第14話:迷宮実話 第50号:依頼はギルドを通せ
ついに50回を越えた迷宮実話だが、いつも多くの冒険者諸君の反応があり、嬉しく思う。
中には「酒場の肴にちょうどいい」と言う者もいれば、過日の失敗を思い出し、羞恥と怒りに身もだえる者もいるだろう。
心優しき私は、諸君らが記事のネタになることよりも、これからも“娯楽新聞”であり続けられることを、一重に願っている。
さて、この迷宮実話が張り出されている“ギルド酒場の掲示板”。
我々が日々依頼を受け、報酬を受け取り、時には愚痴をこぼす――そんなギルドの一角だ。
だが、諸君はその“ギルド”が、どんな仕事をしているか、ご存じだろうか?
まさか、依頼の仲介という名の“中抜き屋”だとか、仕事終わりの冒険者の懐を狙った“飲食屋”だなんて思ってはおるまいな?
確かに、酒場の飯は安いものから高いものまで豊富に取り揃えられている。そして、ギルド職員の笑顔は妙に眩しい。
だが、それだけでギルドの仕事を語るには、あまりに浅い。
今回は、そんなギルドの役割の一つを紹介しよう。
スラムに近い安酒場で、私的な依頼を受けたのは、若い冒険者の兄妹だった。
彼らの前に現れたのは、貴族の使いを名乗る男。
上等な外套、柔らかな物腰、そして“信頼できる筋からの依頼”という甘言。
報酬の一部を孤児院への仕送りに充てるため、兄妹はその依頼を引き受けた。
依頼内容は、断絶した家の墓所に現れたアンデッドの浄化。
ギルドを通さない直接依頼。
理由は「手続きの煩雑さ」と「報酬の中抜きを避けたい」という、いかにも“冒険者思い”な言葉だった。
彼らは、依頼主の言葉と報酬の約束を信じた。
そして、自分たちの行動が誰かの役に立つと信じていた。
結果だけを言えば、彼らは依頼を完遂した。
礼拝堂の地下に潜り、祈りと剣でアンデッドを浄化し、墓所を清めた。
前金を使い準備を整え、慎重に、丁寧に、時間をかけて。
数日の後、彼らは“正しく”仕事をしたのだ。
だが、帰還後に待っていたのは、報酬ではなかった。
依頼主は豹変し、彼らを「墓荒らし」と罵った。
それもそのはず。
兄妹が浄化に向かったのは、街外れの教会地下――ギルドですら近づくことを許していない、“前領主の土地”だったのだ。
「黙っといてやってもいいんだぜ? お嬢さんさえよければな」
兄妹を騙した男は、低俗な欲望を隠しきれない、いやらしい笑みを浮かべながら、違反を盾にさらなる脅しをかけた。
その言葉に、兄は咄嗟に妹を庇い、反論した。
「契約はした。墓を清めただけだ」と。
しかし、証拠はない。契約書も、記録も、何もない。
ギルドを通さない依頼は、依頼主と冒険者の“信頼”だけで成り立っている。
そしてその信頼が裏切られた瞬間、そこに残るのは――支配者と弱者だ。
今回は“たまたま”事前に情報を得ていた私が、ギルドに報告しておいた結果、兄妹は九死に一生を得ることとなった。
抵抗を決意した兄と、男の護衛が剣を抜くその瞬間――対冒険者警邏隊が踏み込み、詐欺師とその仲間を拘束したのだ。
警邏隊の先頭に立つ男は、柔らかな笑みを浮かべて言った。
「ご挨拶が遅れてすみません。ギルドの契約の取りまとめをしている者です」
詐欺師が立ち上がろうとした瞬間、背後から隊員が肩を押さえ、あっという間に拘束する。
護衛を名乗っていた男も短く抵抗したが、床に叩きつけられる音とともに、あえなく沈黙した。
「墓所に向かった仲間の方々は、すでに拘束済みです」
その一言に、詐欺師の男から血の気が引いていく。
彼は兄妹を脅すために不法な依頼をさせただけではなかった。
兄妹が懸命に清めた墓を、浅ましくも荒らすことを企てた――盗掘団の幹部だったのだ。
「抵抗は無意味です。すべて記録に残りますよ」
がっくりと首を垂れたまま、部屋の外へとならず者どもは連れていかれた。
その様子を、兄妹はただ見ていることしかできなかった。
今回の件では、兄妹はギルドの介入によって、無事だった。
これは、情報提供を受けたギルドが、素早く事実確認と対処を行った結果である。
アンデッド発生は事実か?
依頼をした人物は何者か?
依頼を受けた人物は?
領主への説明と解決策はどうする?
様々な過程を経て、今回の事件は二つに切り分けられた。
一つは、盗掘団による“依頼を語った詐欺”。
もう一つは、アンデッドの発生した地下墓地への“正規の対処”。
ギルドという組織が、記録と手続きによってそれを可能にしたのだ。
故に兄妹は、アンデッド対処に向かった冒険者として、立ち入りに対する刑罰はなかった。
――が、今回の事件に関して、数時間に及ぶ説教を受けることになったが、やらかしたことを思えば寛大すぎる処置だろう。
そもそも、ギルドを通さない依頼は違法ではない。
だが、そういった依頼を受けるときに必要なのは、「信用」と「信頼」だ。
それがなければ、冒険者は簡単に使い捨てにされる。
今回の事件もそんな“よくある冒険者の悲劇”の一例に過ぎない。
奴らは嘘と笑顔で諸君らに忍び寄る。
知らなかったは通用しない。
知ろうとしなかった者から、最初に切り捨てられるのだ。
だからこそ、冒険者は自分の身を守らねばならない。
――依頼はギルドを通せ。
それは学のない冒険者諸君ができる最初の学びだ。
※本記事は、冒険者の反省と酒場の肴を兼ねてお届けする。
失敗は誰にでもある。だが、次に笑われるかどうかは、諸君の運と記憶力次第だ。
記:醜聞記者
ギルドが事件を素早く捌く一文。
普段は地味でも、やる時はやります。
☆や感想を頂けましたら、これ幸い。




