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それいけ!東光学園野球部!  作者: 紅夜アキラ
第二部・第一章
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第82話 夏の合宿開始

 6月に入り、梅雨(つゆ)の時期になって雨が降るも室内トレーニング場で野球部は練習を重ねる。


 一年生も退部者を出す事もなく、大分(だいぶ)部活に慣れてきたところだ。


 そんな時に集合をかけられて部員全員が集まる。


「全員集合!」


「はい!」


「上級生はもうわかっていると思うけど、来週の月曜から合宿を行う。もちろん授業は通常通り受けるし、合宿を言い訳にサボったり寝たりは許さないけどね。そこでまた学園合宿所を借りて全員で泊まり込みの練習を行う。練習時間は今までと変わらないが、実家通いの選手は全員合宿所に泊まる事になる。もちろん寮にいる選手は各自寮長に説明は済んでいるから安心していいぞ」


「合宿の時が来たかー……」


「楽しい練習が多いけど、日にちが過ぎるほど過酷なんだよなー……」


「あの、そんなに過酷なんですか?」


「練習時間は普通の強豪校と比べたら確かに短いけど、『もういっちょ!』が禁止されてるからその分、数多くノック受けたりバット振ったりするんだ。これが梅雨の湿気の暑さも重なって地獄なんだよ。それに監督は罵声(ばせい)を怒鳴りも全くしないけど、逆に(あお)られたりちょっかいかけたりと微妙に腹が立つことをしてくるから気を付けろ」


「ええ……」


 不安になった朴が志村に質問をし、メニューそのものは強豪校と変わらないし、何ならバラエティ豊かな練習もするが、監督の煽りとかちょっかいが腹が立つし数も多くこなすので練習時間が短くても体力と精神が鍛えられる地獄の合宿だと説明する。


 一年生たちは不安の中で合宿所に集まり、上級生たちもそこに合流する。


 マネージャーたちも合宿所に泊まり込み、女子マネージャー専用部屋も用意してあって(のぞ)きや不順異性行為対策もしてあった。


 そしてついに合宿が開始された。


 1日目は打撃中心の練習で、テニスラケットティー、羽打ちロングティー、鉄棒スイング、ウエイトトレーニング、そして実戦のフリーバッティングをする。


 スイングフォームを確認するためにビデオ撮影したり、何かダメなところがあったら映像で確認をしてみたりと科学も駆使した練習となった。


 ゴムチューブを利用して脇腹(わきばら)の筋力強化、スイングの連動性強化も兼ねているのでバットスイングスピードが全員上がっていった。


 次の2日目は守備練習で、ジャベリックスローやアメフトボール投げ、ラグビーボールノックにテニスサーブノック、アメリカンノック(レフトからライトまで、その逆も含むまで全力で走って打球を捕る外野を横断するノック)をしてもう一回がないので多くの数をこなす。


 部員数も強豪校の割には50人にも満たないので、その分多くのノックを打つことが出来る。


 守備が苦手な朴や本田、清原は既にバテてしまっていた。


 中田は守備は苦手ではないが走るのが大の苦手で、スタミナ面にも三年ながら不安があるので走る練習ではバテていた。


 3日目は走り込み中心で、パラシュートダッシュ、ミニハードル走、ラダーランニング、反復横跳び、動体視力強化練習でランダムに書かれた数字を1から25まで指で刺すのを記録として(はか)る、さらにサッカーやバスケと俊敏性とスプリントでのスタミナ強化を図った。


 坂ダッシュや自転車を固定して全力で1分間漕ぐという足腰強化もあるので、スタミナがない選手にとっては地獄を見るものだった。


 4日目は練習ではなく座学で、野球心理学や野球の歴史、さらに経験者に限ってつい忘れがちなルール説明、身体のケアを勉強する。


 同時に学生の本分である勉強会も開き、学力の強化をして合宿だからと野球だけやっているわけじゃないとアピールした。


 とくに成績のいい田中や園田、(ヨウ)は先生レベルで学力が高く、学力の低い中田や清原、津田、オンラインで天童を教える立場になった。


 夜月(やつき)は同じ寮の林田や有希歩(ゆきほ)、優子に勉強を教わっているので何とか乗り切っている。


 5日目は本当の意味での地獄だった……。


「うぐ……! もうご飯が食べられない……!」


「こんなに日本の夏が暑いと思いませんでした……!」


「まだまだ……だね……!」


「どうした一年? ちゃんと食べないと合宿を乗り越えられないぞ?」


「本田先輩……いくらなんでも食べ過ぎっす……!」


「そうだぞ一年! ちゃんと食べないと作ってくれた人に申し訳がねえだろ!」


「中田先輩は食べすぎな気がしますが、平安館(へいあんかん)の野村さんが『食事の感謝を忘れて無駄に残したり捨てたりする方が暴食の罪だ』って言ってたな。食欲がないなら無理をする必要はないが、食べれるうちはおかわりしなくていいから食べるといい」


「夜月先輩にそう言われるとそんな気がしてきた……」


「兄貴もインターネットに慣れてきたな……」


「そうそう、ここの野球部にいると誰でもSNSに慣れてくるから。オイラもそれで配信とか出来るようになったからね」


「マジっすか……」


「よし! 平安館の野村だっけ? そいつがそういうなら……全ての命に感謝! ごちそうさまでした!」


「「ごちそうさまでした!」」


 平安館の生徒に感化された田中は、感謝を照れくさそうにしている中田の代わりにごちそうさまでしたの礼をする。


 一年生も全員出されたご飯を完食し、『今食べれるのは健康の証なんだ』と実感して食欲を取り戻した。


 五日目は弱点克服と得意分野強化に特化した練習で、それぞれの苦手分野では監督の煽りやからかい、さらにはちょっかいかけるために挑発したりと選手たちにとって腹が立つ気持ちになった。


 だが三年生はさすがに慣れているのか、煽られたりしても平常心を保っていた。


 中田は今でも舌打ちや睨みなどをするが、田中にそんな精神状態じゃ相手にいい様にやられるぞとなだめられて落ち着いたりした。


 (パク)は気が短い見た目をしているが意外と冷静で、ただ単に暑苦しい性格に豹変(ひょうへん)する程度なだけだったと判明した石黒監督はぎこちない韓国語で煽り始めた。


 しかし朴はスルースキルを持っていたので何も起きる事はなかった。


 そして5日目の名物の地獄のノックが始まる……。


「よし! もう夕方だし最後の地獄のノックやるぞ! 野手陣や投手陣は守備に着け! いくぞ!」


「げっ……! ボスのノックはマジで嫌らしいからなあ……!」


「キャッチャーなんて声を出さなかったら防具付けたまま一塁まで全力疾走だぞ」


「マジっすか!? でも声なら任せてください!」


「あー津田、君は逆にうるさいから声出しの指示を間違えたら一塁までダッシュな?」


「じゃあミスれないじゃないっすか! ひえー!」


「よーしいくぞ!」


 地獄のノックはひたすら回転率が早くて効率がよく、サードが投げ終えたらすぐにショートへ、ショートが投げ終えたらセカンドへと打っていった。


 ピッチャーのノックは他の野手との際どいコースへ打たれ、細かい連携を想定した判断力も鍛えるコースへ打っていった。


 外野に至っては前後左右に振り、あえて普通の簡単なフライをエラーしないようにプレッシャーをかけて不意打ちで打ったりとした。


 そして終了時間が近づき……全選手はもう既に限界を超えていた。


「来い……!」


「えー? 聞こえなーい! いつもの威勢はどうしたんだ中田ー!」


「来い!」


「それっと!」


「うがっ……!」


「ベース際を対応できないでどうすんの中田くん!」


「うわっ……!」


「志村くーん! いつもの繊細(せんさい)な職人プレーはどうしたの?何か今の雑だよ?」


「はあ……はあ……!」


「うっ……!」


「アレックスー! 送球がいつもより浮いてきてる! もっと低く速く投げろー!」


「くっ……!」


「田中くん! 声が出なくなり始めたよ?それともどう指示出していいか迷っているの? 君の頭の回転はその程度なの?」


「うぐ……!」


 三年生でさえ限界が近づき、『練習はここまでにした方がいい』と上原は進言するも、石黒監督は三年生の覚悟を見せるまでラストワンプレーはする気がないようだ。


 去年も渡辺世代が同じ事やったように、今の三年にもその覚悟を見せてほしいと願った。


 すると中田が真っ先に立ち上がり、突然大きな声で叫び出した。


「うっ……うおおぉぉぉぉぉぉぉぉーっ!! サード来いよぉーっ!」


「ふっ……」


「ショートにもう一球……お願いします!」


「中田には負けねえ……! サードにもう一球来い!」


「ピッチャー来い! 俺だってネガティブなままで終わりたくないっ!」


「ボス! ライトに来い! ボスのいやらしい打球なんか楽勝だぜっ!」


「田中、ラストワンプレーと伝えてくれ」


「監督……はい! よし! 全員ラストワンプレー! 最後の一球だから丁寧に素早く成功させるぞ! 外野バックホーム!」


「おーっ!」


 外野は本田を中心に最後のバックホームを決め、夜月や木下、尾崎、朴も見事に一発成功してみせた。


 内野も中田や志村、山田、清原、木村も成功。


 バッテリーも松井や榊、園田、川口、楊など部員全員一発成功して練習は完全に終わった。


 石黒監督は三年生の入部当初の事を思い出した。


 ~回想~


小杉(こすぎ)中学出身! 本田アレックス! 外野手希望! ベネズエラと日本のハーフで、小学校まではベネズエラにいました! とりあえずレギュラーを取ります!」


「ビッグマウス来たか! これは楽しみだな!」


「斉藤、お前はまずスタミナを何とかしろ」


「うぐ……! 先輩に言われちゃあ何も言えねえ……!」


「東光学園中等部出身! 田中一樹(たなかいつき)! キャッチャー希望! 頭の悪い相手をアウトにすることに快楽を覚えてます!」


「こっわ……!」


「お前、性格悪いって言われたことあるだろ?」


「よく言われてます!」


「そんでもって中等部出身で硬式野球部に来るのは珍しいな! 中等部野球部出身はみんな軟式に行くからさ! では次!」


「日……中出身……! 松……樹……!」


「声が小さいな! 何て言ってるかわからん!」


日暮里(にっぽり)中学出身、松井政樹(まついまさき)、ピッチャー希望、精一杯頑張りますと言ってます」


「ロビンお前何で聞き取れるんだよ……」


「アメリカにいた時から日本語は勉強してました」


「本当にアメリカ人かよ……! 次!」


「福井の丸岡西(まるおかにし)中学出身! 志村匠(しむらたくみ)! ショート希望! 自分流で自分の武器を極めてみせます!」


「頑固そうな新入部員だなあ……。最後は……こっわ……!どうぞ」


「東京の靖国(やすくに)中出身、中田丈(なかたじょう)。サード希望。文句あっか?」


「ひえ~……! じ、じゃあ体力テストを行うからね……!」


「おいーっす!」


「おはようございます!」


「中田ぁ! 来てくれたんだな! 君は確かに少年刑務所で出会ったっけなー」


「おいジジイ! ちゃんとこの俺をレギュラーにしてくれるんだろうな?」


「ああ、約束だからな。ただし……君が野球に真剣で努力家なところを見せてくれてからだ」


「何だと……? おいクソジジイ! 俺に嘘ついたのか!?」


「嘘じゃない。君が真面目(まじめ)に野球に向き合い、自分を知り仲間の事を想える気持ちがあればレギュラーに簡単になれる。君ほどのセンスはそうそういない。期待してなければこんな事はしないんだ。だから俺をまず信じてみよう?」


「お、おう……!」


 ~回想終わり~


 石黒監督は最初の中田は先輩どころか自分にまで反抗的(はんこうてき)でなかなか言う事を聞かなかったが、このままではダメだと自覚した中田は寮の前で素振(すぶ)りをしたり壁当てしたりと努力し、一年の秋の大会でサードのレギュラーを勝ち取った。


 志村もなかなかの頑固者で自己流を曲げなかったが、いつもの指導力で自己流にさせつつ理に適ったバラエティ溢れるメニューで同じく一年の秋でレギュラーを取った。


 練習終了後は念入りにクールダウンとストレッチ、深呼吸を意識したヨガ、即席で全員マッサージやアロマの効いた学園所有の銭湯で疲れを癒した。


 土曜の6日目には合宿の練習試合ダブルヘッダーが控えている。


 今回の練習試合の相手の二校は……静岡の沼津(ぬまづ)市立浦乃星(うらのほし)高校と、東東京(ひがしとうきょう)山手(やまのて)芸能学校高等部だ。


 浦乃星は静岡にある野球強豪公立校で、最近は甲子園から遠ざかっているがエースの高海(たかみ)を中心にもう一度甲子園が狙えるほど実力をつけた。


 とくに女子の制服であるセーラーが日本で可愛い制服ランキングベスト8にも名を連ねていて、男子がブレザーで女子がセーラーのネクタイなどが学年ごとに色やデザインが変わるという異色な学校だ。


 一方の山手芸能学校高等部は多くの高校生芸能人が通い、部活も運動部と文化部両方強豪と文武両道の芸能学校だ。


 山手線の東京駅を最寄(もよ)りとする位置するこの学校は、芸能科だけでなく裏方も勉強できるので事務所を立ち上げたり、テレビ局やプロデューサー、音響と照明、大道具(おおどうぐ)などの監督も卒業生で多くいる。


 どちらも近年力をつけている将来性のある学校で、決して油断ならない相手となった。


 翌日、ついに練習試合が始まった。


 つづく!

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