05. 告白
『あらすじ』
パーティー会場で姉・エレミアと鉢合わせたシユウは、そのまま成り行きで一緒にアメリア達の元へ戻る事に……一方当のアメリアは、ジュースと間違えて飲んだワインで酔ってしまい、それをセリスに介抱してもらっていたのだったーー。
「それじゃあ、わたしはそろそろ戻るわね♪シユウ君、またね。アメリアちゃん、セリスちゃん、シユウ君の事よろしくね♪」
「こちらこそ、良い時間を過ごせて貴重な体験をさせていただきました。シユウ様、エレミア様、この度はパーティーにお招き頂きありがとうございました。……私は門限もありますのでーーこれで。アメリア様、水をよく飲んでください。それではみなさま……またお会いしましょう」
「うん、じゃあ……またね。セリス、姉様ーー」
「う〜…………じゃあねぇ〜〜…………」
終始ほんわりとした空気の姉様は、アメリアが落ち着いた頃合いを見計らって顔合わせに戻る。
セリスも一足先にパーティー会場を後にしたーー。
「ほら、大丈夫アメリア?」
「うん〜……まだしばらくダメかも〜〜」
ぽんっ、と置いた水の入ったグラスをちびちびとすするアメリア。
どうやら、酒を飲むにはまだ早すぎたようだ。……まあ、十歳だし当然っちゃあ当然だけれども…………。
セリスとの会話はそれほど長くない時間とはいえ、三人での談笑は先程の重苦しい空気を忘れさせる程に愉快なものだった。
エレミア姉さんもまた、それに一役買ってくれたようだ。
二人が去ってーー、今しばしの沈黙が訪れる。
そんな時だ、唐突にアメリアは真面目そうにーーボクとに向かって語りかけるーー。
「ねぇ…………シユウ。ちょっと聞いてもらっていい……?大事な話だからーー」
「何?…………ん?アメリアーーそれは?」
最初からずっと持っていたのか、アメリアはドレスの胸元から一つの古びた帽子を取り出す。
赤い配色が特徴のややボロボロの、魔術師が使うようなーートンガリハットという奴である。
「これはねーーわたしの命の恩人。先代〝炎帝ローラ〟が持っていたものなの。」
「炎帝ローラ…………」
聞いた事がある。〝帝〟の名を冠した炎の魔術師〝炎帝ローラ〟。
大陸でも三本の指に入る炎の使い手で、一時だがアメリアの魔術の先生だった人だ。
しかし、とある〝魔術師〟との戦いで敗れ、命を落としたというーー。
「わたしが四歳の時だったーー。森で護衛とはぐれちゃって、魔獣の群れに襲われていた所を助けてくれたのが、ローラだったの…………」
ギュ、と帽子を握りしめる。それは、彼女にとって大切なもの。
これからきっとーー、大事な話をするのだろう。
「助けてもらった恩もあって、ローラにはわたしの家で魔術を教えてもらってたの。簡単な魔術の使い方から、正しい頭の使い方。特にーー〝近接戦闘が弱い魔術師には必要だから〟って言ってちょっとした武術の心得も教えてもらったわーー」
どうりで、それがアメリアが暴力的…………もといパワー気質なのはそう言うわけだったんだなーーと心の中で納得する。
そういえばアメリアの姿は、どこかローラと被るところがある。
いや、実際に会った訳では無いが……噂で聞く彼女は赤い髪にちょっとガサツなタイプだったと聞く。
「でも三年前、ローラは敗れて死んだーー。ローラはよく言ってた。〝いつ死ぬかわからないのはーー冒険者の宿命だ〟ーーって。わかってる…………わかってる、けど!……わたしはローラを殺した奴を絶対に許さない!!…………許せないわよーー」
とても怒っているのがよくわかるーー三年間。一度たりとも怒りを忘れたことは無いのだろうーー。
それ程までに、アメリアは悔しそうに唇を噛んで震えていた。
「…………殺した人に、心当たりがあるのーー?」
一旦の沈黙の後、コクリーーと頷く。
アメリアはため息を吐くと、その者の名を語ったーー。
「…………〝厄災の魔女〟よーー」
「っーー!!」
厄災の魔女ーー絵本で見た事がある。その昔、十の国で百の大罪を重ねた〝厄災〟と呼ばれる存在の一人。
万物の魔術を操り、気まぐれで一国を一人で滅ぼしたとも言われている。
今でこそお伽話でしか無いが……かつては〝厄災〟と呼ばれる存在に人々は畏れおののきーーやがてはいくつもの国が手を結び討伐軍を結成したが、ことごとく厄災と呼ばれる存在達の前では手も足も出ずに壊滅させられたと言う。
やがて人は、国は、ただただ災害が過ぎ去るのを待つようにーー〝厄災〟という存在が危害を及ぼさないように過ごすようになったと言うーー。
「……君は、厄災の魔女に復讐したいのかい?」
静かに、コクリーーと頷く。
「私がいつか…………アイツを…………〝厄災の魔女〟をぶっ殺してやる!!わたしは〝厄災〟なんて奴ら大嫌いよ!!気まぐれで暴力的な力を振るうなんて……巻き込まれる人々からしてみたらあんまりじゃない!!」
それは……アメリアの心の底にある、悲痛の叫びだった。
いつもポジティブで前向きで、後ろを顧みない。ーーそんな彼女の、等身大の十歳の少女の本音である。
「…………でもね、わたしはそれ以上に……偏見や言い伝えだけで、アンタを軽蔑したり、自己満足の快楽のために見せ物みたいにアンタを貶める貴族連中が大っ嫌いっ!!アンタは厄災なんかじゃない!アンタはわたしのっーー」
喉元まで出かかった言葉をーー飲み込む。
きっと、〝許嫁〟という関係はアメリアにとっては、〝ただ両家が決めただけの婚姻関係〟で終わると思ったのだろうーー。
だからアメリアは、言葉を飲み込んで改めて言い直したーー。
「たとえ世界中がアンタを嫌っても…………、たとえ世界中がアンタの敵になっても…………、わたしはアンタの味方だからねーー!!」
両手でボクの手を包むように、アメリアはそう言った。嬉しかった……。
アメリアはボクにとって、生まれて初めての味方だったから……。でもーー
「なんで……アメリアはボクにそこまでしてくれるの?本当なら、許嫁だって嫌なんじゃ…………?」
「っーー!!……それは…………だって、初めて会った時アンタがーー」
恥じらいながら、そっぽを向きながら、そう言いかける。その時だったーー。
「やぁやぁ!!こんなところにいたのかいアメリアーー?」
ふと、気がつくと十歩程離れた位置からボク達を観察するように見つめる一人の少年の姿がーー。
「誰…………?」
ふとアメリアの方を振り向くと、睨みつけるような……憎しみをぶつけるような彼女の姿が。
「…………キース。……アンタ、なんでこんなところにいるのよ?」
キースと呼ばれた少年は一歩……また一歩と、テーブルに近づいてくる。
丁重に手入れされた黄金の髪、精錬とした佇まい。透き通る美しい瞳に、美貌から想像に難くないーー心に響くような気高い声。
凛々しいその姿からは、出自の良さが伺える。
「もちろん。君を迎えに来たんだよ、アメリア。……君の〝婚約者〟としてねーー」
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