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漂着さきの背中

掲載日:2024/07/22

 廊下でこちらに背を向けて倒れ込んだ自分の映像が天井から斜めのアングルだった。映像の中の僕は、普段来たことのないベージュの正装をしていて、その恰好に見合うだけの恰幅のよさを得てまるで変貌を遂げていた。それだけ見た目が変わっていても自分だと分かったのは、これは人生で初めて判明したことだが、人の後頭部というのはけっこうその人なりの骨格を表しているものだった。僕が倒れていたその廊下については、思い返す限り一度だって通ったことがない。壁が白い漆喰で、床はダークブラウンのまるで液体チョコを敷き詰めたみたいな光沢を発揮している。窓はいくつかある、黒ずんだ曇りガラスが全部閉め切られており、外が明るいことから昼の時間だと思われる。僕が倒れている以外には他に人の気配のない、一体どんな施設の廊下なのかも検討がつかない廊下だった。強いていえば、日本ではないもう少し貧困の進んだ国の小学校の廊下かもしれない。ただそんなことを考えていても意味はない。第一、僕はここ最近でこれだけの長い時間卒倒していた覚えがないのだから、頭に流れだしたこの映像は一体何なのか。今僕は二人で出かけた先にいる。目の前であなたが何か楽しそうに話している顔の残像を追いかけながら相槌をギリギリ間に合わせで打って、話している内容は何一つ理解できず、辛うじて耳に入るあなたの声には初めて聞いたフランス語のような滑稽さが付いて回る。だがそれを笑っている余裕もなく、頭には廊下に僕の背中が横たわっている。視点の固定が甘く、気持ち悪く揺れて床は川が流れるような質感に映り、顔を突っ込んだ自分の窒息感が映像を介して僕に伝染する。息が詰まるのは孤独に似ていた。僕は昔から人と話しているとむしろ孤独を覚える気がした。あなたは絶えず楽しそうだ。僕もそうありたいが、喋っている姿が遠のくにつれ映像と交代してしまいそうになる。誰かと話していると、そうか、廊下に突っ伏しているのは僕の願望だった。この場を脳の力を使って抜け出して、そのまま知らない廊下で倒れてしまっていれば、その方がずっと解放感を堪能してお互いに幸せになれるはずなのに。


「そろそろ時間だね。じゃあ出よう。」

 頭の映像が晴れてくれたのはその瞬間だった。あなたのその声を待っていたと言っては失礼だよね。でもこの後の映画をみているときが今日で一番お互いのために良かったと思うよ。僕が珍しく口を開いて、見終わった映画の話をあなたにしたのは、無意識にそういう意味が込められていたんだ。失礼になってしまわないていどの、あとは僕のとあるせめぎ合いになるべく気づかれないよう、でも異変に気が付いたあなたに、僕は助けて欲しかったのかもしれない。

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