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それいけ!東光学園野球部!  作者: 紅夜アキラ
第一部・第一章
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第7話 体育祭・予選編

 5月を迎えた東光学園は体育祭に向けて準備を進める。


 本番と言っても1日目と2日目に分かれ、1日目はいわゆる予選というものだ。


 とくに部活対抗リレーでは、運動部だけで80以上もあるので予選が多くなる。


 文化部は120以上存在し、部活対抗リレーに出るかどうかは任意になる。


 今回は男子の文化部では吹奏楽(すいそうがく)部、マーチング部、演劇部、歌舞伎(かぶき)部、軽音楽部のみだ。


 女子に至っては吹奏楽部やマーチング部、演劇部、軽音楽部、茶道部、そしてアイドル研究部だ。


 運動部はすべて出場するが、陸上競技部の短距離は特別枠で参考記録という事になる。


 もちろん部活対抗リレーは名物だが、メイン競技も忘れてはならない。


 あの大人数での体育祭は……予選でさえ激戦なのだから。


「まずは100メートル徒競走(ときょうそう)だね」


「2面使って走るんだろ。女子と男子に分かれてさ」


「私は走るのも自信あるけど、(こう)ちゃんは足が速いからいけるよね!」


「この学校は全ての運動部が全国レベルだぞ。超マイナースポーツに至っては代表入りしてもおかしくない連中だぜ?」


「確かここってアイルランドの国技の『ゲーリックフットボール』や、インドで盛んな『クリケット』もあるんだっけ?」


「そうだな。部活名簿の数が多いってのに瑞樹よく覚えてたな」


「えへへ」


「あ、夜月(やつき)くん!」


「高坂か」


「体育祭の予選楽しみだね」


「まぁ運動部だからな」


「水瀬さんも頑張ろうね」


「うんっ!」


「ではこれより、第2009回・東光学園体育祭の予選会を始めます。選手宣誓は、水色組団長、山本麗奈(やまもとれいな)


「はい!宣誓!我々選手一同は!スポーツマンシップに則り!正々堂々と予選突破する事を誓います!」


 最初の競技は100メートル走で、夜月はランダムに振られて第50レース目になる。


 その相手は池上荘(いけがみそう)のメンバーが勢ぞろいなだけでなく、俊足の山田や同じ組の天童も一緒だ。


「よぉ夜月!まさかここで池上荘が揃うとはな!」


「まぁこれも偶然だろう。正々堂々勝負しようぜ」


「僕も負けないよ」


「まさかお前と争うことになるなんてな」


「……。」


「げっ!阿部俊太(あべしゅんた)じゃん!」


「お?天童知ってんのか?」


「こいつ、一年で入部早々三年生エースの先輩をぶっちぎりで破ったと聞いたぜ」


「げー、オイラで勝てるのかよー!」


「……。」


「えっと……走るにはコツがあって、太ももを高く上げて自転車で()ぐイメージで足の回転を速くするんだ。これで合ってるか?」


(コクコク)


「えっ!?俺以外にも阿部の言葉が通じるのか!」


「こいつ、こっそり()()()()と喋ってんの聞こえたんだよ」


「あちゃー、バレちゃったか。こいつの無口の()()()()が。そう、こいつは声があまりにも小さくて喋ってないように聴こえるが、実は口も動いてて喋ってたんだよ」


「じゃあ俺でもタネがわかればいけそうかな!」


「残念だが天童、お前じゃ無理だな」


「何で!?」


「オイラも無理だな」


「いつも一緒に暮らしてる俺らでさえわかんねぇのに、夜月はすごいな」


「君たち、いつまで喋ってるんだい?早くレーンに入りなさい」


「うわっ!すいません!」


 スタート前には黙ってスタート直後に喋ってた夜月たちは、ついに審判の教師に注意された。


 そこから反省したのか、後でゆっくり話そうと言ってスタートの準備をする。


 第50レース目になり、晃一郎たちはスタート体勢に入った。


「On your mark……。set……」


 ピストルの音が鳴り、夜月たちは一斉にダッシュした。


 ところが阿部はもう既に抜け出していて、もう誰も追いつけない状態だった。


 ギリギリのところで山田が食らいついていたが、反撃もここまでで時は既に遅しだった。


 記録は9秒台で、もう誰もこいつの記録には勝てないと意気消沈した。


 一方の山田は自分よりも早い人はまだいるんだと実感した。


 3位の郷田(ごうだ)は冷静だが悔しそうにしていた。


 4位の天童と5位の夜月は、何だこいつらと言わんばかりに膝を抱えて三人を見つめた。


 6位の黒崎、7位の林田、8位の河西はもはや言葉にならない状態だ。


 だがこの組み合わせが後に本番でこんな事になるとは、まだこの8人は知らない。


 一方の女子はあおいがレースで1位、瑞樹も総合7位といい感じだった。


 クリスとつばさはそれなりに、優子と麻美(あさみ)も文化部にしては上出来だった。


 しかし有希歩(ゆきほ)はスタートダッシュに出遅れてしまい、レース内で最下位と屈辱(くつじょく)を味わった。


 次の予選は障害物競走と借りもの競争で、ハードルや網くぐり、平均台とグルグルバット、一発芸などを400メートルも走る。


 借りもの競争はどれも理不尽なものばかりで、動画映えこそするものの借りる側からしたらたまったものではなかった。


 次の棒引きでは、横浜工業体育祭のラフプレーでの乱闘事件をきっかけに監視を強化したが、東光学園の不良組も自己責任の重いこの学校では下手な真似は出来なかった。


 借りもの競争も障害物競走も予選を突破した生徒が2日目の決勝へ、棒引きでの決勝は赤組と青組になった。


 一方こちらは同時進行の走り幅跳びと走り高跳び、ソフトボール投げでは続々と決勝進出の8人が選出された。


 綱引きの予選突破は黄色組と赤組、大縄跳びでは緑組と白組となった。


 玉入れは全組が参加出来るので予選はなく、次の1500メートル走になる。


 1500メートル走では陸上部が目立ったものの、ちらほらと他のよく走る運動部が上位に入った。


 次の競技は部活動対抗リレーだ。


 もちろん夜月たちの世代は出場できない。


 その代わりに硬式野球部から出場するのは……


「やぁみんな。水色組は一年の野球部が多いね」


「あ、キャプテン!おはようございます!」


「キャプテンはリレーに出るんですか?」


「主将や部長などの一番上の部員責任者または運動部の場合はマネージャーがアンカーになるんだ。マネージャーの菊池さんをアンカーにしたかったけど、本人は走るのは苦手だと言って出場を断られたんだ。だから僕がアンカーになるんだよ」


「そうなんですね。他に誰が出るんですか?」


「部活対抗リレーでは4人が出場できて、第一走者がホセくん、第二走者が小野くん、第三走者にロビンくんだよ。君たちも応援してね」


「はい!もちろんです!」


 部活対抗リレーが行われ、硬式野球部は順当に1位を獲得した。


 ホセで先手必勝を取り、小野でリードをキープ、走るのがやや苦手なロビンで余裕をつけて俊足の渡辺で決着をつける作戦だ。


 全ての運動部のレースを終え、決勝進出の七組が決まる。


「部活動対抗リレーの決勝進出チームの発表です。男子の部……硬式野球部、サッカー部、バスケットボール部、ラグビー部、ハンドボール部、バレーボール部、そして……硬式テニス部です。続いて女子の部……ソフトボール部、バレーボール部、バスケットボール部、ハンドボール部、水泳部、チアリーディング部、そして……新体操部です」


「おおー!」


「さすが先輩たち。春の甲子園準優勝はダテじゃないな」


「だな。こんな先輩方と野球できる俺たちは恵まれているな」


「俺たちも部活対抗リレーに出たいぜ!」


「天童は相変わらず張り切るな。俺は別に……」


「え?夜月くん足が速いんだから出ればいいのに」


「こんなヘタクソにそんな余裕があるかよ」


「うーん、ヘタクソとは思えないんだけどなぁ……」


「夜月、あんま卑下(ひげ)すんなよ?チームの空気悪くすっからよ」


「わかってる!そんなの……わかってる……!」


「晃ちゃん……」


「すまない……」


 そう言って夜月は感情的になってその場を立ち去った。


 瑞樹の心配そうな目を気にならないほどに夜月は苛立(いらだ)っていた。


 天童は夜月の過去がどうしても気になり、瑞樹に思い切って声をかけた。


「なぁ、夜月は中学時代に何があったんだ?話しづらいなら無理して話す必要はないがよ、あいつあまりにも卑屈(ひくつ)だからさ。俺たちは同じチームメイトとして、あのままじゃいけねぇって思うんだ。教えてくれ」


「天童くん……」


「私からもお願い!マネージャーとして気になるし、彼にあのままズルズルと落ちてほしくないの!」


「あおいも……。わかった、全部話すね。あれは中学三年の時……」


 瑞樹は天童とあおいに勇気を出して夜月の過去について語った。


 その過去を知った二人は、神木(しぼく)中への怒りと悲しみに溢れてしまい、天童に至っては『最低だ!』と怒りを(あら)わにしていた。


 瑞樹は夜月への気遣(きづか)いで、本人に過去の話を聞いたことを秘密にしてほしいと言われ、それを二人は約束した。


 一方こちらは夜月、感情的になってしまった事を一人で反省し、深呼吸をして水色組のところへ戻る。


 戻って感情的に怒鳴(どな)ったことを瑞樹やあおい、天童に謝罪して気を取り直す。


 最後の予選である二人三脚リレーで、夜月と瑞樹は最高のコンビネーションで予選1位通過したのは言うまでもなかった。


 予選会を終えて2日目に備えるために各組は準備を進める。


 100メートル徒競走の決勝進出の発表が出たので、アナウンスが流れた。


「男子百メートル徒競走の決勝進出は……阿部俊太(あべしゅんた)河西裕樹(かさいゆうき)黒崎亮介(くろさきりょうすけ)郷田猛(ごうだたけし)天童明(てんどうあきら)林田将太(はやしだしょうた)夜月晃一郎(やつきこういちろう)、そして……山田圭太(やまだけいた)です」


「おおーっ!?」


「おいおいマジかよ……」


「第50レース目の全員が決勝進出ってありかよ……」


「つーわけだ、決勝で会おうぜ」


「負けないよ」


「望むところだ!」


「勝つ……」


「くぅ~!楽しみだぜ!」


「阿部にリベンジだぞ!」


「また走り込むか!」


「俺が決勝……?」


「何だよ夜月、その塩対応な喜びはー。もっと喜んだ方がいいぞー」


「いや、実感がないんだよ。この俺がだぞ……?」


「まぁ全国クラスの生徒が多くいるから無理もないよね。僕も実感がわかないもん」


「俺なんかこのレースで最下位だから決勝進出が奇跡なんだよ。つーわけで明日はリベンジすっから体調崩すなよ!」


 男子の徒競走の結果はまさかの池上荘と野球部でも俊足の二人が選ばれた。


 一方の女子はあおいと瑞樹、つばさが決勝進出を決めた。


 こうして予選会を終えて2日目に向けて、各組は準備をしていきました。


つづく!

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