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第71話 大阪桐凛

 二回戦の大阪桐凛(とうりん)は、あの川崎国際をコールドレベルの大差で打ち破った関西高校野球四天王の一つで、京都の平安館(へいあんかん)学院や奈良の弁天(べんてん)学園、兵庫の翔徳(しょうとく)学園に並ぶ名門校だ。


 しかも(ともえ)というスラッガーが四番を務めるなど一年の戦力にも大きく期待されていて、そう簡単には勝たせてくれない相手だ。


その大阪桐凛との試合のスターティングメンバーは……



 先攻・東光学園


 一番 セカンド 岡裕太(おかゆうた) 二年 背番号4


 二番 ショート 志村匠(しむらたくみ) 二年 背番号6


 三番 キャッチャー 天童明(てんどうあきら) 一年 背番号2


 四番 サード 中田丈(なかたじょう) 二年 背番号5


 五番 センター 夜月晃一郎(やつきこういちろう) 一年 背番号8


 六番 ファースト 清原和也(きよはらかずや) 一年 背番号3


 七番 ライト 本田(ほんだ)アレックス 二年 背番号9


 八番 レフト 三田宏和(みたひろかず) 二年 背番号7


 九番 ピッチャー 園田夏樹(そのだなつき) 一年 背番号10



 後攻・大阪桐凛


 一番 セカンド 天音月緒(あまねつきお) 二年 背番号4


 二番 サード 由比鶴太郎(ゆいつるたろう) 二年 背番号5


 三番 レフト 十咎桃太(とがめももた) 二年 背番号7


 四番 ライト 巴真樹(ともえまき) 一年 背番号9


 五番 ショート 天音月美(あまねつきみ) 二年 背番号6


 六番 ピッチャー (たまき)いろり 一年 背番号1


 七番 ファースト 水波礼(みなみれい) 一年 背番号3


 八番 センター 八雲深球(やくもみたま) 二年 背番号8


 九番 キャッチャー 黒江暗寿(くろえあんじゅ) 二年 背番号2



 ――となった。


 とくに環と黒江のバッテリーは何を考えてるかわからない時があるらしく、あおい曰く『関わりたくないバッテリー』との事だ。


 そんな中で試合は始まり、一番の岡が打席に立つ。


「よし! 来い!」


「環くんは立ち上がりに不安があるから、リラックスさせるためにちょっと高めでも構わないからストレート主体でいこう。点を取られてもうちの打線ならすぐに取り返してくれるから」


「その方が僕も安心します。ストレート主体で……高めでもストライク入れるっ!」


「高め……? 浮いてるが甘いなっ!」


 カコン……


「うわっ……」


「サード!」


「オッケー! ちゃちゃーっ!」


「うっ……」


「アウト!」


「どうした? そんな打てない球じゃないだろう?」


「あいつストレートが動いたぞ。球威は全くないんだけど、手元で微妙にズレてるんだ。気をつけて打席に立ってくれ」


「ストレートが微妙に動くか……。だったら大振りは厳禁だな。よし、来い!」


「バットを短く持った……? やっぱり個性派揃いのこの学校には環くんのストレートのカラクリがすぐにわかっちゃうか。環さんはストレートの握りが一定じゃないからムービングに見えるただのクセ球なんだけど、どこに動くかわからないから捕ってて怖いんだよね。でも……それでも捕れる自分がちょっと怖いかな」


「やっぱりストレートなんだ。でも黒江さんのおかげで僕がエースになれたし、感謝して甲子園に望まないとねっ!」


「どんなものか見極めてやる……そこだっ!」


 カキーン!


「ファール!」


「微妙に詰まったか」


 志村はすぐにクセ球と気付いたが、球速が名門校のエースにしては遅く136キロくらいしか出てないので、他のエースの速い投球に慣れてるせいか遅いストレートに苦戦をした。


 全開の試合で勝利投手として休養している松井も『俺よりも球が遅いエースははじめて見た』と驚き、田中も『こういう遅い球のピッチャーって他では埋もれがちだけど、キャッチャー次第で化けるという事か』とキャッチャーにも目を向けていた。


 一方の志村はストレートに踊らされて打ち上げてしまい、ファーストフライに終わった。


 三番の天童は自信ありげに挑んだが三振に終わる。


 守備では園田が立ち上がりが順調で、天音月緒、由比、十咎をあっさり三振に打ち取った。


 しかし2回の表で中田と夜月が安打を放つも、後続が次々と打ち取られてしまう。


 2回のウラになると、巴の打席になった。


「来い!」


「こいつが巴真樹か。身長は俺らと同じくらいなのに筋肉が凄いな。そういやデブに見えるけど実は動きが早くて脂肪は中田先輩より少ないんだっけな。インコースは苦手そうだしインコース攻めでいくぞ」


「相変わらず自信のあるリードだな。でもまあ左同士だし俺のスクリューはそう打たれないだろ!」


「真っ直ぐ……落ちた!?」


「ストライク!」


「ナイスボール! よし、スクリューをいきなり見せる事で威嚇にはなった。ここでストレートで空振りして自信を奪ってやる」


「わかった。ふんっ!」


「今度はストレート……いい球だけど重みが足りないかなっ!」


「え……!?」


 カキーン!


 巴の放った打球はライトスタンドまで飛んでいき、園田の投球はそのままホームランとなった。


 巴はガッツポーズを大きく掲げ、ベンチでハイタッチをして喜んだ。


 『このままでは流れは向こうになる』と判断した天童は一旦タイムを取り、自分の強気すぎる単純な配球を園田に謝罪する。


 いくら自信家な天童でも、自分に非があると非を認めるところがあるので信頼を得やすく、肩が強いだけの天才キャッチャーというわけではないのだ。


 そうでなければデータ野球の申し子である田中から正捕手の座を奪えるはずがないのだ。


 現に後続は全て三振に抑え切った。


 3回ではお互いに三者凡退、4回の表で園田がツーベースを放ってチャンスを作るも岡のバント失敗、志村がフォアボールで出塁したのに天童がダブルプレーとチャンスが遠かった。


 大阪桐凛も巴以外の打線も強いはずなのに、園田の安定感のある本格的なピッチングに翻弄され、前の試合ほどの得点力が鳴りを潜めた。


 そんな中で7回の表、天童のツーベースと中田のフォアボールでチャンスの場面で夜月の番だ。


「よーし! 行くぞ!」


「チャンスの場面の夜月くんは危険だ。普段は大したバッターじゃないのに得点圏にいると急に化けてくるから際どいところで攻めていこう。7回まで来たらもう環くんのスロースターターなところはもう終わってると思うから」


「カットボールで詰まってもらうんですね。それっ!」


「真っ直ぐ……いや、ここで手を出したら詰まらされるしここは……っ!」


「ボール!」


「ボールか、もうさすがにインコースは克服しているのかな? あの名将の事だから弱点をそのままにする訳がないし、同時に選手の個性を尊重するからもしかして……克服ではなく弱点を活かす何かを教え込まれたとか……。だったらアウトコースがいいかも」


「わかりました。夜月くんは怖いから……空振れっ!」


「アウトコース……回転的に変化球はないな! そらあっ! げっ……」


「ボテボテで打ち取った! サード!」


「オッケー! これでチャンスは終わりだよ!」


「待ちなさい! 今投げたら間に合わない……」


「ちゃちゃーっ! あっ……」


「あーもう! どこ投げてんだよ!」


「あーっと! 強肩(きょうけん)の由比、ボテボテの当たりで夜月の陸上選手並みのフォームの走りで焦ったのか、送球が上に()れてしまった!」


 由比の放った送球がライト方向へ大きく逸れ、水波は慌てて逸れたボールを捕りに行く。


 巴も一塁カバーに間に合うも、思ったよりも後ろへ逸れてしまって急ブレーキをかけたものの、その勢いで転んでしまって後ろへと転がっていった。


 天童は俊足を生かして二塁からホームへホームイン、一方の中田は安心して三塁まで進み止まろうとしたが……三塁コーチを務めている松田にホームまで回れと指示される。


「中田先輩! 回れ回れ!」


「ホームまで走るのかよ!」


「ファースト! まだホーム間に合うよ!」


「どうなっても知らないぞ!」


「うおぉーーーーーーっ!」


 ズザーーッ!


 中田は必死にホームベースまで突入し、キャッチャーを()けるようにしてスライディングをする。


 一塁ベースから全力で走った中田は疲労困憊(ひろうこんぱい)し、判定がアウトなら夜月と松田を恨むぞと二人を(にらみ)みながら審判を見つめた。


結果は……


「セーフ!」


「っしゃあぁーーーーーーーっ!!」


「中田! ナイスラン!」


「けど三塁で止まろうとしたろ丈!」


「結果的にセーフなんだから足が速くなったんだよ! よくやった!」


「おーおー中田ぁ! お前そんなに足が速かったっけー? 俺と陸上部の指導のおかげで成長したか?」


「まあ……そうっすね。監督だけでなく陸上部にも感謝っすね」


「相変わらず素直じゃないのは入学時と変わらんなー。しかし夜月のやつ、あのフォームで一塁に走られたら俺でも嫌だよ。足音で威圧感あって怖いもん」


「あー、俺もファーストやってて練習の際に怖いっすね」


「あれあれ? 見た目とび職おじさんの清原が怖がるとか意外だなー?」


「お、俺だって恐怖くらい感じますよ!!」


 東光学園のベンチではいじりもあって逆転した事で空気が明るくなった。


 そのおかげで7回のウラではホーム突入で疲れ果てた中田から交代した松田がファインプレーをし、その結果園田は上手く投げ切った。


8回から川口に交代しても大阪桐凛打線を抑える事が出来た。


 9回のウラでもピッチャーはそのまま川口が投げ、センターの夜月がファーストに着き、清原から高田に交代してセンターに着いた。


 清原は送球に対してエラーはしないが、打球に対してのエラー率が高いため、左バッターの多い大阪桐凛へのシフトを組んだ。


 夜月はショートバウンドの捕球も安定しはじめ、ついにファーストとして戦力になった。


 一方のバッテリーは……先頭の巴をフルカウントまで持ち切り、最後の判断に委ねられる。


「巴はここまで4打席中全打席ヒット打たれてるからな。絶対に三振に抑えないと俺の気が済まねえ。川口は三振を取るタイプだし狙ってみるぞ」


「任せろ。俺のスプリットなら……そう簡単に打たれないぜ!」


「バカ! ストレートと変わらない力でなげてどうする!?」


「ストレートが甘く入った……いける! うおぉーーーーーっ!」


 スッ……


「沈んだ……!?」


「嘘だろおい……! でも捕ってやるっ!」


 パシーン!


「す、ストライク! バッターアウト!」


「よっしゃー! 巴を三振に抑えたぞ!」


「はあ、悔しいなあ……。でも夏にはまた攻略するからね」


「返り討ちにしてやるぜ」


 巴と天童は去り際に会話を交わし、夏にはリベンジを誓った。


 その後の後続を連続で打ち取り、試合は終わった。


「では大阪桐凛と東光学園の試合は、2対1で東光学園の勝利です! では……礼!」


「「ありがとうございましたっ!」」


「「っしたーっ!」」


 東光学園は二回戦を突破し、ついに準々決勝まで駒を進めた。


 次の対戦相手は琉球高校を破った公立の星、都立二子玉川(ふたこたまがわ)高校だ。


 特別出場枠として出場しながらも、琉球(りゅうきゅう)高校だけでなく翔徳(しょうとく)学園を破って完全に話題となっている新設校だ。


 公立高校という事もあって応援の声が多い中、ヒールとなってしまった東光学園はどこまで台頭するのか。


 つづく!

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