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迷宮実話 -命の対価は恥で払え-  作者: 泉井 とざま
2章:テーマは『真実に迫り、読んで、笑って、ためになれ』

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第18話:秘密の会合

(記者:✕✕✕✕✕視点)


 澄んだ空は茜色から群青へと移ろい、街灯がひとつ、またひとつと灯り始める。

窓の外には、夜の帳がゆっくりと街を覆い、石畳の通りに柔らかな光が落ちていた。


 そんな景色を背に、私は白を基調とした綺麗な部屋の入口に立っていた。

小ぶりながらも煌びやかなシャンデリアが降り注ぐ光を反射し、金と琥珀の色合いが壁や床を染め上げる。

壁には見事な銀糸の刺繍が施された絨毯が張られ、テーブルには白磁の皿と磨き抜かれた銀器が整然と並んでいる。

まるで、貴族の晩餐のようだ。


 晩餐に招待された私は、送られてきた若草色のドレスを着て席に着いていた。

布地は艶やかで重みがあり、裾には細工の細かい宝石が散りばめられている。

よく分からないが高そうで、着慣れない窮屈さが全身を締め付ける。

その落ち着かない様子を見て、向かいに座るギルドマスターは、愉快そうに笑いながらワインを傾けた。


 グラスの中で赤い液体が揺れ、シャンデリアの光を受けて深い紅が煌めいた。

「よく似合っている。普段の君からは想像もつかない姿だ」

口元を緩め饒舌に語るその姿には、手紙のような四角張った硬さは見られない。


私は肩をすくめ、窮屈なドレスの袖を直す。

「記事を書くのに、こんなドレスは必要ないんですけど」

先代記者であるギルドマスターに皮肉を込めて返すと、彼はさらに笑みを深めた。


「今日は、先日のお礼でもある。寛いでくれて構わない」

流石の私でもテーブルマナーくらいは知っている。

礼を欠かないように注意しつつ、運ばれてくる料理に舌鼓を打った。


 白身魚と風味と香り高いソースが舌に広がる。

思わず表情を緩める私を見て、ギルドマスターは満足げに頷いた。

そしてゆっくりとグラスを置きこちらを見つめる彼の声色が、落ち着いたものへと変わる。


「――孤児事件の顛末、あれは見事だった」

置かれたグラスの赤い液体の揺らめきに目を落としながら、彼は続ける。

「君の記事が冒険者たち受け入れられたことが決め手となった。あの孤児たちはしっかりとギルドで保護している」


 私はナイフを置き、肩をすくめる。

「私は大したことはしていません。先代の采配のおかげですよ」

「私の力だけでは無理だったよ。規則はなくても罰則を望む声は多かったんだ」

背もたれに軽く身を預け、細めた目がこちらを見た。

「君の誠意が冒険者たちを納得させ、孤児たちの未来を拓いたのだよ」


 私は小さく息を吐き、グラスの縁を指でなぞった。

「誠意なんて大げさですよ。皮肉を並べただけです」

そう返しながらも、孤児たちの、こちらを見返すまっすぐ瞳が脳裏に浮かぶ。


「ところで、そのドレスの着心地はいかがかね? シルクスパイダーの良いところだけであつらえた一品なのだが」

ギルドマスターが指先で髭や顎を撫でながら、こちらを見る。

「なるほど、窮屈なわけです。この日のためだけに、わざわざこんなものまで用意するなんて」

私は口元を拭きながら、目を閉じて答えた。

ドレスコードとして必要だったとしても、少々――いや、かなりやりすぎだ。

運ばれてきた食後の紅茶と一緒に、ため息を飲み込んだ。


「やりすぎではないさ。なに、記者の活動には時に、そういった衣装も必要になる」

彼は断りを入れて、煙管に火を入れてゆるりとくゆらす。


紫煙がゆるやかに空へと溶け、紅茶の香りと混じり合う。

短い沈黙の後、意味を測りかねる私とギルドマスターの視線が交わる。

「記者殿に、違法カジノへの潜入を依頼したい」

「違法……カジノ……」


「記者殿が知るように、この冒険者の街は、未だ多くの問題を抱えている。冒険者の出入り、裏町の存在……表に現れぬ人や取引」

吐き出された紫煙がゆるやかに漂い、彼の声はさらに低く落ち着きを帯びる。

「表向きは活気に満ちているが、裏では武器や薬物が流れ、わせるようにギルド資金もどこぞへと消えている」

彼は一拍置き、紅茶のカップに視線を落とした。

「だからこそ、目に見えぬ真実を拾える者が必要なのだ。――記者殿、君の目と耳が」


 彼は煙管を置き、組んだ掌に顎を乗せ、目を閉じた。

「残念なことに、ギルドとしての動きは筒抜けだ。恐らくは、スパイ……幹部級に裏切者がいる」

ゆるやかに開かれた瞼が、私をしっかりと見据えた。

「故に今回の依頼は、ギルドからではなく、私個人からの依頼となる」


「……こっそり忍び込んじゃダメなんでしょうか? あ、いえ、泥棒とかしませんよ?」

「どうやら、とある商館の地下にあるようでな。魔法避けが施されているだろう」

なるほど。

だからこれを着て、堂々と客として乗り込めという事か。


「紹介状の入手には、しばらく時間がかかる。時期は改めて連絡しよう」

「わかりま――あ、最後にひとついいですか?」

「なんだ?」

「カジノの交遊費は、経費でいいでしょうか?」


ため息に乗って返事が返ってきた。

「……とにかく、安全が第一だ。」


ジトッとした目が「何を言っているんだコイツ」と言っている。

解せぬ。

こんなの大層なを着た情報収集なんて、たまったもんじゃない。

そもそも私は間者ではなく、記者なのだ。

楽しみくらいあったっていいじゃないか。

先代との会話の一幕。

おしゃべりでは気軽な二人!


☆や感想を頂けましたら、これ幸い。

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