まり ―「裂け目」

深夜。

黎明本部の通信管理室は、まるで時間が止まったように静まり返っていた。

壁に並ぶ古い端末が、一定のリズムで赤く点滅を繰り返している。

その光はまるで、呼吸を失った心臓の鼓動のようだった。


外では、遠雷が低く唸る。

海から吹き込む湿った風が、散乱した紙資料の端をゆらりと揺らす。

青白いモニターの光が、玲奈の頬を淡く切り取っていた。

彼女は椅子に深く腰を下ろし、眉間に皺を寄せながら通信ログを確認していた。


いつもと同じはずのデータ群。

だが、その中に、ひとつだけ“異物”が混じっている。


画面の中央に、見慣れないラベルが浮かんでいた。

《NPA://Secure-Channel-KAMIYA》


玲奈の指が止まる。

思考が一瞬、空白になる。

「……NPA?」


それは、国家公安の専用通信コード。

黎明の機材には、存在するはずのない経路だった。


カーソルが滑り、転送元の情報が表示される。

そこに記された識別子。

《潜入コード:DAIGO》


玲奈の呼吸が、わずかに乱れる。

画面の反射光が、瞳の奥でゆらめいた。

青白い光が、まるで冷たい刃のように彼女の表情を切り裂いていく。


(玲奈・モノローグ)

――この識別子、見覚えがある。

でも、どうして……大悟の名前が?


指先がかすかに震えた。

それでも、彼女は逃げなかった。

無意識のまま、Enterキーを押す。


画面が切り替わる。

黒い背景の上に、短いテキストが浮かび上がった。


《対象R、信頼関係維持中。黎明の会合情報送信完了。》


その一文を読み終えた瞬間、

玲奈の唇が、音にならないまま開いた。

声が出ない。喉が凍りつく。


胸の奥で、何かが静かに崩れ落ちた。

蛍光灯が一度だけちらつく。

外の雷鳴が遠くで響く。


彼女の世界は、青白い光の中で静かに反転していった。


通信管理室の扉が、軋む音を立てて開いた。

湿った夜風が流れ込み、室内の紙資料をかすかに揺らす。


その風に混じって、重い足音。

大悟が戻ってきた。

だが、玲奈は振り返らない。


モニターの青白い光だけが、彼女の頬を照らしていた。

静かに、しかし確実に、呼吸が震えている。


玲奈

「……これ、あなたの……通信よね。」


声は低く、感情を押し殺したように掠れていた。

その一言で、空気の密度が変わった。


大悟の足音が止まる。

室内に、機械の規則的な電子音だけが残る。

それが、まるで秒針のように二人の間の沈黙を刻む。


玲奈の肩がわずかに震えた。

それは怒りか、それとも恐怖か、自分でも分からない。


彼女はゆっくりと息を吸い、

噛みしめるように言葉を吐き出した。


玲奈

「公安通信コード。“NPA”。

最初から……私たちを——監視してたの?」


その声には涙の匂いが混じっていた。

だが、目は潤んでいない。

まるで涙すら拒むように、玲奈はただモニターを見つめ続けていた。


画面の中央には、まだ《対象R》の文字が淡く光っている。

その光が、彼女の瞳に映り込み、

まるで“証拠”そのものが、彼女の心を焼き付けているかのようだった。


通信管理室の蛍光灯が、一瞬だけ明滅した。

その刹那の光の揺れが、二人の間にある見えない境界をあぶり出す。


大悟

「玲奈、違う。俺は——」


声はかすれていた。

弁解の響きではなく、祈りにも似た、言葉の断片。


玲奈は振り返らない。

ただ、モニターの光に照らされる背中が、怒りと絶望の境で硬直している。


玲奈

「違う? じゃあこのデータは何?」


彼女は机に散らばったプリントの一枚を掴み取る。

その指先は、わずかに震えていた。


玲奈

「黎明の情報を、神谷に送ってた。

私の言葉も、全部——報告してたんでしょ?」


声が割れる。

それでも彼女は言葉を止められない。


手の中の紙が、くしゃりと音を立てて潰れる。

湿った指先に、黒いインクがにじむ。

それがまるで、信頼の形をした血のようだった。


玲奈(震える声で)

「あなた……最初から……」


言葉が途切れた。

喉の奥で、嗚咽と呼吸がぶつかり合い、音にならない音が漏れる。


その瞬間、外で雷が遠く光った。

室内の青い光と混ざり、二人の輪郭が一瞬だけ白く浮かび上がる。


大悟は、一歩踏み出した。

だが、その足は途中で止まる。


玲奈までの距離は、ほんの一歩。

けれど、その一歩が永遠に届かないことを、彼はもう知っていた。


(大悟・モノローグ)

「言い訳は、いつだって——真実より弱い。」


彼の胸の奥で、その言葉だけが静かに沈み、

残されたのは、波音のような沈黙だった。

――波の音が、すべての始まりと終わりを飲み込んでいく。


画面が断片的に切り替わる。

それは記録でも、記憶でもない。

ただ“信じたい嘘”が、形を持った瞬間の連なりだった。


――黎明の旗。

風に裂かれ、夜の照明に翻る。

赤い布が滲んで、血のように見える。


――東恩納議長、議場で拳を掲げる。

「この島の未来を、国家に奪われてはならない!」

声がマイクを割り、映像が一瞬ノイズで白く途切れる。


――神谷の無線。

「玲奈を囮にしろ。感情を持ち込むな。」

冷たい声が、機械の反響の中で何度も繰り返される。


――大悟の沈黙。

青白い光に照らされ、彼の横顔は無機質な影となる。

拳の中に握られた資料が、音もなく崩れていく。


――玲奈の涙。

それは落ちる前に光を反射し、カメラのレンズを一瞬だけ濡らした。

まるで“信じた時間”そのものが、形を失っていくかのように。


映像のリズムが速くなる。

旗、議会、無線、沈黙、涙——すべてが交錯し、

誰が正義で、誰が裏切りなのかが、もう判別できない。


そして、玲奈の声が遠くから重なる。


玲奈ヴォイスオーバー

「信じることと、疑うこと。

それが、人間を分ける。」


言葉の余韻が波に溶ける。


夜の砂浜。

寄せる波が月光を抱いては、また引いていく。


波打ち際に、涙の粒がひとつ残る。

その反射が一瞬だけ光を放ち——

次の瞬間、海に溶けるように消える。





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