表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
それいけ!東光学園野球部!  作者: 紅夜アキラ
第二部・第一章
80/175

第76話 日本スポーツ科学大学付属池袋

 新入部員恒例の練習試合で、日本スポーツ科学大学付属池袋(いけぶくろ)が東光学園の第一野球場に姿を出した。


 スイス人留学生という助っ人外国人もいる日本のスポーツを科学で解明しながら発展させる体育大学で、そこから指導者や体育教師、トレーナーやアスリートなどを多く輩出している。


 肝心の部活の方は大学ではそれなりの実力だが、高校ではどこの運動部も中堅止まりだ。


 しかし野球部は近年力をつけつつあり、東光学園の新入部員にとっては不足がない相手だ。


 そのスターティングメンバーはこちら――



 先攻・日本スポーツ科学大学付属池袋


 一番 ショート 宮下愛人(みやしたあいと) 二年


 二番 セカンド 天王寺陸(てんのうじりく) 一年


 三番 サード 朝香克利(あさかかつり) 三年


 四番 ファースト ヴェルデ翠里(すいり) 三年


 五番 レフト 近衛歌奈太(このえかなた) 三年


 六番 キャッチャー 中川節那(なかがわせつな) 二年


 七番 センター 中須和巳(なかすかずみ) 一年


 八番 ライト 桜坂雫(おうさかしずく) 一年


 九番 指名打者 鐘蘭龍(ショウランリュウ) 一年


 ピッチャー 上原歩武(うえはらあゆむ) 二年





 後攻・東光学園


 一番 センター 坂本大輝(さかもとだいき)


 二番 ライト 尾崎哲也(おざきてつや)


 三番 サード 石田亮太(いしだりょうた)


 四番 指名打者 朴周正(パクセイシュウ)


 五番 レフト 木下泰志(きのしたたいし)


 六番 ショート 金光(キムヒカル)


 七番 キャッチャー 津田俊光(つだとしみつ)


 八番 ファースト 野村悠樹(のむらゆうき)


 九番 セカンド 岡崎知成(おかざきともなり)


 ピッチャー 楊舜麗(ヨウシュンレイ)


 ――となった。


 相手も一年がいきなりスタメンで、どうやら経験値を稼いで次世代(じせだい)に受け継ぐつもりだ。


 高咲祐(たかさきゆう)マネージャー兼監督はプレーこそ大の苦手な男子生徒だが、選手の個性だけでなく未来の能力を見抜いて武器にさせるのが上手く、指導者としても将来有望な生徒だ。


「みんな! 今日もきらめいてるかな?」


「祐のおかげで俺たちはあの全国区の強豪と練習試合が出来るよ」


「ですね。それも新入生とはいえ東光学園ですからね!」


「よーし! それじゃあ円陣(えんじん)組んでエンジン全開でいこー!」


「あはは! 愛人おもしろーい!」


「相変わらず高咲先輩は笑いのセンスがわかりません……」


「それよりも円陣組もう! 絶対勝つぞ!」


「おー!」


「俺たち上級生は補欠かつ裏方だな」


「新入生がどんなのか天童にも見せたかったな」


「その天童だけど、オンライン配信で見てるそうだぞ」


「何だって!?」


「ほら、生配信で」


「アイツ本名で登録したのか……」


「とにかくあいつの分まで新入部員には頑張ってもらわないとな」


「よし、整列!」


「いくぞ!」


「「おー!」」


 キャプテンの朝香と、一年代表の尾崎が整列の掛け声を出し、ホームベース付近まで整列する。


 審判が練習試合のルールを説明し、それから選手全員で礼をする。


 先頭バッターの宮下はチャンスメーカーで、どんな甘い球も見逃さない選手だが、キャッチャーの津田は強気のリードで楊のコントロールを活かす。


 宮下も天王寺も楊のコントロールのよさに手も足も出ず、際どすぎるコースもストライク取られて悔しそうだった。


 三番の朝香がバッターボックスに立ち、楊のコントロールを見抜こうとする。


 フルカウントにまで持ち込まれ、楊は津田のリードに従ってアウトコースギリギリに投げる。


「この楊舜麗って子、何というコントロールだ。さっきからキャッチャーミットが1ミリも動かない状態でミットに収めているぞ。これはとんでもないコントロールの持ち主だな……」


「ギリギリで行くぞ!」


「わかりました。それっ!」


「これはきっとボールだ。間違いない、これでフォアボー……」


「ストライク! バッターアウト!」


「え……? ストライク……?」


「どうしたのかね? 三振だよ」


「あ、いいえ……。あの子、ついに審判まで味方につけたんだ……」


 楊のドンピシャすぎるコントロールに朝香は困惑し、ベンチに戻って不服そうに守備に着いた。


 打撃ではピッチャーの上原歩武が多彩な変化球で坂本を三振、バッティングが苦手な尾崎はセカンドゴロとなった。


 石田亮太はフォアボールで出塁すると、期待のスラッガー朴の出番だ。


「よし……カモン!」


「性格が豹変(ひょうへん)した……?噂は本当だったんですね。彼は都内でも『バットを握ると性格が変わる』と有名な人でした。歩武くんの球なら打ち取れますが、甘く入ったら一巻の終わりです。厳しいところを攻めていきましょう」


「その方がいいかも。それっ!」


「ほう……」


「ストライク!」


「ナイスボールです!」


「なるほどな……わかったぞ」


「え……? 何がわかったんでしょうか……? このバッターは何か威圧感を感じます。やはり低めにしてゴロで打ち取ってゲッツーにしましょう」


「この人何だか怖いかも……! 低め……低め……それっ! あ……」


「歩武くん、それだと浮いて……」


「グレートォォォォッ!」


カキーン!


 上原の放った投球が朴の放った威圧感に負けて甘く浮いてしまい、朴はコンパクトなフルスイングでセンターの頭上を越える打球を打った。


 その打球は簡単にバックスクリーンまで運ばれ、デビュー戦でいきなりツーランホームランを放った。


 コメント欄を見ると天童でさえ驚きのコメントを残し、とんでもない怪物ルーキーが来たと喜んだ。


 試合は5回までで4対0となり、6回で上原から一年の三船志央里(みふねしおり)にピッチャー交代した。


 三船は球速こそ遅いが楊に負けないコントロールの持ち主だ。


 変化球も緩急自在でリズムを崩して打ち取って行くタイプだ。


 全体的にバッティングが苦手なこの世代にとっては天敵ともいえるだろう。


 6回のウラになり、木下の打席が回る。


「よし、来い!」


「志央里くんにとって木下くんみたいな悪い空気に鈍感(どんかん)な選手は苦手と聞きました。彼は足も速く選球眼が非常に優れています。現に歩武くんのボールは全部フォアボールと見抜かれています。カットボールで先っぽに当ててもらいましょう」


「芯を外す戦法ですね。それなら……いきます!」


「真っ直ぐ……いや、カットボールだ!」


カキーン!


 木下の放った打球は左中間(さちゅうかん)を大きく抜き、木下もバッティングはそれなりというのがわかった。


 夜月いわく、木下は『悪い流れに対して鈍感だから、相手にとっては相手にしにくい』ところがあり、チャンスにめっぽう強いバッターだとチームメイトに説明する。


 同時に足もそれなりに速く、パワーもそこそこあるのでホームランもやろうと思えば狙えるのだ。


 三船は木下のプレースタイルに戸惑い、同じく在日韓国人の金にセーフティバントされてテンパったのか落球してしまう。


「よし! これで送りバントしながら生き残った!」


「キム! お前やるなぁー!」


「パワー派の朴とは違うスタイルだな!」


天童明:「今年の新入生もくせ者揃いというのがよくわかった!」


「このままどんどんいくぞ!」


 木下と金が作った流れで三船をあっさりノックアウトし、ついに8対0になった。


 7回の表でライトの桜坂から代打で三年のミラン・テイラーというアメリカ人留学生が送られた。


 小柄なのに強引に引っ張ってホームランにする豪快(ごうかい)なスイングが持ち味で、楊にとってはフルスイングタイプは天敵だ。


 守備では捕球が苦手で守備範囲は狭いもののバズーカ砲と呼ばれる送球が有名で、コントロールは平凡だが球速と低い弾道からそう呼ばれている。


 だが楊は動揺することなく、いつも通りに投げてテイラーを三球三振に抑えた。


 その後は新入部員とはいえ、この短期間でここまで育成した事を思い知り、全国は遠いと(にっ)スポ大池袋の選手は意気消沈した。


 そんな中で一人、諦めない男がいた。


「そんな事で諦めてどうするの!? 俺が憧れた日本の高校野球は最後まであきらめない事だって中国で学んだよ!? 東光学園が何!? 俺たちは打倒(だとう)聖英(せいえい)学園を目指してここまで頑張ったんだよ!?」


「鐘……俺たちが間違ってたよ。まさか留学生に(かつ)を入れられるなんてね」


「そうだね、僕も強すぎて諦めちゃったよ。諦めたら試合はそこで終了って日本の漫画にも言ってたからね!」


「よーし! 最後まであきらめずにいくぞ!」


「おー!」


 中国人留学生の新入部員、鐘の一声が日スポ大池袋の選手たちの心に火をつけ、9回の表で途中交代の鈴木から交代した松坂を追い込んだ。


 宮下のツーベース、天王寺の送りバント、朝香のタイムリーツーベースで8対1になり、ついにヴェルデの打席だ。


「来い!」


「ヴェルデさんはおっとりしているけどパワーは朴並みだ。あのスイングを見てれば分かると思うけど、逃げたら負けだからストライクカウント中心で行こう!」


「随分余裕だな……けど俺のような荒れ球だったらそりゃあそうかな!」


「シュート……!」


「よし! 相手はアウトコースを意識していた!いける!」


「うおぉぉぉぉぉぉっ!!」


 カキーン!


 ヴェルデのフルスイングは松坂のシュートを簡単に打ち、そのままレフトスタンドへと運ばれた。


 インコースに逆らわないコンパクトなフルスイングであっさりホームランになり、松坂は少しガックリした。


 津田の置きに活かせたリードを危惧した石黒監督は、津田から吉永にキャッチャー交代させる。


「すみませんでした! 松坂に置きに行かせすぎました!」


「強気なのと何も考えてないのでは全然結果は変わるって知らなかったか? これじゃあ天童二世(にせい)で強気を勘違いしたキャッチャーになるぞ~? しかもこんな髪伸ばして……これじゃあせっかくのイケメンもカッコ悪いんじゃないの~? けど9回までよくやったから次は頑張りなさい! よく頑張った!」


「う、うす!」


 と、石黒監督は頭を下げている津田の髪の毛をチョイチョイとつまみながらイジる。


 同時に今まで無失点で抑えたことを評価し、津田の『モチベを下げずに次に活かして頑張れ』とエールを送った。


 津田は安心したのか、いつもの声出しが目立ってチームの士気を上げた。


 津田は声をよく出し、出し過ぎてチームメイトからも『うるさい』と言われるほど声を多く出すムードメーカーだ。


 そのおかげでキャッチャーとして連携の指示がしっかりしていて、バッティングよりも守備や連携に長けているのがわかった。


 その結果……どんなに打たれても無失点で済んだのだ。


 一方の吉永のリードは投手の今の精神状態を見抜いてベストなコース選びをする無難な選択をするタイプだ。


 田中ほどの頭はないが、それでも今のベストを考察する頭を使うタイプだ。


 吉永はピッチャーの気持ちを知るためにわざわざマウンドに上がって練習試合に出たこともあるなど勤勉家でもある。


 その結果――


「ストライク! バッターアウト! ゲームセット!」


「よっしゃー!」


 結果は8対3で東光学園の勝利になった。


 しかし新入部員のみとはいえ、あの名門の東光学園から3点を取ったのはいい収穫だと高咲の励ましでモチベーションは上がった。


 日スポ大はスポーツ心理学も学んでいて、高咲は生徒ながら監督もしているからそれを勉強していて、絶対にモチベを下げない名将としても都内では有名である。


 東光学園の部員たちは高咲の指導力を学び、石黒監督もこんな指導法があったのかと勉強した。


 そしてここからは……上級生による春の戦いが行われる。


 新入部員はもう少し練習試合で経験を積んでから公式戦に挑ませるという方針になり、去年も夜月世代がそうやって春の県大会に出る事がなかった。


 しかし一年生は応援に行くことなく練習に励み、応援する暇があるならコーチや卒業生と一緒に練習させるのが監督のポリシーで、応援はチア部や吹奏楽の二軍たちに任せていいよというものだ。


 こうして春の大会が始まった。


 つづく!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ