02. 社交舞踏会
ーー『あらすじ』ーー
黒髪黒目の不貞の子ーー主人公・〝シユウ・ヴィ・ランスロット〟は、幼馴染で許嫁のアメリアに連れられてーーランスロット家が主催するパーティー会場へと向かう。そこは王国内外から来賓客が訪れる、盛大なパーティー会場なのであったーー。
広間は既に華やかな雰囲気に包まれていた。天井から吊るされた豪華なシャンデリアが煌めき、テーブルには色とりどりの料理が並べられている。
高価な装飾品が散りばめられた食器やカトラリーが、客人たちの地位を誇示するかのようだった。これがいわゆる貴族御用達の、〝社交舞踏会〟である。
「ねぇねぇ、ちゃんと愛想よくするのよ?これでもあんたは公爵家の第四公子なんだから、変な振る舞いをしたら私の顔まで潰れるんだからね!」
「……ボク、そういうの得意じゃないんだけど」
「はぁ?何言ってるのよ!?貴族の嗜みくらいしっかりしなさいって、いつも言ってるでしょ!……あ、でも変に喋るくらいなら黙って立ってる方がマシかしらね」
彼女はそう言ってクスクスと笑い、ボクの背中を軽く叩く。
その笑顔は何かを企んでいるようでもあり、無邪気さを装っているようでもあった。
ボクはアメリアに引っ張られる形でテーブルの近くまで進む。
ーーすれ違う客人たちの視線が、まるでボク達を値踏みするように注がれているのを感じながら……。
「あれが例のーー」
「まあ、よく顔を出せたものねーー」
「痣持ちがーー」
〝痣持ち〟。生まれながらに身体のどこかにある黒い雲の様な形のアザを持つものの事らしい。
ボクの場合は右腕の中心くらいにあるのだがーーこれがある者は災いを引き寄せるという言い伝えがある。
つまりまぁーーボクは不貞の子だけでなく、痣持ちとしても嫌われている訳だ。
確かに、生まれてからやれ〝不貞の子〟だの、〝忌み子〟だの、迷惑千万な不名誉なあだ名をつけられたり、家の者に邪険にされたりと良くない事に巻き込まれてるのは確かだけどーー。
ヒソヒソ、と人混みを通るたびに囁き声が聞こえてくる。まあ、ボクはいつもの事だから慣れっこだけど……。
「やっぱり、気が滅入るな〜…………付き合わせちゃってごめんね、アメリア。大丈夫ーー」
ふと、心配して並んでいるアメリアへと振り向く。
ーーが、それはいつからだったのだろうか?アメリアの表情はとても冷たく、暗く、恐ろしいものだった。
「ご、ごめんアメリア……全然気づかなくて、しばらくボクあっちの方に行ってるからーー」
「恥ずかしくないの……?」
「ーーえっ?」
今にも人を殺してしまいそうな、そんな殺気を放ちながらアメリアは問いかける。
「…………アメリア?」
「恥ずかしいとは思わないの?大の大人がーー仮にも貴族家でもある立場の人間が、噂や憶測で人にレッテル貼って…………恥ずかしくないのかって聞いてんのよっーー!!」
その場の全員が、萎縮してしまう程の声量でアメリアが怒鳴りつける。さすがはアメリア。公爵家の人間相手だろうが、何一つ臆する事はないーー。
「コイツがあんた達に何したって言うのよっ!?根も葉も無い噂ばっかり信じて…………面と向かって絡みかける勇気すら無い意気地なしのクセして……陰でコソコソと人の悪口言ってんじゃないのよーー!!」
涙ながらのアメリアの訴え。ポロポロ、とアメリアの頬を涙粒が滴り落ちる。
「…………まぁ!!あんな痣持ちを庇うなんていやらしい!ーー」
「……あれはセントルイス家の〝暴れ公女〟じゃないか……?確か、公爵家の嫡男を怪我させたって言うーー」
「これだからはぐれ者は……上流貴族の恥晒しめ!ーー」
しかし、余計に非難の声が増す。アメリアもまた、いわゆる〝訳あり〟だ。
……まぁ、彼女の場合は見ての通りの性格に難ありという奴なのだが…………それでも正直、ボクはとても嬉しかったーー。
「《厄災》はお呼びじゃ無いんだよ!」
「そうよそうよ!……いやらしいったらありゃあしない!!」
「〝暴れ公女〟もだーー!マナーも守れないガキが……立場をわきまえろっ!!」
帰れ帰れ、とその場で全員がアンチコールを始める。正直ボク一人だけならまだしも、アメリアの事まで貶し始めたのには我慢がならなかったーー。
「…………みなさん、そろそろいい加減にーー」
喉元まで声が出かかったーーその時だ。
「皆の者!!黙りなさいっ!!」
「っ!??」
叱責の罵詈雑言に耐えられず反論しようと口を開きかけたその時…………一人の少女が、割入るようにして反論する。
「我々はあくまで〝招待客〟にすぎません!彼はこの屋敷の当主『アルメテウス・ヴィ・ランスロット』様のご子息であられる『シユウ・ヴィ・ランスロット』様ですよ!!」
「ーーっ!!……なんでボクの名前を……?」
背を向けていた形の彼女は、翻ってこちらを振り向きーー
「当然ですよ。同世代の貴族の名くらい把握しておくのも責務の一つですから!……でないと、父上に怒られてしまいますわ!」
明るく照らされた一輪の花。ヒマワリを彷彿とさせる金色の髪をした少女は、笑顔でそう言った。
「君は確かーー」
「お初にお目にかかります。『グランレギンス』家の第二公女ーー『セリス・アリスティア・グランレギンス』と申しますーー。」
青いドレスの裾を、両の手で持ち上げ自己紹介をする。
途端ーー、その場でざわざわと、皆が目を見開いて話し合っていた。
……まるで、目にしている光景が嘘なのでは無いかと言うようにーー。
「グランレギンスーー王家代々抱えているあの《英剣騎士団》団長のーー!!?」
「……確か、セリス様といえば八歳と言う幼さながら既に前線でも名が通っているお方じゃあーー」
ボソボソッ……と野次が聞こえる中、まだ話の途中とでも言いたげにコホンッ、と一つ咳払いをしてーーセリスは続ける。
「彼らはこの屋敷の住人とその隣人です!招待されただけの客であるあなた達が追い出すのはあまりに無礼をわきまえぬ行為です!……何か反論はありますか?」
誰も何も言えず、無言で気まずそうに下を向く。
……ボクとアメリアは、彼女の放つ覇気のようなものに当てられ、ただただ茫然としていた。
無言。その沈黙を反省と捉えたセリスは、ため息をついて再びこちらに振り向く。
「騒ぎを起こしてしまい、申し訳ありませんでした……せっかくのパーティーなのに、気分を害してしまったのであればお詫び申し上げます」
「い、いえいえ!……こちらこそ、セリスさんには感謝しかありません。騒動を納めて頂いて助かりました!」
深々と頭を下げるセリスに、ボクもまた頭を下げる。どうやら騎士族という性質上か、こういう騒動が起きると黙っていられないらしい……。
今回は彼女の正義感に、ボクもアメリアも救われた。
「…………あ〜……その〜……何?今回はアンタのおかげでちょっとだけ……?そう!ちょっとだけ、助かったわ!」
素直にありがとうと言うのが苦手なのか、斜め上を見上げながら精一杯感謝の意を伝えようとしている…………めずらしい。
「そう言って頂けると光栄です。お二人のお役に立てたようでよかったーー」
片手でぐっ、として笑顔で微笑むセリス。そんな様子を見ていると、こっちまで笑顔が伝染する。
「そうですね……せっかくですし、ここで会ったのも何かの縁。よろしければ、一緒に食べませんか?」
セリスからの提案に、ボクもアメリアも快く快諾した。
「そうだね、一緒に食べよう!改めてお礼もしたいし…………いいよね、アメリア?」
「はぁ……仕方ないわね〜。まあ、今回は恩もあるし付き合ってあげるわ!ほらっ、行くわよ二人とも!!」
「うわっ、ちょっと!?」
「アメリア様ったら……なかなか強引なお人ですね。」
頭をくしゃくしゃ、と掻きながらまたもや無言で力強くボクとセリスの腕を引っ張るアメリア。
彼女が力任せになる時は、照れ隠しの意もあったりするのだがーーなんだかんだで、彼女のこう言うところは結構好きだったりするのであるーー。
……なんでボクの頭を掻いたんだろうーー?
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