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第57話 平安館学院

 準決勝の相手は京都の名門校、平安館(へいあんかん)学院だ。


平安館学院は男子部で、女子部が平安館女学校(じょがっこう)と名乗り、武道(ぶどう)と日本文化が世界一強いと言われる文武両道の神道(しんとう)系名門校だ。


 しかも制服がこの新暦(しんれき)どころか西暦でさえなかった袴制服(はかませいふく)で、それも現代風にアレンジされた簡易的に袴を楽しめる構造となっている。


 彼らもまた偏差値(へんさち)が高く、平均が覇世田(はせだ)大学や帝応義塾(ていおうぎじゅく)大学と並ぶほどで、大学は日本一の学力を誇る皇京(こうきょう)大学と同等という情報だ。


 平安館学院野球部、通称『京紫(きょうむらさき)軍団』と呼ばれ、紫色のユニフォームが特徴のチームだ。


 そんな中で明治神宮大会の準決勝が行われ、それぞれスターティングメンバー票を提出する。


 先攻・平安館学院

 一番  センター 福本優太(ふくもとゆうた) 二年 背番号8


 二番 ショート 井端弘康(いばたひろやす) 一年 背番号6


 三番 ファースト 王真治(おうしんじ) 二年 背番号3


 四番 サード 長嶋茂(ながしましげる) 二年 背番号5


 五番 キャッチャー 野村克人(のむらかつと) 二年 背番号2


 六番 レフト 柴田勇(しばたいさむ) 二年 背番号7


 七番 ライト 山本康二(やまもとこうじ) 二年 背番号9


 八番 セカンド 荒木隆博(あらきたかひろ) 一年 背番号4


 九番 ピッチャー 沢村栄樹(さわむらえいき) 二年 背番号1



 後攻・東光学園

 一1番 ショート 志村匠(しむらたくみ) 二年 背番号6


 二番 セカンド 岡裕太(おかゆうた) 二年 背番号4


 三番 キャッチャー 天童明(てんどうあきら) 一年 背番号2


 四番 サード 中田丈(なかたじょう) 二年 背番号5


 五番 ライト 本田(ほんだ)アレックス 二年 背番号9


 六番 センター 夜月晃一郎(やつきこういちろう) 一年 背番号8


 七番 ファースト 清原和也(きよはらかずや) 一年 背番号3


 八番 レフト 三田宏和(みたひろかず) 二年 背番号7


 九番 ピッチャー 榊大輔(さかきだいすけ) 一年 背番号17



 ――となった。


 榊は石田とのブルペンでの調整で絶好調となり、いつでも登板できる状態となった。


 おかげでいつもよりストレートの伸びもよく、フォークもかなり落差が上がっている。


 園田や川口も田中とブルペンで投げ抜き、いつでも中継ぎの準備は出来ていると宣言する。


 整列して試合が開始され、一番の福本が打席に入る。


「プレイボール!」


「よっしゃ! 来い!」


「小さいけどこの人は油断ならない。前の試合を観たが、この人は『小柄なのに平気でフルスイングしてくる』からキャッチャーとしてはめんどくさいんだ。けどあえてフルスイングさせまくって疲れさせるのもいいかもしれないな。最初は様子見をするだろうし……これでいこう」


「ストレートを流し気味にしつつ、ギリギリ外れるかどうかのコースか。俺のコントロールを見てよくそんなリードできるな。けど狙ってみるかなっ!」


(きわ)どい……!ふんっ!」


「ストライク!」


「ナイスボールだ! 本当に流して投げたのかw?」


「へへっ! いきなり全力で投げたらバテるだろ!」


「マジかよ、こいつ赤津木(あかつき)より速いじゃんか! ただ見極めればコントロールはあいつより荒れてるな。よーし……」


 福本は持ち前のフルスイングでピッチャーにプレッシャーをかけるも、青葉(あおば)学院と練習試合をした時と比べるとプレッシャーを感じなかった榊は、自分のピッチングを保ったまま三振に取る。


 二番の井端も三振に取ったが、三番の台湾(たいわん)人留学生の王と四番の長嶋には連続ヒットを許す。


 その後の五番の野村をライトフライに打ち取り、1回ウラの攻撃だ。


 志村がショートゴロに倒れ、岡も三振に取られて天童はセンターライナーで三者凡退だ。


 2回と3回は両校とも無失点に終わり、4回の表では無失点ながらも得点圏にランナーを進めるなど着実にチャンスを呼びこんだ。


 4回のウラでは……


「うらあっ!!」


「しまった! ライト!」


「こんなの届かねえよ!」


「入りました! 東のスラッガー中田丈がこの回の先頭としてソロホームランで先制しました!」


「うっしゃあ!」


「いいっすね中田先輩!」


「やるじゃないか丈!」


「どんなもんだ!」


「よーし、俺も続いていくぞ!ホームランでもフォアボールでも何でも来い!」


……。


「フォアボール!」


「勝負したかったがまあいいさ。夜月! 頼んだぞ!」


「はい!」


「夜月晃一郎か……まだギリギリチャンスじゃないからそこまで警戒しなくていいかもしれない。けど本田に盗塁でもされたら彼のペースになりかねん。彼には初球で手を出してもらってゲッツーで打ち取られてもらおう」


「だな。そのほうがいいなっ!」


「かかったな! 誰が盗塁なんかするかよ!」


「しまった……!」


「真っ直ぐ来たか! でもよく見ると回転がツーシームなんだよな! それならっ! そらあっ!!」


「ああっ! そっちに行ったのか!?」


「セカンド! 頼む!」


「ダメだ……!」


 本田がいきなり盗塁したかと思いきや、夜月は二遊間(にゆうかん)を抜く強いゴロを打ち、ヒットエンドランという奇襲に成功した。


 本田はそのまま三塁へ行き、夜月はセンターが捕球したのを見て一塁へ留まる。


 実はあの時、本田が選手同士の()()()()()を出していて、手の甲で汗を拭ったらエンドランのサインだったのだ。


 お腹をさすると盗塁、首を回すと送りバント、そしてパンツを軽く上げたらスクイズとさりげない仕草を利用したサインを出していた。


 もちろんバレないように監督からもサインを出し、もしバレたらまた仕草を変えればいいだけだとポジティブにとらえて臨機応変にサインを決めていた。


 しかし夜月の作ったチャンスをものに出来ず清原がダブルプレーになり、本田も三塁に留まった結果……三田が三振を喫し追加点ならず。


 5回に榊が満塁のピンチになり、バッターは四番の長嶋だ。


「よーし! 来い!」


「この長嶋さんは一発のある王さん以上に安定した長打を放つ厄介なやつだ。野村さんは一発が最も大きいけど当たらなければ問題はない。こいつのうちにアウトをいかに稼ぐかを考えるか。こいつは直球に強いから……これでいこう」


「アウトローにスライダーだな。ふんっ!」


「スライダー……ふんっ!」


「ストライク!」


「ナイスボール! 変化球にヤマを張ってるのか? じゃあもう一度スライダーで空振ってもらうか」


「オッケー。ふんっ!」


「おらあっ!」


「ファール!」


「いいぞ榊! 長嶋さん相手に追い込んだぞ! ここまでタイミングはピッタリか。じゃあまだ今日は投げてない伝家(でんか)宝刀(ほうとう)のあれ、いっちゃおうぜ」


「ついに来たか……俺の得意な変化球のフォークがっ!」


「フォーク……っ!」


「何だと!?」


「君がフォークが得意だってもう見破ってるよ! 何で今日はここまで投げなかったが知らないけど、俺は最初からフォークを待ってたんだ! それっ!」


「マジかよ! センター! 追え!」


「めっちゃ伸びるな……!」


 カコーン!


 夜月が追っても無駄と悟った通り、長嶋の放った打球はバックスクリーンに大きく飛び逆転満塁ホームランとなった。


 榊はここから大崩れし、二者連続フォアボールからの柴田にタイムリーヒットを許し5対1に。


 山本の打席から榊は降板し、中継ぎに園田が登板した。


 園田はそれ以降は荒木と沢村、福本を三振に取って切り替えていった。


 5回のウラでは榊の悪い流れを引きずり、三者凡退に終わってしまった。


 6回と7回はお互いにチャンスを作るものの、なかなか得点に結びつけられなかった。


 だが8回の表で園田に悲劇が起こる。


「おらあっ!」


「なっ……!」


「センター!」


「間に合わないっ……!!」


「抜けたーっ!」


「さすがキャプテンっす!」


「だろ? 園田は榊と比べて少しだけ打ちやすいぜ。サウスポーだからどうかなと思ったが、打ててよかったぜ」


 王にタイムリーツーベースを打たれてしまい、これで7対1となった。


 しかし園田はクールな性格なのでここからうろたえる事なく、安定したピッチングで長嶋にはヒットを許すも野村をダブルプレーで打ち取り、柴田を三振にしてみせた。


 8回のウラになり、三田がツーベースを放つと園田の打席で勝負に出る。


「タイム。バッター園田に代わって、代打片岡(かたおか)


「バッターの園田くんに代わりまして……代打、片岡くん」


「片岡さん! 一発お願いしますよ!」


「仕事人なところを見せてやれ!」


「片岡龍一郎(りゅういちろう)……東光学園の代打の切り札か。ここで勝負に出るって事は、打った後は木村か山田に代走でも出すのか?そうなると俊足の一年の二遊間コンビのどっちかに代走を出されるのは怖い……彼をアウトにしよう」


「いいバッターほど燃えてくるぜ……! やっぱ高校野球は面白え! 俺の剛速球(ごうそっきゅう)を受けてみやがれっ!」


「おっと!」


「ストライク!」


「ナイスボール!」


「なるほど……これは手強いな」


「片岡ほどの勝負強い選手が簡単に仰け反るなんて……さすが沢村だな。けど恐怖は感じてなさそうだしシュートで詰まってもらうか、もう一度()()ってもらおうか」


「もうこの人にインコースは通用しねえ。シュートはこの人には控えたい」


「そうかい……じゃあ同じインコースでもあえて高めにしよう」


「顔に来れば手を出しにくいってか……。ノム、お前……普段はぼやきに毒があるのに野球になると時々その頭のよさがおっかないな。まあやるけどさっ!」


「うおっ!?」


「スイング! ストライク!」


「しまった……!」


「ナイスボール!」


「このままじゃ代打で出された意味がなくなる……! よーし……いっそのこと短く持つか」


「短く持った……? コンパクトなスイングで確実に塁に出て代走につなげるんか。でもそうはさせんよ。俺たちだって京都では負けなしが多いけど、甲子園に行くと最近は二回戦あたりで負けちゃうんからな、明治神宮大会だけでも勝ちたいんだ。残念だが勝たせてもらうぞ」


「ここで真っ直ぐか。ノムはたまに強気だな……んんっ!? この力は……? ようやく来たか……! この全身が軽くなるような感覚……まるでゾーンに入ったようだ! いっけえぇぇぇぇぇーっ!!」


「ストレート! この球なら打てる! なっ……浮いた!?」


 パシーン!


「ストライク! バッターアウト!」


「ああ……片岡が三振なんて……!」


「あの代打での通算打率が9割の片岡が……」


「三振に終わったとこはじめて見たぞ……!」


「くっ……!」


 代打の切り札で代打での打率が9割を誇る片岡が三振になったことにより、東光学園にとっての最後のチャンスはここで終わってしまった。


 それでも選手たちは全員逆転を狙い、諦めない気持ちで試合に臨んでいった。


 ところが中継ぎの綾瀬の援護も空しく、9回の表に沢村による走者一掃のタイムリースリーベースで8点とされ、それが決勝点となり夜月でキャッチャーフライと終わってしまった。


 こうして東光学園の明治神宮大会はベスト4止まりとなり、東光学園硬式野球部のシーズンは終わった。


 ちなみに決勝は平安館学院が聖英(せいえい)学園を下し、そのまま優勝したそうだ。


 ここからは東光学園硬式野球部も長い冬のオフシーズンに入る。


 つづく!

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