第17話:迷宮実話 第52号:根こそぎ騒動 ギルドの判断は?
この記事を肴に今日の冒険の成功を祝う立派な冒険者諸君。
諸君らが受けた最初の依頼は、何だったであろうか?
溝さらい、荷物運び……はたまた、飼い猫探し。
駆け出し冒険者への依頼は数多く存在するが、この街の多くの冒険者は“薬草採取”を勧められたのではなかろうか。
観察力を鍛え、知識を積み、仲間との連携を学び、そして、依頼受注から達成までの仕組みの理解を深める。
駆け出しの薬草採取には、冒険者の基礎を鍛える多くの物が詰まっている。
だが、その採取を脅かす存在がいる。
現在、”根こそぎ”による被害が深刻化しているのだ。
根こそぎとは、植物や生物などの再生を促すための残しをせず、全てを取り尽くす行為。
明確な罰則があるわけではないが、どのギルドでも、冒険者の常識として叩き込まれる禁止事項だ。
では、この“根こそぎ”とは何者なのか?
今回の記事では、その正体を追い、とある冒険者の目に余る失態とともに、事件の顛末を記すことにしよう。
まず、私の調査で得られた情報を列記していこうと思う。
読者諸君はこの情報から見事、“根こそぎ”の正体を見抜くことができるだろうか?
酒に浸った頭で思考を放棄したい者は、二十行ほど飛ばしてもらって構わない。
しかし、見事に犯人を当てて周囲を唸らせる機会を失うとは、何とも惜しいものだ。
聞き込みによる情報は、以下の三点だ。
一.街では、東の森で採取地が荒らされているという噂が広まっている。
だが、確かな目撃談はなく、その被害は徐々に広まりつつあるらしい。
二.一方で、薬屋や商店には怪しい入荷や安売りは見られない。
流通自体は普段通りで、被害による価格の高騰には、すでにギルドが対応をとっている。
三.このように、ギルドも“根こそぎ”の被害を把握し、正体を追っている。
また、依頼外で犯人探しに躍起になる冒険者もいて、内部は少し荒れ始めているらしい。
現場確認も調査の基本。私も例にもれず、根こそぎの被害に遭った東の森へと向かった。
そこで得られた情報は、次の三点だ。
一.森へ向かう面々は、狩人や木こり、森の恵みを求める市民、護衛を兼ねた採取依頼を受けた冒険者。
怪しい人物は特に見られない。
二.荒らされた採取地では、薬草は、薬効の強い根や新芽を残したまま、茎の途中で折られるように、乱雑に刈り取られていた。
この粗雑な刃の痕跡は、採取の基本を知らぬ者の手によるものだろうか。
三.被害は森の浅い地域に集中している。
全体で見れば大した被害ではないが、このまま被害が広まれば、捨て置けない問題となるだろう。
――さて、聡明な読者諸君には、犯人の目星はついただろか?
欲をかいた新人冒険者、日陰を歩む無法者、ただギルドを困らせたいだけの愉快犯か……
調査を進めた私は、ついに根こそぎの犯行現場に遭遇することに成功したのだ。
朝の冷たい空気を残す中、その日も人々は森の恵みを求めて歩みを進めていた。
背負籠を担いだ冒険者の多くは、殻の取れぬひな鳥のような初々しさを漂わせ、城壁から森の入り口までのわずかな距離であっても、護衛の緊張を隠しきれない。
だが冒険者の中に、足取りに覇気を欠き、怠惰な空気をまとった一団があった。
その姿は、もはや森へ挑む者ではなかった。
薄汚れている割に使い込まれていない装備の数々は、日銭を求める労働者と形容する方がふさわしいくらいだ。
彼らは護衛に励む同業者を横目に、まるで関係ないとでも言いたげに、談笑へと身を委ねていた。
彼らの採取は、実にのんびりとしたものであった。
仕事としての最低限を見極めたかのような採取の手際は、ある種の職人芸と言ってもよい。
風に乗り聞こえてくるそんな彼らの話題も、奇しくも“根こそぎ”についてであった。
「許せない」
「捕まえてやる」
彼らにも、ギルドを困らせる者を憎むだけの奮義の心が残っているのだろうか?
「次まで結構歩な……」
「根こそぎのせいで……」
やはり、ただの愚鈍な怠け者であった。
その証拠に、次の採取地点へだらだらと移動する彼らは、後をつけている存在に全く気付いていない。
私にはもちろん、根こそぎにもだ。
冒険者が去った採取地点に、いくつもの小さな影が飛び込む。
茂みから飛び出した彼らは、急くように残りの薬草をかき集め、粗末な麻の袋へと詰め込む。
読者諸君も、もうお分かりだろう。
根こそぎの正体は、孤児の一団だったのだ。
彼らが行っている行為――根こそぎは、禁止事項ではあるが、明確な犯罪ではない。
場合によっては必要な分量を確保するために取りつくさなければならない事態もあるが故の、非明文化だ。
しかし、冒険者の常識からすれば違反であり、森の恵みと共に生きる者の目にも、明らかな逸脱として映る。
孤児である矮小な彼らが生き抜くために、知恵を働かせた結果、閃いたやり方だとしても、このやり方は長くは続かない。
近い将来、依頼を正しく全うする冒険者に咎められるか、怠け者の怒りの矛先として制裁を受けるか……
今回の根こそぎ達はそのどちらでもなく、最も身近な危険に遭遇することとなった。
突如として現れたゴブリンが、孤児たちを取り囲んだのだ。
森は恵みをもたらす一方で、多くの危険を孕んでいる。
森の浅い場所ならまだしも、少しでも踏み入れば、そこは魔物の領域なのだ。
孤児たちは粗末な袋を抱えたまま逃げ惑った。
しかし、逃げる先々からゴブリンが現れ、孤児たちの行く手を遮る。
ひととこに追い詰められるように集まった孤児たちの顔が絶望と諦めに染まると、ゴブリンたちは嬉しそうに不快な声を上げた。
その時、孤児たちを救ったのは怠惰な一団ではなく、別のひとりの冒険者であった。
武器を構えゴブリンたちと対峙しながらも、孤児の中のリーダーへと声をかける。
「生きるためにあがくことは否定しない。だが、このやり方に未来はない」
冒険者の背後から飛びかかる影をくるりと躱し、流れるように切りつける。
多勢に無勢をものともせず、迫りくるゴブリンの群れをいとも簡単に制圧して見せた。
孤児たちは冒険者の強さと言葉に打たれ、乱雑な採取をやめると誓った。
彼らの改心はギルドからすれば、小さな事件の解決に過ぎないだろう。
しかし、孤児たちには、大きな意味を持つこととなった。
現在、孤児たちはギルドに引き渡され、長く果てない説教と言う名の猛省を強いられている。
そして、それだけで解放されるわけではない。
彼らはギルドが考案している冒険者のための短期養成課程である“冒険者塾”の犠牲……ではなく、栄えある試し駒となる予定だ。
この塾は、引退冒険者による座学と実技指導を持って、何も知らないひよっ子を新米程度に鍛え上げるという狙いがある。
――さて、読者諸君。
今回、孤児たちはギルドの暗黙のルールを破った。
生きるためとはいえ、我々の領分を犯した事実は消えることはない。
しかし、たかが孤児如きの悪戯を見抜けなかった我々もギルドも、等しく間抜けであったのだ。
幸い、今回の騒動は、生活への影響はほとんどない。
であれば、我々がすべきことはなんであろうか。
それは、第二の根こそぎを生まないための努力であろう。
少なくとも私は、同じ過ちを繰り返す間抜けにはならぬつもりだ。
最後に、おいたをした孤児たちの今後の成長と活躍を、少しばかり期待している。
それが、先達の余裕というものだろう。
そして彼らが一人前になった時、今日の騒動をほじくり返し、酒場の卓に肴を並べてやろう。
※本記事は、冒険者の反省と酒場の肴を兼ねてお届けする。
失敗は誰にでもある。だが、次に笑われるかどうかは、諸君の運と記憶力次第だ。
記:醜聞記者
孤児たちの顛末を記した一文。
どうやら記者は、ギルドに太いパイプがあるようですね。
☆や感想を頂けましたら、これ幸い。




