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厄災の黒領主 〜追い出され貴族は辺境の地で領主になる〜  作者: 三ケ猫のしっぽ
シーズン1 『厄災の晩餐会編』・『厄災の旅路編』
8/73

08. 怒り

『あらすじ』


ランスロット家の第七子・エクセラの誕生記念パーティーであることを知ったシユウは、少しばかり上機嫌に。しかし幸せも束の間ーーアメリアとキースの喧嘩騒動を聞きつけたシユウは、そこで右目に違和感を覚えるーー。彼の持つ「未来眼」が、警鐘を鳴らしていたのだーー。アメリアを救うために……シユウは覚悟を決めたーー。


  「あんたの事なんか大嫌い!!あんたはわたしの大事な人を……ローラを……。あんたのせいでーーあんたがっ!!……逃げろって言ってたのに…………、勝手に部下を引き連れて〝厄災の魔女〟に立ち向かったから……ローラは……ローラはーー!!あんた達の尻拭いの為に殺されたのよっ!!…………絶対に許さない!!……何が『誤解があった』なのよ!?……ただ見栄を張りたいだけじゃないーー!!ちょっと顔がいいからって…………公爵家に生まれたからって…………それだけじゃない!!()()()()()()()はただのハリボテよ!!」


  ぼろぼろーーと涙をこぼしながら、アメリアは言い続ける。

  腹の内に抱えた不満や苦しみをーーこの三年間彼に対して抱いていた怒りと憎しみを……。

  きっと、アメリアの時計はまだ進んでいないのだ。ボクと出会った三年前ーーそれより少し前の、大事な人を……ローラを失ったーーあの日から。


  「…………君は、とてもすごいよーー。あの日の僕は愚かだったーー本当にすまない」


  (やめろよ…………本心じゃ無いんだろうーー?)


  「君はその若さで《炎魔法》を使えるそうじゃ無いか……?魔法を操る事は決して簡単じゃ無いーーきっと、ローラさんの教えがよかったんだろうーー」


  (やめてくれ………………これ以上ーー彼女の心を傷つけないでくれーー)


  「僕の父上は厳しい人でね……。君との縁談を上手い事破談にできるように強制されたんだよーー。大丈夫ーー。父上の事は何とかする。ボクの元に来てくれれば、決して不自由になどはさせない……。君の事は僕が必ず守るーー。」


  (一体……お前がこの子の何を知っているんだーー!)


  「大丈夫だよアメリア……僕は君の事をーー」


  「………ぅるっさい」


  アメリアの心はーーキースの演説とは対照的で完全に冷え切っていた。


  「…………え?」


  「…………うるさいって……言ってんのよっーー!!」


  アメリアがキースに向かって殴りかかるーー。


  「パシィィィィィンッーー!!」


  しかしすんでの所でシユウが割入ったため、その拳はシユウの手のひらへと吸い込まれていったーー。


  「っーー!!……シユウ…………何で」


  「ダメだよ……アメリア。こんな奴のために手を汚しちゃあーー」


  キースの言葉に我を失いかけたけど……間一髪間に合ってよかったーー。

  でなければ今頃、「未来眼」で見た通りの取り返しのつかないことになっていただろうーー。


  「ひいっ!?……こんなに僕が歩み寄って婚姻の話まで持ち出したってのに暴力を振るおうとしただなんて…………なんて野蛮なんだ!!……アメリア!!父上に言いつけて君の父親から領地を剥ぎ取ってやるからな!!僕の父上は君の父親の直属の上司だ!!僕が言えばきっとーー」


  「……黙れよお前ーー」


  「っーー!!!」


  自分でも、ここまで怒りを覚えたのはいつぶりだろう……。

  どす黒い感情が、腹の底から湧き上がるーー。今までどれだけ蔑まれようと、疎まれようと、大して()()という感情を抱いた事は無かったーー。

  でも今は、はっきりとわかる。……ボクはこいつを許したく無い。

  許しちゃいけないんだーー。


  ボカッーー!!


  「っーー!!ぐわはあっーー!!」


  顔面を思い切り殴りつける。会場は一斉にしんっーー、と静まり返った。


  やがてポタッ、ポタッと時計の針が動き出すように……キースの鼻や口から血が溢れだす。


  「っーー!!こいつ……僕を殴ったあ!!」


  「シユウさんーー!!ダメです、それ以上はーー」


  シェリカの声を遮り、もう一発。今度は反対の頬をぶん殴る。


  「いっーー、うぐうぅぅぅーー、またーー」


  「ちょ、ーーシユウッ……」


  アメリアの声も、届かない。


  ドサッーーとキースを押し倒して、そのままボカッ、ボカッ、ドゴォッーーと、何発も何発も連続して殴りつける。

  その度に外野がわあっーーと騒ぐが、誰も止める者はいないーー。


  普通なら止めるのだろう……〝普通〟ならーー。


  「あ……悪魔だ…………」


  誰が言ったかーー、次第に本物の悪魔を見るように、みるみる観衆の表情が青ざめていくーー。


  何発殴りつけたのだろうかーーもはやキースからは抵抗する気力も意思も感じられず……まるで本当に自分が化け物なんじゃ無いかとさえ思えてくるーー。


  「う、…………ぅぅぅぅぅーー。悪かった……許してくれよぉ……僕が…………悪かった、からーー」


  この瞳に映る景色は何なのだろうか?返り血にまみれた服装、手に残る鈍い感触……野次馬からの恐怖に染まった視線ーーああ、こりゃ確かに〝厄災〟だーー。


  災いをもたらす不吉な子供……。今のボクを形容する言葉にぴったりじゃあないかーー。


  「…………アメリア?」


  「ひっーー」


  アメリアもまた、ボクに対して恐れを抱いた表情で口を半開きにしている……。

  ふと気づいたーー自分の手から、殴ったキースの血が滴っている事に……。


  そっかーーボクはやっぱり、〝人間〟じゃあ無いんだーー。


  とぼ、とぼ、と退出用のドアに向かって歩く。


  「あ、ーーあの、シユウーー」


  アメリアは声をかけたは良いものの、何と声をかければよいのか見つからずに怯えた表情をしているーー。

  ……そりゃあそうだ。今のボクは間違いなく〝化け物〟なんだから……。


  「……大丈夫だよ、アメリア。父様の方にはボクから『婚約を破棄した』って言っておくから。そうしたら、君の家名にも傷はつかないと思うからさ。……短い付き合いだったけどーー楽しかった。……ボクから振っておいて何だけど、君は男運がちょっと悪いみたいだから…………まあ、次に婚約する人がいたら大事にするんだよ…………。じゃあねーー」


  「っーー!!シユウ、駄目!!待ってーー」


  ガチャリーーとドアを開け、広場を後にする。途端ーー力の抜けたアメリアはその場にペタリと座り込む。


  「何でーーシユウ…………何でよっーー!!」


  ポロ、ポロ、とアメリアの涙が大理石の床下に滴り落ちる。そこへ、寄り添うようにシェリカが歩み寄る。


  「…………シユウさん。本当に……お姉ちゃんの事、大事に思ってたのですね…………最後の最後までーー」


  シェリカは静かにシユウの背中を見送った後、自身が涙を溢すのを堪えながら泣きじゃくるアメリアを抱きしめるのだったーー。

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