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●幕間Ⅰ


「――――ッ!」

 ハッと目を開けた。

 ドクドクと鼓動が強く脈打ち呼吸が荒い。額には汗の粒が浮いていて、心がまるで何かに握られているように痛い。痛くてたまらない。

「っ~~~~」

 涙が溢れた。どうしてこんなにも辛いのだろう。悲しいのだろう。叫んでしまいたいとさえ思った。

 両手のひらを瞼に置きながら唇を噛みしめる。こめかみの辺りを沢山もの涙が流れていく。どうして泣いているのか分からないのに、しばらくその涙を止めることが出来なかった。


「はぁ……」

 少し気分が落ち着き、大きく息を吐き出した。

 腕を退かして部屋を見れば、カーテンの隙間からは朝日が差し込み、部屋の中に一筋の光りを灯していた。まるで天から続く橋のようだ。

「ったく、なんだよこれ」

 朝から訳が分からない感情に振り回されて疲れてしまった。溜息をつき、差し込む光をしばらくぼんやりと眺めてから枕の横に手を伸ばす。

 取ったのはスマートフォンだ。タップするとあと数分でアラームが鳴る時間だった。しかし二度寝が出来るような状態ではない。再び画面をタップし、アラームが鳴らぬよう先に止める。そして勢いをつけて起き上がり音を立ててカーテンを開けば、綺麗な青空が出迎えた。

 もう涙は止まった。苦しくもない。

「よし」

 いつもの自分だ。


「母さん、おはよう」

 階段を下り、リビングに顔を覗かせる。

 小さいテレビの前に柔らかい色の木で出来たテーブルがあり、イスが二脚。テーブルにはトーストとスクランブルエッグが並んでいた。

「おはようまこと

 キッチンの方から、牛乳を片手に持った母が笑顔でやって来る。

「よく眠れた?」

 彼女の問い掛けにどう答えようかと考える間もなく、すぐに「あらあらあら」と困ったような顔をし、母は手を伸ばして誠の頬に触れた。

「どうして泣いてるの」

「え?」

 柔らかい手の感触と、頬を流れる雫の感触。どうやら自分はまた泣いているらしい。

「何かあったの?」

「わ、かんない」

 母の手に己の手を重ね、引きつりそうな呼吸を押し殺す。先ほど収まったというのに、どうしてかまた胸が苦しい。でもどこか安心して、ホッとした。

 矛盾する気持ちに戸惑ったけれど、母は「大丈夫」と優しく息子を抱きしめた。幼い子供にするように背中をポンポンと軽く叩く。

「大丈夫。大丈夫よ」

「…………うん」

 普段だったら『子供扱いするな』と拒むだろう。けれど今は母を抱きしめ返して、鼻をすする。その間もその手は誠を慰めた。

「急に泣いてごめん」

 落ち着いた誠は身体を離し、涙で濡れた頬を拭う。うん、もう大丈夫。

「顔洗って来る」

 笑顔でそう言えば、泣いたことへの詮索をすることなく「うん」と母も笑顔で頷いた。

「朝ご飯出来てるからね」

「はーい」

 この歳で甘えるように泣いてしまったことが少し恥ずかしくなり、小走りで洗面所に向かう。我ながら情けない。

 そんな自分を誤魔化すように急いで手のひらに水を溜め、まだ涙の感触が残っているのを消すかのように顔を洗う。

 それを数回繰り返してからプハっと顔を上げれば、鏡に映った己の赤色の瞳が見つめ返した。起きた瞬間から泣いたが、目が腫れてはいないようで安心する。

 それにしても今日は一体なんなんだ。

「んー……」

 誠は自分と見つめ合う。

「なんか長い夢を見てた感じがするなぁ」

 それがどんな夢だったのか、まったく思い出せないけれど。

「まいっか」

 しかし気にしていても仕方が無い。取り敢えず今は朝食だ。母さんが待っている。

 誠は赤い瞳から視線を逸らし、再び洗面器で顔を水で濡らした。


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