第84話 山手芸能学校高等部
次の第2試合は山手芸能学校高等部で、野球部の中にも現役の芸能人やセルフチューバーも多くいる。
今回の野球部には中国人留学生がいて、体力こそないが持ち前の知識量で今まで窮地を救ってきた。
それでもって新入生に即戦力が多くいて、創立以来初の甲子園も狙えるほどになった。
そんな山手芸能学校高等部との試合のスターティングメンバーは……
先攻・山手芸能学校高等部
一番 ショート 嵐美砂都 二年
二番 サード 唐紅龍 二年
三番 キャッチャー 葉月蓮 二年
四番 ファースト 平安名凛 二年
五番 ピッチャー 女米レイ 一年
六番 レフト 澁谷太郎 二年
七番 ライト 鬼塚達美 一年
八番 セカンド 若菜織来 一年
九番 センター 桜小路七緒 一年
後攻・東光学園
一番 セカンド 岡裕太 三年
二番 ショート 木村拓也 二年
三番 レフト 朴正周 一年
四番 サード 片岡龍一郎 三年
五番 ファースト 野村悠樹 一年
六番 センター 坂本大輝 一年
七番 ライト 夜月晃一郎 二年
八番 キャッチャー 石田武 三年
九番 ピッチャー 榊大輔 二年
――となった。
今回は指名打者なしの試合で、山手芸能学校が打てるピッチャーが多い事に考慮した形式となった。
アップを済ませて礼をし、先攻の山手芸能学校の一番である嵐が打席に立つ。
石田は天童の強肩と田中の頭脳、津田のムードメイク、吉永の堅実な守備、そして夜月の捕球力を兼ね備えた選手で、どれも一番にはなれないが二番手や三番手で安定した捕手力を持っている。
そんな捕手でさえ二番手になっているので東光学園の層の厚さが伺えるのだ。
嵐は足を活かすプレイヤーでキレのある動きでかく乱していくスタイルだ。
このバッターだけは塁に出したくないのか、石田は意識して抑えにいく。
ツーストライクで榊の得意なフォークで三振を取ると、二番バッターの唐も三振に打ち取った。
しかし葉月にはフォアボール、天才肌で器用な平安名にはシングルヒットでランナーが一塁と二塁になる。
しかし米女が大振りしすぎて三振になりこの場を凌ぐ。
一番バッターの岡の打席が回り、岡は張り切って打席に入る。
「来い!」
「今のところ彼が一番手のセカンドでしょうか? どのみち岡さんにはランナーとして出てほしくありません。ここはアウトコース中心で打たせて取りましょう」
「葉月先輩がそういうなら……従いますよっ!」
「ギリ外れるか……?」
「ストライク!」
「マジか……」
「うしっ! 入った!」
「ナイスボールです!」
「シュートが思ったより曲がるな……よーし」
「意識しましたね。ここでインコースを投げたら迷いが生じますが、逆に意表を突くと読まれる可能性があります。あえてアウトコース、それも外れるかどうかにしましょう」
「俺は際どい球を投げるのが苦手なんだけどなあ……。、まああんな曲者集団で全国レベルならやるしかないけどね!」
「手が出ない……!」
「ストライク!」
「荒れ球と思ってたけど、いいコントロールだな……」
「ナイスボールです! よし、彼はずいぶん迷ってますね、いい調子です。インコースで詰まってもらいましょう」
「オッケー。いけえっ!」
「インコース……それっ!」
「鋭い球……!ファースト!」
「オッケー! ほいっ!」
「ダメか……」
「アウト!」
岡があっさり打ち取られ、続くミートが甘めの木村もサードゴロ、三番の朴もレフト線まで飛ぶも澁谷のファインプレーに阻まれてスリーアウト。
2回の表では先ほどファインプレーをした澁谷がピッチャーフライ、鬼塚がキャッチャーフライ、若菜が三振と榊は立ち上がりが順調だった。
一方のバッティングでは片岡がライトオーダーのツーベース、左利きの野村がファースト線を越える強打で一塁と三塁にランナーが溜まった。
ターニングポイントのチャンスに坂本が打席に入ると、坂本はスクイズの個人サインを片岡に送る。
すると片岡はオーケーサインを出し、米女が投げた瞬間に片岡はスタートを切る。
坂本はスクイズの構えに入るも、また急に普通のバッティングフォームに入った。
これはスクイズと見せかけたバスターだ。
「もらった! それっ!」
「うっ……!」
「こんな事って……! センター! バックホームです!」
「嘘っしょ!?」
「うし! 先制だ!」
「坂本! 随分トリッキーかつ器用な事するな!」
「おいおい坂本くーん! 俺でさえそこまでやるって聞いてないぞー!」
「あいつ……俺にスクイズするってサインしたのにバスターしやがったな」
「敵を騙すにはまず味方からですよ」
「ふーん、あいつやるじゃん」
「尾崎まさか……? お前の入れ知恵か?」
「俺でもこんなの聞いてないっすよ。どうせ田中先輩の仕業でしょ?」
「へへっ、坂本の器用さなら出来ると思ったぜ。これであのピッチャーの機嫌も少し損ねたろw」
「やっぱりお前か……」
「クソッ!」
坂本の奇襲と田中の作戦で米女は少しパニックになり、イラつきを露わに出すようになる。
葉月はその様子を慌ててしまって声をどうかければいいかわからなくなっていた。
そこで米女と付き合いが長い若菜が口数こそ少ないが、米女のことを把握しているのかなだめる事に成功する。
どうやら打たれた後に立ち直って三振の山を築くイメージを着かせたようだ。
その結果、夜月にヒットを打たれたものの石田がショートのダブルプレー、榊が三振と後続が続かなかった。
3回も4回も三者凡退が続き、5回もお互いにチャンスが訪れるものの活かしきれずにいた。
6回の表に榊から園田に交代し、園田は安定した苦手とは思えないリリーフでも三者凡退にしてみせた。
ところが7回の表に平安名のスリーベースヒット、米女のツーベースタイムリーで同点にされる。
澁谷が進塁打にするが後続が続かず。
そして7回のウラに山手芸能学校に動きが。
「山手芸能学校の選手交代をお知らせします。レフトの澁谷くんがピッチャー、ピッチャーの米女くんがレフトに入ります」
「今日のウグイス嬢はいつもの広報部のアナウンサー係か?」
「第一試合と第二試合では別の人だな」
「結構可愛い声してんじゃん」
「おい、無駄口叩いてんじゃねえ一年!」
「すんませんっ!」
「木村! お前なあ……女が絡んだからって後輩を巻き込んでチャラチャラさせんじゃねえ!」
「サーセン!」
「まあまあ丈、一年の連中もこのチームに馴染んできたってことじゃないか」
「だけどよ、高校野球は真剣でなんぼだろ?」
「それも一理あるが、あんま委縮してプレーするとダメになるやつもいるんだぜ? 俺みたいにな」
「それは……それもそうか。悪いな、怒鳴っちまって」
「う、うす……すみませんでした」
「それよりも澁谷が本当のエースなんだな……」
「澁谷! この平安名がエースを譲ったんだから頑張りなさいよ!」
「またプレッシャーをかけるんだから……」
澁谷が登板し、東光学園の打線を上手く封じ込める。
実際に平安名はエース候補として入部したし、野球ではどれを取っても優れた選手になれた。
しかし平安名はピッチャーとして申し分ないがチームの負け運が非常に強く、いい内容を投げても勝てない呪いのような何かが憑りついていた。
その結果、走攻守優れているために背の高さもあってファーストにコンバートした経歴がある。
一方の澁谷はカリスマ性も投手力も高く、エースと呼ぶにふさわしいここぞという勝負強さを持っていた。
そのためか粗削りながら能力が高い米女のダブルエースで強豪校と競ってきたのだ。
9回の表に入り、1対1の同点で嵐が打席に入る。
そこで園田から川口に交代し、キャッチャーも石田から津田に交代してから一番の嵐をサードゴロに抑え込む。
次は二番の唐の打席だ。
「来い!」
「中国から留学生って言ってたっけ? こいつは体力ないからストレート主体でいいっしょ!」
「どこからそんな自信があるんだか……。これは天童もビックリだぜ。けどストレート勝負は俺は好きだぜ!」
「ストレートですか! ふんっ!」
「ストライク!」
「ナイスボールっすよ!」
「僕は勉強ばかりで野球をやる環境になかった……。でも、上海で見た日本の高校野球に憧れて、両親の反対を押し切ってこの学校に来て高校野球を通じて野球をはじめてやりました……。ここで負けたらせっかく留学したのに思い出がないままです! 絶対に打ちます!」
「何だ……? 高坂先輩の情報では初心者と聞いたのにこの威圧感は……? やっぱりストレート中心はやめましょう。変化球中心で初心者には痛い目に遭って中国に帰ってもらいましょう」
「急に自信をなくされると俺も困るんだけど……。まあいいや、スプリットで決めてやるか!」
「ストレート……しまった! 落ちる球ですか!?」
「空振れ! ボテボテでも構わない!」
「ふんっ!」
「キャッチャー!」
「よし! オーライ! ふんっ! あっ……」
「うおぉーっ! どこ投げてるんだ!」
「これはラッキーです!」
津田が余裕をこいた結果、野村への送球が乱れて高すぎる暴投をしてしまった。
そして肩が非常に強いのでライトの夜月のカバーの速さが仇となり、ファーストの近くまで行ってしまって後逸してしまった。
津田はあまりのショックに声も出なくなり、連携も乱れてしまって唐は三塁まで走った。
体力がなく足が遅かった唐はあまりの嬉しさに中国語で叫びガッツポーズを取った。
そこから津田のリードは乱れて葉月のタイムリーシングルヒット、平安名のツーベース、米女のホームランで負け越しの5対1になってしまった。
川口はノックアウトしてしまい、ついにピッチャーは木下となった。
木下シフトでライトの夜月がキャッチャーに回り、ライトには急遽三田が着く事になった。
急遽木下が登板したものの、前回の練習試合と比べて不安定なところが見られず、その場しのぎとはいえ抑え切った。
しかし9回のウラでは攻撃が点を取れず、試合は終了した。
結果は5対1で山手芸能学校の勝利で、勝利をお祝いしているのか、鬼塚はスマホに向けて何かしゃべりだした。
「皆さん! あの東光学園を相手に5対1で勝利しました! これは我が山手芸能学校高等部野球部にとってもいい自信になったのではないでしょうか! しかし勝利したとはいえ相手は春の選抜出場校、今後夏にどこまで行くかが期待されます! 我々と試合してくださった東光学園さんに盛大な拍手をお願いします!」
「何だアイツ……?」
「ああ、鬼塚くんは高校球児系セルフチューバーでこうやって生配信しているんです。うちの高校は芸能科がほとんどな以上、そちらと同じく動画投稿してアピールしているんですよ」
「それで澁谷はやらないのか?」
「俺はこういうのはちょっと……。俺は野球をやれればそれでいいかなって……」
「え? でも太郎くんは歌い手活動もしてるんじゃないの?」
「あれは顔出ししてないからで……ってそれ言わないでよ美砂都!」
「へえ……じゃあその歌ってみたを見たら感想言うわ」
「う、うん……ありがと」
こうして澁谷と連絡を取った夜月は、澁谷とも自主練をしないかとも誘ってオフにすることを約束した。
夜月の顔の広さは部で一番で、配信や動画投稿にも一役買っている。
強力なライバルがいればいるほど燃える夜月にとってはいい刺激となった。
こうして合宿は7日目を迎え、部員や指導者はそれぞれ元の居場所へと帰っていった。
つづく!




