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第62話 冬の合宿・水泳部編

 硬式野球部の冬の合宿もついに5日目になり、平日最後なのでみんな張り切っていた。


 とくにあの水泳部ともなれば思春期(ししゅんき)真っ最中の男子にとっては、競泳(きょうえい)水着が見放題じゃないかと(あわ)い期待を(いだ)いている者もいる。


 しかし夜月(やつき)はどうも乗り気ではなく、同級生から『水着姿が見れるのはいい事だぞ』と言われる。


 しかし夜月はこんな事を言った。


「お前らさ、水泳部が全国レベルなの知ってるよな?水着が(おが)めるからって言ってもそれどころじゃないからな?後悔しても知らんぞ」


 と、夜月は瑞樹(みずき)から話を聞かされているので厳しさをよく知っている。


 その事を思い知らされる金曜日になり、野球部員たちは学園室内プールに(おもむ)いた。


 シャワーや準備運動を終えて指導係が来るのを待つ。


 今回の指導係は瑞樹に任命され、瑞樹はいつものハイカットの競泳水着姿で野球部を指導する。


「えーっと…(こう)ちゃんの目の前で改めてこの姿になると恥ずかしいな……。まずはウォーミングアップに50メートルをゆっくり泳いで水に慣れさせます。野球部もアップからすぐにとばさずにやるんだっけ?そこはうちも同じなんだ。けど……アップを終えてからが本番だよ」


「はい!」


「なー夜月、水瀬(みなせ)の身体ってエッチだな……」


「はあ……どうなっても知らんぞ」


「俺は彼女いるけど、彼女は高身長で胸があんまりないが、水瀬はちょうどいい身長で胸が割とあるんだな」


「ハイカットとかエッチだな」


「お前らなあ……あいつは柔軟性は問題ないが、どうも股関節(こかんせつ)(だけは俺よりも固くて動きが制限されるのを嫌がってハイカットにしたんだ」


「けどやっぱり……な?」


「まったく……今に見てろよ。そのうち瑞樹の水着が気にならないくらい疲れるから」


 最初のアップを終え、部員たちは余裕の表情で俺たちは泳げるんだと実感する。


 夜月は最初はカナヅチだったが、瑞樹のコーチによって小学校6年でカナヅチを克服した経歴があり、今やバタフライをも泳げる。


 野球部は思春期真っ只中の男子なので、他の女子部員の水着姿にドキドキした。


 もちろんちゃっかりマネージャーも水着姿で、一緒に練習に参加する。


 しかし問題はここからだ……


「次は息継ぎを少なく、可能なら息継ぎなしで50メートルをどんな泳ぎでもいいのでやってもらいます。ちなみに晃ちゃんは息継ぎをたった一回で済んだことあるよ」


「よーし! 夜月には負けないぞ!」


「たかが50メートル泳ぎ切ってやる!」


「俺たち男子の力を見せてやろうぜ!」


「あ、ちなみに記録も測るし、ノルマ外なら水中スクワットを50回らしいですよ?」


「げげっ……!」


「厳しすぎないか……?」


「ああ、瑞樹から聞きましたが水泳部はノルマ外だった部員は初心者でさえいないらしいですよ。でも安心してください、人によってノルマが違いますからね」


「オイラたちはどうなっちまうんだ……?」


「俺はどうすんだよ……?」


「中田先輩は泳げない事がわかりましたので、まずは()()()()()ところからですね。女子だとやりづらいと思うので男子の主将を呼んでいます」


「その方がありがたいぜ」


 泳げない中田だけ特別メニューに行き、残りの部員は全員一通(ひととお)り泳げるのでノルマ水泳をすることになった。


 それぞれに課されたノルマをクリアすればいいのだが、泳げるには泳げるけど水に慣れてない野球部員は全員苦戦して水中スクワットをすることになった。


 その中でも榊、園田、山田、天童、夜月は難なくクリアし、瑞樹もこの5人の水泳のセンスに感心した。


「私のコーチをかつて受けた晃ちゃんならともかく、他の4人はスイミングスクール経験者?」


「まあな」


「そうだな」


「おう」


「そうだぞー」


「二年生では田中先輩と松井先輩ですね」


「去年はノルマ達成できず悔しかったからな。オフの日に泳いでたからクロール以外にも背泳ぎも出来る」


「俺は中学の野球部でプールトレーニングがあったからそれでかな。背泳ぎも出来るよ」


「クソ……! 俺たち水泳をなめてたわ……!」


「女子の水着拝み放題と思ってたけど……」


「ノルマ達成や記録作り……」


「フォームやタイムばかり考えてそんな暇ねえよ……!」


「だから言ったろ? そんな暇はないぞって」


「あいつ水泳部の幼なじみがいるからって知ってたのか……!」


「ずるいぞ夜月!」


「どうやって夜月は水泳に慣れたんだよ……?」


「晃ちゃんは中学時代に私の自主練に付き合ってくれたんだ。同じスポーツクラブのプールで一緒に泳いでたの。それもガチコースでやってたからバタフライも出来るよ」


「へえ……!」


「私もバタフライだけは苦手で、得意なのはクロールかな。平泳ぎと背泳ぎは出来るけどレースに使えるほどじゃないんだ」


「得意不得意があるのは他の部も同じなのね……!」


 息継ぎなし水泳をした後は、100メートルを5本全力で泳ぐメニューで、スクワットで疲れ切った野球部のタイムはセット数が進むほど落ちていった。


 一方の中田はまず『身体が沈む原因が息継ぎの姿勢にある』と言われ、『息継ぎする際に顔を上げすぎるのと、背中を反りすぎて足が沈む』ことだった。


 その克服をするためにプールサイドに掴まり、息継ぎしながら姿勢に慣れる練習をした。


 スイミングスクール経験者の天童と榊、園田、山田やプールトレーニング経験者の松井と田中はバタフライだけが出来ないという事で平泳ぎとクロール、背泳ぎを中心に、他の部員はクロール中心や平泳ぎも追加、夜月だけフルセットと泳げる数が多いほど過酷になっていった。


 野球部の中にはもう女子部員をえちえちな目で見る者は誰もいなくなった。


「うん、全員ドルフィンキックやタッチが出来るようになりましたね。中田先輩はビート板にも慣れてきましたし、ここで実戦練習します!」


「ほう」


「全員それぞれ得意な泳ぎで水泳部員と勝負してもらいます。もちろん男子部員だと速すぎるので……女子部員と勝負です。ただし私のコーチを直々に受けた晃ちゃんは私と個人メドレーで勝負します」


「おい、そんなの聞いてねえぞ!」


「私がやりたいだけだから今考えちゃった♪」


「全国手前の選手にどうしろってんだよ!」


「安心して、私は400メートルで晃ちゃんは200メートルだから」


「そういうことならやるか」


「じゃあ最初は自由形50メートル、女子部員は100メートルでやります」


「中には全国に出た子もいるんだっけな……」


「よし! 俺たち野球部の意地を見せてやろうぜ!」


「負けるもんか!」


 こうして女子水泳部員との勝負をした結果……


「はあ……はあ……!」


「何これ……速すぎ……!」


「俺なんか途中で沈んで失格……」


「うーん、みんな頑張り屋さんだけどやっぱり力みがあるのか途中で失速してるね」


「でも山田くんや天童くん、榊くん、園田くん、田中と松井はさすがね」


「松井くんに至っては勝っちゃったんだもんね」


「残るは()()()()()()と夜月ね……」


「瑞樹が直々にコーチした男子の実力、見せてもらおうかしら」


「手加減はしないよ?」


「そうじゃないと困る。けど俺なんてプールなんか久しぶりだからいけるかわかんねえぞ」


「大丈夫、ずっと自主練付き合ってくれたじゃない」


池上荘(いけがみそう)増築(ぞうちく)されて狭いけど遊ぶ用のプールで練習したからな。さて、全国手前だったお前の実力……見せてもらうぞ」


「On your mark……」


 スタートの音が鳴り、二人は一斉にプールへ飛び込んだ。


 瑞樹はあまりにも綺麗な飛び込みで、男子たちはそれに魅了されていった。


 一方の夜月は飛び込みこそ綺麗なものではないが、ドルフィンキックをある程度こなし、やはりエースの瑞樹と自主練一緒にしただけはあるなと男子水泳部員からも感心された。


 お互いに苦手なバタフライで少し苦戦し、野球部員は『あいつ本当にバタフライが苦手なんだよな?』とささやかれるほど速いスピードで泳いでいった。


 夜月は素人にしては速い方だが、もっと長く泳いできた天童たちと比べるとスピード不足が否めなく、瑞樹にあっという間に差を詰められる。


 二人はバタフライ→背泳ぎ→平泳ぎを終えついに自由形となった。


「やっぱりクロールになるか」


「夜月はちょっと遅いかな」


「やっぱり体重が重い分、厳しいものがあるのかもね」


(クソ……! やっぱ全国手前の幼なじみには勝てないか……!)


(晃ちゃん、やっぱり体重がついちゃって泳ぎにぎこちなさが……。もう少し一緒に自主練すべきだったかな?)


「けどなかなか互角よ!」


「夜月くん! 頑張って!」


 あおいの応援もむなしく、夜月は残り30メートルで逆転されてしまう。


 瑞樹はまだまだ加速し、ついにゴールした。


 遅れて5秒で夜月がゴールし、実力の差を見せつけられた。


「はあ……はあ……! お前……これなら全国に行けると思うぞ……!」


「本当……? 晃ちゃんに言われたら行ける気がする……! 私さ……絶対にバタフライの苦手を克服して……晃ちゃんに応援されるために……全国に行くからね……?」


「幼なじみの頑張りを見れるんだな……。約束……したからな……?」


「うん……約束……」


「はーい! いい雰囲気だけどそろそろ上がって! もう男子たちが疲れ果ててるから今日はこの辺で終わりにしましょう!」


 女子水泳部の主将が仕切り、ついにプールの片づけに入る。


 一方の中田はビート板で50メートルを泳ぎ切る事に成功し、野球部と水泳部全員で拍手でおめでとうと祝福した。


 中田は片想いの上原に恥ずかしいところを見られ、『カッコ悪いな』と思ってしまった。


(それにしても晃ちゃん、いい筋肉してたなあ……。もっと見たかったし、触ってみたかったなあ……)


「ねえねえ水瀬さん! あの男の子って幼なじみなんでしょう?」


「え? まあ、はい」


「硬式野球部総選挙で投票しなかったけどなかなかのイケメンじゃない!? あなた幼なじみだからって余裕こいてると、いつか他の女に取られるわよ? 早く告白しちゃいなよ?」


「そそそ、そんな関係じゃありませんよ! 先輩のいじわるっ!」


「まーた照れ隠ししちゃってー! 好きってのが顔に出てるよ?」


「わーっ! 聞こえないし何言ってるかわかりませーん!」


 つばさや麻美(あさみ)と同じく瑞樹も夜月に好意を抱いており、夜月は何も知らないがあおい含めて自分に投票したのはこの子たちで間違いなさそうだ。


 そしてそんな子たちによって票が入ってることに少しだけ安堵(あんど)している夜月であった。


 水泳部で練習した結果……肩関節(かたかんせつ)の柔軟性強化、心肺機能(しんぱいきのう)アップ、股関節の動きや水中トレーニングによる足の負担軽減が得られた。


 もちろん……異性の幼なじみという事で夜月も同じく野球部員にいじられていたがそれはいつもの事でもはや流す程度で終わった。


 最後の土日は野球の練習試合で、土曜は福井の北陸(ほくりく)学園丸岡(まるおか)と青森の八戸(はちのへ)学院に勝利、日曜はアメリカのニューヨーク州立マンハッタン中央高校に勝利するも、同じくアメリカのテキサス州立テキサン高校に敗退した。


 つづく!

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