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第94話 川崎国際、再び

 秋の県大会も三回戦を迎え、ついに東光学園にとって因縁(いんねん)深い川崎国際の試合となった。


 今回の試合前も既に空気が悪く、東光学園ナインがシートノックをすると川崎国際から盛大なブーイングが浴びせられた。


 おまけに川崎市長であ有泉芳生(ありいずみよしふ)が川崎国際を応援に訪れていた。


 そんな試合のスターティングメンバーは……





 先攻・川崎国際高校


 一番 サード 清水裕介(しみずゆうすけ) 二年 背番号5


 二番 ショート 鳥越篤也(とりごえあつや) 二年 背番号6


 三番 ピッチャー 植木政也(うえきまさや) 二年 背番号1


 四番 ライト 木野貴晶(きのたかあき) 二年 背番号9


 五番 キャッチャー 高畠岬樹(たかばたけみさき) 二年 背番号2


 六番 セカンド 柳勝矢(やなぎしょうや) 二年 背番号4


 七番 ファースト 指田悠(さしだゆう) 一年 背番号3


 八番 センター 田中秀太(たなかしゅうた) 一年 背番号8


 九番 レフト 乙茂内勝治(おともないしょうじ) 一年 背番号7





 後攻・東光学園


 一番 セカンド 山田圭太(やまだけいた) 二年 背番号4


 二番 ショート 木村拓也(きむらたくや) 二年 背番号6


 三番 センター 夜月晃一郎(やつきこういちろう) 二年 背番号8


 四番 レフト 朴正周(パクセイシュウ) 一年 背番号7


 五番 ファースト 清原和也(きよはらかずや) 二年 背番号3


 六番 サード 松田篤信(まつだあつのぶ) 二年 背番号5


 七番 ライト 尾崎哲也(おざきてつや) 一年 背番号9


 八番 キャッチャー 津田俊光(つだとしみつ) 一年 背番号2


 九番 ピッチャー 榊大輔(さかきだいすけ) 二年 背番号21




 ――となった。


 今日の試合は東光学園にとっては最悪な条件で、等々力(とどろき)球場という川崎市の球場なので川崎市議会なども支援に来ている。


 その民主党政権状態の川崎市議会と東光学園は非常に仲が悪く、市議会は川崎市から東光学園を追い出そうという活動もしているとか。


 そんな中で負けられない東光ナインは榊と津田のバッテリーで挑む。


「来いよ!」


「清水さんは小柄ながら出塁率が高く、そんで盗塁とかはしないけど打率と出塁率で一番バッターになった感じっす。榊先輩の球ならそう簡単に打たれはしないでしょう。ストレートで一発脅迫(きょうはく)しましょう」


「相変わらず単純なリードだな。でもここは……俺の自信ありな真っ直ぐで勝負だな!」


「甘いっ!」


 カキーン!


榊の初球を清水は捕らえたものの、夜月のいるセンターの守備範囲でアウトになる。


 二番の鳥越も榊をなめていた結果三振、三番の植木は榊の事を非常に見下しており、背番号が21というのもあってか軽く流してヒットにする。


 すると四番の木野が榊の甘く入ったフォークをフルスイング。


 その結果……


「何と木野、レフトの場外ツーランホームランです! 規格外のパワーの持ち主が現れた!」


「おっしゃー!」


「ナイスバッティング!」


「あのピッチャー速いだけで大したことないぞ!」


「甘すぎたか……」


「先輩! 切り替えていきましょう! あんなのまぐれっすよ!」


「まぐれか……やっぱりな! よし、ここからは抑え切ってやるぞ!」


 宣言通り高畠を三振に抑えてチェンジ。


 1回のウラで山田は榊の分まで打つと張り切るもレフトフライでワンアウト、木村は三振と幸先(さいさき)の悪いスタートを切った。


 夜月が二遊間(にゆうかん)を抜いたセンター前にヒットを放って安打を稼ぎ、同じく因縁が深い朴がツーベースヒットを放つも、清原が三球三振と植木のピッチングが完璧に近づいていた。


 しかし植木は夜月にだけは手を抜いていて、どうやら『夜月がどんなに打ってもチームは勝てないから、あえて手を抜いて、いい気になったところでチームメイトを潰す』事で流れを切る作戦のようだ。


 2回の表は三者凡退で抑え、2回のウラでは松田のフォアボールで出塁するも、打撃が苦手な尾崎がダブルプレー、津田もファーストのファールフライに沈む。


 3回の表には一年生の田中がセーフティバントでピッチャーを走らせ、次の乙茂内も同じくバントで榊のスタミナを削りに行く。


 清水や鳥越も同じやり方で榊が疲れからか転んでしまう。


 そこで植木がスリーベースを放って6対0になる。


 それ以降は毎回ランナーを出すも7回の表まで無失点に抑え切った。


 しかし7回のウラであおいはこのままのペースで行ったら危険だと察知したのか監督に報告する。


「監督、このままでは榊くんは崩れてしまいます」


「いや、榊だけじゃない。夜月の時だけ手を抜かれて他には全力で抑えられてるせいか他のメンバーも戦意が喪失(そうしつ)しているな。もし夜月まで戦意を失ったらうちはもう終わりだ……」


「監督、勘違いしてもらっちゃ困りますよ。俺はどんなになめられても、ナメプしたことを後悔させるってもう決めてるんで。俺は打つぜ、手を抜かれたとしても」


「夜月くん……そうだよ! みんなキャプテンが諦めてないんだからみんなも諦めちゃダメ!」


「先輩……そうっすね! 夜月先輩! あんなナメプ野郎どもなんか蹴散らしてください!」


「いいぞ津田! お前はデカい声で鼓舞(こぶ)しろ!」


「来やがれ!」


「手を抜いてるとはいえ、こいつだけは諦めてくれないんだな。ムカつくから当ててやろうか?」


「その必要はない。確かにわざと当てれば乱闘で不戦勝は狙えるが、あの監督は圧倒的に勝てとしか言われてないから故意死球(こいしきゅう)は水を差す」


「あのオッサンのことだからそう言うだろうな。じゃあ三振にしてこいつの心をへし折ってやろう」


「それならオールストレートでやってやるか。本気で抑え切ればさすがのこいつもやる気をなくすだろうよ!」


「うっ……!」


「ストライク!」


「あいつら……!」


「へへっ、これが俺の実力だ。悪魔の子はおとなしく落ちこぼれちまえ」


「そうかよ、あえて本気で潰してチームの士気を下げようってか……。その思惑(おもわく)をぶっ壊してやるぜ!」


「自信だけは一丁前だな! だったらお前のその闘志を消して自滅させてやるよ!」


「バカ! まだサインが決まって……」


「真っ直ぐ……だが甘いな! オラァッ!」


「クソッ! ライト追え!」


「やべ、なめすぎて前進守備してた……! クソがっ!」


 夜月の気合いのこもった打球はライトの頭上を大きく越え、前進守備が裏目に出てそのまま三塁へ走る。


 陸上部の阿部が仕込んだスプリント走法でスリーベースヒットを放った。


 チームにとってこれが火付けとなるかと思われた束の間、朴の三振と清原のインフィールドフライ、しかも運悪く松田の放った打球が夜月にイレギュラーバウンドで命中して無得点になってしまった。


 8回の表ではバントで走らされて疲労困憊(こんぱい)の榊に考慮してマウンドには川口が登板。


 ところが……


「ウラァッ!


「それっ!」


「ざまあみろ!」


「くっ……! どうしてこんなに打たれるんだ……?」


 川口の投球はまるで誰かに見られてるように球種がバレていて、『サインを盗んだんじゃないか』という疑惑が生まれた。


 津田もサインを必死に隠してリードするも、それでも13点も取られてしまう。


 怪しく思った石黒監督は急遽(きゅうきょ)タイムを取る。


「タイム! 審判少しいいですか?」


「何だね? 今忙しいんだから手短に頼む」


「さっきからあちらのベンチでキャッチャーの津田の手元を見てからサインを送ってませんか? まるでサインを盗んで打ってるかのような感じするんですけど?」


「おいおい負け惜しみかよ! 実力がないザコってよく吠えるもんなー!」


「名門と言われた東光学園もついに地に落ちたか?」


「ダッセー言い訳してないで負けを認めろよジジイ!」


「はあ……あなたの言い分はわかったがそんな証拠はない。言いがかりはやめてもらえないかね。これ以上抗議するなら没収試合で反則負けにするよ?」


「なっ……!?」


「どうするのかね? 選手の努力を無駄にしたいのですか?」


「うぐぐ……! わかった、このくらいにしよう……!」


 石黒監督の目には審判や高野連(こうやれん)、警備員でさえ川崎国際の母体である川崎市議会に買収されたと見えた。


 現にやたらと東光学園には不利なカウントで、川崎国際を勝たせたいかのように相手に有利なカウントを取っていたのだ。


 ファールじゃないのにファールとられたり、どう見てもストライクがボール、ボールがストライクと露骨すぎる贔屓(ひいき)判定だったのだ。


 その瞬間に石黒監督やチーム全員は悟った、この試合は必ず負けるように仕込まれていると。


 その結果……心は完全に折れてしまって川口は炎上。


 清原に至ってはミットを地面に叩きつけ、ベンチでは涙を流して泣きじゃくる人もいた。


 そして8回のウラを終えた結果……


「整列! 東光学園と川崎国際の試合は……19対0で川崎国際の勝利です! では……礼っ!」


「「ありがとうございました……」」


 最後の礼も川崎国際は無視してそのまま戻り、勝利に酔いしれるように喜びをさらけ出した。


 まるで東光学園に卑怯な手で勝ったのにいかにも全力でやりました感をわざと見せつけるように嫌味ったらしく露骨に喜んだ。


 ベンチ裏ではロッカーを殴る清原、投げる事すらイップスになった榊と川口、自分のリードが読まれたせいで責任を感じた津田、そして川崎国際の流れの原因は自分だと自責する夜月とチームの雰囲気は完全に悪くなった。


 10点以上も差をつけられて負けるのは東光学園史上ワーストの記録で、2000年の歴史に泥を塗る形となってしまった。


 石黒監督も自分の無能さを恨み、選手を守れなかった事に責任を感じて試合後に涙を流しながら謝罪した。


 こうして秋季(しゅうき)大会は終え、野球部はオフシーズンに入った。


 つづく!

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