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第58話 冬の合宿・ソフトボール部編

 東光学園の明治神宮(めいじじんぐう)大会が終わり、いよいよオフシーズンに入る。


 11月も後半になると、もう冬が近づいてきたなと実感するほど寒くなり、生徒の中には冬のコートを着て登校するのもいる。


 冬となるとアイスホッケー部やスキー部、スノーボード部、カーリング部、スピードスケート部、フィギュアスケート部が活発になってくる。


 硬式野球部は冬の合宿に向けて調整を行い、他の部活の練習にいくつもお邪魔してきた。


 今回ははその一部をお見せしよう……。


 今日はソフトボール部にお邪魔しているようです。


「よし! 今日は硬式野球部がソフトボールの体験をすることになった! しかもその様子を動画にしてセルフチューブに投稿するそうだ! ソフトボール女子の力を見せてやろうぜ!」


「はい!」


「それから中村! お前はあの夜月(やつき)と仲がいいんだったな? 硬式野球部の教育係を任せてもいいか?」


「え!? マジっすか!? あたしでよければやります!」


「じゃあ頼んだぞ!」


「えーっと、じゃあ野球部はまず最初にウォーミングアップからしてもらいます! それからキャッチボールの後にダッシュを10本、その後はシートノックからのバッティング練習っす!」


「うちとそこまで変わらないんだな」


「そうみたいですね」


「まあでも野球と違って下投げだから感覚も変わると思うのでヨロシクっす☆」


「おい夜月、あの女って先輩に対してなめてねえか?」


「中村は根がギャルなんで放っておいてもいいですよ。それにあれでもソフトボールの一年ながらエースなんです」


「マジかよ……。じゃあ実力は確かなんだな……」


「中田先輩なら打てるんじゃないですかね? 速球に強いし」


「まあやってみないとわかんねえだろ。打ってやるけどな」


「そこ! 主将と一年の代表がコソコソ話をしてどーすんの!? 早くアップに行くよ! 先輩たち待ってるんだから!」


「お、おう! 悪かったよ! 夜月、行くぞ」


「うす」


 ウォーミングアップを終わらせた後はキャッチボールをするのだが、野球部は普段小さなボールを扱っているためか、ソフトボールのような大きなボールを投げるのに苦戦をしていた。


 投げるだけでなく捕る方も苦労していて、グローブの芯で捕れないとボソッと愚痴(ぐち)をこぼす守備が得意な山田や木村がいた。


 守備が元々得意じゃない中田や片岡、清原は意外とすんなり慣れてきたのか遠投まで始める始末。


 夜月は普段からつばさとキャッチボールやブルペンの相手をしていたため、ソフトボール用のキャッチャーミットをも扱えるようになっていた。


 他の部員は夜月の別競技(べつきょうぎ)の慣れっぷりに池上荘(いけがみそう)では一体どんな自主練をしているんだと興味を持つようにもなった。


 するとつばさは夜月にしゃがんでくれと合図を送る。


「夜月! ちょっとしゃがんでもらっていい?」


「もうやんのか? 早いな。まあいいけどさ」


「んじゃあいきなり全力でいくねっと!」


パシーン!


「いってぇ……! 相変わらず手加減ねえな……! お前少しは肩に気を使えよな……」


「へへー! エースなんだから気合と根性と球速とスタミナが命だよ!」


「少しはコントロールや体のケアにも気を使えって何度も寮で言ったぞ?」


「そうだっけ? 忘れた☆」


「はあ、相変わらず猪突猛進(ちょとつもうしん)なんだから……」


「あいつあんな速い球を捕ってんの……?」


「だから夜月、黒田のプロデュースも重なって急成長したんだよ」


「オイラたちも負けてらんないなー! よーし!もう少しキャッチボールを……」


「もうそろそろノックいくよー!」


「早っ!?」


 野球部が張り切るもむなしく、もうノックの時間となってしまった。


 ソフトボール部の女性監督はノックの名手で、相手の嫌なところにわざと打って厳しいノックをするのが特徴だ。


 石黒監督も嫌らしいノックもするが、それ以上に嫌らしいだけでなく速いので野手陣からは恐れられていた。


 もちろん野球部も洗礼を受けるわけだが……


「よっ!」


「木村! ゲッツーだ!」


「ほいっと!」


「よっしゃ! それっ!」


「おっしゃー!」


「おおー! 木村、山田、清原の連携もよくなったな!」


「岡、俺たちも負けてられないな」


「だね」


「外野!」


「うおっ!? 思ったより伸びるのな!」


「けど野球で慣れてるから多少は適応できてんな」


「夜月がファーストにも外野にもいないのは何で?」


「ああ、あいつは普段からエースの中村だっけか? そいつの球を受け続けてるからピッチャー陣のブルペンに付き合わされてるぜ」


「自主練付き合うのも大変だね……」


 一方こちらは夜月だけでなくバッテリー陣……


「おっと!」


「ごめん天童!」


「いいっすよ! 松井さんだけじゃなく他のピッチャーもあの下投げには慣れてないですから気にしないで!」


「これ難しいよ……!」


「俺も捕るのに苦労したよ」


「でも田中くんは徐々に慣れてきたよね」


「道下が不器用すぎなんだよ」


「しかし夜月……あいつキャッチャーのセンスあるんだな」


「……。」


「田中?」


「実は俺、少年野球の時にあいつが()()()()()なのに、あいつが所属していたチームの事情で背番号2番、それも正捕手(せいほしゅ)やってるのを見たことがある」


「そうなんですか!?」


「肩は俺よりも弱いし天童よりもリードが全然甘いけど、それでも後逸率(こういつりつ)が凄く低くて、ピッチャーの特徴を完全に把握してるのか声かけもその人に合わせて変えてたんだ。確か……エースは三人いて水瀬瑞樹(みなせみずき)って女の子だったな」


「へえ、あいつがねえ……」


「どーよ! あたしのライズボールは!」


「いいじゃん! これは俺なら絶対空振りするわ!」


「マジ!? 早くバッティング練習したいなー!」


 つばさは野球部と早く勝負がしたくてバッティング練習が待ち遠しかった。


 ブルペンでは投手陣がウインミドル投法に苦戦し、キャッチャーは普段はキャッチャーミットで捕ってたからか、ファーストミットに近いキャッチャーミットの感覚に違和感を覚えていた。


 そしてようやくバッティング練習に入り、ソフトボール部員は全員守備に着いて野球部がずっと打撃をする。


「今日は硬式野球部のソフトボール体験と、ソフトボールを活かした野球のスキル獲得練習だ! 気合入れて抑えろよ!」


「おー!」


「野球部もソフト部も一人で10球打つんだぞ! ちなみにだが野球部よ、普段は一人で20球だが今日は人が多いから半分だ」


「わかりました。最初は俺からか。さあ来い!」


 最初のバッターは志村で、普段のスターティングメンバー順に打つ。


 スタメン全員終えたら今度は背番号順で、サードで一年の松田が最後になる。


 志村と岡はウインミドル投法を相手に少し奮闘するも基本的に凡打ばかりだった。


 さらにつばさとの自主練で慣れてるはずの夜月はつばさ以外には奮闘するも、つばさにだけは手も足も出ず全球空振りとなった。


 中田と天童、清原、本田、三田もバットに当ててもつばさ相手に歯が立たず。


 松井や園田、川口、道下、榊、綾瀬はバットにすらかすらず、山田はバントするのが精いっぱい、松田と田村、高田も凡打ばかりだった。


 そんな中ですぐに適応できたのは……石田と片岡だった。


「おい! 何でそんなにうまく飛ばせるんだよ!?」


「ウインミドル投法はアンダースローとは異なるけど、アンダースローを把握していれば多少は適応できるよ?」


「俺はもういつもフルスイングだけど、今回は無理とわかってたからコンパクトに振っただけさ」


「あのエースの中村だっけか? あの子はいいピッチャーだけど惜しいかな。確かに球も速いし変化球もキレがある、何より凄い体力だ。あれは見た目に反して喫煙(きつえん)はしていない。だけど……」


「あれは肩の柔軟性が足りないのと、小野先輩なら気付くが(あし)の筋力不足だな。走り込みという意味では申し分ないが、おそらくは筋力や体幹不足だろうな。ギャルだから筋力付けてムキムキにはなりたくないんだろうけど、全国行くならそれくらいしなきゃダメだな」


「マジか……弱点なんてないかと思ったぜ」


「まあ中村は少し荒れ球だけど、決してフォアボールが多いわけじゃないんですよ。見た目はあーですけど、実は真面目(まじめ)でストイックなんです。ふざけてやってるわけじゃない事は俺が保証します。なんせあいつは……俺のファン第一号ですから」


「確かにそうだな。あれじゃあ俺たちが打てないのも納得だよ。よし、次は打つぞ!」


 志村がつばさのことを誤解していたと同時に、自分たちは厳しい練習したからふざけてるつばさに勝てると過信していたことを反省し、次の打席では自分を過信しすぎず自分らしいバッティングでつばさを攻略していった。


 他のピッチャー陣のウインミドル投法にも慣れてきたのか、野球部全員ホームランを打てるほどにまで成長した。


 おかげでどんな変則投球でも対応できるようなミート力が身についた。


 そして守備では……


「よっと!」


「それっ!」


「おー! ナイスボール!」


「え……? うちらより上手くない……?」


「これが男女の差かなー?」


「でも男子ソフトボールなんてやったらいくら野球部でも……」


「かもね。けどさ、あんなにカッコいい人たちとソフトボール出来てよかった!」


「ありがとうつばさ! あんたが夜月って子と仲良くしてなかったらこんないい機会に巡り合わなかったよ!」


「えっと……あ、ありがとうございます……?」


「さすがファン第一号だね!」


「ねえ、もしかしてだけどさ……つばさって夜月くんのこと好きなんじゃないかな……?」


「えー? まさかー! だってただのファンでしょ?」


「ましてやあんな(いん)キャないない!」


「えっと……キャプテンの言う通り、そうかも……///」


「ええーっ!?」


 夜月に投票したのは瑞樹だけでなく、なんとつばさもまた夜月に好意を抱き、投票でも夜月をずっと選んでいた。


 自分の役割を理解して全力で取り組む姿に惚れ、ファン第一号という形で好意を誤魔化(ごまか)したことをつばさは少し後悔した。


最初は卑屈(ひくつ)で『何だこいつ……』と思っていたが、試合出の姿に見直し、そして惚れたのだ。


 だがつばさはエースとしての自覚もあるため恋する暇もなく、ただ時間だけが過ぎていった。


 ソフトボールとの合同練習も終え、つばさは硬式野球部に最後のエールを送る。


「えーっと…キャプテンでもないのに最後の挨拶を務めさせていただきます。硬式野球部は秋の大会で優勝し、明治神宮大会でもベスト4というすごい結果を残しました。これなら確実に春の選抜に出れると思うので、自信を持って野球に取り組んでください! 明日はサッカー部だっけ? そこでの合同練習合宿、頑張ってください! それから夜月!」


「ん?」


「あたしはいつだって夜月の事、応援してるからね!」


「ああ、ありがとう」


 こうしてソフトボールとの合同練習を終え、野球部はミート力と肩力、コントロールと守備力、捕球力が身についた。


 片岡はコンパクトなバッティングを身につけ、石田もキャッチャーとして目覚ましい成長をし、みんなアンダースローやそれ以上の変則投法に対応できるようになった。


 その後はグラウンドで軽くいつものキャッチボールとティーバッティングをすると、いつもの野球ボールの扱いやすさにとても感謝した。


 翌日……学園都市サッカー場へ赴いた。


 つづく!

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