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迷宮実話 -命の対価は恥で払え-  作者: 泉井 とざま
3章:匿名記者が迫る

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第24話:記者と監視者

(記者:オルタシア視点)


 なんでこんなことになってしまったのか。

少なくとも、私のせいではない。

完全にギルドマスターの失態だ。


 厳めしい扉の前に佇んでしばらく。

口からこぼれるのはため息ばかりだ。


 本来ならば、単独の秘密調査が、急遽二人になった。

つまりは、敵に動きを読まれ、計画を邪魔されたことに他ならない。


 なんでこんな、面倒なことになってしまったのか。


 最後に大きく息を吐いて、ノックを三度。

返事を待ってから、私は重い扉を押し開け、しぶしぶ執務室へ足を踏み入れた。



 わずかに書類の積まれた大机といくつかの本棚。

部屋の端では、衝立の向こうから武骨なソファと長机が少しだけのぞいている。

さして広くない執務室は、相変わらずよく片付いている。

ギルドマスターの醸し出す地味……質実剛健な空気が、今日はどこか重たい。


 大机の向こうに座るギルドマスターは、いつもより険しい表情だ。

目が合うと、わずかに視線を下げて逸らされる。やっぱり、後ろめたいのか。


「初めまして。“兎の跳足”のアルヴィンと申します」


 その声の主は、明るい声と共に、衝立の向こうから人影が現れた。

丁寧なお辞儀に、ニコリと貼り付けた笑顔。

彼が相棒なのだろう。


「……オルタシアよ。よろしく」


 “兎の跳足”と言えば、この前の記事のパーティーだ。

その中では、一番用心と警戒の出来てた魔術師だったと記憶しているが……


「立ち話もなんだ。座りたまえ」


 ギルドマスターの一声で、私もアルヴィンもソファに座る。

だが、アルヴィンの対面に座ったせいか、ギルドマスターがピクリと表情を引きつらせた。


 気を取り直すためか、せき払いを一つ。

妙な緊張の中、ギルドマスターはゆっくりと口を開いた。


「すでに詳細は聞いていると思うが、今回は商館の地下にある違法カジノの実態調査だ」


 いつも通りの落ち着いた口調だが、わずかに言葉を探すような迷いがある。


「元々は彼女……オルタシア君に依頼する予定であったが、一部職員から私の独断と批判があってね。もう一人、アルヴィン君にも同様の依頼をさせてもらった」


 事前に聞いていた内容を簡潔に説明していくギルドマスター。

アルヴィンがいる手前、こちらも多少は驚いて見せておくべきだろう。


「ずいぶんと急な変更ですね」


「君には迷惑をかける。が、安全確保のためにも、二人行動の方がいいと判断した」


……最も、こんな三文芝居、してもしなくても同じだろうが。

問題は、アルヴィンの裏に誰がいるかだ。

それを突き止めない限り、警戒を解くことはできない。


「……自分に務まるか分かりませんが、全力を尽くします」


 生真面目なアルヴィンの返事。

緊張を滲ますその声からは、それが真実かどうかの判断はつかない。


「とにかく、安全を第一に行動してもらって構わない。危険を感じたら、すぐに引いて欲しい。」


 見渡すようなギルドマスターの視線。

それがアルヴィンを見るときだけ、一瞬、探るように鋭くなる。

だが、彼もアルヴィンの真意を測りかねているのであろう。


「必要な手はずはこちらで整えてある。準備ができ次第、出発してほしい」


 ため息を押し殺すように言葉が続けられ、短い打ち合わせは終わりとなった。



 ギルドから静かに移動し、豪華な家の一室で着飾らされた。


 着せられたのは、あの晩餐会のドレス。

相変わらず、腰回りはギュッと絞られ、息苦しい。

ふわりと広がる裾は、簡単にめくれるくせに足は動かしにくく、どうにも頼りない。


 それに加えて装飾品もつけることになってしまった。

指輪にイヤリング、ネックレス。普段なら絶対に身につけない類いのものばかりだ。

しかも、髪までセットされる羽目になり、肩くらいでザンバラにしていた髪は、あっという間に整えられてしまった。

さらに片側だけが緩く編み込まれ、黒曜石の飾りピンで留められている。


 おしゃれが嫌いな女性はいないと言う。

だが――潜入しようとする人物をここまで飾り立てる必要が、一体どこにあるというのだ。


 疑問に顔を歪めていると、ロビーでは既にアルヴィンが待っていた。

黒のジャケットに淡い灰色のシャツ、スッキリとしていながらも優雅さが滲む、実に羨ましい格好だ。


 こちらに気づいた彼は、わずかに目を見開き、すぐに柔らかな笑みを浮かべた。


「お似合いですね、オルタシアさん」


 私の感情を逆なでするのも、大概にしてほしいものだ。

しかし、ムッスリとしたままではいられない。

馬車の中では、簡単ながらに設定――二人の間柄を決める必要がある。


「僕はこの街の生まれですから、それを隠すことは難しいでしょう」

「……だったら、どうするんですか?」

「そうですね……友人から招待を受けた僕とその恋人、あたりでしょうか」

「恋人、ですか」


 思わず声が低くなる。潜入任務とはいえ、よりによってその設定とは。


「男女のペアですからね。それが一番自然かと……」


 今更、申し訳なさそうな顔をされても困る。なぜ顔まで赤くなるのだ。

理屈が通っているのは、こちらも理解している。


「分かりました。では、アルと呼んでもいいですか? 私のことは……オルタとでも呼んでください」

「はい。オルタシ……オルタ。よろしくね」


 任務のための呼称だ。そう割り切らなければ、やっていられない。

前代未聞の監視者付き潜入調査が始まる。

それでも、私に秘密は通用しない。


 私は覚悟を決めると、行く手に見えてきた目的の商館をじっと睨んだ。

正体を悟られずに、違法カジノの黒幕を突き止める。それだけだ。

カジノ調査直前の一幕。

ついに記者の名前が明らかになりましたね。


☆や感想を頂けましたら、これ幸い。

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