第16話:“根こそぎ”を追って(後半)
(記者:✕✕✕✕✕視点)
「君たち、街の子か?」
私は姿を現し、彼らに声をかけた。
子供たちは一斉に手を止め、こちらを強くにらむ。
素材を詰める手は止まったが、逃げる気配はない。
「なんだよ?残ってるのを貰ってるだけだ。もういらないんだろ?」
リーダー格なのか、背の高い少年が一歩前に出ると、別の子がもつ素材の束を顎で示しながら言った。
「違う。それは“残っている”のではなく、“残している”もの」
「だからなんだってんだ。そんなの俺たちには関係ないね。」
少年は手ぶりで仲間に作業の再開を促そうとした――
その動きを、シャキンという刃の音で制した。
「残飯漁りのつもりならやめた方がいい。ギルドは、君たちを追っている」
手に持つナイフに、子供たちの目が鋭くなった。
刃物への警戒か、はたまた女である私への侮りか……
その視線は、言葉よりも多くを語っていた。
「名前なんてどうでもいい。残して何になる! 俺たちにだって必要なんだよ!」
少年の言葉が刺さった。
確かにギルドから見れば“根こそぎ”はマナー違反だ。
でも、彼らにとっては、生きるための手立てであり、命がけの仕事。
それでも私は、彼らを止めなければならない。
こんなやり方は長続きしない。
モンスターか、あるいは別の冒険者によって制裁されるのが落ちだ。
だが、それを語ることで何が変わるのか――
その時だった。
孤児たちの背後の茂みから、ガザりという物音とともに、ゴブリンが姿を現した。
孤児たちの動きは素早かった。
素材を放り出し、一目散に、そして散開するように左右に散った。
誰かが囮になってでも生き残る。
それが、彼らの生き抜く術なのだろう。
だが、それはゴブリンにとっても計算のうちだった。
最初に姿を見せた個体は囮。
すでに、私たちは囲まれていた。
左右の木の影から現れるゴブリンたち。
行く手を塞がれた孤児たちは、結局、中央へと追い詰められる。
怯え、諦め、絶望……それらの感情が彼らを支配すると、ゴブリンどもが不快な声を上げて沸き立つ。
私は孤児たちを挟んで前方と左右――半包囲の形で、ゴブリンと対峙する。
そんな中、武器を構えたまま動かない私に向かって、少年が叫んだ。
「あ、あんた冒険者なんだろ! 助けてくれよ!」
助けを求める声に反応して、ゴブリンどもの視線も私へと向く。
この場で唯一武器を持つ私を、警戒する程度の知能はあるらしい。
「……対価は、払ってもらう」
私の言葉に合わせるように、背後の茂みから、影が飛び掛かってきた。
ゴブリンたちは、私を最も危険な存在と見なし、注意を引きつけた上で――
背後からの奇襲を企てたのだ。
振り向くことなく、私は姿勢を低くして奇襲を躱す。
すれ違いざまに刃を振るい、ゴブリンの背を斬り裂いた。
なんてことはない。
私には、最初から“分かっていたこと”だ。
目の前の傷に呻くゴブリンを蹴り倒して、孤児たちに近寄る。
「しゃがんで!」
腰の短杖を引き抜きながら声をかけ、素早く呪文を唱える。
「風の刃」
振り抜いた杖に合わせて、鋭い風が走る。
空気が裂ける音とともに、風の刃がゴブリンの体を斬り裂いた。
それを五度、木々の合間を通すように繰り返す。
風の軌跡が駆け抜けるたびに、ゴブリンたちは次々と倒れた。
あっという間に、群れは壊滅した。
風が止み、森に静けさが戻る。
倒れたゴブリンの死骸と、呆然と立ち尽くす孤児たち。
その中で、少年が一歩だけ前に出た。
「……助かった。ありがとよ」
だが、その声には礼よりも、警戒の色が濃かった。
私を見上げる目は、まだ信じていない。
それでいい。
この世を生き抜くなら、それくらいでちょうどいい。
「で、対価ってやつはなんだ? もう邪魔するな、って言うのか?」
大人に屈することへの怒りと、抗いきれない現実への予感。
少年の声には、反発と諦めが混じっていた。
「それでも、いいんだけどね」
私は短杖を収め、静かに言葉を続けた。
「でも――もし、今より真っ当に生きられる道があるなら。そのために努力する覚悟は、ある?」
「な、なにをさせるつもりなんだ……」
少年の声が揺れる。
「安心して。警邏隊に突き出すわけじゃない」
疑念が晴れることはないが、一応、そう伝えておく。
「少なくとも、今よりも堂々と、ここへ来られるようになるはずよ」
私は孤児たちを引き連れて、帰り道を辿る。
――ギルドが“根こそぎ”の件を私の判断にゆだねるというなら、
私も、ギルドを利用してやろう。
記者VSゴブリン軍団の一幕。
背後の攻撃を見ずに捌く……いいよね。
☆や感想を頂けましたら、これ幸い。




