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迷宮実話 -命の対価は恥で払え-  作者: 泉井 とざま
3章:匿名記者が迫る

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第27話:脱出(1)

(記者:オルタシア視点)


「うぅ……僕は……」

「静かに。動かないで」


 意識を取り戻したアルヴィンが呻くのを、素早く制す。

「男が去ってから大体二時間。あなたはずっと気絶していたの」


 ぼろ布の下で、アルヴィンの呼吸が一瞬止まった。

ゆっくり息を整えたあと、静かな声で謝罪が落ちる。

「オルタシアさん、すみません。ボクのせいでこんな目に……」


「謝罪は今はいいわ。仲間だって確信できただけで十分」

 顔を寄せ、小声で続ける。布をかぶっているとはいえ、油断はできない。


「この布は荷物に掛けられていた埃避け。寒いって訴えて借りたの」

「ちょっ……近――」

「声をかけた感じ、下っ端ね。扉の前で見張ってる」


 この緊急事態に、なに顔を赤くしているのか。

私はゆっくり腕を動かし、首の魔法封じを示す。


「あなたの縄も後で切るわ。それより問題は、この魔法封じ」


 アルヴィンの視線が、私の首元に集まる。

「……それ、“抑制型”ですね。僕の“拡散型”とは違う」

「抑制型?」


 私は首元に触れ、金属の輪を指先で軽く叩いた。

金属の冷たさとは別に、不快な魔力の滞りが伝わる。


「ええ、魔法封じにも種類があるんです。僕のは魔力の収束を阻害するタイプで、大きな魔力を持つ魔導士用」

「私のは?」

「比較的、小さい魔力の人用ですね。作りが簡単で安価……それでも高いんですが」


 なるほど。レンジャーの私と魔術師の彼で使い分けている理由はそれか。

どちらかの魔道具をどうにかできれば状況は開けるが、力ずくで壊せるほどの力も道具もない。


「……方法は、あります」


 私の思考を読んだように、アルヴィンが口を開いた。


「貴女の“抑制型”は効果が単純な分、容量が小さいんです。だから……僕の魔力を使えば、破壊できるかもしれない」

「アルヴィンの……どうやって?」


 問い返すと、彼は一瞬だけ言葉を詰まらせた。


「魔力譲渡をするので、貴女が魔道具を破壊してください。ただ……」

「ただ?」


 居心地悪そうに身をよじり、小さく息を吸う。

「……今の僕は魔力のコントロールができません。少しでも多く魔力を渡すには、可能な限り身体的な接触が必要なんです。だから――」

「そう。分かったわ」


「え、ちょっ!」

 私はすぐに彼へにじり寄り、腕を首に絡ませて体を密着させた。

ドレスのせいで下半身を寄せきれないのが悔やまれる。


「これで大丈夫? 不安ならもう少し……」

「だ、大丈夫! 大丈夫ですから!」

アルヴィンの体がびくりと強張る。

触れた肩が小さく震えている。普段の彼からは考えられない反応だ。


 薄暗い布の下でも、彼の動揺は手に取るように分かった。

調査の時はあんなに“らしく”振る舞っていたのに、どうしたのだろう。


「落ち着いて。時間がないの」

「は、はい……っ」


 彼が目を閉じ、静かに呼吸を繰り返す。

その体から、ほのかな温かみ――魔力があふれ出した。


 触れた部分が、ピリピリと甘い痺れに満たされていく。

体温とは違うアルヴィンの魔力が、静かに体へ染み込んでくる。

私はその流れをそのまま、魔法封じへと押し込んだ。


 金属の輪が、かすかに震える。

アルヴィンの魔力が出口を求めるように体を内から押し上げる。

圧力のような感覚に呼吸がしづらくなるが、止まるわけにはいかない。


「大丈夫……もっと流して」

「っ……はい……!」


 アルヴィンの魔力が一段と強くなる。

甘い痺れは鋭い痛みに変わり、うめき声が漏れそうになるのを歯を食いしばって堪える。


 首輪の震えは大きくなり、キィィと小さな音を上げた。


「……まだ……いけるわ」

「……っ!」


 触れ合う肌が焼けるように熱い。

アルヴィンの魔力が暴れ馬のように体内を駆け抜ける。

視界の端が暗く沈み、指先の感覚が遠のいていく。


――パキン。


 硬い悲鳴をあげて首輪が割れた。

金属片が床に落ち、冷たい音を立てる。


 同時に、アルヴィンの体から力が抜けた。

私の肩に重みがのしかかり、荒い呼吸が耳元で震える。

彼を押しのける力は出ない。体の奥がじんじんと痛み、動きが鈍い。


「……アルヴィン、大丈夫?」


 痛みをこらえて問いかけるも、返事はない。

意識はあるが、呼吸がひどく乱れている。

血の気の引いた顔からして、魔力欠乏を起こしているのだろう。


 私はそっと目を閉じ、体の痛みを押しやって魔力を巡らせる。

熱のようなものが体の奥から立ち上がり、スキル――≪幽識≫が力を取り戻す。

沈んでいた世界の輪郭が、音もなく立ち上がる。


――構造、位置、声、気配。すべてが一度に流れ込む。


 ゆっくりと目を開ける。


「ありがとう、アルヴィン」


 ぐったりした彼の縄を、髪留めに仕込んだ黒曜石のナイフで切る。

……先に切っておけば、ここまで疲れさせずに済んだのかもしれない。


「あとは任せて。少し休んで」


 気まずさをごまかすように、私はするりと布の下から抜け出した。

張りつめたような冷えた空気が、私を迎えた。

魔法封じ破壊の一幕。

記者はこの状況をどう切り開くのか。


☆や感想を頂けましたら、これ幸い。

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