第50話 作新大学付属宇都宮
茨城の土浦スタジアムで秋季関東大会が行われる。
出場チームは以下の通りだ。
神奈川 東光学園・金浜
埼玉 花咲学苑・春日部教英
千葉 習志野音楽大学付属・紅葉学院
茨城 大洗学園・水戸市立水戸農業
群馬 高崎商科大学付属・群馬県立前橋中等教育
栃木 作新大学付属宇都宮・栃木県立日光観光商業
山梨 富士国際・慶雲館
――となった。
初戦は東光学園と作新大宇都宮、春日部教英と高崎商科大付属となった。
その次は大洗学園と慶雲館、県立日光観光商業と花咲学苑、さらに次は市立水戸農業と紅葉学院、習志野音楽大付属と富士国際、金浜と県立前橋中等教育だ。
東光学園は作新大学付属宇都宮との試合に備えてウォーミングアップをする。
「うし! 今日は応援は全く来ないが、文化祭を頑張ってる一般生徒のためにも勝って応援に来てもらうぞ!」
「おー!」
「今日の先発は園田で行こう。松井は連投で疲れてるだろうからな」
「はい!」
「バッテリーは同い年の天童で行く。その方がお互いにやりやすいだろう。背番号は一切変わらないが、各自全力で自分に出来る事をやろうな!」
「はい!」
今日のスターティングメンバーはこれだ。
先攻・東光学園
一番 ショート 志村匠 二年 背番号6
二番 セカンド 岡裕太 二年 背番号4
三番 ファースト 夜月晃一郎 一年 背番号8
四番 サード 中田丈 二年 背番号5
五番 ライト 本田アレックス 二年 背番号9
六番 キャッチャー 天童明 一年 背番号2
七番 レフト 三田宏和 二年 背番号7
八番 センター 田村孝典 一年 背番号13
九番 ピッチャー 園田夏樹 一年 背番号10
後攻・作新大学付属宇都宮
一番 サード 大室櫻太 一年 背番号5
二番 セカンド 赤座明利 一年 背番号4
三番 キャッチャー 船見優一 二年 背番号2
四番 ピッチャー 歳納京太郎 二年 背番号1
五番 ファースト 古谷太陽 一年 背番号3
六番 センター 杉浦綾瀬 二年 背番号9
七番 ショート 吉川夏男 一年 背番号8
八番 ライト 池田千一郎 二年 背番号9
九番 レフト 池田千二郎 二年 背番号7
――となった。
「あの池田兄弟は関西から作新大宇都宮に野球留学したんだってなー」
「今回のチームは幼なじみチームなんだとさ」
「歳納と赤座と船見は『小学校からの腐れ縁』なんだってな。古谷と大室もあいつらとは別だが『小学校からの付き合い』らしい」
「幼なじみか……」
「そういや水瀬とは付き合わないのかよ?」
「あいつとはそんな関係じゃない。ただの幼なじみだよ」
「誕生日や生まれた病院まで一緒なら付き合った方がいいだろ」
「あーもう! 試合に集中するぞ!」
「おい夜月、落ち着け」
「中田先輩……」
「いつまでもウジウジしてると誰かに取られるぞ?」
「だーっ! 普段堅物の中田先輩まで何ですか!?」
「堅物とは何だ! まあ認めるけど改めて言われると腹が立つぞ!」
「まあまあ二人とも落ち着けよ。とりあえず幼なじみがどうとかは知らないが、要はカッコいいところ見せるには勝つしかないんだから勝とうじゃないか」
「本田先輩……」
「アレックス……」
「丈だって上原の事が……」
「アレックスーっ!!」
「ん? 私がどうかしたの?」
「何でもねーよ! とりあえずノックだぞ!」
「あっちのベンチは騒がしいなあ……」
「いい雰囲気じゃないか? なあ京太郎」
「それよりも試合に勝って早く『魔女っ子めぐみん』が見たいんだけどなー」
「お前はブレないな……」
「優一先輩! 今日もばっちり決めましょうね!」
「そうだな。京太郎のピッチングにかかってるからしっかりリードするよ」
「さあみんな! 試合に勝とう!」
「おー!」
「って赤座が仕切ってもなあ……」
「櫻太くんひどーい!」
「同感ですね。主将の杉浦先輩を差し置いて……」
「太陽くんまで!?」
「まあいいんじゃないか?それよりも歳納京太郎、ちゃんとしないと承知しないからな?」
「わかってるってー! 魔女っ子めぐみんがかかってるんだしさ!」
「はあ……この二人のやり取りええな~……!」
「主将と兄さんの絡み……好き……!」
「あっちのベンチも賑やかだな……」
お互いにベンチが賑やかで、のびのびと野球をやってきたかがわかる。
ただのびのびとやってるだけでこんなに強くはならないのは誰もがわかってるが、作新大宇都宮は厳しく長い練習も和気あいあいとこなす事でより楽しむことを意識していた。
ただし体罰や罵声は論外で、一時期は体育会系の指導で指導者がクビになって衰退して以降、新たに松本李瀬監督の下で再補強を進めて厳しさを楽しむ練習にした。
そこから徐々に力が戻ってきて、春の選抜でもベスト8にもなった。
整列を終えて最初のバッターに志村が立つ。
東光学園の応援は卒業生による有志や一般人応援団のみで、在校生は誰一人としていない。
それでも全国から集まっているので、相変わらずの数の暴力なのには変わらない。
志村は歳納からセンター前ヒットを放ち、岡もファールラインぎりぎりのところを流し打ちで連続ヒット。
三番の夜月はフォアボールで出塁と満塁になった。
「おいこら京太郎、お前ってやつは相変わらずスタートに弱いな……」
「ええーだって~……続きが気になるも~ん」
「はあ……わかったよ。今立ち上がりよくなったらめぐみんの限定カードをあげるよ。しかもお前がまだ持ってないものだ。俺も一応幼い従姉妹がファンなのは知ってるだろ?ちょうど同じのが余ってたからやるよ」
「マジかよ!? いぃぃぃやっふぉぉぉぉぉぉぉぉうっ!」
「調子のいいやつだな……」
船見のオタク的なささやき戦術で歳納はやる気を出し、中田と本田、天童と強打者を全員三球三振で打ち取った。
歳納は試合前にアニメを見ないとやる気が出ない体質で、オフの日にはメイド喫茶に入り浸るなど強烈な個性を持っている。
練習中でも平気で学校放送をアニソンだらけにしたりと自由人でもあった。
彼女がいて、その彼女がプロのコスプレイヤーで魔女っ子めぐみんの同じファンなので、チアをやってもらう代わりにチア全員コスプレ衣装で応援をする。
「ねえ、こんなの恥ずかしいんだけど……」
「仕方ないでしょ? プロのコスプレイヤーが同級生なんだから……」
「事務所に言われたら何も言えない……」
一方園田のピッチングはまったく危なげない投球で大室と赤座を三振、船見にヒットを打たれるも歳納で三振を取った。
2回も三田をサードゴロ、田村をライトフライ、園田を三振とエースらしいピッチングで締めた。
園田は古谷にツーベースを放たれるも杉浦をショートゴロ、吉川のスクイズ失敗でサードランナーを刺し、池田千一郎をセカンドゴロで安定したピッチングを見せる。
3回ではお互いに三者凡退になるも、4回の表で中田のツーベース、本田のタイムリーツーベースで1点、天童も長打を放って足の速さを活かしてスリーベースタイムリーと歳納のムラッ気を突いた。
しかし天童が牽制で引っかかって以降は二者連続三振と急に安定し始めたりと東光学園ベンチ はよくわからんと嘆いた。
3回のウラでは船見に二遊間を抜いたヒットの後に、歳納にまさかのレフトスタンドへホームランを飛ばされた。
エースで四番、そしてオタクパワーは無限大と豪語する歳納に打たれたことがさすがに響いたのか、園田は悔しそうにマウンドに立ち尽くした。
すると天童はタイムを取ってマウンドに歩み寄る。
「園田、あんなのはまぐれだ。歳納さんはよくわかんない謎の人だ。きっと宇宙人か何かだろう。高校球児なのにオタク全開なのはマジでレアケースだから、人種が違う強いやつと戦ってると思っておこう。心配すんな、俺もあの人は戦ってて苦手だよ。プライベートでは仲良くなれそうだがな」
「それもそうだな。歳納さんはわけがわからない、そう思っておくよ。同点にされたのは痛いが、ここからは俺たちで抑えきってやるさ」
「その意気だぜ。ファーストで夜月がジッとこっちを見てるな。呼んでみるか?」
「長くなりそうだからやめておくよ。待たせすぎるのも悪いからそろそろいいぞ」
「それもそうだな。よし、後続を抑えきるぞ!」
その約束通りに五番の古谷、六番の杉浦をフライに打ち取り、七番の吉川を三振に抑えきった。
松本監督は喋ってても何を言ってるのかわからないくらいボソボソと喋るので、選手も翻訳に苦労している。
だが夜月は阿部という同じ性質の持ち主と共に過ごしているので、口元の動きがわかる。
ただそれをチームに情報を流すのは『卑怯だ』と判断したのか、知らないふりしてさりげなく知ってる動きをしようと策士になった。
それ以降は6回までで夜月は守備でも貢献した。
バント処理にいち早く気付いて高速チャージを仕掛けたり、味方が投げやすいように捕球体勢を立ちお回ったりした。
打撃でもヒットこそないものの脇役に徹した選球眼で出塁とチャンスを作ったりした。
7回の表、天童は牽制に引っかかった分の汚名返上すべく長打でツーベースを放った。
歳納の変則的な牽制が出ても、もう引っかからないぞという勢いでリードを小さめに取った。
その後は三田の送りバント、田村のスクイズで勝ち越しに成功。
その点差は9回まで続き、9回のウラ……
「ピッチャーの園田くんに代わりまして道下くん。キャッチャーの天童くんに代わりまして、田中くん」
「よし! 道下、今日も石田に調整されたようだな」
「そうだね。おかげで調子も絶好調だよ」
「その調子で抑えていくぞ。相手は二番からという好打順だ、油断せずに行くぞ」
「うん!」
「明利! 頼んだぞ!」
「もう影が薄いなんて言わせないでくれよー!」
「影が薄いなんて言わないで! ただフォアボールが多くて打球が飛ばないだけだよ!」
「こっちは誰も影が薄いなんて思ってないぞ。フォアボールで出塁されるのは面倒だし、こっそりお前が生涯成績でエラーを一度もしなかったのを高坂から聞いてるからな。それほど当たり前のことをこなせるってだけで充分脅威なんだよ。だから悪いな、三振になって目立ってもらうぞ」
「ストレートでいいんだね? それっ!」
「僕だって……目立ちたいもんっ! おっと……!」
「ボール!」
「今のをギリギリ見逃すか。選球眼はやっぱり噂以上だな」
「危なかった……! 今の手を出したら終わってたよ……!」
「真っ直ぐを見抜けるならいっそツーシームにしてみるか」
「そうだね。それっ!」
「真っ直ぐ……! それっ! あれ……?」
「セカンド!」
「オッケー!」
「アウト!」
赤座の意気込みも空しく、後続の船見も三振、歳納もセンターフライに終わってゲームセット。
3対2で東光学園の勝利となった。
次の対戦相手は山梨の慶雲館高校を破った大洗学園だ。
あおい曰く、この学校は『陸軍科、海軍科、空軍科、医療科、化学研究科、機体工業科と軍事系に特化した高校』だ。
制服もかなり特殊で、陸軍科には女子も学ラン、海軍科は男子もセーラー、空軍科はブレザー、医療科と化学研究科は白衣またはスーツ、機体工業科は作業着が制服と変わった風習があった。
そんな軍隊系の学校と試合をする東光学園、秋季大会の行方は――
つづく!




