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それいけ!東光学園野球部!  作者: 紅夜アキラ
第一部・第一章
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第5話 横浜工業

 日曜の朝になり、東光学園硬式野球部はついに一年生にいきなり練習試合のデビュー戦を飾る。


 夜月(やつき)は四番を任されて責任感を感じつつも、本当に自分でいいのだろうかと悩んだりもした。


 だが同じ池上荘(いけがみそう)の男子たちに応援されて励みになったので、早朝に軽く素振(すぶ)りして調整した。


 集合時間になってグラウンドの整備をする。


 雑用は一年やベンチ外の先輩たちがしがちだが、この学校は人数も少なめで二、三年どころか、指導者やマネージャーも雑用をする。


 そんな中で準備が出来た東光学園は、横浜工業の登場を待った。


 しかし、いつまで経っても現れないのを心配した渡辺は相手の監督に連絡を入れようとした。


 するとようやく横浜工業の野球部が現れた。


「あーマジだりー……」


「何であんな奴らと練習試合しないといけねぇんだよー……」


「こらお前ら!あのアイドル野球部と試合出来るだけありがたいと思いなさい!」


「へーいわかってますよーだ……」


「何だか相手の士気(しき)が低くないですか?」


「ああ、何だかやる気がないな」


「横浜工業は『神奈川で一番の()()』でね、県内の不良がそこに集まってるんだ」


「まさか乱闘(らんとう)なんてしないよな?」


「夜月、お前が一番気が短いから気を付けろよ」


「わ、わかってるよ……」


 横浜工業の生徒を案内すべく、三年生は全員で歓迎して更衣室へと連れていく。


 念のために学校を荒さないように警備員の人に同伴してもらい、清掃員の人もついていく。


 横浜工業の野球部がようやくグラウンドに集まると、不良だけどそれなりのレベルだと夜月たちは実感する。


 相手のユニフォームは水色で左胸に大きな紺色のYの字があった。


 それが由来でY工(ワイこう)と呼ばれている。


 おまけに紺色のアンダーシャツに帽子、白い二本ラインの入った紺色のストッキングだ。


 歴史と伝統があるこの学校は、代々落ちこぼれたちを集めて就職率を上げる目的の学校だ。


 夜月は黒崎はおそらくここを受ける可能性もあっただろうと推測もした。


 キャッチボールを終えてトスバッティングとバント練習に入ると、早速横浜工業側から罵声(ばせい)が飛んだ。


「おいテメェ!どこ投げてるんだよボケ!」


「っせえな!テメエがちゃんと捕れよバカ!」


「ええ……!?」


「何だあの荒れっぷりは……?」


「みんな集合!」


「高坂マネージャー、あの人たちに痴漢行為(ちかんこうい)されなかった?」


「一応菊池先輩や上原先輩も同行したけど、何もされなかったよ。」


「ならよかった……」


「ただ、あそこは札付(ふだつ)きの不良が集まってて、神奈川の中でもそれなりのレベルだから()()()()()()()んだ。もし変な刺激したら乱闘も覚悟した方がいいかもしれない。そこで石黒監督は日本陸軍出身の審判を呼んできたんだよ」


「だからあの審判たちは強そうなんだな。とにかく今日は俺たちのデビュー戦だ!勝つぞ!」


「おー!」


「じゃあ俺たち二、三年はグラウンド整備や電光掲示板の準備しよう」


「はい!」


 相手の横浜工業のスターティングメンバーはこうなった。


 一番 レフト 高田愼二郎(たかだしんじろう) 三年


 二番 サード 川村裕三(かわむらゆうぞう) 三年


 三番 センター 出口龍騎(でぐちりゅうき) 三年


 四番 ピッチャー 小松園達也(こまつぞのたつや) 三年


 五番 キャッチャー 米山灯圭(よねやまとうけい) 三年


 六番  センター 遊見弘毅(すさみひろき) 二年


 七番 ファースト 飯沼隆志(いいぬまたかし) 三年


 八番 ショート 北出綾人(きたであやと) 三年


 九番 セカンド 小野淳平(おのじゅんぺい) 一年


 となった。


「うわ、全員神奈川でも有名な不良ばっかじゃんか……」


「同じ寮の黒崎が言ってたな。横浜工業には気を付けろって」


「ああ、あいつも元不良だったな。よく仲良くできるな」


「同じ寮でサッカー部の河西(かさい)ってやつのツッコミ担当だから慣れたよ」


「あー、あのチャラ男か。理解したよ」


「とにかくオイラがいきなり塁に出るからお前らは続いてくれよ!」


「空回りすんなよー?」


「何おう!?」


「おいおいいきなり楽しそうだなぁ!それよりも今日のキャプテンは天童だ。頼んだぞ!」


「はい!」


「全員整列!」


「っしゃあいくぞ!」


「おー!」


「これより東光学園と横浜市立横浜工業の練習試合を行います!両チーム主将は握手!」


「お願いします!」


「うーっす……」


「では試合開始!礼!」


「よろしくお願いします!」


「あーっす……」


「うちが先攻だ!早速塁に出てくれよ山田!」


「余計な事は考えずにいこうぜ!」


「おー!任せてくれ!」


「こいつ一年坊主かよ……。しかも随分チビだから長打力(ちょうだりょく)なんざねえだろ。ストレートでビビらせてやろうぜ」


「チッ……俺に指図(さしず)する暇があったら三振取れるようにリードしとけっての!」


「ストライク!」


「へぇ、ストレートによほど自信あるんだなこの人。でもキャッチャーの方は単純なリードだな。天童並みの単純さというか、自信があるんだろう。次は恐らくアウトコースか?」


「こいつはチビのクセに何かやりそうだからアウトコースで様子を……」


「指図すんなって言ってんだろうが……よっ!」


「あのバカ……!」


「アウトコース来た!よーし!あっ……!」


 山田の予想通りにアウトコースに来たものの、突然小さく外に曲がってバットの先に当たり、そのままボテボテのサードゴロに打ち取られた。


 後続の木村も三振、三番の天童もセンターフライに打ち取られた。


  1回のウラでは(さかき)が途中で荒れてくるものの、天童のキャッチングと山田、木村の鉄壁な守備で何とか守り抜いた。


2回の表では夜月の出番だ。


「夜月!余計な力入れなくていいぞ!」


「心配すんな!塁に出れば残るはホームベースを踏んで帰るだけだ!」


「そうは言っても俺のような負け運が強い奴に期待なんかしやがって……」


「こいつあんまり覇気(はき)がないな。これならストレートだけでも抑えられそうだな」


「こういう直球勝負、俺は大好きだぜ!オラァッ!」


「ストライク!」


「よし!こいつビビって動けねぇぜ!」


「はぁ……」


「ため息が出るほどても足も出ないってか?だったらもう一度同じコースで行くぞ」


「おう!ウラァッ!」


「先輩方のリードは単純すぎて、いくらバカな俺でも読めますよ……ふんっ!」


「なっ……!?」


「おお……?」


「ホームラン!」


「うおーっ!夜月ーっ!」


「俺より早くホームラン打ちやがってズルいぞこの野郎!」


「ナイスバッティング!」


「ふん……」


「おいテメェ!キャッチャーのサイン見ただろゴラァ!」


「別に……先輩たちの考える事はわかりやすいって事っすよ」


生意気(なまいき)言ってんじゃねぇコラァ!」


「こらやめなさい!没収試合(ぼっしゅうじあい)にするぞ!」


「クソガキめ……!」


「落ち着け米山。お前のリードが馬鹿正直なだけだろ」


「ああ!?」


「心配すんな、残りは俺が片づけてやるさ」


「クソッ……!」


「あの小松園って人、何かエースの風格あるな」


「何だか打たれたってのに余裕があるよな」


「感心ばかりしてんじゃないぞー?お前らもちゃんと小松園くんの余裕さを見習うんだぞ?」


「は、はい!」


 その後の清原は見逃し三振、田村はフォアボールになったものの次の松田がダブルプレーで打ち取られてチェンジ。


 2回ウラには七番の飯沼にデッドボールを当ててしまい、乱闘騒ぎが起きかけたが小松園の一声で落ち着いた。


 八番の北出でゲッツーに抑え、九番バッターの小野になる。


榊大輔(さかきだいすけ)……。あいつ補欠だったくせにエース気取りってのが腹立つな」


「大丈夫だ榊。お前のフォークはそう打たれやしないぞ」


「やめておく。俺が荒れ球でフォアボールが多いのは知ってるだろ」


「ダメか。じゃあボール球からストライクになる際どいスライダーにしておくよ」


「それなら……いけるぜっ!」


「甘いっ!」


 小野が甘く入ったスライダーを叩いて一気に二塁まで走る。


 高田の好送球もむなしく、俊足の小野淳平に一気に進まれてスリーベースヒットを打たれた。


 先程ダブルプレーを取ったからピンチにある程度で済んだが、もしランナーがいたなら同点にされて榊はノックアウトされただろう。


 だが不屈のスタミナを誇る榊はそう簡単に参る事がなかった。


 一番の高田慎二郎を簡単に三振に抑えて3回表へ。


 しかし8回ウラになってもヒットこそ出るものの、お互いに点が取れず膠着(こうちゃく)状態が続いた。


 5回ウラで榊が降板(こうばん)して園田に代わり、榊と比べてコントロールが安定しているので打たせてアウトを取っていた。


 一方の榊は球速の速さと変化量のある変化球で三振を取っていくタイプで異なるエースを持っているので横浜工業的にはやりにくかった。


 一方の小松園は、たった一人で9回まで投げ抜き、本当に喫煙するほどのワルなのかを東光ベンチは疑った。


 9回表で天童が走者一掃のスリーベースヒットで山田と木村がホームに帰り一気に2点取り、最後の守備になってついに園田は降板して川口が登板する。


 川口はスタミナこそないものの、クセのあるストレートとスプリットを使い分ける本格派でありながら器用な一面も持っている。


 横浜工業は代打を誰一人も出す事がなく、そのまま川口の本格的ながらも器用な投球に翻弄(ほんろう)された。


 そして――


「これで終わりだ!」


「クッソー!あっ……」


「センターフライアウト!ゲームセット!整列!これより東光学園が3点、市立横浜工業の0点で試合終了します!礼!」


「ありがとうございました!」


「っしゃーしたー……」


「エールを送るぞ!フレー!フレー!Y工(ワイこう)!」


「フレ!フレ!Y工(ワイこう)!」


「みんなお疲れ様!はい、みんなの分のおにぎりあげる!」


「うおー!高坂のおにぎりは美味しいからな!」


「夜月!今日はお前がヒーローだぜ!こっから自信持っていこうぜ!」


「天童……、お前って自信家だと思ったけど、意外と他人の自信まで引き出せるんだな」


「おー夜月ー、それ失礼だぞー」


「いいんだよ山田、よく言われるからさ。それよりも過去に何があったか俺たちは知らないけど、今のお前は東光学園硬式野球部の一員なんだから、過去の事を忘れられなくても前に進んでいけばいいんだよ。現にお前は練習から悩みがちだったからよ」


「お、おう……」


「よぉ夜月!俺たちも応援に来てたんだぜ!」


「河西!郷田(ごうだ)!林田に阿部まで!」


「黒崎くんは部活の遠征で来れなかったけど、お互い頑張ろうって言ってたよ!」


「どうやら俺たちの応援が届いたようだな」


「……。」


「勝利おめでとうだってよー!頑張れよ野球部ー!」


 こうして東光学園の一年生は幸先のいいスタートを切る。


 夜月も初打席でいきなりホームランを放ち、天童もマルチヒットを放つなど収穫も得た。


 清原と松田も長打を放ち、守備でも園田の投球と山田、木村の守備力、田村と高田の堅実な連携で守備面も問題なかった。


 ただ投手陣に至っては榊と川口の三振を多く取りながらも不安定なピッチングには課題が残った。


 石黒監督はニコニコと笑顔を見せながらアイスを一年生全員に手渡しし、確かな信頼を得たのだった。


つづく!

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