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迷宮実話 -命の対価は恥で払え-  作者: 泉井 とざま
3章:匿名記者が迫る

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第21話:やっぱり欲に勝てない冒険者(後半)

(辛口魔術師:アルヴィン視点)


 石室のダンジョン8階。

広めの玄室に入った僕たちは、ロックゴーレムと対峙した。

この前の記事で出てきたやつだ。

おかげで、倒し方は学んでいる。


 リリャがゴーレムの動きに合わせて膝裏を射抜いた瞬間、僕は足元の石床を沈ませた。

巨体がわずかに体勢を崩す。

その一瞬の隙を逃さず、グラモントの長剣が岩の外殻の継ぎ目を正確に突き、胸部のコアを貫いた。

核を砕かれたロックゴーレムは、そのまま崩れ落ちた。


 魔法と奇跡の補助があったとはいえ、あの僅かな隙間に通すあたり、やっぱり騎士は騎士だ。

そう感心していると、足元が僅かに震えた。


 石が擦れる重い音とともに、部屋の中央がゆっくりと開いていく。

その隙間から、磨かれた宝箱が台座と共に姿を現した。


 金で縁取られた朱塗りの宝箱は、細やかな彫り込みが光を返し、強烈な存在感を放つ。

しかし、誰も軽率に近づかない。

ただ、視線だけは宝箱に縫い付けられたように離せない。

その緊張の中で、ふと、あの日の失敗が脳裏をかすめる。


 高揚と不安が入り混じる中、誰かの喉がゴクリと鳴る音が響いた。


「……やるぞ」

フラックの小さい声に、全員が静かにうなづいた。


 その一拍の静寂を破るように、僕らは動き出した。

リリャは部屋の入口まで下がり、通路の気配を探る。

部屋をぐるりと回って確認したフラックが、グラモントを伴って宝箱を調べる。

僕とソリナは宝箱で少し離れたところから、静かにそれを見つめていた。


「……毒ガスの罠だ。間違いない。」

離れるフラックと入れ替わるようにソリナが進み出て、宝箱の前で屈みこむ。


「うん……こっちも毒ガス。結果は同じだね」

ソリナの奇跡で二つ目の確認が取れたところで、フラックが腕を回す。


「へへっ、クロスチェックも問題無し! 後は任せとけってね!」


 手に持った工具をくるくる回し、鍵穴へと滑り込ませる。

その動きは繊細だが、迷いは一切感じられない。

十数秒後――

小さな金属音が部屋に響き、蓋がわずかに持ち上がった。


 その音に、リリャが弾かれたように駆け寄った。

……奇襲の心配がないからだろうが、すっかり気が緩んでいる。


ため息をつきながら目で追うと、グラモントが宝箱から慎重に宝……鞘に納められた剣を取り出していた。


 それは、銀の鞘に納められた直剣だった。

眩しい光を返すそれは、柄に深紅の宝石がはめられ、鞘には古代語らしき文字が巻き付くように刻まれている。


「これは……大当たりなんじゃないっ!?」

「グラモント! これ、お前に似合うんじゃね?」

「うむ……!」

前衛の三人が剣を囲んで盛り上がる。


「あの、アルヴィン……」

一方で心配そうな声をあげるソリナ。

言いかけた声に、僕も目を細める。

……なんだろう、このざらついた感じは。


「君たち、盛り上がるのはいいけど気を抜かないで。」

できるだけ落ち着いた声で呼びかける。

隣ではソリナが心配そうに杖を抱え、コクコクと同調を示す。


 グラモントは剣をスラリと抜き、高く掲げる。


「見ろ、この輝き……まさに、俺のための剣だ!」

盾を新調したばかりの彼は、その輝きをうっとりと見つめた。


「うおっ!眩しい!」

「おー、様になってるじゃん!」

フランクとリリャが無責任に盛り上げる。


 ……僕らの声は、三人に届いていない。

胸の奥に嫌な予感がじわりと広がる。


「……前回も不注意でやられたの、忘れたのかな? 呪われてても知らないよ?」

冗談めかしたつもりだったが、声は自然と低くなっていた。


 グラモントは横を向いてゆっくりと剣を構えた。

だが、クルリと顔だけこちらに向けると、妙に誇らしげな笑みを浮かべる。

「呪いなんぞあるはずがない! 見ろ、この美しさを! 何の問題がある!」


 そういうのが一番危ないんだけどな……

嬉しそうに振り心地を確かめるグラモント。

二度、三度――銀の軌跡が描かれるたびに、胸の奥のざらつきがじわりと広がっていく。

……やはり、あの剣は普通じゃないっ!


 声をかけようとした瞬間、剣の宝玉が脈打つように紅く光った。


「よしっ! 次は斬り心地だぁ!」


 素振りを繰り返していたグラモントの剣先が、突如――逸れた。

その剣は、笑顔のまま、リリャへと吸い寄せられるように向かっていた。


「リリャ!」

ソリナの悲鳴より早く、影が横から飛び込む。


「危ねぇ!」

フラックがリリャを抱えるように押しのけ、二人が倒れ込む。

その背中は革鎧が裂け、赤がわずかに滲んでいる。

フラックが短く息を呑んだ。


「解呪だ! 急げっ!」

すかさず呪文を唱え、狙いを足元に絞って土を跳ね上げる。


「遅いっ!」

グラモントは空中で身を翻し、地を払うように銀閃を振るった。

盛り上がりかけていた大地が、ピタリと動きを止める。

次の瞬間、グスリと土塊へと姿を変えた。


「止まりなさいっ!」

着地の瞬間を狙って、リリャが痺れ矢を放つ。

だが、グラモントはそれを難なく叩き落とし、その勢いのままリリャへ蹴りを放った。


……いつもの彼からは考えられない、獣じみた動きと速さだ。

背中にヒヤリと冷たい汗が走る。


 剣の宝玉は一層強く、怪しく光を放つ。

笑いとも唸りともつかない声を漏らしながら、剣を揺らしてふらふらと詰め寄る


「この剣が叫んでるんだ……もっと斬れってよォ!!」


 ソリナは祈りに集中していて、盾となれる者はいない。

僕は彼女の前に立ち、杖を掲げた――その瞬間。


 ガシャーンッ!

音を立てて、グラモントが後方へ吹き飛ぶ。


 何も、見えなかった。

突如現れた“それ”は、水跡と砕けたガラス片だけを床に残していた。


「聖水だっ! 今のうちに抑えろっ!」


 どこからともない女性の声に、はっと意識が戻る。

 動かないグラモントに向けて再び土の拘束を放ち、動きを封じる。

すぐに淡い光がグラモントの全身を包み、黒い煙をあげながら呪いの残滓が焼き払われていく。


 土に塗れたグラモントが苦しげにうめき声を漏らす。

傍らに落ちた剣の柄元では、宝石が徐々に光を失っていく。


 一度、強く明滅した後――沈黙した。



「……っ、俺は……何を……?」

意識を取り戻したグラモントの顔には、混乱と後悔、そしてわずかな安堵が浮かんでいた。

短く呻きながら、グラモントは土を払い、ゆっくりと体を起こす。

その動きに気づいた仲間たちは、ほっと息をつきながら彼の周りへ集まっていった。


「呪いは……もう大丈夫そうですね」

「いやー、驚いたぜ! ほんと」

ソリナが安堵の息を吐くその横で、フラックが笑った。


「……みんな、本当に済まない。」

消沈するグラモントに、仲間たちは苦笑しながらうなずいた。


「まぁ、気にすんな! なんとかなったしな」

「あ、フラック! 背中の傷は……」

「もう治してもらったし、心配すんな。それより……」


 フラックとリリャの軽口で、いつもの雰囲気が少しずつ戻っていく。

だが、その明るさの裏で、全員がうすうす覚悟していた。


……帰ったら、また記事にされてるんだろうな。

そんな言葉が、誰の口からも出なかったのが、かえって答えだった。


 グラモントのたん瘤を見つめながら、想像する。

待ち受ける新聞で、僕らはどんな扱いをされるのだろうか。

“兎の跳足”を襲った不運の一幕。

呪いを経験したのはこれが初めてでした。


☆や感想を頂けましたら、これ幸い。

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― 新着の感想 ―
まあ真っ黒で周囲に謎の胡散臭いオーラ垂れ流してる剣なんて誰も手に取らないわなw 悪魔は天使のような顔をしてささやくってやつですね
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