殺しちゃった
首を絞めて殺してしまった。
雅史は弟の正史を殺した。
何故殺すことになったのか、それは弟が学校に行かなくなり、その理由が同級生の女の子に告白したところ、その子は既に彼氏がいて、その彼氏が雅史の同級生、賢治であったのだ。その賢治が自分の女に手を出したことが許せないということで弟をいじめた。よって学校に行けなくなった。ただそれだけなら良かった、その怒りの矛先は兄の雅史に向いたのだ。
必要にいじめられる日々、しかし大学受験の控えた大事なときに休んでいられない。
だけど学校に行くと虐められる。なんでこんな目に、そう思った時答えにたどり着いた。
正史のせいだ。
そう気づいた時には2階の部屋に閉じこもっている弟の扉をぶち破り首を絞めていた。
いじめに対抗するために鍛えていたこともありあっさり絞め殺せてしまった。
自分のやってしまったことに動揺していると玄関からただいま~と母の声が。
どうしようと考えているとただいま~ともう一声。
父も帰ってきたのだ。
いつもなら遅く帰ってくる二人がこんな時に限って早く帰ってくるんだ。悪態を心の中で突きながらなんとか隠そうと考え辺りを見回す。すると、どうだろう。悪魔でも呼び出しそうな儀式を始めようとするかのようなろうそくや血で描いた魔法陣のようなものも地面や壁に描かれていた。
弟が何をしようとしていたのか、今となっては分からないが恐怖している暇はなかった。兎に角、弟を隠さなければならない。そう思った時、一つ思い出した。幼かった頃、この部屋の押し入れの中に隠れた時のこと、押し入れの天板が外れて隠れることができ、弟に見つけ出されずそのまま寝てしまって大騒ぎになったことを。
そこならば死体を隠し通せるかも知れない。そう思い正史の死体を担ぎ上げ、押し入れの天板をずらして押し込んだ。
母と父と何食わぬ顔で対面し、弟はいつも通り部屋で引きこもっているのだからご飯だけ置きに行って顔すら見ない両親は気づきもしなかった。
良かったと思っていたら、元気だったじいちゃんがぽっくり逝ってしまった。
ただ死んだのならいいのだが、よりにもよって2階の正史の部屋の前で死んだ。
何かを言いたげな目で扉を見つめたまま死んだ。
そのおかげで正史が中にいないことを殺してから3日後に見つかったのだ。
じじぃめ、なんで部屋の前なんかで死ぬんだよ。
だが、弟が失踪したことを両親は余り気に病んでいなかった。薄情な親だと思いもしたが好都合だった。
じじぃの死体を一階の寝室に寝かしたままであったが、それは湯灌をするためだと知ったのは今日の明け方久しぶりに親と会話したのをきっかけに知った。
湯灌に来た女性が二人だったがどちらも毛色の違う美人で少し邪な思いを寄せたが、丁寧な物言いの高野憑さんはどこか言い表せないような強さを感じ話すことも憚られた。
別にバレることはないだろうが殺してから数日だが、バレないか心配しているのに、人を家に招き入れるのはとても心にくるものがある。
もしバレたらどうしようと考え、今の自分なら女性2人ぐらいなら殺せるかも知れないと考える、特に美人な2人は殺したらたっぷり可愛がる事が出来る。
逆にバレないかなと考えがよぎる。自然と目線が2階の方を観ていた。
湯灌が終わり、諸々の注意事項を親が聞きながら礼を述べた
その後問題が起こった。
急に高野憑さんが2階を見て口にしたのだ。
「いきなり失礼だとは思いますが、この上って何かしまっていらっしゃいますか?」
驚きのあまり、口がすぐに動いた。
「な、なにも!2階は使ってないです!!」
勢いよく口にした言葉に両親と西条さんは驚きの表情を見せたが、高野憑さんは綺麗な微笑を浮かべたまま何も反応しなかった。
「そうでしたか。大変失礼致しました。ではこれで失礼致します。」
2人は綺麗にお辞儀をして家を去った。
いざ何かを勘付かれるとこうも反応してしまうものなのかと反省する。しかし、何故高野憑さんはあんな事を言ったのだろうか。殺しておくか?
そんな簡単に殺せるか?
そんなことを考えていると2階からギギギギギギと、何かを引きずる音がした。
ギギギギギ――。
まただ、聞き間違いではない。何かを引きずる音が続いていた。
「正史? 戻ってきたの?」
母の声は震えながらも、期待に満ちていた。
父も「やっとかえってきたか」と階段を上がっていく。
雅史はその背中を見つめながら、喉の奥で笑っていた。
――馬鹿な。あいつはもういない。俺が、この手で絞め殺したんだ。
押し入れに隠したあの冷たい体を思い出す。
血の気の引いた顔、首にくっきりと残った自分の指の跡。
どうあがいても、いるはずがない。
それでも音は確かに響いていた。
ギ……ギ……ギ……。
まるで誰かが畳を這いずるように。
二階に上がると、押し入れの前で両親が立ち尽くしていた。
そこから、黒ずんだ指がにゅるりと飛び出していたのだ。
骨ばった腕が床を掴み、ずるずると這い出してくる。
「た……正史……?」
母が泣き崩れる。
父は腰を抜かし、ただ呆然と見ていた。
押し入れから這い出したのは、正史の死体だった。
目は真っ赤に腫れ上がり、舌を突き出し、首には無数の痣。
だが、そいつは確かに動いていた。
「……にい……ちゃ……」
雅史の心臓が跳ねた。
あり得ない。死んだはずなのに。
次の瞬間、正史の濁った瞳が全員を見渡した。
その視線は燃えるように憎悪に満ちていて、言葉よりも強く胸を抉った。
空気が重くなる。
呼吸ができない。
身体が勝手に動き、雅史は窓際へと足を進めていた。
母も、父も、同じだった。
三人揃って、糸に操られる人形のように窓辺に並んだ。
「や……やめろ……!」
必死に抵抗するが、足が止まらない。
視界の端で、正史の口が裂けるように笑った。
「みんな……おなじに……なろうよ」
その声を最後に、雅史は自分の体を制御できなくなった。
三人同時に窓を開け、身を乗り出す。
夜風が頬を打った瞬間、背中を冷たい手が押した気がした。
ドン――。
鈍い音とともに、雅史の視界は闇に沈んだ。
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翌朝。
二階の押し入れは、きれいに片付けられていた。
血の跡も、魔法陣も、何も残っていなかった。
ただ、家の前には三人分のぐちゃりとした肉塊が散らばっていた。
その傍らに、小さな影が座っていた。
首を傾げ、ニタリと笑いながら。
「……にい……ちゃ」




