②契約
パサリと翼の音が聞こえ、それから身体が地についた感覚。気付けば太陽の日差しも遮るほどの薄暗い森の中にいた。
魔王はマコトを湿った土の上に下ろし、そのまま特に何をするでもなくマコトのことを見ている。
泣き疲れたマコトは喉を引きつらせながら周囲を見た。何の動物か分からない高い鳴き声が聞こえるが、風で揺れる木々の音も耳をくすぐり、この場は静寂で満ちていた。
「どこ、ここ」
ぽつりと零れるように言う。魔王に聞いたわけではないのだが、相手は律儀に答えた。
「「飛んでいたら森が見えた。しばらくそこで身を隠そうと思った」」
「……そっか」
長く息を吐こうとして、またヒックと喉が引きつる。母が死んだショックは拭えず、ただただぼんやりと虚空を見つめた。もう何も考えられない、否、考えたくない。だが魔王が再び口を開く。
「「これからどうするつもりだ」」
「知らないよ」
投げやりな返答。
「「これからお前は追われる身だ」」
「そうだね」
魔王の封印を解いてその魔王と一緒に逃亡。世間に公にすることはないだろうけれど、きっと自分たちを血眼で探し回るだろう。なんせ人間の世界、アウローラで魔王が自由の身になっているのだ。まさに人間滅亡の危機である。しかし目の前にいる魔王はほとんど魔力を持っておらず、そんなこと出来やしない。
何故魔力が無いのか。しかしそれを聞く気力もない。
「もうどうだっていいよ」
マコトは言う。
「魔王も好きにすればいい」
魔族の世界ノックスに帰るでも、それから再びアウローラと戦を始めるでも、何だっていい。もう自由なのだから、やりたいことをやればいい。
「「そうか」」
そう一言答えた魔王が翼を一度、バサリと動かす。このまま飛んでいくのかと思えば、その翼を小さく折りたたんだ。そして何も言うでもなく、またマコトのことを見つめる。
「…………」
「「…………」」
「いや、なんだよ。勝手に好きにしなよ」
「「あぁ」」
マコトの言葉に相手は頷くが、動く様子もない。ただただマコトを見て、真っ直ぐに突っ立っている。
(なんだこいつ)
一体なにがしたいのだろうか。怪訝な表情で魔王を見上げれば、同じ赤い瞳がぶつかり合った。
(あ…………)
マコトが口が開くと同時に、魔王が問う。
「「私の封印を解いたことを、後悔しているか」」
「…………っ」
目を見開いた。
母が死んだのは魔王の封印を解いたからだ。今年もいつものように封印を施せば、今頃一緒に都市ソル・アルビオンを見て回っていたかもしれない。生きて一緒に家に帰れたかもしれない。
そうだ、全部全部こいつのせいで――――なんて思うわけない。
「後悔はしていない」
マコトは強く言った。
「確かにお前の封印を解いたから母さんは死んだし、僕は追われることになった。それにもしかしたらお前がこれから人類を滅亡させるかもしれない」
「でも」と続ける。
「母さんと僕は、お前を解放することを選んだんだ」
自然と背筋が伸びる。冷え切った四肢に血が巡り、全身に火が宿ったような感覚。まるで身体が蘇ったかのようだ。
母さんは死んだ。でも僕はいま、生きている。生きているんだ。
また涙が溢れるのをマコトは片腕で言葉と同じように強く拭った。そして魔王の瞳を見つめ返す。後悔なんてしてたまるか。
「これは僕たちが望んだことで、勝手にやったこと。お前が責められる理由なんてひとつもない」
「「…………」」
「魔王、お前は好きなところに行って、好きなことをするんだ」
先ほどと同じ言葉だが、全然違う。
マコトは両腕を広げ、笑って見せた。
「お前はもう、自由だよ」
「「…………貴様は本当に――――」」
不意に魔王の言葉が止まる。瞬間、マコトの背中にもぞわりと冷たいものが走った。これは魔族の魔力の気配だ。今の魔王とは比べものにならないほど強い。ただの気配だけなのに、身体が恐怖を覚える。
「「来たか」」
しかし魔王はそれに動じることなく、マコトから視線を逸らして森の奥を見る。風が吹き、葉が揺れる。その静寂が今は怖い。
二人で見つめる先、それは音もなく現れた。
薄暗い森林に、突然黒い円形の何かが宙に出現し、そこからズルリと何かが出て来る。
あれは円形の何かではない。空間の穴だ。
黒く尖ったものが一本、そして溶けてただれたような塊。それが顔で、尖ったものはくちばしなのだと分かったのは、目だと思われるものがあったからだ。しかしそれは瞼が持ち上がらないよう、白く太い糸で縫われている。
「「アー! アー!」」
開いたくちばしから鳥の鳴き声。
続いて黒い穴から出て来たのは、人間と同じ両腕。顔は鳥のようなもので、身体は人間。その背中には魔王と同じ、しかし綺麗なものではなくドロドロと今にも腐り落ちそうな翼がついている。
脚の二本は一本のようにくっついていて、つま先ら辺は鳥と同じ尻尾だった。
人間と鳥を結合したかのような薄気味悪い姿に、マコトは魔力の強さだけではない恐ろしさを感じた。
「なに、あれ」
絞り出した声は震えている。
「「私の配下だ」」
「魔王の配下?」
魔力の強いあれが、配下だなんて。魔王の元々の力はこれ以上に強いというのか。母の施した封印がどれほど偉大なものなのかを体感する。
「「あれは私の肋骨一本を使って作ったもの」」
「魔族って魔王の骨で出来てるのか?」
「「いや、あれだけが特別だ」」
穴が消え、鳥人間だけが残る。腐りかけの翼を羽ばたかせ、気持ち悪く鳴いている。
「「どれだけ魔力が強くとも、全てを見渡せるわけではない。だから私は私の魔力の一部を与え、私の目が届かないところも見えるように作った。言うなれば戦場の監視役だ」」
「作ったって……監視役にした割に瞼くっついてるけど……」
「「アー! アー! マオウ! アー! 魔王!」」
鳥人間はくちばしを開き、鳴き声だけではなく言葉を発した。その見た目から喋れるとは思っていなかったマコトは驚きビクリと身体を震わせる。
「「フウイン! 情けない! 魔力! ドウシタ!」」
片言だが聞き取れるそれは、魔王を責めるものだった。
「「魔王! 価値! ナシ! ナシ!」」
「……なんでこいつ、魔王のこと責めてるの?」
マコトが訊ねるとまた魔王は淡々と答えるが、こちらに対して疑問の色を浮かべていた。
「「弱ければ価値はない。当たり前のことだ」」
「でも配下なんだろ? ただ従うだけじゃないのか?」
「「私の一部で作ったのだ。他の魔族と同様に意思はある」」
「主なのに殺そうとするの?」
「「主であろうが関係ない」」
「「シネ! シネ!」」と鳥人間が鳴くのを魔王は何の感情もない瞳で見ている。
「「強者しか生き残れない。魔力がほとんどない今の私はただの弱者だ。それが魔王の座に君臨するなんて、魔族にとって許せないことだろう」」
むしろ何故弱者が生きられるのかと、言葉の裏でマコトに聞いていた。
「「私の封印が解かれたことはきっと魔族は感知している。魔王という名を奪うために、奴らは活性化し、私を殺しに来るに違いない」」
「そんな…………」
「「魔王、マオウ! シネ! シネ! 死ねー!」」
「…………っ!」
その場を飛んでいるだけだった鳥人間が鋭いくちばしを光らせ魔王に向かって行く。素早いそれを魔王は身体をずらして軽く避け、再び襲ってくるくちばしもまた避ける。
「魔王!」
鋭いくちばしだ。身体を串刺しにすることが出来るだろう。だが魔王は無駄のない動きで器用に避けている。
ただ見るだけなら鳥人間よりも魔王の方が優位に感じるけれど、魔王の肋骨で作られた鳥人間の魔力は膨大だ。
(あれは何だ?)
ふと気づきマコトは目を細めた。鳥人間が飛んだあとに、黒い塵のようなものが舞っている。それはだんだん形を成し、蛇のようにうねり出す。
「「アー! アー!」」
鳥人間が鳴く。すると先ほどのただ避けられていただけだった動きは、この黒い塵の為のものだったのだとマコトはやっと気がついた。
魔族は妖精と同じ、魔力の源だ。だから呪文無しでも強い魔法も使うことが出来ると、母から教わった。
触手となったそれが魔王の身体に絡みつく。ジュウと焼ける音と白い煙。動きを止めるだけではなく、紫色のその身体を焦がしているようだ。
「魔王、大丈夫か⁉」
マコトは叫んだ。このままでは鳥人間に殺されてしまう。
「「そこを動くな」」
しかし魔王は声音を変えることなく言った。
「でもっ」
音を立てて焼けていく肌。フロルの元で実験されていた身体は、四肢を切り落としても再生していたというが、だからといって傷つけられていいわけではない。
痛いと泣いていなくたって、それは痛いのだから。それなのに魔王の言葉は冷たい、温度のないものだった。
「「私がこのまま死ねば、魔族の活性化は最小限に抑えられるだろう」」
「……は?」
何の話をしているのだろうかと、本気で眉をひそめる。
「「人間と魔族間の戦争は再び起こるが、私を殺すために必要以上にアウローラに攻め入ることは無くなる」」
「「アー!!」」
動きを封じられた魔王の胸板に、鳥人間のくちばしが突き刺さる。そこは心臓の位置だ。
グリグリと抉り押しつけるくちばしは魔力で強化しているのか紫色に光っており、そこから鮮血が溢れ出す。それでも魔王は何事もないように続けた。
「「このまま魔力の結晶である心臓を壊せば、私は死ぬ」」
「なっ!」
当たり前のように言うが、それはそれは唯一の弱点なのではないか? こんな簡単に明かしていいものではない。そして今まさに鳥人間のくちばしが魔力の結晶を破壊できる位置まで来ているのだ。まずこうやって冷静に話している場合では無い。
魔王が死んでしまうと焦りを覚えたマコトだが、次の魔王の言葉に呆然とした。
「「その方が貴様の為になる」」
「…………僕の為?」
一瞬聞き間違えたのかと思ったが違う。反射的に聞き返したマコトの言葉に魔王は「「そうだ」」とひとつ頷き、「「だから」」と続けた。
「「貴様はそこで見ているだけでいい」」
もう殺される覚悟が出来ていた。表情は何も変わらないのに、どうしてか穏やかにまで見える。
「…………」
な に 言 っ て ん だ こ い つ は 。
そんな魔王にマコトは怒りを覚えた。
自分が作った配下に殺される? そんなバカな話があるか。魔族の頂点に君臨していた魔王だぞ。戦争をするなか、こいつを殺すために一体何人の人間が犠牲になったと思っている。それなのに鳥人間にくじばしを刺され死にましたーなんて、殺した相手に謝れ。土下座しろ。
「ふっざけんなよ……っ」
強く拳を握り、一歩進み出る。
「何が僕の為だ! そんなのただのお前の勝手だろ! 死ぬ理由を僕になすりつけんな!」
魔王が一体何を考えているのか分からない。そもそも何故魔力が無いんだ。実験されて力を使いすぎたのか? いやまずどうしてこいつは逃げる時に僕を連れて行ったんだ。何か理由があるのかもしれない。母さんはそれを知っていた。
とにかく分からないことが多すぎる。だが今そんなことを聞いている場合ではない。
折角封印を解いて自由にしたばかりなのに、あっさり死ぬなんて許さない!
「母さんが死んでまで救った命だ! 殺されてたまるか!」
マコトは大きく、胸を反りながら息を吸う。見上げた天は平和と見紛うほど、青く澄んで綺麗だった。
「<炎の使者よ>」
妖精の魔力が身体に流れ込み、力が満ちる。
地下室で使った火の魔力はまだ残っている。これならば長い呪文無しでも使えるだろう。
マコトは手を振り下げる。すると炎の刃が飛び出し、鳥人間の身体に直撃した。
「よしっ」
身体を切り刻むことは出来ずとも何かしらの傷はつけられると思ったのだが、相手はカツンと固い音を立てたくらいで無傷だ。
「え……」
情けない声が口からこぼれ落ちる。
鳥人間が身体を抉るのを止め、顔を上げる。瞼の開いていない目と血に濡れた濡れたくちばしをマコトに向ける。
ようやくこちらを認知したとばかりの視線に、マコトは息が止まった。
魔力の強さもそうだが、ただ単純に見た目と殺気が怖い。母とは違う、本物の、絶対零度の眼差し。
「「アー!」」とくちばしが開いただけで、肩が跳ね、足が震えた。後ずさることもままならない。
魔王を助けなければ。殺してなるものかと怒りが湧いたのに、視線が交わっただけでこんなに恐怖するのか。自分が情けないと思う余裕もない。
「「ジャマ、邪魔、ジャマ」」
鳥独特の動きで首を曲げる。
襲いかかってくると思いきや、再び魔王の胸元を抉り始めてしまった。相手にされなかったということか。
でもそれが、正直に言えば安心した。殺されると本気で思ったから。怖くて足がすくんで、きっと魔王に向けて素早く動かれたら、避けられずに串刺しにされていただろう。でもそれではダメなのだ。
(くそっ)
怖い。怖くてたまらない。でも負けてたまるか。これからはこうやって生きていかねばならぬのだから!
マコトは拳を握り、走り出す。他にも魔法を撃ち込む方法があっただろう。ウェネから魔法は教わったけれど、訓練の中で相手を殴るなど、一度もしたことがない。けれど焦りや恐怖で思考が正しく回らない。まさにパニック状態だ。殺意を前にした戦闘経験がなさ過ぎる。
それでもマコトは逃げずに拳を振り上げた。
「だぁあ!」
手に炎を纏わせる。そして鳥人間の身体に触れた瞬間、小さな爆発を発生させた。
低く鈍い破裂音。そして黒い煙。先ほどとは違い、鳥人間のくちばしが魔王から抜けて少し先まで吹っ飛んだ。
「やった!」
安堵の息と一緒に声が上がる。
「魔王! 大丈夫か!」
マコトは魔王の胸元を覗き込む。紫色の身体からの出血はあるものの、肉質が固いのか、思ったよりも傷は深くなさそうだ。
心臓である魔力の結晶が破壊さえされなければ回復するから、きっと大丈夫だろう。マコトは大きく息を吐き出した。あとは肌を焼くこの黒い塵の触手を何とか剥がさなければ。
「あっつ!」
何も考えずに手で引っ張ろうとすると、こちらの手のひらも熱で焼かれてしまう。
(これを剥がす方法は…………っ)
切り刻もうとしても、それでは魔王の身体も切れてしまう。いっそ妖精の力でナイフを作ってロープの容量で切っていくしかないのか。それとも再生するのだからと諦めて身体ごと切ってしまった方がいいのだろうか。
マコトは魔王にどうしたらいいか聞こうと顔を上げれば、魔王がこちらを見つめていた。
「「私を殺さなくていいのか」」
「まだそんなこと言ってんのか」
そんな場合じゃないとこちらは焦っているのに。死にそうなくせして本人だけ落ち着いているのが腹立たしい。
「「私を殺した方が――――」」
「はいはい平和になるんだろ」
「「平和にはならない。だが」」
「いやほんとうるさいな!」
マコトは黒く長い髪の毛を掴み、引っ張った。顔を近づけて正面に向かい合い怒鳴る。
「生きろって言ってんだよ僕は!」
「「――――」」
魔王が瞠目する。しかしその後ろで「「アー!」」と鳴き声が聞こえた。
ハッとして振り返るも、魔力の気配を感じて魔王の身体を押して横に飛ぶ。すると黒い塵がマコトの頬をかすめて行った。
空気をも焼くそれはかすっただけでもマコトの頬を傷つけ、血が垂れる。一緒に倒れたせいで触手にも触れてしまい、痛みと共にジュっと嫌な音まで聞こえた。
「いッ」
痛みで声が漏れる。表情を歪めて鳥人間を見れば、その身体はまたもや無傷。爆発したというのに腐りかけの翼ですら傷ついていない。
「不死身かよ!」
「「あれは守りを特化している。監視役だからな。身体が強くなければ戦況は見守れない」」
「弱点はないのか?」
「「身体は強いが、攻撃魔法はそれほど強くない」」
「十分強いんですけど⁉」
頬に流れる血を拭う。かすっただけなのにチリリと痛む。肩でも腕でも先ほどのを食らえば確実に無事じゃすまないだろう。
「くそ!」
腕を伸ばし、小さな火傷がある手のひらを鳥人間に向けた。瞬間、相手が炎に包まれる。
「<燃え尽きろ!>」
火柱が上がり、木々の葉も燃えてパチパチと音がなる。辺りは炎の影が生まれ、近くにいるマコトにも熱を感じられた。普通なら相手は焦げるどころか溶けているだろう。
確かに相手は魔王の肋骨を使って作られたもので、魔力も半端が無い。しかし妖精に愛されているマコトだって、使える魔力は十分すぎるほどある。
それなのに鳥人間は、まるで滝の向こうから現れたかのように炎の渦から顔を出した。焦げてすらいない。マコトは唇を噛みしめた。
(どうしたらいい。どうしたらっ)
自分の得意な魔法は炎を使うものだ。それなのに通用しない。それがより冷静さを欠かせ、思考を鈍らせる。
「「貴様」」
魔王が口を開いた。
「「何故そんなに弱い?」」
「なっ!」
確かに弱いかもしれないけれど、いま必死に助けようとしているのに!
「お前最悪だな⁉」
マコトは悲鳴のように叫んだ。
「母さんに魔法は教わってたけど、実践経験は皆無なんだよ!」
「「このままだとお前も私も死ぬぞ」」
「分かってるよ!」
鳥人間のくちばしが開く。黒い塵が集まっていくのが分かるが、それを止める方法が分からない。マコトひとりなら避けられるかもしれないが、そうしたら魔王が正面から焼かれてしまうだろう。それに対してどこまで耐えきれるのか分からない。
「あぁもう!」
マコトは魔王を振り返った。
「お前、魔力が無くても曲がりなりにも魔王だろ! 何とかしろよ!」
仮にも大魔道士の息子。だが生きることにプライドも何も必要ない。この現状を打破出来るのなら何だって差し出してやる。
すると魔王はひとつ頷いた。
「「――――分かった」」
瞬間、魔王の腕に力が入る。すると筋肉が盛り上がり、逆に触手がそこにめり込んだ。肉の焼ける音と臭いにマコトは驚く。だが止める間もなく焼けたそこは傷になり、肌が溶け、その結果まるでその触手にちぎられたように片腕が落ちた。
何をしているんだという言葉は必要なかった。
腕を落としたおかげで魔王を絡みつく触手に隙間が生まれる。翼を羽ばたかせそれを振り払えば、魔王はマコトの腕を取って宙に飛んだ。
一気に上昇し、木々の上へ。青い空の下で赤い瞳が輝く。魔王はそのままマコトをより高い空へ放り投げた。
「うわぁ⁉」
突然のそれに悲鳴を上げる。魔王は一体なにを考えているんだ。このまま落ちたら死んでしまう。しかし突然、フワリと温かいものに包まれた気がした。
マコトの下に浮いている魔王を見れば、片方しかない腕を反対の血が垂れている腕に伸ばす。その手は瞳と同じ色の血に染まった。
「「<朱よ交われ>」」
そしてそれは始まった。
魔王の元にゆっくりと落ちて行くマコト。血がついた手、親指をマコトの頬の傷に触れさせて唱える声は地鳴りのように低いのに、土のように柔らかくて温かい。
「「<心の臓を繋げ>」」
血と血が触れ合い血液の流れで舞うかのように、魔方陣を作り上げていく。まるで赤いインクのペンを走らせているかのようだ。
身体の内側に血液だけではない、何かが流れていく。ドクンドクンと脈打つのは自分のものではない。
「「<臍の緒の縛りは忘却を知らず>」」
魔王のそれに続きマコトの口が自然に開いた。
「<血潮の刻は留まることを知らず>」
お互いの瞳にお互いが映り込む。
「「<結べ>」」
「<結べ>」
血の魔方陣はパチンと弾け、熱を残す。代わりに黒い文様が現れた。
マコトは腕に。魔王は頬に。
二人の声が重なり、それは完成した。
「「「<――――我らは契りを約束しよう>」」」
ひとつの瞬き。
気付けば視界が闇に閉ざされていた。宙に浮いていた身体はどこかに揺蕩うように流れていき、まるで妖精の≪おしゃべり≫の場にいるみたいだ。
クスクスと笑い声。悲しそうにすすり泣く声。高々と上がる悲鳴に、安堵の溜息。
様々な感情が溢れる闇で、その声が浮かび上がる。
≪時の落ち仔の契約よ≫
≪臭い汚い呪いだぞ≫
≪かぁいそうに、かぁいそうに≫
チリリと腕が痛み持ち上げれば、そこには黒い紋様が描かれており、ブレスレットをはめているかのような見た目をしている。
水飛沫のような、もしくは妖精たちが舞う姿を描いたような。
マコトはそれを手でなぞり、それから顔を上げた。暗闇で何も見えない。でもそれはいつものことだ。
「可哀想なんかじゃないよ」
零れたのは笑み。
「可哀想なんかじゃ、ない」
「――――っ!」
ハッと目を開ける。
まばたきを繰り返し、辺りを見渡した。青い空に白い雲。己の下には森が広がっていて、一カ所だけ焼け焦げている。それが自分が使った魔法、火柱が上がったところだとぼんやり思ったところでようやく覚醒した。
気付けばマコトは魔王の肩に担がれていた。
「一体なにが……」
「「アー!」」
地上を見ると、焼けて開いた場所から鳥人間が飛んで来る。
やばいと焦ったのは束の間、突然視界にボコボコと肉の塊が現れた。それは先ほどわざと焼け落とした腕だ。
(再生、したんだ)
確かフロルは時間は掛かるが再生すると言っていた。だがいま目の前、一瞬で再生した。一体どういうことなのか。しかしどちらにしろこれだけでは勝てない。この腕で殴ってもどうせ無傷なのだ。
鳥人間は宙でクルリと回転し、その鋭いくちばしを光らせて向かってくる。このままではマコトも一緒に串刺しだ。しかし魔王は逃げることもせず、腕を差し出す。そして横に薙いだ。
半透明な赤色の盾が並び立つ。強度は分からないが、それが魔力が多分に含まれているものだと分かり、マコトは「え……っ」と驚きの声が漏れる。魔王にはほとんど魔力は無い筈だ。
「「動きが単調だ」」
魔王が呟く。
「「シネ、魔王!」」
鳥人間はそのスピードを落とさずに盾へくちばしを突き刺した、否、ぶつけた。
「「ア……?」」
赤い盾は音も無くくちばしを受け止る。突き刺さることのないそれは、風呂敷を広げるかのように大きくなり、鳥人間の身体を包み込んだ。
くちばしももう開かぬよう、同じ赤色で縛られている。
「「改善の余地ありと見るべきか」」
魔王は再生した腕、長い爪のある手で鳥人間の身体を貫いた。あれほど固かったのに、その手は簡単に鳥人間の肌を突き破っている。
一体何が起きているんだと混乱するマコトをそのままに、魔王は腕を引き抜いた。その手には灰色に近い何かが握られている。
穴が開いた鳥人間の身体が少しずつ崩れていく。ドロドロに溶けていっているのに、液体として残ることはなく、溶けた先から塵のように消えていった。
何も無くなった宙に風が吹き、マコトと魔王の髪の毛が舞い上がる。
「やった、のか?」
「「そうだな」」
魔王は翼を一度羽ばたかせてから、また静かに森へと下りていく。
この森に来た時と同じように地に足を付けて魔王を見れば、怪我ひとつない身体。魔力が強くなった様子はなく、何も変わらない。
ただその片方の頬、左目の下に黒い紋様が刻まれていた。
「あのさ、ちょっと説明してくれないかな」
「「何をだ」」
「全部だよ」
「「全部とは」」
「…………」
話が通じないとはこういうことを言うのだろうか。だが相手は魔王だ。こうして言葉を交わせているだけでも奇跡だと思わなければ。
マコトは深く深呼吸をし、辺りを見渡した。
「あの鳥人間はもういないんだな?」
「「あぁ」」
魔王は手を開き、あの鳥人間の身体から抜き取った物をマコトに見せた。
「「あれの原動力だった私の肋骨だ」」
「肋骨……」
人間の骨を見たことはないが、魔王の骨も特段不思議な見た目ではない。ただ魔力は込められており、これが鳥人間だったのだと言われなくても分かった。
魔王はその肋骨を自分の胸板に押しつける。するとそのまま肋骨は魔王の身体へと消えていった。きっと元の位置に戻したのだろう。その骨の分の魔力が増えた。きっと元の魔力量と比べれば、微量なのだろうけれど。
不意にガサリと草が揺れ、マコトはビクリと振り返る。また魔族が来たのかと思ったのだ。しかしただ風に揺れただけのようで、溜息と安堵が混ざった息を長く吐き出した。
「「あれのように魔族が空間を移動してくることはない」」
「そうなのか?」
「「あれは私の肋骨を持っていた。私の分身に近いものだ。だから私の居場所が分かり、その魔力を使って私の元に現れた」」
「じゃあまた突然空間に穴開けて来るとかない?」
「「それはない。ただこちらの世界にいる魔族の残党が来る恐れはある」」
「…………」
それはもう安全な所はないということだろうか。しかし今は周囲に魔力は感じられない。空間移動をする魔族がもう他にいないのであれば、ここはもうしばらく安全だろう。
「あー……死ぬかと思った」
マコトは地面に腰を下ろす。情けないくらい何も出来なかった。
「ありがとう魔王。助かった」
お礼を言ったあとすぐ「てかさ」と唇を尖らせる。
「何とか出来るなら早く何とかしてくれたっていいじゃん」
「「……契約は最終手段だった」」
「契約?」
「「そうだ」」
「もしかしてこれ?」
魔王の顔にある黒い紋様を指さす。それからそういえばと自分の右腕を持ち上げれば、黒い紋様が。
「「契約とは魔族と人間を結びつける魔法だ」」
「なにその魔法。聞いたことない」
魔法には様々なものがあるし、妖精が貸してくれる魔力によって出来ることは限られている。母に色々なことを教えてもらったけれど、そのような魔法は知らなかった。
「「人間は機械を発展させているが、魔族は魔法を発展させている」」
己の模様に触れて魔王は説明する。
「「契約とは魔族が人間を使役するために作り出したものだ」」
「え、なにそれ最悪じゃん」
「「だがまだ完成していない状態だ。まだ今は使役するには至らず、人間と魔力を共有するような形になっていて、人間にとって有利なものになってしまっている」」
「契約すれば人間が魔族の魔力を使って魔法が使えるってこと?」
「「そうだ。だから魔族は契約を結ばない」」
それはそうだ。妖精に愛されず、多少の魔力しか貸してもらえない弱い魔法使いが魔族と契約をすれば、妖精云々関係なく魔族の魔力を使えるが、それは魔族にとって何のメリットも無い。むしろデメリットだろう。
「でも僕と契約したんだよな?」
「「あぁ」」
「正直、僕には必要ないと思うんだけど」
現在の魔王の魔力量を考えれば、マコトの方が強い。魔王から魔力をもらう必要がないのだ。
「あ、でもそっか」
先ほどの説明を思い出しマコトは理解した。
「人間と魔力を共有するってことは、魔族も人間の魔力を使える形になってるってことだよな?」
「「あぁ。普通人間が魔族以上の魔力を持つことはあり得ない。だが妖精に愛される貴様は別だ」」
魔王は言う。
「「今は私が貴様の魔力を使っている」」
「なるほど」
先ほど作り出した赤色の強い盾を作り出せたのは、マコトの魔力を使ったからか。
魔王の腕や傷がすぐ治ったのも沢山の魔力が使えたからだろう。
「ちなみにこの契約ってどうやったら解ける?」
「「未完成の魔法だ。それはまだ分からない」」
「ちょっ! それなら契約前にひとこと言って欲しかったんだけど!」
「「そんな余裕は無かった。何とかしろと言ったのは貴様だ」」
「そうなんだけどさぁ」
確かにこの現状を打破出来るのなら何だって差し出してやるとは思ったけれど、こんな契約を結ぶことになるなんて。
マコトは腕の紋様を見て撫でる。ただ絵の具で描かれたようなものなのに消えることはない。きっと契約が結ばれている間はずっとこのままなのだろう。
(待てよ。ということは……)
契約相手の模様を見る。柄は違うけれど、結ばれた印だ。
ぱっと見、魔王には魔力を持っていないように見えるが、契約をして魔力を結んだ今、強い魔法を使うことも出来る。
「…………」
「「なんだ」」
「僕の魔力を使ってアウローラを、人間を滅ぼすか?」
今ならそれが可能だろう。契約を結んだ人間を殺したらどうなるのか分からないが、この世界を壊してからマコトを殺せば事足りるだろう。
そうなっても良いと自分たちは選んだ。だがこちらを見つめている魔王に少しだけ緊張した。
「「いや、しない」」
だがあっさりと魔王は首を横に振った。
「どうして」
「「私の望みでは無いからだ」」
「魔王なのに?」
「「……確かにそうだな」」
フッと魔王の頬が緩む。
(あ、笑った)
人間と魔族は同じではない。それでも骨も笑顔も、そして命も同じものだ。
「「基本的に魔族は名を持たない。唯一、名があるのは魔王であり、私はその魔王として生まれた。だから魔王として存在した」」
「「名は役割だ」」と魔王は続ける。
「「強き者として頂点に君臨する。それが魔王だ。人間よりも魔族の誰よりも強くなければならない」」
「それは……」
名前に縛られているということかと口を開くが、それを聞くことが出来なかった。
役割を担うことはよく知っている。大魔道士である母の後を継ぐことに疑問を持ったことはないし、それを疑ったことはない。多少うっとうしいと思ったことはあるけれど、それでもその道を歩む必要があることを理解していたのだ。
そう生まれたが故に、そう生きなくてはならない。
(それでも……)
名前が重みになることは、とても悲しいことだ。
「「封印され魔力を失った私はもう魔王として生きることは不可能だ。役割は担えない」」
「僕の魔力が使えるんだろう?」
「「人間の助けが必要な魔王など、魔王とは呼べない。魔族は強者であることが全て。弱き者は淘汰される運命だ」」
強者しか生き残れない。魔力がほとんどない今の私はただの弱者だ。それが魔王の座に君臨するなんて、魔族にとって許せないことだろう――――そう魔王は言った。
確かに人間と契約をし魔力を借りている魔王など、魔族を統べる者としての威厳もない。殺して己が魔王になるか、次代の魔王を待つ方がいい。
「じゃあただの魔族として人間を殺したいとは思わないのか?」
魔族との戦争は大昔から続いているもので、魔族は人間を襲う生き物だと学校では習った。野蛮でずる賢くて、卑怯で残酷な魔族。到底人間とは相容れないものなのだと。
「「思わない。いや、思わなくなったという方が正しいか」」
魔王は目の下を爪の長い手で撫でて、また少し笑った。
「「力を失った私は魔王として生きられず、人間を殺す魔族としても生きられない。もう私は異物そのものだろう」」
「…………」
どこか寂しげな声音に何か言えたら良かったが、どう返したらいいか分からなかった。どの言葉も魔王は望んでいないと思ったからだ。
目の前にいる魔王は、これから人間にも魔族にも命を狙われる。言っていた通りこの世界の異物として生きるしか無い。だがそれは僕と同じだ。僕だって人間からしたら異物でしかない。
マコトは息を吐いてから聞いた。
「魔王はこれからどうするんだ?」
「「…………」」
人間と契約した元覇者は目を細める。そしてまるで迷子の子供のように視線を泳がせて言った。
「「分からない」」
「……そっか」
いや、きっと迷子なのだろう。行くあても帰れる場所もない。僕と、同じ。
マコトはひとつまばたきをしてから立ち上がり、「なぁ」と両腕を広げた。
「僕と友達にならないか?」
「――――」
魔王は瞠目した。驚きを隠せないといった様子で、ふざけるなと怒るかと思ったのだが、これは予想外だ。
マコトは「ははっ」と笑い、己の赤い瞳を指さした。
「僕と同じ、赤い瞳」
嫌われ者の証だったそれは、魔王と同じ赤色。緑色の液体に浸かっていても、それがハッキリと分かった。
「きっと僕たち、仲良く出来ると思うんだ」
「「…………」」
そう言っておきながら、本当に仲良く出来るかなんて分からないのは魔王も分かっているだろう。
ずっと戦争をしていた相手だ。そして封印した大魔道士の息子。恨みもきっとあるに違いない。もしかしたら魔力目的として利用され、いつかは殺される可能性だってある。
でも、それでもいいと思った。だがそれは人類滅亡を選んだのとは違う。これはただの予感。
同じ赤い瞳だから友達になれるという、ただそれだけの予感だ。
「「……貴様は変な人間だ。本当に」」
魔王はまた笑った。
「「いいだろう。その友達とやらになってやる」」
「うわ、上から目線だなー」
それにマコトも一緒に笑った。
「じゃあ今日から僕たちは友達だ」
~ * ~
「くそ、くそ、くそっ」
フロルは唾をまき散らしながら地団駄を踏む。
辺りは緑色の液体の水たまりがあり、魔王の四肢を保管していた機械はほぼ全て割れてしまっていた。
どれもこれも己が育て上げたモルモットにやられたことだ。今までで一番出来が良かったというのに、なんたること。
苛立ちのまま殺してしまったが、あれほどの成功体はなかなか出来ないから今後の為にもっと実験をし、データを取れば良かった。
(だがまだ息子の方が残っている)
ウェネが年に一度、魔王の封印を施すのを条件に、息子はモルモットにしないという約束をした。無理矢理奪っても良かったが、それで暴走、または自害でもされたら困ると思ったからだ。いや、こんなことになるなら勝手に死んでしまった方が苛立ちは少なかったかもしれない。
「あの息子をとっ捕まえて、内蔵から脳みそまでグチャグチャにかき混ぜてやる。その姿を見て地獄で泣けばいいぞウェネぇ」
「へぁっ、へぁっ」とフロルは大きく穴の開いた天井を見ながら笑えば、後ろから「ウェーイ」と若い男の声が聞こえた。今頃やって来るとは、どいつもこいつも使えないモルモットである。
視線だけ動かせば、そこには実験を現在進行形のモルモット三匹がいた。
白銀の髪の毛に青い瞳の男――ラトール・ベネット。
眠たげな少女は金髪の長い髪に、緑色の寝ぼけ眼――ナティオ・レイル。
眼鏡を掛けた灰色な瞳とピンク色の髪の毛。前髪の一部が赤色に染まっている女は――――ラビ・カニドゥス。
男、ラトールは額に手の屋根を作りながら辺りを見渡した。
「ぐっちゃぐちゃじゃねぇか。いい眺めだなぁおい。ざまーみろマッドサイエンティスト」
「ざまぁ、ざまぁ」
「眠い……」
楽しそうなラビに、眠そうなナティオ。相変わらずな三匹にフロルは「あー」と長く生きを吐きつつも、口は弧を描いたまま言った。
「遅かったぞモルモット」
「モルモットもいつも暇なわけじゃねぇんでね」
「お仕置きが必要だな。実験と解剖どっちがいいか、へへぁ」
「わーい! お仕置き大好き!」
「やめてよぉラビ。私眠いんだから」
「ナティオはいつも眠そうじゃーん」
「ラビは相変わらずだなおい」
慌ただしい白衣の研究員よりも煩い三匹はいつもこの調子である。だが必要以上に噛みついてこないのは躾けの賜だろう。
フロルは彼らに向き直り、「分かってるな?」と黄色く黄ばんだ爪で指さした。
「魔王とウェネの息子を連れて帰れ」
「殺さずに?」
「それが一番いいがな」
へぁへぁと笑う。
「魔王は殺しても許してやる」
「殺していいの⁉ 殺すの大好き!」
「そりゃ難しい注文じゃね?」
「私は寝るからパスー」
ナティオは欠伸をするが、気に掛けていたら日が沈む。三匹の鳴き声は無視して続けた。
「息子は必ず連れて帰れ。楽しい楽しい実験をしてやるんでなぁ、へぁへへ」
「そりゃ可哀想なこった」
ラトールは首をコキリと鳴らし、ナティオとラビの頭に手のひらを置いて髪の毛をかき混ぜた。
「んじゃ、とっとと行くぞ」
「待って待って、聞いていい?」
ラビは、はいはーいと手を上げる。
「薬はー?」
「へぁ、帰ってからだラビ」
そう答えたフロルにラトールとナティオが目を細めたのを見て、先ほどまで最悪だった気分が上昇する。
笑顔もいいが、やはり苦しげな表情はもっといい。
痛みは身体が繋がっている証拠。痛みが無ければもうその四肢の箇所は使えないということだから、つまらない。だがそれを覆したのは魔王だ。四肢を切っても再生し、切り落とした部分は様々な結果をもたらした。大層楽しい充実した実験だった。
「やっぱり魔王も欲しいなぁ、もう一度、もう一度、へへ、へへぁへぁ」
楽しかった実験を思い出すと口に涎が溜まる。
両腕を広げてフロルは笑った。
(あぁ、やっぱり)
「行って来い、私のモルモット」
そして。
「無事に帰っておいで」
――――実験は快感だぁ。