第48話 再び金浜高校
こちらは金浜高校、帝応義塾を下したばかりだが決勝に向けての最終調整が行われていた。
東光学園には夏に勝利しているものの、それは『三年がいたからの話だ』と念を入れる赤津木監督はエースの弟である赤津木暁良を筆頭に新チームを作り上げた。
23歳という若さで監督となった赤津木監督だが、甲子園ではいいところまで行ったが勝ち切れない結果となり、春の選抜に向けてすぐにスタートを切ったのだ。
準決勝から一週間後、ついに横浜スタジアムで決勝戦が行われる。
「今日は吹奏楽部もチア部も一軍で来るんだ」
「吹奏楽部は東関東大会で敗退したから、もう大会はないから応援に来れるんだよ」
「やっぱりうちの吹奏楽部は世界一の応援だからな。この決勝に行けて光栄だぜ」
「おい、ウダウダ喋ってねえでアップするぞ」
「はい!」
「いいなあ……あっちは共学で」
「チアもいるし、吹奏楽もレベル高いし羨ましいよ」
「俺たちは男子校だからな。応援が野太いんだよ」
「兄貴……じゃない、監督! 今日こそ俺の出番だよね?」
「そうだな。いくら関東大会が決まってるとはいえ、一位になっていいスタートを切りたいところだからな。エースのお前をここで出す事で絶望を与えてやるさ」
「やった! これでエースは俺だって証明してやる!」
「言っておくが、『ひいきで選んだわけじゃない』んだから下手な自己中プレーはすんなよ?」
「わかってるってー! 兄貴……監督は用心深いんだからー」
「わかってるならそれでいいんだ。みんなのやる事はシンプル! 夏の王者らしく泥臭くてもいいから勝て! だが勝利だけに囚われてカッコつけようとしなくていいぞ! お前ららしく全力でボールに食らいつけばいいんだ! さあいくぞ!」
「「はい!」」
「あいつ本当に若造かよ。まるでベテラン監督じゃないか」
「そうですね。赤津木監督って本当に選手時代は無名で弱小校出身だったんですか?」
「プロフィールには柿生総合出身で『部員10人のうち三年間補欠だった』と聞く。ただ大学で選手よりも指導者として覚醒し、同級生たちを大学野球大会完全制覇を成し遂げたんだ。そこで金浜高校の前監督の高齢化により引退した穴埋めで呼ばれたんだっけな。上原に話すのははじめてだったな」
「菊池先輩から何となく聞いていただけですが、詳しく聞くのははじめてです」
「だよなー。お、アップとキャッチボール、ペッパーを済ませたな。ノックの準備をするか」
「ボール渡しは私が務めます」
「頼んだぞ高坂」
こうしてウォーミングアップのシートノックを開始し、スターティングメンバーの発表をする。
今回のスタメンは……
先攻・金浜高校
一番 ショート 大石利一 二年 背番号6
二番 センター 今岡将司 二年 背番号8
三番 ライト 影山貴雄 二年 背番号9
四番 ピッチャー 赤津木暁良 一年 背番号1
五番 キャッチャー 神田貴洋 一年 背番号2
六番 ファースト 月野葉月 一年 背番号13
七番 セカンド 鈴原優人 一年 背番号4
八番 レフト 近藤勇介 一年 背番号7
九番 サード 乙坂智之 二年 背番号5
後攻・東光学園
一番 セカンド 山田圭太 一年 背番号14
二番 センター 夜月晃一郎 一年 背番号8
三番 キャッチャー 天童明 一年 背番号2
四番 サード 中田丈 二年 背番号5
五番 ライト 本田アレックス 二年 背番号9
六番 ショート 木村拓也 一年 背番号16
七番 レフト 三田宏和 二年 背番号7
八番 ファースト 田村孝典 一年 背番号3
九番 ピッチャー 松井政樹 二年 背番号1
――となった。
東光学園が一年中心にしたのにはある狙いがあった。
それは一年に王者の重圧に耐える事で春の選抜への耐性をつける事だ。
金浜は神奈川県の絶対王者とも言われるチームで、そこに勝つことで関東大会や春の選抜での重圧に勝てると見込んでいたのだ。
整列を終わらせ、1回の表に入る。
1回の表では大石がサードの内野安打で出塁、二番の今岡も送りバント成功でランナ二塁にする。
しかし松井はその後は安定し、三番の影山をレフトフライ、四番の赤津木には安打を放たれるも得点を阻止。
五番と六番を三振にして攻撃に移る。
しかし赤津木の投球は榊や綾瀬以上のもので、一年ながらも三年生の本格派エースと変わりないピッチングで圧倒的実力を見せた。
山田や夜月、天童が手も足も出ない状態ですぐにチェンジになる。
金浜の打線は松井の打たせて取るピッチングに踊らされてしまい、なかなか得点圏に出すも点が取れない歯がゆい状態になる。
一方の東光学園は赤津木の実力が圧倒的に上で、得点圏にすらランナーが届かない厳しい状況にある上に、安打数も明らかに金浜よりも少なかった。
激しい投手戦の中でついに9回の表になった。
「あの松井って人、俺以外にはそう簡単に打たせないって事か。だったら……ねえたかっち! セーフティバントで揺さぶってみなよ」
「暁良くん無理言うなよ。僕がバント苦手なの知ってるでしょ?」
「苦手だからこそだよ。苦手って事は向こうもわかってるし、成功したらいい奇襲になるだろ?」
「それは確かに……」
「今は西暦と違って補聴器もスポーツ用のがあるし、そう簡単に壊れないからさ。思う存分お前らしく暴れてきなよ」
「そういう事ならやってみるよ!」
「お前は俺にとって唯一の自慢できる相棒だからな! 俺だけに重荷を背負わせるなよ?」
「うん! よーし! 来い!」
「補聴器……? 今更気付いたけど、こいつ耳が悪いのか。それでも正捕手になれるんだから相当な腕と見た。さっきも赤津木のピッチングを理解しているみたいだし、パワーはないが安打製造機だからこの試合で結構打たれてるんだよな。得点圏にランナーがいないのは幸いだ、強気でいきましょう」
「神田くんは好打者だからしっかり厳しいところ攻めなきゃな……! それっ!」
「もう際どいコースには迷わない! 初球でもいいからくらいつく! それっ!」
「しまった……!」
「センター! 頼む!」
「くっ……届くかわからねえが一か八かだ! うおぉぉぉぉぉっ!」
パシッ! ズザーッ!
「へへっ……やってやったぜ!」
「アウトー!」
「うおおおおおおおおっ!」
「神田の放った難しい前の打球を夜月がダイビングキャッチ! ここでファインプレーだあああああっ!」
「くっ! 夜月くん……! やっぱりうちに来るべきだったよ……!」
「あいつ川崎市が弾圧しなければうちに来てたはずなのに……! 本当に川崎市は余計な事してくれるよね! まるで別の国の自治区みたいだ!」
「どうした弟よ。そんなにあいつが欲しかったのか?」
「欲しかったね! そうすれば甲子園はもっといいとこまで行って打力も守備も上がったのに」
「前監督が制裁にビビって獲得を躊躇ったのはうちだけじゃないぞ。筋肉自慢の青葉学院、個性派揃いの常海大相模、王政大第二や川崎総合も欲しかったと監督パーティでも言ってたな。多分だが『川崎市に裏組織や政治団体が絡んでいる』かもしれない。もしそうなら……東光学園は勇気があるよ。だが勝つのはうちだ。月野! お前らしく豪快に打ってやれ!」
「はい! さあ来い!」
「手首に切り傷? こいつまさか自傷行為したのか? そんなメンタル弱いやつがよく金浜高校に来れたな。こいつは全然当たってないし内角攻めでいきましょう」
「そうだね。その方がいいかもしれない。それっ!」
「うっ……!」
「ストライク!」
月野の手首の傷は自傷行為ではなく、単純に飼い猫とじゃれてたら引っ掻かれてしまっただけだ。
月野曰く『傷跡を治すのが誤解を招かないベストだが、それでも残す理由は亡くなった飼い猫との思い出を残し、その飼い猫と一緒に戦う決意なのだ』という。
ワンボール、ツーストライクに追い込まれた月野は松井の変化球に迷い、一度冷静になるために深呼吸をした。
「ここで決め球のスクリューボールで打ち取ってやりましょう」
「そうだね。そうしようかっ!」
「もうめんどくさい! しゃんなろぉぉぉぉぉぉぉっ!」
カキーン!
月野の放った打球は芯に当たらずともセンター方向へ飛ぶ。
夜月は全力で追いかけるも弾道が高く、フエンスまで追うもむなしくバックスクリーンへ入っていった。
「ホームランです! 9回まで得点なしだった試合がようやく動きました!」
「月野ナイスバッティング!」
「しゃんなろーパワー強えな!」
「くっそー! 俺より早くホームラン打ちやがって! 羨ましいぞ月野!」
「この手首の傷は飼い猫との絆だからね! 俺は一人で戦ってないのさ!」
「あいつの手首の傷はただの引っ掻かれた跡だったか……。誤解した俺のミスだな。次は絶対に勝つ」
天童の決意が金浜の流れを止め、鈴原と近藤を三振にして打ち取った。
その後はピッチャーの松井から代打で片岡がきっちり仕事をこなし、代走に木村が入って山田がシングルヒットを打ち、夜月がフォアボールで満塁にした。
その後は天童がデッドボールで同点に追いつき、逆転サヨナラのチャンスに中田が立つ。
「ここで俺が打てばチームは勝つんだな……! やってやるぜ! かかって来い!」
「やっぱり威圧感が凄いな。こんなに近くにいるのに僕ってよく逃げ出したりしないなって思うよ。目も悪くて耳も聞こえない、さらには背はそこそこあっても体重が軽く細いから普通なら逃げるのにね。暁良くんなら逃げずに立ち向かうって考えたら逃げちゃダメだって思えるよ。だったら投球も強気でいこう」
「たかっちにしては珍しく積極的じゃん。そんな珍しい事に首は振ってらんないよねっ!」
「インコース……いや、シュートかっ!」
「ファール!」
「ナイスボール!」
神田は全聾だと話したが、補聴器の開発や改良も進んで全く聞こえなくても、耳につければ多少は聞き取れるようになるなど医学の進化を新暦で感じられる。
神田はそれを喜びながらも『耳が聞こえなくても野球はやれるんだ』というところを全国の球児たちに伝えたいと赤津木と同じ金浜に進学した。
おまけに赤津木のピッチングを把握しているため、簡単にツーストライクに追い込む。
中田も主将の意地で5球連続のファールで粘るなど善戦をする。
最後の8球目で運命が決まった。
「真っ直ぐで勝負しよう。君の最も投げたい球だ」
「わかってるじゃんかたかっち。これで延長戦に持ち込んで……俺たちがまた勝つんだっ!」
「もう迷うのはやめだ! くらいついてやるぜ! うらぁぁぁぁぁぁぁっ!!」
「げげっ!」
「そんな……!」
中田の放った打球はレフト方向へ引っ張られ、もはや文句なしのホームランコースだった。
レフトの近藤も懸命に追うも……打球はレフトスタンドへ一直線で入った。
そして試合は終了した。
「ホームラン! ゲームセット! 整列してください! 5対1で金浜高校と東光学園の試合は、東光学園の勝利です! 両校とも……礼っ!」
「「ありがとうございました!」」
「「っしたーっ!」」
こうして東光学園は夏のリベンジに成功する。
だが覚えてほしいのは準優勝したところで秋の関東大会に出場できることだ。
金浜と再戦して春の選抜が遠くなるかもしれない。
そんな不安もある中でも東光学園は野球をより楽しんでプレーした。
11月に入り、ついに秋の関東大会が開催する。
つづく!




