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第95話 偵察

 秋季大会神奈川県予選の決勝は川崎国際と金浜(かなはま)になり、赤津木(あかつき)と神田の黄金バッテリーが注目されていた。


 夜月(やつき)たちチーム全員で観戦がてら偵察(ていさつ)に行く。


 しかしどこからか池上荘(いけがみそう)メンバーと純子や真奈香に情報が漏れたのか、全員そこについてきてしまう。


 この横浜スタジアムでのスターティングメンバーは……




 先攻・金浜高校


 一番 センター 四十崎桜太(あいさきおうた) 一年 背番号8


 二番 ショート 近藤祐介(こんどうゆうすけ) 二年 背番号6


 三番 キャッチャー 神田貴洋(かんだたかひろ) 二年 背番号2


 四番 ピッチャー 赤津木暁良(あかつきあきら) 二年 背番号1


 五番 ファースト 月野葉月(つきのはづき) 二年 背番号3


 六番 セカンド 八王子平利(はちおうじへいり) 二年 背番号4


 七番 ライト 天ヶ瀬伊吹(あまがせいぶき) 一年 背番号9


 八番 レフト 琴葉和幸(ことのはかずゆき) 一年 背番号7


 九番 サード 白家健太(しらいえけんた) 一年 背番号5



 後攻・川崎国際高校


 一番 サード 清水裕介(しみずゆうすけ) 二年 背番号5


 二番 ショート 鳥越篤也(とりごえあつや) 二年 背番号6


 三番 ピッチャー 柳勝矢(やなぎしょうや) 二年 背番号4


 四番 ライト 木野貴晶(きのたかあき) 二年 背番号9


 五番 キャッチャー 高畠岬樹(たかばたけみさき) 二年 背番号2


 六番 セカンド 中里健太郎(なかざとけんたろう) 二年 背番号14


 七番 ファースト 指田悠(さしだゆう) 一年 背番号3


 八番 センター 田中秀太(たなかしゅうた) 一年 背番号8


 九番 レフト 乙茂内勝治(おともないしょうじ) 一年 背番号7



 ――となった。


 今回はエースの植木は温存していざという時に登板させる作戦のようだ。


 それに川崎国際のキム・ソンイル監督は何やら電話をしているようだ。


「あの監督……誰に電話してるのかしら?」


「え?」


「そうね……純子の言う通り、誰かに頼み事をしているように見えるわ」


「黒田さんや灰崎(はいざき)さんがそう言うという事は何か仕掛けてるんだね?」


「はい。うちとの試合でも写真部からの情報で似たようなことをしていたような気がするんです。もしどこかに八百長(やおちょう)している証拠でもあればすぐに突き付けられるんですが……」


「今はその証拠はないんだ。とにかく絶対的な証拠を見つけて神奈川の高校野球の平和を取り戻そう」


「はい」


「あいつ、八百長で攻略されて自信を失わきゃいいけど……」


 夜月は赤津木が自信家で天才肌なのをわかっているからこそ、『川崎国際の卑劣(ひきょう)な勝ち方で心が折れなければ』と独り言のようにつぶやいていた。


 夜月の心配が気のせいならば一番いいが、赤津木ほどプライドが高いと心を折られた時にすべてを投げ出す可能性がある。


 もしそうなりかけた時にいつでも金浜ベンチに入る覚悟は出来ていた。


 一方の金浜高校のベンチでは……


「夜月のやつ、俺が八百長試合なんかで心が折れるなんて思ってるんだろうがそうはいかねえぞ。この俺は天才二刀流だからそう簡単に攻略はさせねえっての。たかっちとの黄金バッテリーをなめられちゃあ困るね」


「でも彼が忠告するほど川崎国際は卑劣(ひれつ)残酷(ざんこく)だと聞いたことある。もし暁良くんまで被害に遭ったら僕は誰とバッテリーを組めばいいんだって思うな……」


「たかっちは心配しすぎなんだよ。と言いたいところだけどそうやって東光学園も常海大(じょうかいだい)相模(さがみ)も沈んじまったからな。念のために警戒しておくよ」


 赤津木と神田の黄金バッテリーはそう簡単に攻略されないのも事実だが、いくら自信家の赤津木でも『川崎国際の卑劣なやり方で東光学園と常海大相模が犠牲になった』と知ったら警戒しないわけがなかった。


 その警戒モードの中で試合は始まり、赤津木は誰にも手を出させない速球で三者凡退に抑え切る。


 1回のウラの攻撃では四十崎がセーフティバントを決め、近藤がヒットエンドラン、神田がタイムリーと1対0でいいスタートを切った。


 そして赤津木がスリーランホームランと一気に4対0にまで差を広げた。


 追い打ちで五番の月野も続くホームランで5対0となる。


 金浜のベンチでは続く得点に大喜びだが、若き名将で赤津木の兄である赤津木暁人(あかつきあきひと)はあまり喜んでいないようだった。


 現に川崎国際に点を取る気配がなく、金浜のペースにあえてさせているようでどんどん点差が広がり、5回のウラで9対となった。


「兄貴! このまま行ったらウチがコールド勝ちで関東大会が有利になるよ!」


「あ、ああ……そうだな」


「おいおい兄貴、何でそんな顔がしかめっ面なのさ。俺たちは勝利が約束された野球エリートの集まりだぞ? 監督なんだから俺たちと一緒に喜ぼうぜ?」


「いや、その……本当は言いたくないから黙っておこうと思ったんだが、あいつらはわざと点を取られに行ってる。現にピッチャーのスタミナは全然減ってないし、野手の連携も今までと比べておかしい。それにやたら甘いコースに投げられなかったか?」


「そういや監督、やたら点につながるヒットはずっと甘めのコースだったような……」


「そんで9点目を取った瞬間に急に動きが変わった気がします……」


「まさかあいつら……俺たちに()()()してんのか?」


「もしそうなら次の攻撃で一気に決着をつけるぞ! お前らの勝負強さならやれる! 川崎国際が本気を出さないうちに勝負を終わらせよう!」


「はい!」


(川崎国際、俺はあいつらの野球は絶対に認めない……。正々堂々とお前らの野球を全否定してやる……!)


 赤津木監督の悪い予感は既に当たっていたが、気付いた時にはもう既に遅かった。


 6回の表で清水が避ければ何とかなるインコースをあえて避けずにデッドボールで出塁。


 鳥越はファールの粘り打ちで赤津木の球が荒れてくるのを待ち、そのままフォアボールで出塁。


 さらに柳が赤津木の甘く入ったストレートをレフト前にヒットを放つ。


 レフトの琴葉(が強肩だったから満塁に収まったがピンチな事に変わりはなかった。


 四番の木野の打席になり、フルカウントまでもつれて放った10球目だった。


「このまま点を取られたらマズい……俺がしっかり抑えてコールドゲームにしてやる! くらえっ! うっ……!?」


「ははっ! どうした赤津木! いつものストレートに勢いが全然ねえぞ! オラァッ!」


 カキーン!


 突然赤津木の両目に赤い一点の光が現れ、赤津木の目をくらませて甘い棒球(ぼうだま)になってしまった。


 その結果、木野はフルスイングでセンターバックスクリーンに運び、そのまま満塁ホームランとなった。


 赤津木監督は弟の異変を感じてすぐにタイムを取り、審判の方へ強く詰め寄った。


「すみませんタイム! ピッチャーの目元に小さな一点の赤い光が浮かんだ上に、マウンドでもグルグルと回って点滅してましたが見えませんでしたか?」


「何かね? 今の結果が気にくわないというのか? そんなものは見えなかったが赤津木監督もお疲れなんじゃないですか?」


「やはり(しら)を切るか……。気のせいならいいんですが、もし観客に妨害するような(やから)がいたとして念のために注意を(うなが)すようにしてもらえますか? こちとら正々堂々と勝って甲子園に行きたいのでね。もし向こうのグルだとすれば神奈川の……いや日本の高校野球は終わりますよ?」


「わかったから戻りなさい。全く、これだから若いのはうるさいんだよ……。私だってこんな事したくないし間違ってるのはわかってるんだから……」


「何か言いましたか?」


「何でもありません。さあ戻って、試合が進まないから」


「注意を促す気がないか……。わかった、だがもう一度同じことが起きたら容赦なく言いますからね?」


(ここで川崎国際に逆らえば私の家族は……)


「やはりそうですか……」


「黒田さん、何か気付いたのかね?」


「観客の中に川崎国際のスパイ、または誰か刺客(しきゃく)が潜んでいる可能性があります。先ほど赤津木くんの目元やマウンドに赤い光が点滅してました」


「ああ、そうだな。それに守備の時もボールが行ったところにも赤い光が動いてて集中力を切らしてた。常海大相模の場合は鏡の光の反射で選手の目をくらませていたな」


「そうですね。念のために生徒会で話し合い、広報部や写真部、心理学部などを集めて暗部(あんぶ)を結成し、川崎国際やその関係組織を突きつけてみます」


「頼んだよ、長田(ながた)さん」


「野球部もやられたんだな……」


「は……? どういうことだ河西(かさい)


「俺らサッカー部も川崎国際の試合の時に同じ事をやられたんだ。サッカー部だけじゃない、ラグビー部やバレー部、陸上部にバスケ部、ソフトボール部や水泳部もさ。しかもだ……命がけのスタンツの時にチア部までやられて三年の先輩が転落して車いす生活になってる」


「何だよそれ……!?」


「クリスにもその妨害が来て、一歩間違ったらクリスが転落して寝たきりになるところだったんだ……。明らかに東光学園は狙われてるよ……」


「純子、今の話聞いたわね?」


「ええ……モノクロ団の仕業にしては姑息(こそく)だし、もっと別の何かが絡んでるわ」


「命がけで私が証拠を掴むわ。純子は歩けないからあまり無理はしないでね?」


「わかったわ」


 不穏(ふおん)な空気の中で試合は進み、赤津木はいいピッチングをしたものの他の野手の目の前にまた赤い光が点滅し、集中を切らしたり目をくらませたりとまた妨害が始まる。


 その結果エラーが大量に記録され、9回ウラでついに9対7と追いつかれた。


 ツーアウト満塁でピンチの赤津木はタイムを取って神田と話し合い、最少失点に抑えて勝利する作戦に出る。


 バッターは左利きの指田で既にツーストライクと追い込んでいるがファールを三球連続で粘られている。


 赤津木はそれでも闘志全開で全力投球をして渾身(こんしん)のフォークで三振を狙う。


 ところが粘り打ちをされすぎて疲労が溜まったツケが出てしまい、フォークがすっぽ抜けて甘い球となった。


 指田はすかさずボールを捉え、右中間を抜けそうな当たりを打った。


 しかし天ヶ瀬はギリギリ追いついて後ろへそらさず、ワンバウンドで捕球してバックホーム体勢に入る。


 しかし高畠も中里も足が遅いので、ライトの天ヶ瀬の強肩なら中里をアウトにするにはちょうどいい距離だった。


「天ヶ瀬! バックホームだ! 相手の足は遅いからいけるぞ!」


「うおぉぉぉぉぉぉーっ!!」


「足が遅いならこういうやり方もあるんだぜ……?」


「何……!?」


「くたばれ黄金バッテリーっ!!」


「うわっ!?」


「たかっち!」


「セーフ!」


 高畠がホームインした直後に中里までホームに突っ込み同点を狙った。


 天ヶ瀬の放ったレーザービームは完璧でタイミング的にはアウトだった。


 ところが中里は神田の足元を左手で掴み、そのままスライディングをして神田を転ばせた。


 あまりの卑劣なプレーに赤津木は怒りのあまりに中里の胸ぐらを掴み、マズいと思った赤津木監督はベンチを飛び出して審判に抗議(こうぎ)をした。


「テメエ! わざとやりやがったな!?」


「へっ! どこがわざとなんだよ! ただの事故だしコリジョンルールも知らないのか?」


「何だと!? もう一度言ってみろコラ!!」


「待て! タイム! 落ち着け暁良! 後は俺がやる! 今のプレー……どう見ても故意(こい)のラフプレーだし、もしこのまま最悪なパターンなら選手生命が()たれる事案じゃないですか? 君、()()()手で足を掴んで滑ったね? もし神田が歩けなくなったらどう責任を取るんだ?」


「またあなたですか……。セーフと判定したんだから諦めなさい。それとも金浜高校の来年の夏を奪いたいのですか?」


「そうですか……選手の健康を(おろそ)かにするような審判なら法廷(ほうてい)でお会いするってのもありですね。君たちは何故ここまで卑怯で卑劣な真似をするんだ?」


「俺たちは選ばれたエリートなんだ。勝利以外に価値はない。弱者は強者に負けるのが相応(ふさわ)しいし、どんな手を使ってでも勝利しか認めない。何をされたからってただ吠えるのは弱者のすることなんじゃないか?」


「ほう……? うちの子を傷つけても何も思わないんだ? だったらこの試合を棄権(きけん)します。こんな安全の保障もない試合に何の価値もない。これ以上続けたらこの子たちがケガをして、君たちのような戦争野球のせいで野球を嫌いになってしまう。戦略的撤退(てったい)だ」


「兄貴……クソがっ! ふざけんなっ!! バカヤローッ!!」


「ただいまの試合は金浜高校の棄権により川崎国際の勝利とします。では……礼っ!」


「おとなしく這いつくばってな!」


「何が名門だ! 俺たちのような天才には勝てなかったな!」


「テメエら……たかっちを傷つけておいて! もういっぺん言ってみろコラ!!」


「暁良よせ! お前が喧嘩起こしたらあいつらの思うツボだぞ!」


「クソがっ! こんな結果ぜってー認めねえぞっ!! お前ら覚えてろよ!? 絶対に許さねえからなっ!!」


「赤津木……」


「最悪な試合だったわね……」


「もう見てられない……」


「絶対に突きつけて今までの悪事を(さら)して正義の鉄槌(てっつい)を浴びせてやる……!」


「あいつの調査が上手くいけばいいんだがな……」


「夜月くん、何か言ったかしら?」


「あ、いえ。何でもないです」


 川崎国際のあまりにも極悪非道(ごくあくひどう)な試合結果に、横浜スタジアムはブーイングの嵐に見舞われる。


 純子と真奈香は『こんな悪事を許さない。絶対に証拠を掴んでみせる』と誓い、石黒監督も『あんな野球は認めない』と怒りをあらわにしていた。


 池上荘メンバーも純子たちの調査に協力することを約束した。


 一方の金浜高校は赤津木がグローブを叩きつけて怒りが爆発し、月野に至ってはロッカーを何発も殴った。


 後日、神田の下半身は靭帯裂傷(じんたいれっしょう)で『入院とリハビリが必要』という診断結果だった。


 このまま高校野球は川崎国際によって支配されるのか……?


 つづく!

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