第20話:やっぱり欲に勝てない冒険者(前半)
(辛口魔術師:アルヴィン視点)
「よーし! 今回も、ちゃんとやろうな!」
「「おう!」」
ダンジョン入口で拳を突き上げたフラックに、仲間たちも拳を返す。気合は十分だ。
それだけじゃない。
誰も言われるでもなく、全員が手早く装備と荷物の最終確認に取り掛かった。
……あの記事のあと、僕たちは初級ダンジョンで、基礎から鍛え直すことにした。
洞窟のダンジョンに戻り、淡霧の樹海と水脈回廊にも挑んで――今日、ここに立つ。
あの日、僕たちは失敗した。事実が消えることはない。
だからこそ、乗り越えなければならない。石室のダンジョンという壁を。
仲間たちの背中を見ながら、静かに杖を握り直した。
ダンジョンに足を踏み入れた瞬間、空気が変わった。
乾いた冷気が肌にひやりと触れ、硬い石床が足音を小さく反響させる。
松明の焦げた匂いが、奥へと続く通路に薄く漂っていた。
……前回と同じはずなのに、今日は妙に静かに感じる。
フラックが先頭で影を切り裂き、その後ろをグラモントが守るように進む。
ソリナを中心に、僕とリリャが後列を固めた。
松明の光に照らされた影が、通路の奥へ揺れながら続いていく。
罠の警戒、索敵、魔力感知――どれも丁寧で、無駄がない。
以前なら、どこかで誰かが軽口を挟んでいたはずだが、今日は違う。
足音のリズムすら揃っている。
中層を進む頃には、厄介な相手との遭遇も三度ほどあったが、どれも短く終わった。
六階では、天井の隙間に潜んでいた石接ぎムカデに襲われた。
外殻に幾つもの石片を貼り合わせたような長い体――硬さと柔軟さを兼ね備えた厄介な相手だ。
じっと獲物を待つ奇襲と猛毒は脅威だが、今回は違った。
落下の気配を察したフラックが身を翻し、奇襲を回避してみせた。
すかさずグラモントが詰め寄り、巧みな盾さばきで攻撃を寄せ付けない。
その後ろからリリャの矢が走り、二本の触覚の根元を正確に射抜く。
動きが鈍ったところへ、僕が土魔法を叩き込んだ。
足元の石床が盛り上がり、鋭い石槍となってムカデの体を貫く。
石片の外殻が悲鳴のような音を立てて砕け、巨体が崩れ落ちた。
無駄のない連携が冴え、敵を次々と倒していく。
ありがたいことに、僕は決め手の一撃を添えるだけでよかった。
ソリナの支援も的確で、前衛だけで戦況がほとんど決まってしまう状態だ。
「一度ここで休もう。楽な戦闘だったが、移動で疲労もあるだろう」
グラモントがそう言って腰を下ろす。
周囲の警戒を終えたフラックが、いち早くその場に倒れ込むように横になった。
リリャが火を熾し、ソリナが食事の準備を始めると、場の空気がふっと和らいだ。
ぱちぱちと弾ける音が、石室の冷たさを少しだけ追い払う。
「今日、調子いいね」
「俺はもう疲れたよ……」
リリャが笑い、フラックが愚痴る。
そのやり取りに、ようやくいつもの“兎の跳足”らしさが戻ってきた気がした。
黙々と剣の手入れをするグラモントと、嬉しそうに動くソリナ。
僕は温かいお茶を片手に壁へ寄りかかり、周囲を見張りながら、その様子を静かに見つめていた。
「しっかし……今回は本当に順調だよな。もう六階層だぜ?」
むくりと体を起こしたフラックが、パンに手を伸ばしつつ呟く。
「前回もここまでは来れた。問題はこれからだ」
「あ、あの……その言い方はその……」
むっつりとしたままグラモントが言うと、ソリナが困ったように諫める。
「まあ、事実だけどね。でも失敗の責任は、みんなにあるから」
リリャが火ばさみで薪をつつきながら苦笑する。
「あの記事なー! おかげで俺なんて“片手落ち”って呼ばれてるんだぜ?」
フラックがパンを振り回しながら嘆いてみせる。
「だけどそれも今日まで! 汚名を挽回? 返上? して見せる!」
「……で、フラックはちゃんと両手を準備できてるのかい?」
僕がそう言うと、フラックがニヤリと笑って胸を張る。
「万全だぜ! いや、“3つ目”も準備してあるんだ。抜かりはない!」
「それはあんたの手じゃないでしょうに……」
リリャが呆れたように眉をひそめる。
「べ、別にいいだろ! 分け前が平等なら手柄も平等ってな!」
「はいはい。最後にものを言うのはフラックの鍵開けなんだから、好きにすれば?」
「そうだろ? 俺のお手々は貴重なんだよ」
「手柄平等はどこ行ったのよ」
ひらひらと手を振るフラックと呆れるリリャを眺めつつ、僕は湯気の立つお茶を口に運ぶ。
再挑戦で肩の力が抜けてないと思ったけど、それも問題なさそうだ。ただ――
順調すぎるのも、それはそれで物足りない。
いや、別にアクシデントを望んでいるわけじゃないんだけど。
そっとため息を落とす僕の足元を、奥から流れ込む冷えた空気がひやりと撫でていった。
4話から再登場した“兎の跳足”の一幕。
順調に攻略を進める先に待つものは――
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