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迷宮実話 -命の対価は恥で払え-  作者: 泉井 とざま
3章:匿名記者が迫る

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第28話:脱出(2)

(記者:オルタシア視点)


 アルヴィンを横目に、静かに立ち上がる。

虚ろな目が、ぼんやりと私を追ってくる。

……そんなに見られると、少し困るんだけど。


 仕方なく息を吐き、ナイフでドレスの背の紐を一気に断ち切った。

肩を抜くと、凹凸の少ない体からドレスがストンと落ちる。


「っ!!」

アルヴィンが目を見開く。いや、だから見ないでほしいんだけど。


 私は手早く麻袋に掛けられていたぼろ布を纏い、腰を荒紐で縛る。

これで動きやすくはなった。


 すぐに麻袋を数個並べ、“自分の身代わり”を作る。

肩の丸み、腰の位置、床に蹲る姿を思い浮かべながら袋を積み、

その上にドレスを被せ、さらに布で覆って形を整えた。


 扉の死角に回り込み、息を整える。

見張りが雑に覗く程度なら、これで十分だ。


 アルヴィンは……まだ苦しそうだ。

胸が浅く上下し、呼吸が乱れている。しばらくは動かせない。


 私は扉の下部に身を寄せ、のぞき窓から見えない位置で耳を当てた。

足音、複数の男の声、見張りの愚痴。

《幽識》を使い、さらに情報を拾う。


 どうやら、この潜入は敵にとっても想定外だったらしい。

外では景品や違法品、契約書、資金らしきものを慌ただしく運び出している。

私たちを半日放置した理由も、これで納得だ。


「くっそ、手が全然足らねぇ! どうにかなんねえのか!」

聞き覚えのある声が飛び込んできた。


――これは、好機かもしれない。


 私は指輪を扉に当て、簡易の消音魔法を施す。

振り返ると、アルヴィンがふらつきながらも体を起こしていた。


「大丈夫? 魔法をかけたから、少しの物音なら平気」


 歩み寄りながら、ネックレスの飾りをひねる。

内部の空洞が開き、小さな丸薬が指先に転がった。


「これを飲んで。解毒薬だけど、ふらつきくらいは和らぐはず」


 彼の口に薬を押し込み、肩を貸して死角に座らせる。

呼吸を整えつつある彼から上着を外し、私と同じように偽装を施した。


「外が騒がしいわ。見張りが離れるかもしれない」

スキルで得た情報を、聞き耳の結果として伝える。


「いなくなったら、このピンで鍵を開ける。出口まで歩ける?」


 うっすら目を開けたアルヴィンは、小さく頷き、また目を閉じた。


 薬が効き始めたのか、顔にわずかに赤みが戻っている。

私は彼の隣に腰を下ろし、静かに様子を探った。


 ここから脱出するには、私の“秘密”を一部明かす必要がある。

彼が裏切り者でないことは分かった。

だが、それとこれとは別問題だ。


――足音が近づいてくる。

迷っている時間は、もうない。


 私は息をのみ、アルヴィンの肩に触れた。

「アルヴィン……一つだけ、約束して」


 閉じかけたまぶたがわずかに動く。


「これから見せる私の魔法のこと。誰にも言わないでくれる?」


彼は微かに笑い、ゆっくりと頷いた。


「……ありがとう。必ずここから帰すから」


 その瞬間、扉が乱暴に叩かれ、消音魔法が破られた。


「おいっ! 聞こえてんのか! 暴れても無駄だぞ!」

「バカ! そんな奴らほっとけ! さっさと来い!」


 怒鳴り声が遠ざかる。

私は立ち上がり、手首を回して準備を整えた。


――今しかない。


 ピンを鍵穴に差し込み、内部の突起を探る。

小さな音とともに、鍵が外れた。


 アルヴィンを見ると、彼はふらつきながらも立ち上がる。

肩を貸し、指輪を握り込んで呪文を唱えた。


「“姿消し”がかかってる。声は出さないで、ゆっくり動いて」


 《幽識》で廊下の気配を探り、扉を開けて外へ出る。

木箱や袋を抱えて走り回るならず者たちの間を、慎重に進む。

壁に身を寄せ、狭い通路では触れられないようにやり過ごす。


「時間がねぇ!」「あれはどうした!」


 怒声が飛び交う中、私たちは洞窟へ抜けた。

湿った空気が肌にまとわりつき、腐敗した水の匂いが鼻を刺す。

滴が水面を叩く音が低く響く。ここは街の下水道。


 粗末な船に違法品を満載し、魔法の明かりに照らされて並んでいる。

風魔法まで使って積み込んでいるあたり、“魔法避け”は解除中らしい。


 姿を消したまま脇道の暗がりに潜り込み、ようやく一息つく。

ここまで来れば、逃げ切れる。

あとは流れに沿って出口へ向かうだけだ。


「奴らの積み荷の行き先さえ分かれば……」

座り込んだアルヴィンが、悔しげに拳を握る。


「危険を感じたら即撤退。ここから先は、私たちの役目じゃない」

「……くっ!」


 拳が力なく床を叩く。

私は指先に小さな明かりを灯し、彼の表情を照らした。


「その元気があるなら、移動よ。一秒でも早く出たい」

「ああ……そうだな」


 結局、そこを出たのは三時間後。

臭いの染みついた体を引きずり、ギルドへ戻り着いたのはさらに二時間後だった。

脱出完了の一幕。

さて、今回の記事はどうなることやら……


☆や感想を頂けましたら、これ幸い。

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