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第55話 琉球高校

 明治神宮大会の開会式が始まり、開幕戦の九州地区覇者の琉球(りゅうきゅう)高校と試合をする。


 琉球高校は沖縄の強豪校で、普通科と水産科がある珍しい学校だ。


 ユニフォームも明るい青で統一され、オーシャンブルーが爽やかで沖縄の海を連想させられるのが特徴だ。


 制服が男女問わずセーラー服で、いかに海の学校なんだというのがわかる学校だ。


 そんな琉球高校との試合のスターティングメンバーは――



 先攻・琉球高校


 一番 セカンド 凉村将悟(すずむらしょうご) 一年 背番号4


 二番 ライト 白鳥優李(しらとりゆうり) 二年 背番号9


 三番 ショート 夏海真那月(なつうみまなつ) 一年 背番号6


 四番 ファースト 滝沢飛鳥(たきざわあすか) 二年 背番号3


 五番 サード 喜屋武櫂(きゃんかい) 一年 背番号5


 六番 ピッチャー 金城良平(きんじょうりょうへい) 二年 背番号1


 七番 センター 我那覇潮太郎(がなはしおたろう) 一年 背番号8


 八番 レフト ローランド・ラメール 一年 背番号7


 九番 キャッチャー 一之瀬典助(いちのせのりすけ) 二年 背番号2



 後攻・東光学園


 一番 ショート 志村匠(しむらたくみ) 二年 背番号6


 二番 セカンド 岡裕太(おかゆうた) 二年 背番号4


 三番 キャッチャー 天童明(てんどうあきら) 一年 背番号2


 四番 サード 中田丈(なかたじょう) 二年 背番号5


 五番 センター 夜月晃一郎(やつきこういちろう) 一年 背番号8


 六番 ライト 本田(ほんだ)アレックス 二年 背番号9


 七番 ファースト 清原和也(きよはらかずや) 一年 背番号3


 八番 レフト 三田宏和(みたひろかず) 二年 背番号7


 九番 ピッチャー 綾瀬広樹(あやせひろき) 二年 背番号20



 ――となった。


 ローランド・ラメールはハワイ出身のフランス系アメリカ人で、初心者ながら並ではないセンスでレギュラーにまで(のぼ)り詰めた選手だ。


 綾瀬がピッチング練習していると、一之瀬がメガネを光らせて東光ナインの動きを観察する。


 監督の桜川(さくらがわ)よし子は新米(しんまい)だが選手のやりたい練習を取り入れつつも厳しいメニューを課す監督で、選手たちもついていきたいと思わせるような監督だ。


 1回の表では凉村が緊張しやすく、スロースターターなのかすぐに三振。


 白鳥は冷静にコースに逆らわず打つも夜月の守備に阻まれ、夏海も豪快なスイングでレフトに飛ばすも三田の守備範囲で三者凡退。


 一方の東光学園は、応援の最初のファンファーレが競馬のG1(ジーワン)レースの一つの宝塚(たからづか)記念専用ファンファーレに変わり、明治神宮大会限定曲という特別感で応援による威圧をする。


 肝心の攻撃は志村がいきなり先頭打者ホームランを放ち、その勢いで岡と天童が連続出塁、四番の中田の1点タイムリーで2点を獲得。


 綾瀬のピッチングは前の不安定さを克服し、速球で三振を狙いつつも緩急でタイミングをずらすピッチングをするようになった。


 おかげで4回まで無失点の全ての回で三者凡退に抑えた。


 ところが5回の表で東光学園は失速する。


「よし! 夏海を打ち取った! ファースト!」


「おっしゃあ! あ……!」


「えっ……!?」


「嘘だろ……!?」


「マジかよー!」


「やったー! 超ラッキー!」


「あーっと! 清原が足を滑らせ、せっかく打ち取った当たりをそのまま大きくバウンドして後ろへ後逸(こういつ)! ライトのカバーが遅れてしまいました! これは……記録はエラーがつきました!」


「も、申し訳ねえっす!」


「あ、いいよ。大丈夫だから心配しないで」


 綾瀬はそう言ったものの、そこからコントロールが甘く入るようになり次第に連打を浴びてしまう。


 喜屋武、金城、我那覇に連続安打を浴びた後にローランドによるタイムリーツーベースを打たれ、ついに綾瀬はノックアウトをした。


 3対2で迎えた5回の表はノーアウトで、綾瀬の代わりに榊がマウンドに立つ。


 ところが……三者連続フォアボールとパッとしないピッチングだった。


 それもそのはず、(さかき)は園田と違って完全な先発完投タイプで慣れないクローザーにフォームがバラバラになっていた。


 石黒監督は上原の遅かった報告によって急遽ピッチャー交代、ノーアウト6対2の状態で川口に交代した。


 すると川口のピッチングは安定し、これ以上の失点を嫌がる中田がサードライナーを処理、そこから三塁を踏み、飛び出した二塁ランナーをセカンドタッチで刺してトリプルプレーをする。


 5回のウラの攻撃では……


「これ以上点差を開かせるわけにはいかない……! よし、来い!」


「志村は一発こそないけど(たく)みすぎるバットコントロールが特徴。でもさっきはホームランを打たれたし、苦手な緩急も克服。金城にはそこまでの技術はない。打たれても後続を抑えれば問題ないかな」


「ほう、俺の投げたかったストレートでいいんだな? じゃあそうさせてもらうぜっ!」


「ちょ……! そんな甘いコースじゃあ……!」


「甘いっ!!」


 カキーン!


 志村は二打席連続とまでいかなくても、この試合で二本のホームランを放った。


 志村は決してパワーがあるわけではないが、単純なピッチャーが相手なら引力を使ってホームランを狙う事が出来る。


 鍛え抜いた動体視力があってこそのこのバッティングだ。


 それに続くように岡がセーフティバント成功、天童のスリーベースタイムリー、中田のツーベースタイムリー、夜月のフォアボール、本田のスリーランホームランで一気に大量得点を取った。


 6対6と同点に追いついた東光学園。


 すると川口のピッチングもここでギアを上げた。


「ストライク! バッターアウト!」


「よっしゃー!」


「いいね川口! お前中継ぎ向いてるんじゃねえか?」


「俺はスロースターターだからな。ブルペンで投げ込んで身体を慣れさせないといいピッチングできないのよ」


「だから石田さんとずっとブルペンで投げ込みしてたのか。でもあんま球数多くすんなよ?」


「はは、石田さんにも『全力投球は登板まで控えろ』って言われたよ。『流して投げた方が方の負担が少ないから全力出すな』ってさ」


「慎重な石田さんらしいや」


 川口のピッチングに応えるべく、打線も一気に大爆発。


 7回と8回の表では無失点で抑え切り、7回のウラには夜月の勝ち越しソロホームランで7対6とする。


 9回の表で抑えの道下に交代するも……


「道下さんは球速が遅いから三振が狙えるタイプじゃないのは重々(じゅうじゅう)承知(しょうち)だ。打たせて取りましょう」


「今日は真っ直ぐが多いね……。けどそんなに自信満々でリードされたら……イケる気がするよっ!」


「っしゃー! もらったっ!」


 カキーン!


 滝沢に放った初球の真っ直ぐは滝沢のバットにジャストミートし、センター方向へ大きく飛んでいった。


 夜月はもはや追う事を諦めていて、その打球を見送った。


 その打球は……


「この打球は入るかもな……」


 カコーン!


「っしゃー!」


「ホームランです! この土壇場(どたんば)で滝沢が同点に追いつきました!」


「いいね滝沢先輩! よーし! 今度は俺の番だ!」


 喜屋武が張り切って打席に立つと、道下のカーブが甘く入り夏海にセンターの頭上を越える長打を放つ。


 夜月の守備力でツーベースに留めたものの、いつも打たせて楽に抑えてる道下が打たれていた。


 金城や我那覇にフォアボールと満塁のピンチに陥る。


 スタミナがない道下は二者連続で三振に抑えて以降は疲れが目立ち、徐々に甘い球になりつつあった。


 それでも打撃が大の苦手な一之瀬をキャッチャーフライに抑え、スリーアウトチェンジ。


 9回のウラ、ここでサヨナラを打たないと延長線になる。


 ピッチャーを3人失った東光学園は、残るピッチャーは園田と松井しかいない。


 本田も外野からピッチャーという状況でも使えなくはないが、外野の選手を一人使わなければならないリスクがある。


 なので東光学園の狙いは……


「やっぱサヨナラしかねえだろ!」


「ここからは三番からだ! いい打順でのスタートだぞ!」


「天童頼む!」


「おう! 任せておけ!」


「天童は迷いのないスイングで長打こそ少なめだけどないわけじゃない。パワーよりも勘で振っていくスタイルでこの試合でも2安打。ここはカーブで様子見すべき」


「その方がいいな。俺のカーブでもくらえっ!」


「ギリギリはずれるな……」


「ボール!」


「オッケー。いいコース入ってる」


「相変わらずこのキャッチャーは声小さいな……。それでも返事できるとか、あの金城は相当な聴力だな……」


「ちなみにあなたの独り言、俺も聴こえてる……」


「うわっ! マジっすか!?」


「声が小さいのはよく言われるから気にしないで」


「う、うす……!」


「実際は聴こえてないけど、声が小さいと言われてるのは口の動きでわかった。それを指摘してから少しだけ動揺している。今がチャンスだと思う」


「まったく、一之瀬のズルさには敵わねえな。そらよっ!」


「真っ直ぐ……? スライダーの可能性も……! うぐっ……!」


「ストライク!」


 金城は渾身(こんしん)の真っ直ぐを放ち、先ほどの絡みで動揺した天童は迷った上にスイングしてしまった。


 そこからフルカウントまでもつれ、天童は追い込まれてしまった。


 金城の放ったシュートで詰まらせるも、天童の運がよかったのかサードとレフトがお見合いをし、運よくヒットとなった。


 四番の中田は打席に入る前にフルスイングを三回し、気合いを入れて打席に入った。


「よっしゃあ! 来い!」


「この人は『やや大振りだから細かく際どいところに突けば泳ぐ』はず。けど『迷いがない分、強引に引っ張るバッティングもする』から要注意。変化球が苦手で真っ直ぐが得意だけど、いっそのこと真っ直ぐで勝負した方がいい」


「相手の土俵(どひょう)に立って、そこで制して自信を奪うのか。さすが腹黒メガネだわ。じゃあお言葉に甘えて……そらよっ!」


「真っ直ぐ……! うげっ……!」


「ストライク!」


「真っ直ぐと見せかけてツーシーム……」


「よし! ファースト!」


「クソがっ!」


「アウト!」


 中田はここまで投げてこなかったツーシームに詰まらされ、凡打を犯してアウトになる。


 夜月もツーシームなんて聞いてないとばかりに先っぽに当ててしまってツーアウト。


 もうここで延長線かと思われた次の瞬間だった。


「チェンジアップで延長戦に持ち込もう。タイミングをずらして延長戦に持ち込めば、投手がまだ残ってるうちが有利だから」


「向こうはもう投手はそんな残ってねえし、その方がいいか。だが……チェンジアップを投げる気はねえぜ!」


「え……? 何か球が速くない……?」


「残念だったな! そいつは少し自己中だったようだな! それっ!」


「げげっ……!」


「セカンド!」


「ちょっと速いかな……!」


二遊間(にゆうかん)を抜けたー!」


「だったらセンターだ!」


「よし! 任せろ! って……うわっ!?」


「なっ……!」


「あーっと! センターの我那覇、ボールに嫌われたか目の前でイレギュラーバウンドでライト方向へ切れてしまった! ランナーの天童がホームイン! これでサヨナラタイムリーだ!」


「やったぜ!」


「ナイスバッティング本田先輩!」


「明治神宮大会で勝ったぞ!」


「整列! これより8対7で琉球高校と東光学園の試合は、東光学園の勝利です。では……礼っ!」


「ありがとうございました!」


 明治神宮大会の初戦を制した東光学園は、琉球高校の一之瀬のリードに翻弄されつつも金城の単純さによって打線が爆発したことが救いだったと話す。


 金城は自分の単純さと自分勝手さを反省し、一之瀬によって慰められた時は悔し涙を流した。


 ローランドはそれでも全打席安打を達成し、今後は東光学園にとっては嫌な選手となった。


 夏海は負けてもなおポジティブに捉え、チーム全体が負けたからと暗い空気にならずに済み、春の選抜ではさらに手強い相手となるだろう。


 次の相手はオホーツク大学札幌(さっぽろ)高校を破った中国地区覇者の(くれ)市立瀬戸内(せとうち)工業となった。


 つづく!

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